夢の中に全て消え去ってくれたら
電話をしただけだというのに、どっと疲れが出てきて、椅子にもたれかかる。ウッドチェアはギシ、と音を立てて、僕の体重を受け止めてくれた。
「望……今日の夕飯、カップ麺で良いかな?」
「絶対に嫌だぜ、手料理じゃなきゃ食わん。この間の冷凍チャーハンの時点で俺の心は赤熱してるんだぜ」
その心で冷凍食品を解凍して食べてはくれまいかと逃避的に考えるが、仕方がない。ここで仕事を放棄したら望に食われる。吸血鬼になった今ではそれも最早冗談ではない。
「わかった、なら朝やめた焼き魚にしようかな」
安かったからと買った鰆があったはずだ。柚庵焼きにでもしてしまおう。今から作れば、6時過ぎには出来上がるはずだ。
1時間と少し経ち、柚庵焼きと余り物を適当に炒めた名前も無い料理が出来上がった。賞味期限が危ういものを出来るだけ多く入れまくったので、なんとも言えない味となっている。余ったら僕が処理しよう。
テーブルにそれらを置いたとほぼ同時に鍵で玄関の扉を開ける音がした、最近では、広史さん達が帰ってくる時間に合わせて夕飯を用意できるようになってきたのが、密かな自慢である。
「お、鰆かい?旬の食材とは、やるじゃないかさっくん」
「安かったので衝動買いですけどね」
「完全に主夫の所業ねさっくん……」
自覚しているので、そんな憐れみの目で見るのはやめていただきたい。
「早く食べよーぜー、腹減ったよー」
なんだか古き良き少年漫画を彷彿とさせるなぁ、望の発言は。食いしん坊系主人公、近頃見ていない気がする。
家族皆で食卓につく。一人っ子が多くなり、子供1人で食事をする孤食などという言葉も良く聞くこのご時世で、こうやってテーブルを囲めるのは珍しく、幸せなことなのだと思う。出来ることならこの幸せが長く続くことを、僕は願った。
***
「ふい~、いい湯だった、アイスアイスー」
風呂から出てきた望が、バスタオルを巻いただけの姿でリビングを歩き回り、冷凍室を開けた。棒アイスを取りだし、職人技とも言えそうなほどのスピードで包装を剥くと、シャク、と小気味良い音が聞こえた。
我が家では大人から先に風呂に入り、大人2人はすぐに自室に籠ってしまう。よってリビングにいるのは僕と望だけだ。
「望、そんな格好でアイス食べたら、お腹冷やしちゃうよ」
「へーきへーき、オレの胃の強さはさっくんも知ってるだろ?」
話の主題にしたいのはそちらではなく、破廉恥な姿をしていることについてなのだが、望は気にしていない様子である。
「一応僕だって男なんだから、そんな無防備なことしてると、どうなるかわからないよ」
半分冗談を込めつつ、望に抗議と忠告をする。
「あ?襲いたいならいつでもカモンだぜ?」
知ってた、無意味だって。だからといって、放っておくのは人間として大事な何かを捨てるようで嫌である。
「はぁ……アイス食べたらちゃんと着替えるんだよ、わかったね」
「えー、このままさっくんを誘惑して一夜の間違いを犯させるのが狙いだったのになー」
「京に1つもそんな可能性はありません、諦めなさい」
「オカン口調モードに入りやがったな、ちぇっ、わかったわかった、指示に従いますよーだ」
どれだけ服を着たくないんだ原始人か。いや原始人でも暖を取るために毛皮くらい羽織る、猿人か。
今夜は何事もなく平和に過ぎていく。もう、全て悪い夢だったんじゃないかと錯覚させるほどに。
______本当に、そうだったら良いのだけれど。
遅くまで外出していて思うようにたくさん書けませんでした。悔しいです……。




