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龍と神に贖罪を。  作者:
出会い
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4

「オッサン、風呂あがったぞ。って、居ないし」


 リビングに戻ると、オッサンは居なかった。

 無駄に豪華なソファでゴロゴロしようと思ったが、さっきのオッサンの異様なテンションが気になって、少しフラフラしながらオッサン探しを始めた。

 しばらく歩くが、一階にはどこにも居なかった。

 階段を上ると、大きくて豪華な扉が目の前にあった。まるで、ラスボスがいるかのような、凄まじい迫力のある扉。それを、恐る恐る開けてみる。


「オッサ……なにそれ、なにその禍々しい本? え、オッサンってヤバい奴? 怖いんだけど」


 部屋の中はとても広く、その広い空間にはたくさんの本棚があった。

 そんなわけで、ここには本しかないのだろう、という事がすぐにわかった。

 頭が痛くなるような場所に、オッサンは居たわけだけど。

 いや、私は本が好きだ。しかし、ここにある本はどれも奇妙なオーラを放っているのだ。なにか、触れてはいけないような。そんな気がした。

 そんな私の気持ちを知らないオッサンは、目を輝かせながらこちらを向いた。


「おお、悠陽か。これはな、ちゃんとした魔法の教科書だ。俺が魔法科学校に通っていたころのやつでなぁ。あぁ、懐かしい」

「えっと」

「あ、あの時の魔法についての本がある! あの時のサリア先生の魔法すごかったなぁ、広範囲魔法なのに、俺ら生徒に被害を出さないようにするあの器用さ! 魔力コントロールの仕方が一番上手い先生だよ。あこがれの先生で、何度も指導をお願いしたなぁ。あの人クールだから、何度も追い返されたけど!」

「お、オッサン?」


 どうやら、昔のものを見て思い出に浸っているらしい。私の声など、全然耳に入っていないご様子です。

 仕方がないので、私もその辺にある本を手に取る。


「んー……」


 ……読めない。

 どうやら、異世界というだけあって、使う文字も全然違うみたい。ただの記号にしか見えないので、予想しようにもできないのです。

 まぁ、そんなに興味もないし、もう読むのやめよう。

 そして私は、手に持っていた豪華な装飾のされた本を本棚に戻した。

 ちょうどその時、オッサンが落ち着いた様子で私の元へと来る。


「ごめんな~、俺、魔法のことになるといっつもこうでさ」


 こう、というのは、さっきの異様なテンションのことだろうな。

 私が冷たい目で見ているが、オッサンはへらへらと笑うだけだった。


「それでな、お前には……魔法が使えるようになってもらう!」


 あぁ、あんまり面倒臭そうなことはしたくないのだけれど。

 それでも、好奇心の方が勝れば、私はきちんと行動します。


「えぇ、面倒だけど……良いよ、わかった」


 私がそう言えば、オッサンは満足そうにした。なんて可愛い笑顔なんだ。

 あぁ、魔法と言えば、私はオッサンにいろいろ聞かなければならないことがあるんだ。


「なぁ、オッサン」

「なんだ?」


 少し暗い声でオッサンに声をかければ、オッサンは心配そうに私を見る。

 少しの希望にすがるように、私は言った。


「オッサンは、異世界とか信じる?」


 オッサンは目を見開いて、ただ瞬きをした。少しして、ゆっくりと目を閉じた。

 私は、その動きの一つひとつを見逃さないよう、目線を外さず、緊張で身を固くする。


「異世界、か。それまたどうしてだ」

「私のいた場所に、魔法は存在しない。おとぎ話の世界の話だよ。あとはアニメとかゲームとか。はじめは、ここが夢の中なのかと勘違いしたくらいだし」

「なるほど、な」



 オッサンは、顎に手を当てて考え込むような姿勢をとる。目を伏せて思い悩む様子は、まるでモデルのように綺麗で、状況を忘れて見惚れてしまうくらい。いかん、私は生きるか死ぬかの分岐点にいるのだぞ、イケメンに見惚れている場合ではないんだ!


「お願い、信じて。頼れるのはオッサンしかいないんだ。オッサンがいなきゃ、私死んじゃうよ。知ってる? 人ってね、あっけなく死ぬんだよ!」


 死ぬ、という言葉で、オッサンは小さく体をはねさせた。もしかして、地雷? 大切な人を失っちゃった系の病みキャラなのか。だから病み属性、いや闇属性魔法が得意なのか。やめてくれ、死にたくない。私は犯人ではない。私はやってない!


 オッサンは視線をこちらに戻すと、恐ろしいほどに爽やかな作り笑顔を向けた。

 思わずひくついてしまう頬を押さえ、呼びかけるが直らない。作り笑顔怖い。やめてくれ。君はオッサンなんだ。せめてニヤニヤで……いや、それは放送禁止レベル、いやでも顔が良い……くそ、こんなところでアニオタ感が出てしまう!


「あぁ、もちろん信じよう! これからは俺が面倒見てやるよ。だから安心しな!」

「こ、怖……」


 オッサンの対応が激変したのは怖いけど、頼れるのは今のところこの人しかいない。

 なんとかして快適で自由なハッピーライフを作り出そう。まだ始まったばかりだ。

 ……不安だらけだけど。

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