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龍と神に贖罪を。  作者:
出会い
4/32

3

「オッサン、服着たぞ」


 豪快にドアを開けて、オッサンを驚かせようと試みる。

 しかし、オッサンはため息をついて、ゆっくりと気だるげに立ち上がるだけだった。


「……はぁ、じゃあ行くぞ」


 相変わらずオッサンは、スマホのようなものを持っている。それをズボンのポケットに突っ込むと、玄関の方向へ歩いて行った。

 私は後ろからゆっくりと歩いて、ついていくことにした。

 しばらくして、オッサンは止まった。


「ここだ。ほら、中が見えないだろう?」


 オッサンが指したところには、大きな窓がある。しかし半透明で、窓全体が膜のようなものに覆われている。


「なんか、窓が膜で覆われてるんだけど。あれ、何なの?」

「そりゃあ魔法かかってるし。って、お前これが見えるのか?! ってことは!」


 私が薄い膜を見れると知った途端、オッサンのテンションがハイになった。

 ものすごくうれしそうな顔をしている。可愛いな、くそ。

 声がものすごく低かったから、そのままオッサンと呼び続けてはいたが、実際は二十代ぐらいのイケメンだった。意外と外見年齢は低くて、少し中性的。非常に私好……いやなんでもない。

 危ない危ない、私のメンクイな部分が出てきてしまった。


「なに、オッサン。なんでテンション上がってるわけ?」

「お前、これがテンション上がらなくて何を上げるんだよ?」

「ごめんオッサン、何言ってるのかわかんない」


 テンションの上がったオッサンは嬉しそうにしながら、そのまま走って家の中へ入ってしまった。


「仕方ない、シャワー浴びるか」


 未だに砂だらけの自分の体を見て、私はため息を吐いた。



 改めて浴室に入ると、先ほどまでなかった余裕が生まれてくる。

 いやぁ、森林を見ながら入浴って、なかなかいいな。

 それにしても、あのオッサンは何者なんだろうか。こんなに豪華な家に住んでいるなんて、只者ではないだろうな。

 そういえば、私の髪の毛がまだ金髪であるような気がする。真実を確かめてみよう。


 ちょうど、シャワーの横に大きな鏡がある。私は鏡に両手をついて、自分の姿を見た。

 そこには、金色に輝く髪を腰まで伸ばした、赤目の美少女が写っていた。

 誰!? と驚きつつ、手を振ってみる。すると、鏡の中の美少女は私と同じ動きをする。どうやらこの美少女は、紛れもなく自分自身らしい。


 なんだか混乱してきた。ちょっとまとめてみよう。

 最初に、“魔法”の存在について。

 オッサンは、極普通に魔法について話していた。そして、私もこの目で魔法らしきものも見た。つまり、ここは明らかに私の知っている世界ではない。私は異世界に来てしまったようだ、と今更理解する。

 そう、ここは異世界。私はこの世界について何も知らない。これって、すごく危険な事だと思うんだよね。だから、この世界のことについて、少しでも多くの情報を集めないといけない。

 そして次に、私の姿について。

 明らかに顔立ちも変わっているし、髪の色や目の色も変わっている。なぜこうなってしまったのかはわからない。そして、どうにかする方法もわからない。

 命に関わるものではなさそうだし、とりあえずこれは放っておいても良さそう。


 いろいろ考えていると、突然めまいに襲われる。

 不快な感覚に耐えるために目を閉じる。そのまま数分過ごすと、めまいはしなくなった。

 そして改めて鏡を見れば、俯いた姿勢の人間が写っていた。


「えっ……!?」


 驚いて、思わず声を上げる。

 その声に反応して、鏡に写る人間は顔を上げた。

 その顔を見た瞬間、私は凍り付いたかのように固まってしまった。


 その顔は、元の私にそっくりだった。

 肩までの長さで黒髪。そして、黒い瞳。少し幼い顔立ち。もう一度、手や足を動かしてみるが、私にそっくりな少女は、私とは別の動きをする。まるで、馬鹿にするように。


 そして、元の私にそっくりな少女は、私と鏡越しに目が合うと、怪しげに笑った。

 黒髪に黒い瞳。私に似ているけれど、目は笑っていないし、黒い瞳は光を全く反射しない。

 その闇に似た少女の目を、しっかり見ることを恐れている私がいた。


『こんにちは。アタシはもう一人のアンタ。あぁ、疑わないで。

よーく見てよ。アタシはアンタの本当の姿をしているでしょう?』


 言われた通り、じっくり見る。やっぱり、何から何まで同じだった。しかし、その表情や目にはどこか違和感を感じる。得体のしれない感情をもっているようで、ゾッとした。


『そんなに怖がらないでよ。今、アンタに何が起こっているのか知りたいでしょう?』


 私に似たその少女は、私に指をさす。

 私は、小さく頷いた。


『今、アンタはこの世界に組み込まれようとしているの。

神様が、どうしてもアンタが欲しいらしくてね。

ただ、アンタは異世界人だから、この世界にとっての異物になってしまう。

そこで、アンタの体を新たに作った。だから、今アンタは姿が変わってるワケ。

アンタの本当の肉体は、この世界のどこか、この世界の影響を受けない場所で、神様によって厳重に保管されているの。ここまでで質問は?』


 目の前の女は、淡々と説明をしていく。

 戸惑いを隠せない私に、少女は優しくこう言った。


『アタシは、この世界のことを一足先に調べてきた。だから頼りになると思うよ。

でも、アタシは鏡のような、アンタを映し出すようなものの中でしか存在できない。

頼りたくなったら、そういうところに行ってみなよ』


 そう言って、静かに少女は消えた。

 鏡に映っているのは、すっかり別人となった自分だけだった。

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