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テッドやリリアンが出ていった後、しばらくしてから、アロンドさんとエイナル先生が部屋に入ってくる。
アロンドさんは、戦闘用の衣装のままこの部屋に来ているので、なんだか変な感じがする。
「目を覚ましたか。調子はどうだ? って、何で怒っているんだ」
私がエイナル先生に、恨みをこめた視線を送っていると、アロンドさんに指摘されてしまった。
「エイナル先生、もしかして……あれが目的だったんですか」
「おや、悠陽さん。あれとは、何でしょうか。私にはよくわかりません。が、貴方にもすぐに友人ができたようで、私は嬉しいです」
明らかにわかっているよね、エイナル先生。
テッドが大嫌いな私は、自らテッドに近付こうとはしない。少しでも距離を縮めるために、エイナル先生は、わざとテッドに私が倒れたことを伝えた。そう推理したわけだよ。私は。
アロンドさんを見れば、苦笑いをしていた。どうやら、アロンドさんも知っていたみたいですねぇ。
私がアロンドさんを睨むと、アロンドさんは慌てて目をそらす。
「とりあえず、今日はゆっくり休むこと。わかったな?」
私がこくりと頷くと、アロンドさんは満足そうに笑い、私の頭を撫でた。
そして、アロンドさんは旅の準備をするらしく、さっさと部屋から出ていった。
エイナル先生は、まだここにいる。
「すみませんね、悠陽さん。どうしても、テッド・ミラーさんの事が知りたかったので、つい」
「つい、じゃないですよ! もう、すごく面倒な事になったじゃないですか~」
「悠陽さん、落ち着いてください」
私が軽く怒った様子を見せると、エイナル先生は苦笑いをしながら、私をなだめようとする。
まぁ、私もそんなに怒っているわけではないから、この辺りでやめにしよう。
それにしても、どうしてエイナル先生は、こんなにテッドのことを調べようとするのだろうか。
そのことを聞く前に、エイナル先生は話し出した。
「実は、ですね。テッド・ミラーさんは、家族がいないんです。どこから来たのかも不明なので、少し……いえ、かなり気になっていたのです。ですから、これは良い機会だと思いまして」
テッド・ミラーという人物は、思ったよりも異質な存在らしかった。
そして、エイナル先生が個人的に調べたところ、テッド・ミラーという名前も、偽名だということが判明したらしい。
「そう、ですか。でも、私も気になるんです。何というか……無理をして、別の人になろうとしている、というか。よくわからないけど、違和感を感じるんです」
エイナル先生は頷いて、私の頭を優しく撫でる。
「私の生徒は皆、重くて辛い運命を背負っていますね」
そう言って、エイナル先生は辛そうな顔をしながらも、私に笑って見せた。
「先生……?」
「すみません、私もそろそろ戻ります。また、明日ここに来ますから」
やっと表情を見せるようになったエイナル先生は、別れ際には、また無表情に戻る。
感情がないわけでも、表情を作れないわけでもない。
エイナル先生は、どうしていつも無表情でいるのだろうか。
エイナル先生もまた、重くて辛い運命を背負った人なのだろうか。
もしそうだとしたら、私はエイナル先生に、何と声をかければ良いのだろうか。
エイナル先生も私の部屋から去った後、私はベッドでずっと横になっていた。
もう一人の私と名乗るアイツは、私の本当の体は、この世界のどこかで、神様によって厳重に保管されていると言った。
もしそれが本当ならば、私はそれを見つける旅をしなければならない。
この世界のどこかにある私の体を探すとなると、当てもなく歩いていくことになるだろう。
安全なところで、ぬくぬくと育った私は、そんな事に耐えられるのだろうか。ましてや、私なんて、堕落しきった人間だ。もう、諦めた方が良いのだろうか……。
まさか、数日でこんなに急に状況が変わるなんて。正直、異世界ナメてました。
さて、明日は忙しくなりそうだし、今のうちに寝よう。
再び私はベッドに寝転がり、眠りについた。




