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龍と神に贖罪を。  作者:
出会い
11/32

10

「うぅ~ん……」


 アロンド先生が、さっきからうるさい。アロンドさんは今、書類と睨めっこをしている。

 エイナル先生から聞いた話だと、実力もあるし、教え方も誰よりも良いのに、書類に関してはダメダメなのだそうだ。印鑑を押し忘れていたり、誤字が多すぎたり。


「俺にやらせても手間が増えるだけだし、エイナルが全部やってくれよ~」


 ついにアロンド先生は弱音を吐いた。気持ちは、すっごくわかる。

 アロンド先生は、机に突っ伏して、愚痴を言い始める。あぁ、今のアロンドさん、すっごく子供っぽい。なんだか、ちょっと可愛いかもしれない。


「確かにそうですね。でしたら、私が口出し出来ないほどに偉くなってください。話はそれからにしましょう」


 エイナル先生は、それだけ言うと自分の書類に目を通し始める。

 エイナル先生とアロンド先生は、いわゆる同僚というやつらしい。アロンドさんは、実はすごい人らしいんだけど、仕事をしないせいで昇格するわけにもいかず、ずっと立場が変わっていないそうだ。いや、仕事しろよオッサン。

 エイナル先生もエイナル先生で、昇格の話が持ち上がったり、昇給だったりの話はあるものの、全て断っているとのこと。類は友を呼ぶってやつ?


 一方私は、この部屋にある本を一つ一つ読んでいくことにする。結局、暇なことに変わりはないから、読書するしかないんだよね。と思いつつ近くの本棚から適当に本を取り出すと、その本をパラパラとめくった。が、やっぱり文字は意味の分からない記号ばかりが並んでいる。つまらない。

 今度、文字を教えてもらおうかなー、なんて思っていると、エイナル先生とアロンドさんが話をし始める。


「エイナル、あいつはまたサボりだったぜ。今日は最初からいなかった」

「またですか。成績優秀ですから、真面目に授業に取り組めば、きっと素晴らしい魔導士になれると思うのですが……。あぁ、どこかの誰かさんと同じですね」

「何のことだか」


 この学校の問題児についての話かな。なんか、正に教師って感じの会話だね。


「んで、名前は確か、テッド・ミラーだったな。教師の間では、極度の女嫌いとの噂だが、それも関係していたりするのか?」

「どうでしょう。何しろ、彼は何も語りませんから」


 “女嫌い”と“女遊び”

 その二つのキーワードが出てきたことで、私はアイツのことを思い出していた。

 あの挑発的な口調と、馬鹿にするような笑顔が特徴的な、あの男のこと。


「もしかしてぇ、その人って、馬鹿にしたような笑顔が特徴的ですかぁ?」


 はい、嫌そうな顔をしながら言いました。

 色気をぷんぷん匂わせといて、女嫌い? いい加減にしろよ? 顔が良いからって?


「ええ、そうです。彼は、周りの人間すべてを見下している態度をとりますから」


 そう言って、エイナル先生はため息をついた。相当苦労しているらしい。

 私も、アイツに会ったから、大体はわかるかも。


「だよね。私、さっきソイツに会ったんだよ。本当に最悪な男だった」


 私が顔をしかめながら言うと、アロンドさんが驚いた顔をする。

 何かあったのか? と聞かれたので、先ほどの出来事をありのままに話した。


「なるほど。悠陽は、そういう女たらしは嫌いなんだな」

「当たり前でしょ。ああいうのって、すっごく面倒臭いし」

「判断基準は、そこなんですか」


 エイナル先生にツッコミを入れられた。

 アロンドさんは少し考えてから、私にある提案をした。


「もし次にテッドに会ったら、さりげな~く探ってくれよ。女嫌いのこととか、サボリのこととか」

「それは名案です。教師である私たちよりも、年の近い悠陽さんの方が、そういうことを聞き出せると思いますし」


 エイナル先生? アロンドさん? 何を言っているの?

 理解できていない私を置いて、二人は勝手に話を進めていく。

 結局、これから私は肩掴み野郎、いや、テッド・ミラーさんを探しに行くことになった。


 テッドさんを探して数分したところで、早速テッドさんを見つけた。

 テッドさんは、また馬鹿にしたように笑っている。そして、手招きをした。

 私がゆっくりとそちらに向かうと、テッドさんは杖を取り出した。


「やぁ。来ると思っていたよ。ところで、君はこんな魔法は知っているかい?」


 そう言いながら、テッドさんは杖を振る。すると、光と共に、私の手のひらから蝶が出てきた。

 そのタイミングで、テッドさんは自身の手の甲を私に見せた。

 テッドさんの手の甲には、蝶の絵のようなものが描かれていた。

 まさか。


「これはね、魔法にかかった人の居場所がわかる魔法だよ。君が俺から逃げた後、どこに居たのか、全部わかってるよ。ただ、何をしていたのかはわからないね。君は職員室で何をしていたんだい?」


 は? 何それ、気持ち悪いんだけど。この世界にストーカーがいて、さらにそのストーカーがこいつみたいな魔法使いだったら最悪だよね。勝てる気がしないし。

 とにかく今日中に情報を引き出して、コイツとはもう二度と関わらないようにしよう。


「別に何もしていません。あぁでも、読書をしていました。それで、貴方の話を聞きました。女嫌いで女たらしという、矛盾した話です。一体、どちらが正しいんです」


 嘘をつくのは面倒臭いのでしません。後でボロを出しておしまいだろうからね。

 テッドさんは、少し驚いた顔をしている。まさか、いきなり聞かれるとは思わなかったんだろうね。


「どちらも当たっているよ。で、後は……授業をサボっている理由でも話せばいいのかな?」


 はーい、その通りでーす。

 私が返事をする前に、既にテッドさんは語り始めていた。


「あのね、俺は女が嫌いなの。できれば、女とはずっと接したくないの。そう言ってくれるかな」


 よし、これで私の任務は完了した。

 テッドさんにお礼を言って、私は帰ろうとした。

 しかし、足が動かない。


「あはは、絶対逃げると思ったよ。あ、無理に動こうとしてもムダだよ。魔法かけておいたから」


 こっわ、魔法使いってこっわいよね!

 結局、私はここで魔法にかかったままテッドさんと話をすることになった。

 どうせかけるなら、オヒメサマにでもなる魔法にしてくれないかな。

 いや、やっぱダメ。コイツの場合、ロクなことにならない。


「俺さぁ、アンタと友達になりたいんだよ。まず、名前を教えて」

「乙葉 悠陽。名前で呼ばれるのは嫌だから、乙葉って呼んで」


 私は、無駄なことは一切言わずにいても、テッドさんは全く気にしていないようだ。

 そうだ、私もコイツに質問してみようかな。もしかしたら、本当は良いやつかもしれないし。いや、それはないか。


「オトハ ユウヒ? 名字と名前は逆なんだ。なんか、アンタって本当に謎だね~」

「失礼な。テッドさんだって謎でしょ。女嫌いだって言ったり、女たらしでもあるって言ったり」

「まぁね」


 テッドさんは、へらへらと笑いながら、空を見上げる。

 その時、たくさんの女の子がテッドさんのところへ駆け寄ってくる。

 テッドさんは、一瞬険しい顔をした後に、にっこりと笑った。

 それからのテッドさんは、こちらには見向きもせず、女の子たちと楽しそうに会話をしたり、腕を絡ませたりと、好き放題にしていた。

 女嫌いっていうの、嘘なんじゃないの?

 しばらくすると、鐘の音が鳴る。たぶん、授業開始の音楽なんじゃないかな。

 女の子たちは、走って教室かどこかへ向かっていった。


「やぁ、ごめんね~。って、なんでそんな嫌そうな顔をしてるの? 怒ったの?」

「テッドさん、いや、テッド。やっぱり私は、お前のことが嫌いだ」


 私はそれだけ言うと、テッドに背を向けて歩き出す。どうやらもう魔法は解けているらしい。

 テッドは、困ったなぁ~。なんて言うが、追いかけてはこないようだった。

 よし、エイナル先生とアロンドさんに、愚痴を言いまくってやろう。


 二人の先生がいる部屋に戻ると、二人はこちらを見た。

 私の不機嫌そうな顔を見ると、エイナル先生は紅茶を入れてくれた。

 私はソファに座って、紅茶を飲みながら愚痴を言う。


「あの男、本当に嫌い。確かに、女の子を見た瞬間、ちょっと嫌そうな顔したけど、そのあとは普通にチャラチャラしてるもん」


 私のその言葉に、アロンドさんは同意をする。エイナル先生は、ただ目を瞑るだけだ。

 ただ、エイナル先生はただ目を瞑っているだけではなく、何か考え事をしているように見える。

 そして、エイナル先生は口を開いた。


「私は、彼が嘘を吐いているようには思えないのです」


 私も、どこか引っかかるものはあったけど、嫌悪感が勝って放ったらかしにしていたな。

 エイナル先生は、無表情のまま話を進める。


「私たち教師としても、授業に出て欲しい。原因が女性であるとするのなら、なんとかして女性嫌いを治して欲しいものです。ですが、教師と生徒にはどこか壁ができるものです。ですから、教師以外の誰かが彼の女性嫌いを治して欲しいものですが……」


 エイナル先生は、そう言うと、私をしっかりと視界に入れる。

 つまり、そういうことなんですね。私に、テッドの女嫌いを治せと言っているわけですね。

 なんでこの世界に来てから、こう面倒臭いことが続くのかな。


「はいはい、わかりましたよ。エイナル先生には、これからお世話になりますからね」


 断っても無駄だ。きっと、断り続ける方が面倒くさいことになる。

 エイナル先生はきっと、私の判断基準がどこかわかりつつあるだろうし、あらゆる手を使って……あぁ、面倒くさい。

 私がほぼ諦めたようにそう言うと、エイナル先生は鞄から棒付きキャンディーを取り出した。


「ありがとうございます、悠陽さん。多くを語らずともわかってくださる貴方は、本当に素晴らしいと思います。報酬に、こちらのキャンディーを差し上げます」


 球体のキャンディーの包み紙には、苺のイラストが描かれていた。やったね。

 キャンディーを貰っただけで、テンションが上がっている自分。報酬があれば、けっこう頑張れるかもしれない。って、子どもか? 子供だったわ。


「それでは、よろしくお願いしますね」


 今のうちに、話すことををいくつか考えなければ。

 とりあえず、さっき貰ったキャンディーでも舐めていよう。

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