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お城の中に入ると、そこはもう正に異空間。天井が高いので、より広く、豪華に見える。
目の前には、赤い絨毯の敷かれた大きな階段がある。その階段は、左右に分かれていて、手すりは金色に輝いている。
階段の奥には、廊下らしきものの入り口が見える。
人影が見えたので、その人にアロンドさんの居場所について聞いてみようと思う。
豪華な、段数の多い階段を息を切らせつつも上り終え、先ほど見た人影を探す。
しかし、どこかへ行ってしまったらしく、既にこの廊下には一人もいなかった。
肩を落としていると、突然後ろから肩を掴まれた。
もちろん驚いたので、情けない声を発しながら飛び上がった。
「ひえぁ!?」
「あはは! 情けない声だねぇ。本当にここの生徒なの? 普通、戦闘態勢に入るでしょ。どんだけ間抜けなのさ」
少し挑発的な言い方に腹が立って、後ろを振り向く。
そこには、声音や口調の通り、馬鹿にしたように笑うイケメンがいた。なんなんだこの世界。
赤い髪は顎より下まで伸びていて、前髪は斜めに流している。燃えるように赤い目。その左目の下にはほくろが付いていて、少し色っぽい。しかし、どこかチャラ男の雰囲気が出ていて、私は嫌悪感が湧いてくる。
この世界には、美形しかいないの?
「よくわかんないけど、私まだここに来たばかりなの。戦闘とかよくわかんないし。てか、初対面に失礼じゃない? 私、アンタ嫌い」
イライラして、喧嘩腰になる。アロンドさんのことについて聞きたかったけど、もうこの人嫌いになったから絶対に嫌。
「そ~んな嫌そうな顔すんなって。でも、アンタってさ……誰よりも女らしい外見なのに、誰よりも女らしくない性格だと思うんだよね」
「は?」
なんなのコイツ。私、もう面倒臭いからコイツ無視してさっさとアロンドさんを探しに行こう。
私が、肩掴み野郎 (適当に命名)の横を通ろうとすると、肩掴み野郎は、私の行く手を阻んだ。
「まぁ、待てよ。俺さ、女の友達っていないんだよね。なんでだと思う?」
で、出た~。こういうタイプって、本当に面倒臭い。どうでもいいんですって。
どうせ、全部恋愛対象だから! とか言うんでしょ、くたばれチャラ男。
「なんで答えないのさ。まぁいいや。正解はね、俺が女嫌いだから」
声は少し暗いが、にっこりと笑っている。
そんなことを言って、私にどうしてほしいのか。女は嫌いだから、今すぐお前を消してやるよ。とかそういうのはやめてね。
「さっきも言ったけど、アンタは女だとは思えないんだよね。だからさ、友達になってくれない?」
そう言って、イケメンは私に手を差し出す。
いや、手を握れと? 絶対に、嫌なんですけど。
というわけで、ダッシュで逃げました。
「はぁ……」
廊下を全速力で走った私は、呼吸を整えるために、ため息を吐いた。
廊下を走ってはいけません。なぜか、そんな幻聴が聞こえる。
先生、不審者にあったので、仕方がないのです。許してください。
あらまぁ、それは大変だわ。仕方がないので、今回は許します。
……一人で何をしているんだろう。
「悠陽か? なんでこんなところにいるんだ」
自分にあきれていると、教科書やノートなど、いろんな物を持ったアロンドさんに話しかけられた。
少し大変そうなので、半分ぐらい荷物を持ってあげた。
あれ? 魔法使えば良くない? という事に一瞬遅れて気付くが、もしかしたらMP節約かな、と思って聞かないままにした。
「ありがとう、助かった」
どうやら、授業後のようで、生徒も少しずつ廊下に現れてきた。
アロンドさんも、教師として授業に参加していたんだろうね。
「私さ、暇だからオッサン……アロンドせんせーを探しに来たんだよ」
「なるほど、暇だったのか。俺も今から暇になる予定」
爽やかに笑うアロンドさんは、明らかに嘘をついている。
私は、注意をするべきなのだろうか。それとも、一緒にサボるべきなのだろうか。
「そうだ、これから遊びに行かねえか?」
アロンドさん、遊びに行きたいのは私も同じなんですが……背後から何かが近づいてますよ……。
「アロンド先生。貴方には、今まで休んでいた分の仕事があります。ですが、そんなに遊びたいのなら、私(仕)が(事)貴方と(て)遊ん(て)で(も)あ(ら)げ(い)ま(ま)す(す)か(か)ら(ら)ね(ね)。悠陽さんに迷惑をかけないでください」
エイナル先生のご登場です。無表情なのは変わりません。ただ、少し不穏な雰囲気を出しているような、気がしないでもない。ちょっとした恐怖を覚える。いや前から怖いと思ってるけど。
アロンドさんは、顔を引きつらせながら笑った。
「あ、私も行くよ。暇だし」
私が挙手しつつ言うと、エイナル先生は頷いて、わかりました。とだけ言うと、エイナル先生はアロンドさんの腕を掴んで足早に進んだ。
私は二人の後を追おうとしたとき、ふと窓の外を見た。
窓の外には、噴水とベンチがあり、そのベンチに女の子が一人で座っていた。
可愛らしい顔立ちで、頭に大きなリボンが乗っかっている。そして、ピンク色の長い髪を高い位置でツインテールにしている。 大きな黒い目で、私の姿を捉えたらしい女の子は、すぐに目をそらした。
女の子のことは気になるけれど、今は先生に着いていかないと。
私は、距離が離れてしまった先生たちの後を、小走りで追いかけた。




