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2015年/短編まとめ

空も私も泣き出した

作者: 文崎 美生

灰色の重たい空を見上げて、雨が降るかな、なんて考えていた。

夏も終わって完全に秋にシフトチェンジしているこの時期は、私達高校三年生にとっては勝負の時なのだろう。

受験とか面接とか。


じわじわと自覚する卒業に、ほんの少し焦ったりもするけれど、別のものが心の大半を占めていた。

駄目だなぁ、なんて溜息を吐きながら、今にも泣き出しそうな空を見つめる。

泣きたいのは私も一緒だよ。


高校生活の中で一番近くにいた存在の彼の席に座り込んで、面接練習中の彼の帰りを待つ。

何もすることのない私は机に突っ伏して空を見上げるだけ。

大人が言う将来がもう目の前にやって来ているのに、私の足はどうにも動き出さないのだ。


別に成績が悪いわけじゃない。

授業態度だって悪くない。

勿論生活態度だって。

だけど肝心な私の心が追いつかない。


「眠い怠い頭痛い」


誰もいないのに不満を吐き出すのは、とにかく気を紛らわせようとしているから。

そう言ったのはいつかの彼。

この席の彼。

いつかは忘れたけど。

前にもきっとこんな気持ちになっていた。


変わっていくのは悪いことじゃない。

むしろ当たり前にあること。

いい方向に変わっていけるように努力しなくてはいけないけれど。

変化は成長にもなる。


その変化に私はついていけないでいる。

未定で出した進路希望調査表は、私はどこにも進めないと意思表示しているのと同じ。

私だけがここで立ち止まっていた。

高校生活なんて基本的に部活で精一杯だったから、それ以上も以下もない生活だったのに。

何で大会が終わって引退して、直ぐにこうやって時間が流れては進路将来と追い詰められるのか。


「お待たせ……って寝てる?」


「起きてる」


机に突っ伏して空を見上げたまま、かけられた声に答える。

目を細めて顔を彼に向ければ、おぉ、なんて言いながら片手を上げた。

もう片方の手には面接練習の用紙。


試合より緊張するわぁ、なんてことを言いながら彼は机の横に掛かっていた鞄を掴んで、ファイルの中に紙を突っ込む。

大丈夫だよ、ここぞって時は絶対決めてたじゃない。

そう言いたいのにつっかえて出て来ない。


どんどん進んで行く。

この前までは同じ場所に立っていた気がしたけれど、私はまだそこに立ったまま。

彼はどんどん先に進んで行ってしまう。


「さ、帰るか」


鞄を肩にひっかけた彼が言う。

その広く大きな背中を私に向けて歩きだそうとする。

待って。

行かないで。


グンッ、と彼の制服を掴んで止めた。

突然のことにも、彼の鍛えられた体は傾くことを知らずに、不思議そうな顔をして振り返るだけ。

だけどその不思議そうな顔は、直ぐに目を大きく見開いた驚き顔に変わる。


「置いてかないで」


泣き出した雨と一緒に私も泣きたい。

雨粒が窓ガラスを叩く。

傘、持って来てたっけ。

今更そんな心配したって遅いけど。


彼が困っている。

恐る恐るわたしの頭に手を置いて、ポンポンと数回叩いてから、髪を梳くように撫でた。

変わらないなんてきっと無理。

それを分かっても私は明日も変わらない日々を望む。


どうか、どうかもう少しだけこのままでいたいんです。

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