空も私も泣き出した
灰色の重たい空を見上げて、雨が降るかな、なんて考えていた。
夏も終わって完全に秋にシフトチェンジしているこの時期は、私達高校三年生にとっては勝負の時なのだろう。
受験とか面接とか。
じわじわと自覚する卒業に、ほんの少し焦ったりもするけれど、別のものが心の大半を占めていた。
駄目だなぁ、なんて溜息を吐きながら、今にも泣き出しそうな空を見つめる。
泣きたいのは私も一緒だよ。
高校生活の中で一番近くにいた存在の彼の席に座り込んで、面接練習中の彼の帰りを待つ。
何もすることのない私は机に突っ伏して空を見上げるだけ。
大人が言う将来がもう目の前にやって来ているのに、私の足はどうにも動き出さないのだ。
別に成績が悪いわけじゃない。
授業態度だって悪くない。
勿論生活態度だって。
だけど肝心な私の心が追いつかない。
「眠い怠い頭痛い」
誰もいないのに不満を吐き出すのは、とにかく気を紛らわせようとしているから。
そう言ったのはいつかの彼。
この席の彼。
いつかは忘れたけど。
前にもきっとこんな気持ちになっていた。
変わっていくのは悪いことじゃない。
むしろ当たり前にあること。
いい方向に変わっていけるように努力しなくてはいけないけれど。
変化は成長にもなる。
その変化に私はついていけないでいる。
未定で出した進路希望調査表は、私はどこにも進めないと意思表示しているのと同じ。
私だけがここで立ち止まっていた。
高校生活なんて基本的に部活で精一杯だったから、それ以上も以下もない生活だったのに。
何で大会が終わって引退して、直ぐにこうやって時間が流れては進路将来と追い詰められるのか。
「お待たせ……って寝てる?」
「起きてる」
机に突っ伏して空を見上げたまま、かけられた声に答える。
目を細めて顔を彼に向ければ、おぉ、なんて言いながら片手を上げた。
もう片方の手には面接練習の用紙。
試合より緊張するわぁ、なんてことを言いながら彼は机の横に掛かっていた鞄を掴んで、ファイルの中に紙を突っ込む。
大丈夫だよ、ここぞって時は絶対決めてたじゃない。
そう言いたいのにつっかえて出て来ない。
どんどん進んで行く。
この前までは同じ場所に立っていた気がしたけれど、私はまだそこに立ったまま。
彼はどんどん先に進んで行ってしまう。
「さ、帰るか」
鞄を肩にひっかけた彼が言う。
その広く大きな背中を私に向けて歩きだそうとする。
待って。
行かないで。
グンッ、と彼の制服を掴んで止めた。
突然のことにも、彼の鍛えられた体は傾くことを知らずに、不思議そうな顔をして振り返るだけ。
だけどその不思議そうな顔は、直ぐに目を大きく見開いた驚き顔に変わる。
「置いてかないで」
泣き出した雨と一緒に私も泣きたい。
雨粒が窓ガラスを叩く。
傘、持って来てたっけ。
今更そんな心配したって遅いけど。
彼が困っている。
恐る恐るわたしの頭に手を置いて、ポンポンと数回叩いてから、髪を梳くように撫でた。
変わらないなんてきっと無理。
それを分かっても私は明日も変わらない日々を望む。
どうか、どうかもう少しだけこのままでいたいんです。