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凍結恋愛

作者: 大橋零人

 僕の部屋の隅にある、あの白い箱。

 まあ、白いと言っても随分と錆びついて、今では赤茶けてしまっているけどね。耐用年数をとっくに過ぎているようなシロモノだけれど、時々斜め上から叩かないと見られなくなるテレビとか、巻き戻すとテープを引き千切ってしまうビデオデッキとか、DJのスクラッチみたいな音楽を鳴らすCDラジカセとか、ロクなモノが無い僕の部屋ではまだ立派に存在意義を保っているんだよ。

 あれはさ、冷蔵庫なんだ。よくよく見れば丸みを帯びた古臭いデザインがなかなか可愛いだろ? 基本的に中身はいつも空だから実用性に乏しいインテリアみたいなモノなんだけれど、やっぱり冷蔵庫の無い部屋ってのは寂しい。生活感って言うか、生きているっていう感じがしないよね。

 あれでもちゃんとコンセントは刺さっていて、しっかり作動しているんだよ。

 耳を澄ませばコンプレッサーの小さなモーター音が聞こえるだろ? 不規則だけど確かに動いている。

 実はさ、普段はコンセントを抜いているんだ。それじゃあ何の意味もないんだけれど、空っぽなんだから仕方ない。それを気にするのは僕自身だけなんだから、僕が平気な顔をしていれば誰も気づかない。

 それをなぜ今は稼働させているかと言えば、もちろん冷やしておきたいモノがあるからだよね。

 ちょっと扉を開けてみようか。言っておくけど、キミの部屋の冷蔵庫のように中がパッと明るく照らされたりはしないよ。

 ほら、カチンコチンに凍らされたモノが見えるだろ?

 炎みたいだって? みたいじゃないよ、炎だよ。何の炎かだって? あの病的な青白さを見れば解るじゃないか。お医者様でも治せない厄介で危険な情熱だよ。

 え? なんで炎を冷蔵庫で冷やしているのかって? キミも存外察しが悪いね。凍らせておかなければ、たちまち燃え広がってしまうじゃないか。僕の小さな部屋なんて瞬きする間に焼け落ちてしまう。

 おいおい、なんで取り出しているんだよ。僕の話を聞いていなかったのかい? いやいや「とても綺麗だから」ってさ。ほら、どんどん氷が溶け出しているよ。このままじゃキミも火傷するよ。

 どうやらキミは”恋”ってモノを知らないらしいね。それは僕にとって喜ばしいことなのか哀しむべきことなのか判らないけれど。


 ああ、もう間に合わない。どうなっても知らないよ。

 僕のせいじゃない。キミがいけないんだ。


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