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6 差し出された手

 アーエストラエアにやってきて一ヶ月。相変わらず一人で探索しており、ほかの挑戦者に比べると遅いペースで十階にたどりついた。

 新たに「察知」と「解除」のツールを予定通り買っていて、現在持てる上限まで持っている。

 レベルは49になっており、そろそろ管理所の宿を出ることも考えなくてはならない。管理所の宿は駆け出しのために存在し、レベル50は駆け出しとはいえなくなっている。レベル60まではいることができるが、そこまで居つく者は珍しい。

 

「今日は宿探しかなぁ。最近はお金の心配しないですんだのに、また厳しくなるのか」


 はぁと景気の悪い溜息を吐いたセルシオはリュックを背負い私服のまま部屋を出て、遅い朝食を食べた後に管理所から出る。最近は駆け出し定食を食べることはなくなり、毎食美味しいと思えるものを食べることができていた。

 外に出たセルシオは、以前ダンジョン管理所を探し彷徨ったことを思い出しつつ歩く。


「宿らしきところあったっけ?」


 この一ヶ月の行動範囲は狭く、何度も足を運んだのは「駆け出した黒馬」くらいだ。

 初心者向けの本には宿選びについても書かれており、それを参考にして探すつもりだ。書かれていたことは難しいものではなく、五百コルジの宿を探せといったことや、表通りに近い場所にある宿は大丈夫といったものだ。

 街には四百コルジやそれ以下の宿もある。だがそういった宿は衛生面や安全面から不安があるのだ。安心して利用したいのならば、最低でも五百コルジ必要なのだ。

 隠れているような宿はなにかしらの訳有りなので避けた方がいいとも書かれていたが、見つけ出せることができたのならといった注釈もついていた。

 宿屋の看板を探して視線をあちらこちらに向けて歩く。

 大通り東を歩いている時だ。路地裏に続く道から誰かが二人飛び出してきてぶつかる。

 飛び出してきたのはセルシオと同年代の男女だ。ぶつかったのは男で、活発的な雰囲気をまとい、亜麻色の髪に同色の目を持っている。鎧姿で背中に片手でも持てる両手剣を背負い、腕には挑戦者と示す腕輪がある。背はセルシオよりも少し低い。

 女の方は雪のような白い髪に黒の目、大人しげな雰囲気だ。肌を日に晒さないようにか長袖、ロングスカート姿で、フード付きのコートのフードも被っている。手には戦闘用の杖を持ち、細い腕には男と同じように腕輪がある。


「ごめ「いたぞ! 仲間と合流しやがった!」」


 立ち上がりつつ男がなにか言いかけたが、それ以上の声量が路地裏から聞こえてきて邪魔され聞こえなかった。

 その内容に男女は意表を突かれたような表情となり、すぐにすまなそうな顔をセルシオに向ける。


「巻き込んだみたいだ! あとで謝るから一緒に逃げるぞ!」

「はあっ!?」


 男が走り出し、女も一礼してから走り出す。


「ちょっ!?」

「一人逃げ遅れた捕まえろ!」

「なんだってんだ!?」

 

 わけのわからないままセルシオは先を走る男女を追って走り出す。

 

「待てや!」


 怒鳴り声を背にして、人々を避けて走る。

 捕まればなにをされるかわからないので、三人ともほぼ全速力だ。それ追う者たちも当然同じ速度になる。

 追う者たちは土地勘はあるらしいが、体力は三人に劣るようで五人いた男たちは次々と脱落していく。

 そして先を行く男女が廃墟らしきところへ入り、セルシオもそこに入る。

 三人が静かに荒い息を整えていると、隠れている廃墟の近くに男が集まってくる。


「ここらに来たらしい。さがせ!」


 その指示に俺はあっちだ、じゃあ俺はこっちだと四方八方へばらけていく足音が聞こえてきた。一人が廃墟を覗き込んだが、物陰に隠れてやりすごす。

 静かに外の様子を探り、一応誰もいなくなったことを確認した三人はほぅっと安堵の息をはく。


「でなんで巻き込んだ?」


 怒りをにじませたセルシオに男は少し慌てる。


「勘違いしたのはあっちで、巻き込むつもりなんかまったくなかったぞ!?」


 同意だと女もコクコクと頷いている。


「じゃああいつらにそう説明してくれ」

「無理だってわかるだろ。逃げ隠れしている相手に姿を晒して説明ってどんな無茶振りだ」

「……ここから出てあいつらに会ったら、ここに隠れていると説明して無関係だと証明する」


 立ち上がりかけたセルシオの腕をとって止める。


「信じるかどうかわからないし、お前があいつらと会っている間に俺たちはほかの場所に逃げてるぞ。そしたら囮になって逃がしたって判断される可能性だってある」


 その言葉に納得し、セルシオは大きく溜息を吐いて座りなおす。

 荒事になった時のためリュックから鎧とダガーと黒い籠手を取り出し身につける。籠手は新たに手に入れたもので、獣皮の肘前までの手袋に腕にあうように削られた木の板がくっついている。ほかに木製の小型ラウンドシールドも手に入れているが、そちらは移動の邪魔になるかもと出していない。

 荒事の準備を整えると、窓をじっと見て外の様子を探り始める。

 三人ともなにも話さず静かな時間が過ぎていく。三十分過ぎたところで、男が我慢できなくなったのか口を開いた。


「なにも聞かないんだな?」

「……聞く必要がない。これ以上巻き込むな」

 

 振り向かずに答える。自身でもそりゃそうだと納得できてしまい、男はなにも言えずにいる。

 かわりというわけか、ただ疑問に思ったのか今度は女が口を開く。


「この後どうするつもりですか?」

「暗くなるまで待って、暗がりに隠れながら帰る」

「それなら鎧とか着込まなくても」

「ここにいるのがばれたら争いになるかもしれない、その時のため。これ以上は話すことなんかない」


 話しかけるなと拒絶の意思を見せる。

 二人は顔を見合わせて、自分たちを見ようとしないセルシオに頷きを返した。

 素っ気無い態度に思うところはあるものの、巻き込んだのは自分たちなのでなにも言うことができない。

 時間は流れていき、昼を過ぎる。いまだ静かな廃墟の中、セルシオが動き出す。

 急に動き出したセルシオに二人の視線が刺さるも気にせず、リュックの中から水筒と携帯食を取り出した。

 

「そろそろ昼か」


 男は自分の腹を擦りつつ大まかな時間を悟る。

 二人は露店か食堂で昼を済ませようと思っていたので、食料の類は持っていない。セルシオのように魔法製のリュックを持っていないので、携帯食を持ち歩くこともしていない。

 一人黙々と飲み食いするセルシオに、思わず二人は羨ましげな視線を向ける。

 しばらく無視していたセルシオだが溜息を一つ吐くと、水筒とクラッカーを二人へと投げる。空腹の辛さは知っていた。クラッカーはチーズが挟まれたものとジャムが挟まれたものがある。

 いいのかという視線を向ける二人は、既に窓に視線を戻したセルシオに礼を言って食べ始める。

 男たちは戻ってこず、静かに時間だけが過ぎていく。これだけ静かならば出られるかとも思ったが、出てくるのを隠れて待っているかもと思うと動くことはできなかった。

 察知のツールである程度気配がわかるようになっているものの、いまだ未熟で気配を捉えきれないことがある。だから気配がなくとも油断はできない。

 やがて日が暮れ、完全に空が真っ暗になり、セルシオは立ち上がる。二人に近づくと、水筒を回収して無言で建物を出て行く。

 セルシオが出て行き二人は、緊張を緩めて息を吐いた。自分たちも用事をすませて帰ろうと、廃墟を出て行く。

 二人が追いかけられていたのは、傭兵ギルドで受けた依頼関連だ。いくつかの書類を届けるだけだったのだ。しかし重要書類のダミーが紛れており、それに騙された者たちに追いかけられるはめになった。

 手紙の半分はもう一人の仲間が届けることになっているので、二人の手元にはあと三通の手紙がある。それをこれから届けて依頼達成となる。

 この日のセルシオの予定は潰れ、翌朝昨日トラブルにあった東を避けて大通り南に行く。


「あそこでいっか」


 目に入った宿に、深く考えず入っていく。

 宿の名は「赤鳥の群」で、大きさは中規模。老舗というわけでも新店舗というわけでもないごくありきたりな宿だ。

 酒場も兼ねているようで、一階にはたくさんのテーブルが並ぶ。


「いらっしゃい」


 入ってきたセルシオに気づいた五十ほどの男が声をかける。黒のエプロンを身につけた、白髪交じりの黒髪の男だ。口周りに短い髭が生えている。


「部屋は空いてますか? それと一泊いくらですか?」

「空いてるぞ。五百だ。五日分先払いすると一割引きだ」

 

 この割引は挑戦者のみのサービスだ。多くの店で挑戦者にはなんらかのサービスがある。


「一割ってどれくらい?」


 足し算引き算はできるが、掛け算割り算となるとセルシオはできない。勉強などアーエストラエアに来る前はまったくしていなかった。そんな暇があるなら田畑を耕す方が先、というのが両親の方針だったのだ。


「二百五十コルジだ。十五日分の先払いだと二割引き、六千コルジ。千五百コルジの得となる」

「えっと五日分だから五百と五百と……二千五百。そんなにお金ないから二日分先に払うことにします」

「わかった。今日からだよな?」

「はい。これからダンジョンに行くんで、夕方からになります」

「ん、それまでに準備しておく。部屋は二階の東、202号室だ。鍵を先に渡しておく」


 ナンバープレートのついた鍵を渡す。受け取ったセルシオはリュックの中に入れて、宿を出ようとする。


「ちょっと待った。設備説明とか受けなくていいのか?」

「ダンジョン管理所の宿となにか違うの?」

「ああ、違いはある」


 ここでは朝食は無料。注文をする時に鍵を見せればただになる。ただし一人分で、おかわりは有料。洗濯を宿の従業員に任せることができ、部屋にある籠に入れて従業員に渡せばいい。この宿には風呂はないが、近くにある銭湯に行けば五十コルジのところを三十コルジで入れるようになる。その時も鍵を見せればいい。

 このほかにはトイレの位置や、宿周辺にある店の説明を受ける。

 説明を受け終えたセルシオはダンジョンへと向かう。

 今日の探索でレベルが五十になり、ツールの所有枠数が三つ追加された。次は治癒魔法のツールを買う予定だ。残る二つは決めていない。盾のツールがいいかなと思っているくらいだ。

 管理所の宿に私物を置いてはいないので、ダンジョンを出るとそのまま赤鳥の群亭に向かう。

 時間にして午後八時を少し過ぎたあたり。食事を終えて酒盛りに入っている者たちが賑やかに騒いでいた。

 夕食を食べようにもテーブル席は空いておらず、カウンターに座る。


「ミートスパゲティーセット」

「あいよ」


 朝も話した男に料理を頼む。厨房に声をかけた後、カウンターで他の客と話したり、酒を飲んだりと好きにしている。聞こえてきた内容からここの主人だとわかる。

 十五分ほどして、厨房からセルシオより少し年上の男がスパゲティーとセットの品を手に出てくる。それを主人は受け取り、セルシオの前に置く。

 食べ始めた時、新たに三人の男女が宿に入ってくる。彼らも夕食を食べようと思っていたようだが、テーブルに空きがなくカウンターに座ろうと近づいてくる。そして若い男女がスパゲティーを食べているセルシオを見て、驚いた表情を見せる。昨日出会った男女だ。

 なにを驚いているんだと、仲間の五十過ぎの男が聞いている。ほとんど白くなった頭を坊主にした、熟練の雰囲気を漂わせる挑戦者だ。金属製の鎧を身につけ、剣を二本腰に下げている。背筋が良く、動きにぶれはなく、いまだ現役なのだとわかる。

 事情を聞き、一つ頷いた男はセルシオに近づく。


「椅子がないんだ。隣いいか?」


 食べる手を止めて、声のした方向を見て頷き、すぐに食事を再開する。セルシオは男女に気づいていない。

 男たちも料理を注文して、雑談をして待つ。その間にセルシオは食べ終えて、二階に上がっていく。それを視線で追い、主人を呼ぶ。


「セオドリア、ちょっといいか」

「なんだ?」


 気安い呼びかけに応えるところを見ると、二人は親しいのだろう。


「今隣で食べてた奴がいるだろ? あいつのことを少し聞きたいんだ」

「なんでだ? 古い友人だとしても客の情報をおいそれとは教えられねえぞ」

「名前とか、いつからここに泊まっているのかとか、あとは性格とかだよ。それ以上は聞かねえ」


 面倒事にするつもりはないと手を振りつつ答える。


「……それくらいならな。名前はセルシオだとさ。今朝、部屋はあるかと聞いていた。性格は知らんな。ただどこか人を突き放すものは感じたが、珍しいものじゃないだろ」

「まあ、そうだな。気を許せる者以外には警戒するのが当然だしな。ありがとう」

「あいつになにかあるのか?」

「こいつらが迷惑かけたようでな、半日時間潰させたんだと。そのことを謝るついでに、少し知っておこうかと」

「礼を言うのになんで性格を知る必要があるんだよ」

「ミドルとアズの話だと気難しい奴らしいからな。話すときの注意点としてな」


 ミドルが若い男の方で、アズが女の方の名前だ。話している男の名はオルトマンといった。

 次の日から礼を言うタイミングを探してたが、三人とセルシオの行動は上手くかみ合わず話す機会を得られなかった。

 そうして三日経つ。

 その日もセルシオは一人でダンジョンに向かった。今日はある程度の金銭的余裕ができたので、探索を進める日だ。

 行きの札を持ってから出発の岩に触れ、一度だけ来た十一階に到着した。

 今日は盾も装備している。出るとされている魔物の情報を思い出しつつ、移動を始める。察知のおかげで先制をくらうことはほぼなく、魔物を戦っていく。

 八階九階にもでた一メートルのトカゲ、この階から出始めた角を生やした中型犬と慎重に戦っていく。トカゲは牙トカゲ、犬はホーンドッグという名がある。

 ホーンドッグを見ると、初めての戦いを思い出され無駄に緊張する。

 一対一ならば問題ないので、複数の気配が感じられる場合は、数が減るまで待つか戦いを避けた。

 気配を元に移動していくということは、なにがいるかわからないということでもある。

 とある大きめの通路で、セルシオは前方に魔物一体の気配を感じ取り、そちらへ向かう。

 そこにいたのは羽の生えた目玉。記憶を掘り返すと、アラートアイと出てきた。続いてその特徴を思い出し慌てて、ダガーを叩きつけようと動くも一歩足りなかった。


「Prrrrrrrrr!」


 けたたましい鳴き声がアラートアイを倒すまで続く。簡単に倒せたように強くはないのだが、その鳴き声でほかの魔物を呼んでしまう厄介な魔物なのだ。

 逃げようと思った矢先に魔物の気配が前後から感じ取れた。


「相手するしかないのか」


 治癒薬の確認をして、魂稀珠を回収して元来た道を戻りつつ、警戒する。

 歩いている間にも気配は増えていく。


「犬が二体か」


 さっさと倒して帰還の岩に戻ろうと、盾を構えたままホーンドッグに近づいていく。我流の盾扱いでホーンドッグの攻撃をいなしつつ、二匹を倒す。その間に背後から牙トカゲが近づいている。

 

「相手するとまたほかのが来そうだし戦わずに退くか」


 そう決めて少し移動すると再び前方から魔物がやってくる。背後に迫る牙トカゲと同じだ。

 足を止めるしかなく、挟撃される前に前方の牙トカゲを急いで倒す。


「づぅっ!?」


 前方の牙トカゲを倒した直後に、背後の牙トカゲが追いつき足に噛み付いてくる。

 足から伝わる激痛を歯をくいしばって耐え、牙トカゲの頭部へとスキル刺突を使いダガーを突き立てる。それで絶命した牙トカゲを振り払い、怪我の様子を見る暇もなく、次々と魔物が集まってくる。


「逃げる暇もない!」


 近寄ってきた青銅色の蜂を盾で叩き落とし、思いっきり踏みつける。ブロンズホーネットという体長二十センチの蜂で、八階辺りに多く出てくる魔物だ。倒したことで材料アイテムである蜜玉を出したが、灰色をしたサッカーボールほどのダンゴ虫が這い寄ってきていて拾う暇もない。

 ダンゴ虫は、石に近い外殻を持つダンゴ虫型の魔物だ。

 魔物の攻勢はまだまだ続き、すぐにセルシオは押されだす。死にたくはないので必死に相手しつつも、逃げるタイミングを計るが魔物を引き連れて少しずつ移動することしかできない。

 血が流れ、体力もどんどん減っていき、ダメージを負いながら治癒薬を飲み、焼け石に水といった状態でどうにか生き延びている。

 やがて帰還の岩が見える位置まで近づくことができたが、岩までの二十メートルが嫌になるほど遠く見える。

 残り体力が五十を切り、それが感覚的に理解できた。このままじりじりと進むよりは少なくないダメージを喰らいながらでも、帰還の岩にたどり着いた方がいいと判断し実行に移す。

 動きの素早い魔物たちから背中や足に攻撃をくらいつつ、なんどか帰還の岩にたどり着けた。そして帰りの札が効果を発揮し管理所に戻ってきたところで気を失った。


 以前も嗅いだことのある匂いを感じつつ、セルシオは目を開ける。景色にも見覚えがあった。


「医務室?」

「ああ、そうだ」

「……誰?」


 声をした方を見ると、見覚えない男が座っている。目をほかの場所に動かし、医者を探すも用事ででかけているのか姿は見えない。

 

「一度だけ会ってんだけどな。はじめましてだ、オルトマンというんだ」

「……はじめまして」

「お前さんと話そうと思っていたんだが、こんな風に話すことになるとは思ってもなかった」


 これにセルシオの警戒度が上がる。

 それに気づいたオルトマンはまあ落ち着けと手で制し、まずはここにいる事情を話す。


「管理所に戻ってきて倒れたお前さんを治療し、運んできたのは俺たちだ。いきなり倒れるから驚いたんだぞ?」

「それについては礼を言う」

「どうしてそんなことになったのか聞いてもいいか?」

「……アラートアイに魔物を集められただけ」

「ほかの仲間たちは……死んだのか? それとも今日は一人だけで探索していたのか?」

「いつも一人」


 驚いたように少しだけグレーの目を見開き、すぐに元に戻る。


「一人か、大変じゃないか?」


 今回のことで少し思うことはあったが、首を横に振る。


「だけど今回のようなこともあるだろう」

「次に気をつければいいだけ。あんたには関係ない話」

「まあ、そうなんだがな」


 ガシガシと頭を掻いて、会話を変える。


「お前さんと話したいことがあったって言っただろう? あれは謝りたかったからだ」


 その言葉に不思議そうに首を傾げた。セルシオ的には謝られるようなことはなにも覚えがないのだ。数日前のことだとは気づかない。


「何日か前にトラブルに巻き込まれただろう? 年の近い男女の。あいつらは俺の子供のようなものでな」

「ああ、あれか」

「迷惑かけたな」

「……用事はそれで終わり? じゃあもういいよね」


 起き上がり、ベッドから出ようとする。そんなセルシオにオルトマンは問いかける。


「お前はこれからも一人で探索し続けるのか?」

「それがなにか?」

「どうして一人でいようとするんだ?」

「どうしてそれを話さないといけないのさ」

「命を助けられた借りがあるだろう? 理由を話すくらいいいじゃないか」

「迷惑かけられた貸しとでちゃら」

「借りと貸しの大きさが釣り合わないと思うがな」

「あんたたちに助けられなくても、ほかの人に助けられた可能性がある」

「それでも実際に助けたのは俺たちだ」


 そう言うとじっとセルシオを見る。その視線の圧力から逃げるように顔を逸らして、ベッドに座りなおす。

 さっさと話して帰れば、そうそう会うこともないだろうと思い、話しだす。

 セルシオの話をオルトマンは口を挟まず、反応も見せず静かに聞く。


「そんな事情か」

「満足した? じゃあね」

「運がいい方じゃねえか」

「っ!?」


 同情してほしかったわけではないが、これまでのことを運がいいと言われるのは心に大きな不快感を生んだ。

 強く強く睨む。


「奴隷として売られても、奴隷にはなっていない。犬や人に襲われても死んではない。手持ちの食料がなくなる前にアーエストラエアについている。騙されても助かってる。運がいい方だろう? 運が悪い奴ってのは、奴隷として売られた時点で、その運命は決まっている。なんとか挑戦者として暮らせているのを奴隷が見れば、恵まれた状況だと羨ましがるぞ」


 違うかと問われて、セルシオは答えることができないでいる。


「確かに信じていた者から裏切られれば傷つく。死ぬかもしれないことがあれば、恐怖を抱く。だが俺から見ればいじけているだけだ。いじけて意地になって、楽な生き方に逃げようとしているだけだ」


 こう言いつつも一つだけ感心していることがある。それは死を選んだり、腐って動かないなんてことになっていないことだ。みっともないが生きようとしていることだけは感心できた。

 ちなみに人を殺したことを責める気はオルトマンにはなかった。殺した相手が一般人ならば理由次第で責めただろうが、犯罪者ならばオルトマンも殺したことがあるのだ。


「あんたになにがわかる!」

「俺はわからん。裏切られたことはないからな。だがそれに負けない経験をしてなお、しっかり前を見て歩いている者たちを知っている。知っているからお前が甘えているとしか感じない」


 セルシオの睨みを正面から数秒間平然と受け止め再度口を開く。


「一緒に来い」

「は?」


 この話の流れで仲間への誘いになるとは思っていなかったセルシオの口から、短い疑問符が漏れ出る。

 我ながら甘いとか言っているオルトマンの言葉を聞いても、理解はできない。

 オルトマンはセルシオと同じように一人でいようとした者を何人か知っていて、そのほとんどが若くして死んだことも知っている。生き残るには強くなければならず、その強さをセルシオに感じ取ることができなかった。放っておくとこの先五年で死んでいる確率が高い。それを放っておけずにいるからこその仲間への誘いだ。

 

「あいつらと一緒に鍛えてやる」

「な、なんでいきなり」

「このままだとお前は死ぬぞ? いつまでも一人で進めるほどダンジョンは甘くはないし、一人で生きやすい世界でもない。死にたくないんだろう? だったらこの手を取れ。いつかわかれて一人になっても生きていけるだけの力をやる」


 自身へと差し出された手をセルシオはじっと見る。

 この手を簡単には取れない。取ることを拒否するだけの経験をしている。

 運がいいと称されたが、傷ついたのは確かなのだ。癒されたわけではなく、すぐに人を信じられるような状態ではない。

 

「迷うのは当然だ。組んでも裏切られると思っているんだろ? ここで大丈夫だ、裏切らないと言うのは簡単だ。言葉だけだからな。実際に行動してみせたわけじゃあない。だけどあえて言おう。裏切らないと。意見の衝突はあるだろう、いらつき怒りを抱くこともあるだろう。人と人の関係だ、様々な感情が絡んでくるのは当然だ。だが裏切ることだけはしない」


 目に真摯の光を宿し強く言い切った。裏切らないと心を込めて。

 あとはなにも言わずに、手を差し出し続ける。セルシオが十秒、一分と悩み続けても微動だにせず待つ。

 レオンからの誘いを一番目の分かれ目とすると、ここは二番目の分かれ目だ。

 オルトマンの目には、セルシオの動こうとして止まるといった風に震えている腕が見えている。

 もともとセルシオは人を疑うような生き方はしていない。ずっと警戒し続けるような生活には慣れておらず疲れるのだ。こんな生活を止められるなら止めたいという気持ちがあり、セルシオの背を押す。


「……ずっと、ずっといるわけじゃない」


 オルトマンではなく自分に言い訳するように吐き出し、セルシオはオルトマンの手をゆっくりと取った。信じきれたわけではないのだろう、手に震えが残っていた。

 これから信頼関係を築いていけばいいと、オルトマンは力を入れて手を握る。


「これからよろしく、セルシオ」

「よろしく」


 覇気の篭らない返答を返す。

 握ったままの手を引っ張り、オルトマンはセルシオを立たせる。

 この瞬間職種が、帰らずの挑戦者から仲間を得た挑戦者へと書き換わった。

 脱がされていた鎧を着た後、二人は宿へと帰る。同じ方向に向かうことに疑問を抱いたが、オルトマンも同じ宿に泊まっていると聞き、そうなのかと流す。


「こっちだ。ほかの二人とも自己紹介しておけ。明日からの予定もあるしな」


 部屋に帰ろうとしたセルシオを止めて、二階の西側の部屋に移動する。

 オルトマンが泊まっている部屋は四人用の部屋で、ミドルとアズがくつろいでいた。二人はオルトマンと一緒に入ってきたセルシオを見て少しだけ驚いた様子を見せた。

 オルトマンから仲間に誘ってみると聞いてはいたが、来るのかどうかは半々だと思っていた。


「帰ったぞ。んで一応仲間として誘うことはできた。ほれ自己紹介」


 ぽんっと背中を叩かれセルシオは口を開く。


「セルシオ・カレンダ。よろしく」


 口調は硬い。


「ミドル・ダンド! ジョブの騎士を目指してる。これからよろしくな!」

「アズ・ダンドです。特になにか目指してるジョブはないけど、法術系のツールを使ってます。よろしくお願いしますね」

「ダンドとついているが、血が繋がっているわけじゃない。俺の家族みたいなもので姓も同じものを使っているんだ」


 すぐにわかることだとオルトマンが付け加えるように説明する。

 それをセルシオは関心なく聞く。


「お前の怪我を治したのはアズだ。礼の一つも言っておけ」

「……ありがとう」


 視線をアズに向けて頭を下げる。はにかみアズもちょこんと頭を下げた。

 オルトマンは椅子を二つ用意して、その片方をセルシオに渡し、自分はもう一つに座る。


「明日から一緒に行動するわけだが、互いのことをもう少しわからないと動きようがない。というわけで持っているツールを言ってくれ」


 俺はと言って、オルトマンが持っているツールを述べていく。

 オルトマンは察知、解除だ。元は隣国の騎士で、挑戦者として生きてきたわけではない。レベルは410と高いが、挑戦者歴はセルシオと大して変わらない。剣系統のスキルをいくつか持っている。

 ミドルは両手剣、鎧、盾。このあと操縦を取る予定だ。この四つで騎士へとジョブ化する。レベルは42。

 アズは治癒魔法、炎術、炎法。炎術と炎法が成長すれば、炎導に合成される。レベルはミドルと同じ。

 三人のツールが少なめなのは、お金に余裕がないからだ。低い階層だとパーティー収入が少なくなるのは仕方ない。

 三人の後にセルシオも持っているツールを話していく。


「その構成だと、トレジャーハンターのジョブを目指しているのか?」


 オルトマンの言葉にセルシオは首を傾げる。本を読んでいた時、知らずに二ページ飛ばしたことがある。そこに載っていたジョブなのだ。


「目指してはないけど、どんなジョブなのか聞かせてほしい」

「片手用の武器と察知、解除、サバイバルのツールを育てると、トレジャーハンターにジョブ化する。トレジャーハンターは戦闘ジョブではなく、探索に適したジョブだ。専用スキルとして宝箱の出現率上昇、材料アイテム出現率上昇、擬似鑑定がある」


 サバイバルにできることは、動植物知識の取得、足跡鑑定、野外での絶対方向感覚だ。野外活動で生き残るためのツールなのだ。

 ついでに擬似鑑定はメダルからアイテムへと変化させることはできないが、どういったアイテムなのかわかるといったスキルだ。


「次は盾か治癒魔法買おうって思ってんだけど、サバイバル買うことにする」


 トレジャーハンターを便利そうだと思い、目指すことにしたのだ。今は文字のツールが邪魔だが、後十日もせずに共通語読み書きを習得できるのだ。それで文字が外せるようになり、サバイバルを育てることができる。

 これはオルトマンたちにも嬉しいことだった。トレジャーハンターがいるいないとでは、ダンジョン内での安全度が違い、収入にも差が出てくる。


「ツールに関してはこれでいいな。じゃあ次はパーティー行動をすることの注意点というか、取り決めだ」


 これはお金の共同管理といったことや、隊列といったことだ。

 お金については次のダンジョン探索からパーティー共同で扱うようにして、これまでセルシオが稼いだ分はセルシオのもののままだ。一人で探索するよりも収入はがくっと減るが、アズの治癒魔法のおかげで薬代はかからないし、行きの札なども自腹で出す必要がない。収入は階層を下がるほどに増えていくので、すぐに余裕が出てくるだろう。

 隊列は察知持ちが前後ということになり、先頭にセルシオとミドル、中にアズ、最後尾にオルトマンだ。一番強いオルトマンが前衛としていた方が安全ではあるのだが、階層が浅く敵がまた大して強くないことから甘やかすことになると考え下がることになった。


「あとは……そうだな、セルシオの部屋をここに移す。ベッドが一つ余っているし、宿泊費用も安くなる。一緒に生活した方が馴染みも早いだろうしな」


 それでいいのかとセルシオはミドルとアズを見るが、特に文句はないようで反対しない。

 

「真面目な話はこれで終わりだ。自由にするといいさって、あと一つ聞きたいことがあったか。セルシオは何階まで探索しているんだ?」


 階層が離れているなら、探索する時に注意が必要だと思い聞く。


「十一階に行ったばかり」

「十一階……それなら俺たちとそれほど離れて、ん? アラートアイってたしか十六階から出てくる魔物じゃなかったか?」


 セルシオが死にかけた原因がアラートアイにあると思いだし、疑問を抱く。

 オルトマンはアズに視線を向ける。


「たしかそうだったと思う。でもかなり低い確率でそれより前の階にも出てくることもあるって」

「それを引き当てたのか、ある意味すごいな」


 話が終わり部屋に戻ろうとしたセルシオをミドルが呼び止め、いろいろと話しかけだす。それにセルシオは言葉少なくだが、答えていく。

 セルシオにはまだ硬さがある。それをミドルとアズは気にしない。自分たちも似たような時期があったのだ。

 二人の出自は特別なものではない。セルシオと同じように小さな村に生まれて、平和に暮らしていた。その平和が崩れたのは二人が七歳の頃だ。金品目当てに盗賊団が襲ってきて、村の半分以上は殺された。若い女は犯され、子供は労働力としてさらわれた。

 二人もさらわれたのだ。盗賊団が子供をさらったのは、力で従属させ考え方を自分たち寄りに染めやすいからだ。そして使い捨てできる部下として育て上げる。

 扱いの悪い奴隷として二人は五年を過ごしていった。特にアズは、盗賊の中に小さな女の子を傷つけて喜ぶ者がいて一生消えない傷を体中に負っている。

 二人が解放されたのは、オルトマンが所属する騎士団が盗賊団を潰しに来た時だ。

 その試みは成功し、二人はオルトマンに発見され、そのまま引き取られた。

 二人を助けたその年にオルトマンは騎士を引退し、傭兵をしながら二人を育て、挑戦者になると決めた二人についてきたのだ。


 翌日、ダンジョンに行く前にサバイバルツールを買い、四人はダンジョンに潜る。三人側に探索進行を合わせたので、四階飛ばして十五からのスタートとなった。

 ずっと一人でいたセルシオがいきなり連携できるわけもなく、オルトマンが指示を出しつつ、ぎこちなく進むことになる。それでも一人勝手に動こうとはせず、合わせようと動いているので致命的なミスはでなかった。

 ここで一人で勝手に動くようならばパーティーを組もうと考えた意味がない。それくらいはセルシオもわかっている。

 一日の探索を終えてセルシオは、一人ではないことのありがたさを感じ取っていた。魔物との戦闘が楽で、常に気を張る必要がなく、ミスもフォローしてもらえる。暗い中に一人ではない心強さもあった。一人でダンジョンに挑む者が少ないことをすごく実感できた。

 

「セルシオ、庭に出るぞ。武器を持ってこい」


 探索が終わり、食事も終わってあとは寝るまでなにをしていようかと考えていたセルシオにオルトマンが声をかける。

 声をかけられたのはセルシオだが、ミドルもアズも立ち上がり、それぞれの武器を持って外に出て行く。

 

「言われたとおり持ってきたけど、なにを?」

「医務室で言ったろ、力をくれてやると。戦い方を教えるんだ。ミドルとアズは素振りだ」


 それに頷いた二人は、それぞれの武器剣と杖を使って、素振りを始める。アズは杖を主力武器にするつもりはないが、護身程度にはなるだろうと、オルトマンが仕込んだのだ。

 二人とも慣れているのだろう、ぱっと見ではおかしなところはない。武器を扱い始めて二年以上経っている、初心者という域は超えている。スキルも発現させている。もう一年もせずにツール二段階目のスキルも会得するだろう。


「戦い方って言ってもツール買ってるから大丈夫なんじゃ?」

「まあ、そんな風に勘違いしている奴もいるな。そんな奴らと比べてもお前さんはまだまだなんだが」


 剣を扱い始めて一ヶ月と少しだ。未熟なのは当然だろう。


「勘違いってなにをわかってないのさ」

「いくつかあるんだが、まずはそうだな……出身が農夫だったか」


 オルトマンの問いに頷きを返す。内心戦い方には関係ないだろうと思っているが。


「農作業をするのに、知識だけあっても意味はないだろう? いろいろと経験して初めてできるようになることがあるはずだ」

「……それはそうだね。剣も同じってこと?」


 種まき、水のやり方、剪定、収獲時期などなど気温や雨の降り具合で手間が変わってくる。それは知識で知っていても、細やかな作業まではできない。実際に農作物を何度も育てて会得していく技術だ。


「ああ、ツールでは知識を得られても経験は得られない。その知識を生かすには実際に体を動かし知識を実感していく必要がある。戦って実感するもの一つの手だが、戦いのない時に素振りや模擬戦をして努力を重ねていくことは無駄にはならない。実際、俺とミドルの斬撃スキルには差がある。それはレベル差だけじゃなく、長年に渡って訓練してきた差もあるんだ」


 強くなりたいなら努力を怠るなということだ。


「次にツールは便利だから世界中の戦う者が使っている。剣もそうだな。それは世界の主流剣技はツールを元にしているということでもある。そして一番有名ということは、対策もきちんと考えられているということだ。剣ツールだけを元に戦っているといずれ足下を掬われるんだ。だから死にたくないのならば、剣ツールに頼らない我流を生み出すか、ツール剣術を取り込み発展させる必要がある。人と戦う場合と前提がつくが」


 我流の利点は不意をつけるということと、対策を取られにくいことだ。欠点としては並大抵の努力で我流を生み出せはしないことだ。

 発展の利点は我流よりも容易ということだ。欠点は元がツール剣術なので戦い方を読まれやすい。

 オルトマンの言うように魔物のみと戦うならば関係はない話ではある。もちろん例外はある。魔物の中にもツール剣術を使うものはいるし、魔王級と呼ばれる魔物にはツール剣術を発展させて使うものもいる。

 ほかの手としては我流剣術の道場に通うということだが、ツール剣術の勢いに押されて中々見つからない。見つけても一族のみに継承させている場合もある。


「とそんなことを言ったが、まずは基礎固めからだな。今日の戦い方を見てわかったが、基礎すらできていなかった。地盤を固めていないと発展などできはしない。あの二人と同じように素振りから始める」


 セルシオが上段からの振り下ろしをしようとして、オルトマンが止めた。


「そういや今後もナイフとかダガーとかの短剣系統でやっていくのか?」

「剣のツール買ったし、槍とかは使う気はないけど」

「そうじゃなくて、ブロードソードやロングソードといったサイズを使わないのかってことだ」

「始めは硬石剣使ってたけど、こっちのダガーの方が斬れ味上だったからこっちを使ってる」

「なるほどな。だったら今後ダガーよりましな剣が手に入れば、そっちを使うこともありと」

「うん」

「だったら剣を使って練習した方がいいな。短剣よりも剣の方がいいものは手に入りやすい。以前使っていた硬石剣はまだ持っているのか?」

「あるよ」

「それを使って練習するぞ」


 取ってくると部屋に戻り、リュックから使っていなかった硬石剣を取り出す。手入れなどされておらず刃こぼれがひどい。

 庭に戻り、剣を振り始める。


「少しぼろいが練習にはなんの問題もないな。剣の握りに力を入れすぎだ、そんなんじゃすぐばてるぞ」


 オルトマン自身も素振りを始め、セルシオたちに指導しながら一時間で訓練を終える。幸い上がったレベルのおかげで、ダンジョンに行ったあとでも体力には余裕がある。


「これから毎日一時間は訓練だ。続けることが重要だからな。あとは今後の練習は真上からの振り下ろしに重点を置く」

「どうして?」

「素振り見て思ったが、その振り方が一番筋が良かった。おそらく田畑を耕していたことがプラスになっているんじゃないかと思う」


 鍬を使う場合も真上から地面に叩きつける。それを何年もやっていたのだから、多少は得るものがあったのだろう。

 訓練を終えた四人は風呂に入るため準備を整える。宿を出たのは男三人だけだが。


「アズは?」


 一緒についてこなかったことに後で一人で行くのかと思う。


「ちょっと事情があってな、宿の風呂に入っているんだ」

「そう」


 銭湯に行けば多数に傷を見られることになる。それを嫌がったアズのため、オルトマンがセオドリアに交渉して宿の風呂を使えるようにしてもらったのだ。

 そんな事情を聞かないセルシオに、オルトマンは溜息を一つ吐く。


「あれこれ無遠慮に詮索しないのはいいことだと思うが、淡白すぎるのもな」


 今後の生活で、もっと地を出せるようになるかと期待することにした。

感想、誤字指摘ありがとうございます

書き溜めはこれにておしまい、また書き溜めてきます

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