5 ツールゲットだぜ!
幸いにして道に迷うことなく、ダンジョン管理所まで帰ってくることができ、いまだ騒いでいる出発の間を横目にそのまま売店へと向かう。騒ぎが収まっても、出発の岩の点検のためその日は結局誰もダンジョンへは行けなかった。
「いらっしゃいませ」
「文字のツールが欲しいんだけど」
「文字のツールだね? まずはお金を払ってください」
指示通り、支払いをすませる。
「腕輪をこちらに出してもらえますか?」
出された腕輪に職員は、足元から取り出したコード付きのタクトの先を当てる。なにかを小声で呟くとタクトの先がほのかに光る。
「これで終わりました。ご確認ください」
所持ツールに文字と一つだけある。
「ありました」
「ツール枠に移るように念じれば、セットできます。お買い上げありがとうございました」
職員の礼を聞きつつ売店から離れて、さっそく文字ツールをセットする。
その瞬間頭の熱が一瞬上がり、なにかが広がる感覚がした。目を開くと先ほどまで意味不明だった文字が理解できるようになっていた。
「読める。あれはカウンター、あれは休憩所。読めるし理解できる」
すごいと感動をもって周囲を見渡す。まるで世界が広がったようだと数秒前とはまるで違う新鮮さを感じる。
初めて文字ツールや数字ツールなどを得た時、誰もが感じることをセルシオもまた感じていた。
「資料庫ってところにいけば、色々なこと知れるんだっけ。行ってみよう」
いまだドキドキと弾む胸を心地よく思いながら、地下への階段に進む。
太陽の明かりの代わりに、明かり粉と同系統の道具で照らされた地下についてすぐの真正面に、道案内の看板が壁にかかっていた。
「右、倉庫。立ち入り禁止。左、資料庫。左だね」
一度右の通路を見てから、左へ進む。
十数歩進むと、窓口がありそこにいた職員に声をかけられる。
「資料庫の利用者ですか?」
「はい」
「利用説明は聞かれます?」
セルシオが頷くと説明を始める。
一回の利用料は百コルジ。資料庫は三つの部屋にわけられていて、第一室は誰でも利用可能。第二室は管理所から許可を得た挑戦者のみ利用可能。第三室は挑戦者は利用不可。利用時間は午前八時半から午後六時まで。本の持ち出しは利用禁止で、本を丁寧に扱うこと。室内での飲み食いは禁止。資料の書き写しは可能で、ペンと紙は利用者が自力調達。
「こんなところです。では利用料を出してください」
腕輪で料金を支払い、入る前に資料庫の前にあった長椅子で昼食を食べる。
若干緊張しつつ扉を開ける。中にはまばらに人がいて、皆静かに本を読んでいる。右奥に第二室と書かれた扉があり、あそこから第二室へと行けるようだ。
部屋の広さは縦横十メートル高さ二メートル強といったところで、部屋半分を本棚が占め、残り半分に長テーブルと椅子が並ぶ。
本棚に近づいたセルシオは、一冊一冊本を手にとっていき、表紙に書かれたタイトルを読んでいく。背表紙にタイトルは書かれていないので、表紙を見る必要があるのだ。
(勇者と魔王、これじゃない。世界名産品、これでもない。神代の生活、これでもない)
中々これといったものが見つからず、横へ横へとずれていく。
本の並びはある程度整理されているとはいえ、初めて利用するセルシオが並び順に気づくことはなく、効率悪く探すことになる。
三十分かけて、五十階までの魔物についての本とツールに関しての本を見つけることができた。
(絵がついてる、助かる)
最初のページにあったジェリーイエローを見て、小さく感嘆の声を漏らす。既に倒して知る必要はないが、読むのが楽しく、夢中で読んでいく。
本には職員から得た情報以上のものが書かれていた。二十階までの魔物を見たところで集中力がつき、一度本から目を離す。
(特徴とか落す材料アイテムとかわかったし、これで当分魔物に関しては困らないな)
五分ほどのんびり周囲を見たりパラパラと魔物の姿だけを見て休憩し、次はツールについての本を開く。
この本はツールの種類について書かれたものではなく、初級と銘打ち初心者のために書かれた本だ。職員の語ったことに重なる部分があるだろうが、それ以上のことも書かれているのではと手に取ったのだった。
内容は予想通りで、ほかにはお勧めツールの紹介が載っていた。そして四つ、職員が語らなかったことがあった。
それはエクストラツールとオリジナルスキルと派生スキルとスキル発現だ。
(エクストラツールとは生まれながらに持つツールのこと、か)
ツール用ページを開くとわかることだが、通常のツール枠は四つ。しかし稀に四つ目の枠下に五つ目のツール枠がある者がいる。そこにはツールを買う前からツールがセットされており、外すことは不可能だ。
エクストラツールは、所有者がその枠に書かれているツールに高い才を持つことを示している。
生まれつきのもので、後々追加されることはない。だいたい一万人に一人といった確率だ。セルシオの知り合いだと、レオンが両手剣のエクストラツールを持っている。
エクストラツールは一つの指針に過ぎず、才はあってもそちらへ関心がなければ無駄になってしまうツールでもある。また自身が持っていると気づかず一生を終える者もいる。
セルシオは自分が特別な才を持っているとは思っていないので、なかったことに落胆を持ってはいない。
(オリジナルスキルはツールの常識に囚われず行動した時生まれいずるもの)
例として出すならば片手剣のツールを得た時、頭の中に片手剣の扱い方が浮かぶ。そして一度でも戦うとツールが一段階目に成長し、三つのスキルも浮かぶ。「斬撃」「刺突」「強撃」この三つだ。だが剣の使い方としては腹で叩くなど、ほかにもある。そういった三つのスキルに沿わない使い方をし続けていると、その行為に沿ったスキルが生まれることがある。これがオリジナルスキルだ。
腹で叩くという行為では「剣打」。投げていれば「投擲」といった具合にオリジナルスキルが確認されている。
そして既存スキルと同じようにオリジナルスキルも使い続けていれば成長する。
(オリジナルスキルはまだ関係ないかな)
関係あるとしたら派生スキルだろう。これはスキルを使って、特定行為のみ行っていると発生するスキルのことだ。
斬撃は順当に成長するとスラッシュというスキルになる。しかし斬撃を連続して使っていると、成長した時に連撃というスキルも得ることがある。
ほかには刺突で急所ばかり狙っていると、ウィークポイントという急所や脆い箇所を見破るスキルを得る。
これはその人の戦い方を端的に示すスキルだろう。
(最後はスキル発現)
スキル発現は、ツールがなくともスキルが発生する現象のことだ。
例えるならば斬撃がツール成長ですぐに得られるのに対し、スキル発現で得ようとした場合毎日素振り百回を一年続けてようやく得ることができる。
そんなふうに同じ行動を何度もとることで、十分な修練を積んだ時にスキルが発生するのだ。
ただしちょっとした注意点があり、修練する場合は修練しているのだという意識と剣の形をしているものでの素振りが必要となる。ただ剣を振っているだけではスキルは発生しない。棒切れでの素振りを続けた場合は棒術ツールのスキルが発生する。
(農業ツールってのがあったら、スキル発現してもおかしくなかったんだ)
十になる前から農作業を手伝っていたので、確かにスキル発現してもおかしくはない。まあ農業ツールはないが。
本を閉じて、持ち出していた本二冊を元の位置に戻す。再び本を探し始め、ダンジョンについての本を見つけることができた。
それには三十階までの地図が描かれており、大いに助かるものだった。職員の言っていたことが正しかったと認識しつつ四階まで出発の岩の位置を覚えた時、部屋に澄んだ鐘の音が響く。
本を読んでいた者たちは立ち上がって、本を戸棚に返していく。
(もう時間なのかな?)
読むことに集中していて時間が過ぎることを忘れていたが、もう午後六時前だ。壁にかけられた時計はあと十分で六時になると示している。
本を返して部屋の外に出る。一階に上がるとバデリア親衛隊や挑戦者たちはいなくっていた。
食堂でいつもと同じ安い料理を食べて、部屋に戻る。レオンはいまだ戻ってきておらず隣のベッドは空だった。
レオンもセルシオと同じくトラブルに巻き込まれていたのだ。現在は挑戦者の少女二人と解決に尽力している。帰ってきたのは午後十一時を少し過ぎた頃だ。その二人が今後の仲間となる。レオンが勇者と呼ばれるようになっても共にいて、長い付き合いとなる二人だ。
翌日にはダンジョンに入ることができるようになっており、セルシオは昨日得た情報を元に進んでいく。
出発の岩のある場所さえわかっていれば一時間で次の階に行くことが可能で、セルシオは午前中に四階まで来ていた。
そこで明かり粉の効果が切れるまで、大ネズミやビッグホップと戦い続けた。
大ネズミは素早い動きで、攻撃が当てづらかった。大ネズミからの攻撃は何度も当たり、足や腕に噛み跡がいくつもついていた。管理所に戻ってきてステータスを確認すると体力が半分近くにまで減っていて、数日前に買った治癒薬を飲んで回復する。
その日の稼ぎは六百五十コルジとこれまでで最大だった。レベルも1上がって、38となっていた。
ようやく収入に余裕ができ始め、気持ちにも余裕ができる。ここで大ネズミに慣れながらお金をある程度貯めようと、十日ほどダンジョンに挑戦し続けた。
「今日も頑張るかぁ」
十一日目に突入し、のそりとベッドから起き上がる。隣にはレオンはいない。既にここを出たのだ。仲間と一緒の宿をとるのだと別れ際に話していた。その時、最後の誘いがあったがそれもセルシオは断っていた。残念そうにしていたが、すっぱりと諦めたようでもあった。これほど誘っても頷いてもらえなかったのだから、縁がなかったのだろうと考えたのだ。
のろのろと歩いて食堂に向かい、顔なじみになってきた食堂のコックに顔色の悪さを心配され、それに大丈夫だと答えて食事を始める。しかしどうにも食欲がわかず、半分残してダンジョンに向かう。
「あれ?」
いつもの倍以上の時間をかけて階段を下りたところで視界が歪み出し、床に座り込むように倒れ意識を失った。
「大丈夫ですか?」
すぐに倒れていることに職員が気づき話しかけるも返事はなく、挑戦者たちに手伝ってもらい医務室へと運ぶ。
あとのことは医者に任せて皆医務室を出て行く。
セルシオが意識を取り戻したのは、二時間後のことだ。
だいぶ楽になった体を起こして、ここはどこだろうと首を傾げる。つんと嗅ぎなれない匂い、薬の匂いが鼻に感じられた。
「起きたのか」
話しかけるのはセルシオを診断した医者だ。二十後半で赤茶の短髪に緑の目を持ち、穏やかな視線をセルシオに向けている。雰囲気的に一般人とは少し違うものを漂わせている。
「……ここは?」
「医務室だ。階段で倒れていたお前さんを職員と挑戦者たちが運んできたんだ。感謝しておけよ」
「そう、だったんですか」
「お前さんが倒れた原因だが、病気とかじゃない。疲労だ」
「疲労? ちゃんと毎日寝てたけど」
「寝ていても発散されない疲れはあるもんだ。だからダンジョンに行かずにゆったりと過ごす日を作る必要がある。お前さんそんな日を作っていなかったろう?」
時々いるのだ。休み時を上手く取れずに倒れる者は。運が悪いとダンジョン内で倒れ、そのまま死ぬことがある。管理所で倒れたことは運が良かったのだ。
「体調管理は大事なことだぞ。これからも何事もなくダンジョン探索を続けたいならよく覚えておくことだ」
「はい」
「もう少し休んでいくといい。もう二、三時間寝ていけばふらつくこともないだろ」
医者の言葉に素直に従い、セルシオはもう一度横になり目を閉じる。五分と経たずに寝息を立て始めた。
二時間を少し過ぎた頃に起きたセルシオは、医者に礼を言って医務室を出る。今日はダンジョンには行かないことにして買い物と手に入れたメダルの鑑定に行くことにした。
お金は二千三百コルジあり、メダルは三つある。
「まずは剣のツールだな」
売店で以前と同じように購入し、再び頭の熱が一瞬のみ上がる。
セットすると剣の振り方、適した体の動かし方が思い浮かぶ。確かめるのは明日と考えて、管理所を出た。
鑑定のための場所は管理所にはない。けれど管理所に街の地図があり、それで鑑定のできる店のある場所がわかった。
いくつかある店からセルシオが選んだのは、管理所から徒歩十五分の「駆け出した黒馬」という名の店だ。武具店も兼ねている。というより鑑定のみの店はない。なにかしら別の店を兼ねている。
店に到着すると休日ということはなく、今も挑戦者たちが出入りをしている。
初めて見る様々な武具に目移りしつつ、メダル鑑定用カウンターと書かれた場所に歩いていく。
「鑑定をお願いします」
言いながら椅子に座った白髪の男にメダルを差し出す。
「見たところ駆け出しだが説明はいるか?」
頷くと説明を始める。
「鑑定には金がかかる。まあ当たり前だ。ボランティアじゃないしな。料金は鑑定した物の価値の五%だ。高すぎるものを鑑定してメダルからアイテムへと変化させると払えない場合がある。そうならないため、価格判断というものがある。俺たち鑑定師は一目見れば価値がわかる。だからアイテム化する前に値段を言うんだ。説明はこれくらいだ。そこでだ、この三枚のメダルの価格判断するか?」
セルシオが頷くと再び口を開く。
「これが四十コルジ、これが百五十コルジ、これが十五コルジだ。アイテム化するかね?」
手が出せないほどの物はなく、セルシオは悩むことなく頷いた。
お金を払うと、カウンターに三つのアイテムが実体化する。靴と刃渡り三十センチのダガーと小さな金属板だ。
「これは丈夫な靴だ。丈夫とついているから少し価値が高くなった。これは青銅製のダガー。これは点火板だ」
「点火板?」
「知らないのか? ちょっとした魔法の道具だ。板の先を指で弾くと炎が十秒間灯る。だいたい一年くらいもつか」
「そんなものがあったんだ」
「まあ便利っていえば便利だな。ちなみに靴はお前さんのサイズにあったものが出てきているぞ。どれか売るか? それとも全部引き取るか?」
「引き取ります」
どれもあると助かるものばかりで売るという選択肢はなかった。点火板は今は必要ないが、いずれ必要かもしれないと売ることはなかった。
受け取った三つをリュックに入れて、セルシオはレザーコートを探すついでに、色々と見ていく。
この店は駆け出しや中級者相手のようで、少し高価品が見える程度で標準品が主な商品だ。
武具は大きく三つの段階に分けられる。標準品と高価品と希少品だ。標準品には獣皮や硬石や鋼といった素材の武具があり、高価品はダマスカスやジュエル合金や魔布といった素材の武具で、希少品はミスリルやオリハルコンやユグドラ布を使った武具がある。
希少品クラスの武具になると最低で百万コルジを超え、そこに特殊効果がつくと千万コルジを超える。
この店で一番価値があるものは壁に飾られているルビーメタルのブロードソードだろう。値段は二十五万コルジ。目を奪われる鮮やかな真紅の刃が、光を受けて輝いている。
あのような武器を手にすることは一生ないだろう、と思いながらセルシオは視線を外した。
武具にはもう一種類タイプわけできるものがある。それは勇者が使っていた伝承武具だ。それは売りに出されることなく、子孫が保管していたり、王家が保管していたりする。
この街にいる勇者の子孫の剣も伝承武具ではないかと噂されているが、その真偽はわからない。
「これは」
とある鎧の前で足を止める。探していたレザーコートではなく。レザーアーマーだ。肩当のないかわりに腰周りをミニスカートのように覆っている。レザーコートよりも少しだけ丈夫で、値段は千コルジ。
「これでもいいかな。でもお金が」
ここでこれを買ってしまうと、残金百コルジだ。宿賃は明日の夜まで大丈夫で、今日明日のご飯を食べると残金ゼロとなる。
「明かり粉を買うお金がなくなる……点火板を売る?」
靴とダガーを売るという選択肢はない。だが点火板は売ってしまっても問題はない。
点火板を惜しむか、鎧を惜しむかの二択を十分ほど真剣に悩み、鎧を選ぶ。これから先確実に防御力は必要になるのだ。
先ほどの鑑定カウンターに行って、点火板を売り百五十コルジを得て、別のカウンターでレザーアーマーの購入を告げる。サイズのあったものを出してもらい、お金を払ってレザーアーマーを身につけたまま店を出た。鎧を身につけるついでに、靴も履き替えている。鑑定師の言ったとおりサイズはピッタリで、履き心地もよくこれまで履いていた靴よりも歩きやすかった。
鎧を着て、剣を腰に下げ、ようやくセルシオはまともな挑戦者に見えるようになった。
宿に戻ったセルシオは鎧を脱いで、ベッドに寝転がり、ツールから得た剣の知識を確認していく。
翌日、十分に休んだセルシオはダンジョンに潜る。利き手には以前から持っていた硬石剣ではなく、使い心地確認のため青銅ダガーをもっている。
一階にいたジェリーイエローで使い勝手を試してわかったことは、切れ味はこちらの方が上だということ。そしてリーチがこれまでと違うことで動作に違和感が感じられたこと。
「こっちを使い続けてたら慣れるかな?」
とりあえず使い続けることにして、次はツールが成長したことで得たスキルの確認をする。
「斬撃」
ダガーを上段に持って行き、スキル名を呟くと足や腰が勝手に動き、正式な剣術の型でダガーを袈裟斬りに振り下ろす。
勝手に動いたといっても強制力はそれほどでもなく、止めようと思えば止めることができた。
振り方がただ正統なものになるだけではなく、与えるダメージ量が五%増になるのだ。
「こんな感じなのか」
なるほどと頷いて、刺突や強撃も試していった。刺突は斬撃と同じくダメージ量は五%増で、急所を突くとたまに一撃死させる効果がある。強撃はダメージ量十五%増だが、隙ができてしまう。なので使い時を考える必要がある。
この三回のスキル使用で気力を三十消費している。残りの気力は百六十と少しだ。
確認を終えて、四階まで降りる。鎧を買ったかいはあり、初めて四階に降りた時よりも受けたダメージは減っていた。
「これなら明日は五階に行ってもよさげだな」
大ネズミに与えるダメージ量も増えていて、満足できる探索だった。
上向いた気分だったおかげなのか、幸運も招きよせたようで、宝箱を発見した。相変わらず罠に引っかかり開いてメダルを手に入れる。次に買うツールは探知か解除がいいかもしれないと考える。
次の日予定通り、五階にくだり余裕があったので、さらに六階まで下る。そこには職員から注意するように教えてもらった爪モグラがいた。
本からも情報を得ていたセルシオは、爪モグラの最大の武器である爪に注意を払い、戦っていく。四十分ほど六階で戦うと明かりが消えたので、今日はこれまでと引き返す。
この日からセルシオはダンジョンに五日潜っては一日休みと繰り返していく。休みの日は資料庫で本を読み、たまに鑑定師の元へ向かいとそれなりの用事をこなしているが、休憩無しで突き進むよりもましで倒れるようなことにはなっていない。
ダンジョン都市での生活は順調にいっている。ダンジョン探索もそうかというと、そうではなかった。魔物が強くなったわけではなく、罠に苦戦しているわけでもない。探索を進めるのに時間が足りなくなっているのだ。一階から六階まで行くのに時間の大部分をとられてしまい、探索に避ける時間が少ないのだ。なんとか七階までは到達したが、それ以上の探索は無理だった。
これをどうにかできないかと、資料庫で調べる。ほかの挑戦者が困っている様子を見せていないのだから、自分が知らない何かがあるのだと確信を持っていた。そして見つけるのは難しくなかった。
どうにかできる方法はアイテム事典に載っていた。それは「行きの札」というものだ。
行きの札とは、出発の岩の近くで使うと使用者が今までに行った最深階に行けるというものだ。帰りの札というものもあり、これはそのままダンジョンから管理所へと帰ることのできるアイテムだ。
これを買えば悩みが解決するかというとそうでもない。値段が一枚五百コルジと、セルシオにとっては高いのだ。毎日使っていれば確実に赤字となる。
そこで普段は六階で戦い、お金がある程度貯まると、行きの札を買って探索を続けるという具合に進めていく。
》誰も知らない伝説となる
間違いというわけではないです
意味がわかるのはこの話が終わる頃なんでいつになるかさっぱりです