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終 その手に掴むは、 5

 傭兵たちを欲にからせることなく、思った以上の恐怖を与えることになるとは思っていないセルシオは、虎たちが二度目の外壁破壊を起こした時にようやく四人の所に戻る。


「動かしてきた」

「振動がここまできてるからな、すぐに気づけた。次は落とし穴だな」

「うん。すぐに落とすよ」


 殺さないけれど、しばらく動けなくなる怪我をする深さの穴と思いつつ、法術師たちのいる場所に穴を開ける。


「最後に地上への階段を」


 壁に手を当てて地上への螺旋階段を開ける。繋いだのはリジィたちが使っていた家の地下倉庫だ。

 一緒に家まで上がり、そこでそれぞれと一時お別れだ。


「皆、無理しないでよ?」

「頑張ってくるよ、兄ちゃん!」

「私にもできる精一杯をしてきます」

「必ず法術師を倒しますから待っててくださいな」

「俺たちを信じてろ、その期待に応えるから」


 リジィとアズを抱きしめ、イオネと拳をぶつけ合い、シデルから頭を撫でられる。

 四人は人変わりの仮面をつけて、騒いでいる人々に紛れるように、法術師たちのところへ駆けていく。シデルはオータンへ騒動の原因が自分たちにあり、虎が街中へ入ってくることはないと伝書造鳥で伝えた。

 五分してセルシオも家を出て、屋根伝いにダンジョン管理所へ向かう。

 そのまま屋根から管理所の様子を窺う。人の出入りが激しく、なにか背負子を大事そうに運ぶ者たちもいた。あれの中にイースミクの怒りが入っていたのだ。

 

「騒がしい以外に異変はないし、まだ結界ははられてるかな」


 もっと見やすい位置で様子を見ようと、上がっている建物の影に下り、そこからそっと管理所の中を窺う。出発の間は見えないが、そこを覆う結界の一部は見え、まだ法術師が健在だとわかる。

 様子を見始めて三十分近く経ち、南の建物崩壊音と共に結界が消える。リジィたちが法術師を排除したのだ。

 シデル、イオネ、アズは気絶させるだけですませたのだが、ただ一人リジィだけはセルシオの邪魔をするなと手加減なしで蹂躙したため、法術師や傭兵に死人が出ていた。


「よしっ後は俺が岩に触れば終わりだ!」


 建物の影から出て、管理所に走って入る。

 久々の管理所内を懐かしむ暇はなく、出発の間へそのまま走る。


「あいつはっ」

「セルシオだ! セルシオ・カレンダが来たぞ!」

「通らせてもらうっ」


 行く手を阻む挑戦者たちをセルシオは歯牙にもかけず、次々と気絶させていく。

 十人はいたレベル400近い挑戦者たちを圧倒するセルシオに、残っていた幹部や職員は言葉もない。

 記録ではセルシオのレベルは200ほどで、占いで以前を上回るという結果が出ていた。しかし鍛錬し強くなったとしてもこれだけ戦力を置いておけば大丈夫だろうと考えていたのだ。レベルや能力を自在に上げれるとは知らず、甘く見た結果が床に倒れた挑戦者たちだ。

 

「普通の挑戦者では駄目かっ。ならば勇者よっ頼む!」

「勇者?」


 呼びかけに応じ、柱の影からレオンが出てくる。

 そこに誰かいるのは気づいていたが、レオンとは思っていなかったセルシオは少し驚くが、すぐに表情を真剣なものに戻した。対してレオンの表情は平坦なものだった。


「久しぶり」

「久しぶり、こんな形で再会するとは思ってなかった」


 セルシオの言葉に、レオンはほんの少しだけ笑みを浮かべて応じる。


「顔色悪いね?」

「ん、色々と厄介な事情があってね。恨みはない、すまなくも思ってる、状況に同情もしている、けれどここで止めさせてもらう」

「それに従うわけにはいかない。俺も平穏のためにそこを通りたいからね」

「セルシオには拒否されてばっかりだな」

「そういやそうだね」


 互いに苦笑を浮かべて剣を構える。


「今回は受け入れてもらう」

「今回も拒否させてもらう」


 レオンの言葉に、セルシオはそう答え、同時に動く。

 剣と剣がぶつかり合い、拮抗する。そのぶつかった時の衝撃が管理所内を小さく揺らす。

 全力だと岩に被害がいきそうだと、セルシオは顔を顰めた。

 セルシオの表情に浮かんでいるのは岩を心配するものだけではない、驚きもある。


「驚いた。今の俺と同じ筋力? どれだけ鍛錬したんだ?」

「俺も驚いているよ。ここ数日急に力量が上がったんだ。これもレジェンド武具の効果なのかな」


 今のレオンはセルシオと同程度の能力を保有している。剣に能力上昇の効果が現れたのだ。


「レジェンド武具ってのは厄介だねっ」

「もっと早くにこの効果が出ていればと思っているよ、俺は」


 話しながらも二人は剣をぶつけあっていく。

 互いに全力というわけではないが、参戦できず観客となるしかない人々は巻き込まれないように下がっていく。

 セルシオが全力を出せないのは、岩を壊さないように思ってだ。レオンが全力ではないのは、精神的に不安定だからだ。

 仲間二人を助けたいという思いはあるが、もう死んでいるかもしれないと心のどこかで考えて、生きていても返すという約束を破られるのではないかと思ってしまう。言いなりになることがこれからも繰り返されるのなら、いっそのこと果ててしまいたいという思いもある。

 こんな精神状態では全力は出せないだろう。

 

「とった!」


 セルシオの剣がレオンの腕を浅く斬る。

 これでレオンは気絶して先に進めると気が弛む、生まれた隙をレオンは見逃さずお返しだと深くセルシオの左腕を斬る。

 痛みに顔を顰めて、大きく退く。


「気絶しない?」

「先に戦った人たちが一撃でやられてたのは剣に気絶させる効果があったから?」

「そのはずなんだけどね」


 なんで効いていないんだろうと、治癒魔法を使いながら聞く。答えは返ってこずとも回復のための時間稼ぎになればと。


「この鎧には毒とか無効化する効果があるからね」

「それも最近出た?」

「いやこれはレジェンド化した時からあったね。おかげで俺一人だけ無事でいられたんだけど」


 後半は誰に言うでもなく呟いたため、セルシオには聞き取れなかった。

 仲間を人質に取られた時、食事に毒を盛られたのだ。その時はサーコートを作るため鎧を着ていて、レオンのみ助かった。部屋に押し入られて、あっという間に仲間の首に剣を添えられたため意味はなかったが。


「腕は治った?」

「待ってくれたのか。攻めるチャンスだったろうに」

「ただの気まぐれだよ。さあ、二回戦だ。ここを通りたいなら、俺を殺すしかないよ」


 どこか自棄になっているものを感じながらもセルシオはそれを追求せずに、剣を振るう。今もリジィたちが兵に追われているかもしれないのだ。早く岩に着かなければならないという思いがある。

 剣のぶつかる金属音に混ざって、二人の会話は続く。


「セルシオはさ」

「なに?」

「必死だよね? 今自分を取り巻く状況わかってる?」

「世界中に手配書が出回って、素顔だとどこに行っても兵や傭兵に追いかけられる」

「わかってるんだ……なのになんで諦めないでいられる?」

「一発逆転の手があるから。追われても逃げられる力があるから。平穏な時を大事な人たちと過ごしたいから」


 最後は照れくさそうになる。


「俺も力は手に入れたけど、それ以上の力には抵抗できなかった。その力も同じことかもしれないよ?」

「俺以上の力があっても諦める理由にはならないよ。今まで諦めなかったから今俺はここにいて、家族も仲間も取り戻せた。諦めずにいればなんとかなってきた、それが俺が諦めない理由だっ」


 両手持ち上段からの斬り下ろしを、セルシオは右手で持った剣で受ける。力負けし止めきれず、右肩をレオンの剣が斬る。肩を犠牲に、セルシオは一歩前に出て、左手でレオンの鎧に触れる。

 途端にレオンの鎧のレジェンド化が解ける。最後の力でレジェンド化を解いたのだ。


「あ?」


 予想していなかった現象にレオンは呆けて、その隙にセルシオは痛む肩を無理矢理動かして右手の剣をレオンの首筋にそっと当てる。

 レオンの全身を衝撃が駆け抜ける。


「俺の勝ち」

「結局また、拒否か。いつかは、頷いてもらい、たいよ、まった、く」


 レオンは耐え切れず崩れ落ちた。


「ま、待てっ」


 出発の間に向かおうとするセルシオを幹部が止める。

 手配書を撤回しよう、金をやろう、どこぞの王にかけあって貴族の地位をやろうと、声をかけてくるがセルシオはそれを無視して、肩の傷を治療しつつ出発の間に進む。

 レオンと戦っているうちに起きた傭兵もいるが、実力差から追う気は湧かなかった。気絶させられたタネはわかったが、能力差で避けきれないからまた気絶させられるだけとわかっていた。

 そして出発の岩に触れたセルシオの姿が消える。


 消えたセルシオは小さな部屋に移動する。

 八畳ほどの部屋で、真ん中に白い石製の椅子がある。椅子は肘掛つきで、床に固定されている。壁はクリーム色、床は木の床と同じ色。


「ようこそ、初めての適格者。その椅子に座ってください」

「頭の中に響いていた声?」


 そんなことを言いつつ、椅子に座る。椅子から熱いものが流れ込み、全身を駆け巡る。

 熱さが引くと目の前に人が現れる。腰までの軽くウェーブのかかった黒髪に、黒曜石のような黒の目を持つ無表情な女で、神官たちが着ているものと似たような服を着ている。


「これから適格者改め、神の後継としての説明をさせていただきます」

「その前に仲間たちの無事を確かめたい」

「わかりました」


 嫌な顔もせず頷き、壁をと女が言うと同時に、リジィたちの様子が見える四つの映像が映し出される。

 それぞれ法術師を倒した後で、隠れたり、兵に追われたりしている。

 アズと一緒にクリスティーがいて、一緒に逃げているのはどうしてだろうと思うが、疑問は後にして女に聞く。


「四人、いや五人を助けたいんだけど」

「どのように? 五人を囲むように結界をはる。五人を安全な場所へ転送する。五人以外の街にいる者たちを気絶させる。といった手段がとれますが」

「安全な場所っていうのがいいと思うけど、転送ってなに?」

「瞬間移動、転移、そういった手段で別の場所へ移動させるというものです」


 説明を受けてもまだわからないが安全な方法なのかと聞き、頷きが返ってくるとセルシオは転送を頼む。

 画面上から五人の姿が消え、画面も一度消えて、一つの画面に五人が映る。五人は浜辺にいて、突然のことに驚き戸惑っている。


「あそこってどこ?」

「以前、神と呼ばれた者たちが別荘として使っていた孤島です」

「あそこは安全だって知らせることは?」

「少々お待ちください」


 画面上では五人が周囲を見渡し、警戒している。


「お待たせしました。あの五人にはあそこがどこか、誰の命令で転送したのか説明いたしました」

「ありがとう。じゃあ、こっちの説明をしてもらおうか。といってもなにから聞けばいいのか。とりあえずあなたの名前とか何者なのかとか」

「私の名前はエクス。惑星発展シミュレーションゲームに付随するAI、ゲーム進行の説明役。それが私です」

「……名前以外は、なにを言ってるのかさっぱり」

「ある程度の知識を脳にダウンロードできますが?」


 ダウンロードという言葉の意味もわからないが、ツールのように知識を頭に詰め込むのだろうと判断し頷く。

 失礼しますとエクスは一言断りをいれ、指をセルシオの額に当てる。

 セルシオからは見えないが、ポウっと仄かな明かりが指先から放たれている。

 初めてツールを買った時と同じように脳が熱くなる感覚を感じる。熱が引くと、セルシオはエクスの言っていたことが理解できた。


「ゲーム、ゲームね」


 なにそれと手を顔にあて、背もたれに寄りかかる。

 セルシオは、神が技術を持った長生きする人間だと理解し、この世界はそんな人の暇潰しに使われたと理解し、神はゲームに飽きて既に帰っていることを理解した。

 この世界の人たちが神と呼ぶ五人は、休暇を利用して未発展の惑星で遊ぶためやってきたよその星の人間だ。

 当時彼らの間で流行っていたゲームは、未発展の惑星にナノマシン散布や遺伝子改造を施し、生物進化と文明発展をコントロールし、その様子を見たり口出しして楽しむというものだ。

 

「処分した資料ではむしろ説明不足か」


 文明発展や知識提供や能力提供はありがたく思っている。それがなければ自分たちは今のような生活をしていなかっただろうから。

 それでもセルシオからは神々に対する敬意や感謝は消えていた。

 好き勝手やって飽きて帰っていった者たちを信仰しろという方が無理だろう。

 エルメアが神を信じていなかったのも、似たような理由だ。よその星の人間だとか遊んでいただけとかは知らないが、俗物っぽい言動で色々と説明し去っていったということは知っている。同じく各本神殿の長も神を崇めてはいない。長になった時に蔵書を読み、皆信仰心を失った。

 適格者となる条件もなんだそれというものが含まれていた。恋のキューピッドが良い例だろう。まともなものは天の塔に到達しろ、レベル500になれ、魔王級を倒せといったものがある。まともでないものには裸で大通りを走り回れ、百人に告白して全員に振られろ、人を千人殺せといった神がふざけて設定した条件がある。

 資格者になった時に、真面目なものやふざけたものから三十ピックアップされ、それを五から十クリアすることで適格者となることができる。

 適格者となった時にセルシオの名前や現在の居場所が知らされたのは、その方が出発の岩にたどり着くまで波乱があり面白いだろうという神々の判断だ。

 占い師の占い精度やレオンの能力が上がったのも、波乱を求めて神々がエクスに行うよう指示を出したことだった。

 適格者誕生自体もそんな存在がいた方が面白いのではという考えなのだから、事情を知ったセルシオが神への信仰心を失ったのは仕方のない話だろう。


「後継者ってことはゲームを引き継いで遊べってこと?」

「その選択もありです。必ずしも引き継ぐ必要はありません。世界に撒かれたナノマシンや施された遺伝子改造をなかったことにもできます。世界をどうするかはあなたの自由です」

「まさに世界の命運は俺のこの手にってことか。続行だ。手を加えられたとはいえ、受け入れて発展してきたんだ。このまま変えるつもりはない」


 元に戻すこともさらなる改造も選ばす、このままで存続させることをすぐに選ぶ。


「プレイヤーとして発展を見続けるということですか?」

「いや、プレイヤーにはならない。神なんて興味ない。俺はリジィたちと一緒に過ごせればいいんだ。どうやれば誰にも追われず利用されずに暮らせると思う?」

「思考開始……回答検出。あなたに関しての記憶と記録を全て消すことをお勧めします」

「できるの?」

「可能です。すぐに始めますか?」


 頷こうとして止まる。このままだとリジィたちにも忘れられると気づいたのだ。

 危ないと冷や汗を拭い、指定した人は除外してほしいと願い、エクスはそれに頷く。


「除外する人を思い浮かべてください」


 リジィたちは基本として、ミドル、オルトマンまですぐに思い浮かべる。

 思い浮かべた者たちの画像が壁に映っていく。ロッドも映っている。記憶はなくとも消してしまうと二度と思い出せないのではと考え除外した。


「クリスティーはどうしよう? クリスティーがどうしてここにいるのか知りたいんだけど、検索って使える? 使用回数はもうないけど」

「使用可能です」


 それならと検索でクリスティーの情報を引き出し、恩返しのためここに来ているとわかった。アズと一緒にいたのは、セルシオを探していて法術師の護衛と戦うアズに会い、セルシオの以前の仲間だと調べでわかっていて加勢した、という流れだ。

 律儀だなぁと思いつつ、一応記憶は残すことにした。今でなくとも記憶の操作はできるだろうと思ったのだ。

 エルメアやシーズンズ家やセオドリアの記憶も残す。そして後で適格者ということのみ消すことにした。

 クレイルやクースルトは少し迷ったが、記憶を残しておくと面倒なことになりそうなので消す。両親のことは思い出すこともなかった。

 クースルトは手元に残った七百万コルジを不思議に思うかもしれないが、それを手に入れた経緯は調べようがないだろう。


「実行しますか?」

「よろしく」

「はい」


 エクスが頷き、腕を振る。世界に光が降り注ぎ、人々の中にあるナノマシンに干渉して、人々はセルシオのことを忘れていく。あちこちに張られていた手配書は塵になっていき、書類もまた同じ。

 適格者が出たという記憶だけが世界に残り、セルシオのことは誰もが忘れた。

 名前も姿もわからない適格者がいるという情報のみが世界に残った。

 占い師も名前などの情報がわからないと、大陸のどこかにいるという漠然とした結果だけしか出せず、追跡のしようがなかった。セルシオ限定で精度の上がっている占いも、エクスが元に戻したため探す役には立たなかった。

 王や貴族や神殿は少しでも情報を求めようと、高額の懸賞金をかけて全世界に手配書を出した。手配書の曖昧さと金額の高さといつまで残り続ける手配書に、人々は適格者がどういった存在なのか噂し勝手な想像が広がっていった。


「終わりました」

「ご苦労様」


 続いてエルメアたちから適格者という記憶だけ消してもらう。


「これで一段落かな」

「なにかほかにしますか?」

「んー……あ、レオンのことを知りたいな。なにかできるならしたい」


 まずはレオンのことを知ろうと検索で情報を呼び出す。

 勇者になってから、貴族に利用されたことを知り、仲間の扱いもわかる。女二人は生きていた。しかし奴隷の首輪をつけられて、貴族の娼婦として扱われていた。

 レオンが勇者であり続けることを望んでいないともわかる。

 彼らの扱いがあんまりだと思ったセルシオは、エクスに相談し助ける方法を考え実行する。

 それは魔王級を倒したのはレオンたちではないと、記憶を摩り替えることだった。討伐隊メンバーが倒せずとも追い払うことに成功したとレオンを含めて人々に認識させ、レオンたちは魔王級との戦いに巻き込まれて長期療養していたことにした。死んだ仲間も生き返らせ、三人の肉体時間を巻き戻し、アーエストラエアに転送した。

 これによりオオコゲラ山に主とその子供が復活する。

 レオンの扱いが悪かった貴族たちには不運属性をつけたので、これからの人生下り坂だろう。


「あとはアーエストラエアの外壁修理と今回のことで死んだ人の蘇生」


 ここ一時間の間にアーエストラエアで死んだ者という条件で復活させたため、セルシオは彼らが死んだ経緯はわからず、リジィの殺人には気づかなかった。


「あの子たちはどうなってるかな」


 虎の様子を見れるようにエクスに頼む。

 討伐戦はいまだ続いており、修復能力を持つ虎のみが戦っている状態だ。ほかの二体はイースミクの怒りを受けて脆くなったので、傭兵たちの攻撃が通るようになり、倒されている。今は虎の欠片を傭兵たちが集めているところだ。


「修復して、小さくして、リジィたちのとろこへやってくれる?」

「わかりました」


 画面の向こうでは傭兵たちの手から欠片が無くなり、一箇所に集まって虎が復活した。修復能力を持つ虎もその身に刻まれたダメージが急速に直っていく。

 復活した虎を見る傭兵たちは皆絶望していた。ようやく倒した相手がいきなり復活したのだ、心を折るには十分だった。

 その相手が縮み、消えたことで、皆自分たちは夢でも見ていたのかと戸惑うしかない。

 セルシオはそんな人たちのフォローはせず、死者復活と外壁修理をしてアーエストラエアのことは終わったと判断した。

 死者は生き返り、外壁も以前のまま、自分たちは幻を見ていたのかとアーエストラエア周辺にいた者たちは思わされる。

 のちにアーエストラエア七不思議に数えられる「幻の襲撃」はこんな風に幕を閉じた。

 真っ先にアカデミーの仕業だと疑われたのは日頃の行いのせいか。


「手配書処理は終わったし、アーエストラエア処理も終わった。レオンも元に戻って、あとは俺たちが日常に戻れば万々歳か……念のため今回みたいな騒動が起きた時のために、逃げられる場所でも作っとこうかな」

「別荘をそのまま使えばよろしいのでは? 気候は温暖、食べ物も豊富、魔物もいません。神か代理の許しなくては誰も入ることができません」

「いつでも逃げ込める場所じゃないと思うんだけど」

「その腕輪があればいつでも転送可能です。ウィンドウを開き、転送の項目を開き、行きたい場所を指定すればどこへでも誰とでも行けます。ですがここだけは適格者のみしか入れません」

「そなの?」

「はい」

「あ、でも適格者をやめようと思うから、やっぱりどこかに隠れ家いると思う。転送って適格者じゃないと使えないよね?」

「やめるのですか?」

「うん」


 迷わずに頷く。この力を手に入れていいことよりも悪いこと面倒なことの方が多かった。便利な力だとは思うが、今後もこれが原因で何かが起こるかもしれない。波乱万丈は望んでないのだ。


「今すぐというわけにはいきません。調整に五年かかります」

「五年も?」

「はい」


 エクスが無表情なので、それが嘘だとは見抜けない。

 神たちは、適格者がやめると言い出すことは予測の範囲内だった。エクスにその場合の指示も出していて、考えが変わるかもしれないから五年の時間が必要だと答えるように言っておいたのだ。

 やめる作業は今すぐにでもできて、いつでもやめられる。


「まあ、その五年は別荘を使うようにすればいいか。俺も別荘に行って、のんびりと説明してこようかな。あ、そういえばここにくれば無制限に力を使えるけど、俺単独だとどうなる?」

「これまでどおり、三回のみ使用可能となります。ただしこれまでできなかった死者蘇生などは可能となりました」


 一度装置に触れたことで、装置との繋がりが生まれ制限が取り払われた。


「なるほど、まあそうそう死者蘇生は使わないだろうけど」


 リジィたちのところへ行こうと腕輪を使い、見慣れたステータス画面を見ると、上部に転送という項目が増えていた。それを指定すると、大陸名と別荘とここのタグが出てくる。

 試しにジョインド大陸を指定してみると、ずらりと国名が並ぶ。

 それらの中から別荘を指定する。


「またのお越しをお待ちしております」


 移動する瞬間エクスの声が聞こえてきた。

 砂浜に移動したセルシオは、空を見上げてエクスのことを考える。

 AIという存在を理解しているセルシオは、自身があそこに行かなければエクスは眠った状態だとわかっている。けれどこれまで生きてきて培った感性で、あそこに一人は寂しいのではないかとも思う。


「時々は様子を見に行くのもいいかな」


 そう呟くと周囲を見渡し、景色に感動の溜息を漏らす。

 青く透き通った海に、突き抜けそうな蒼穹の空。緩く吹く風は爽やかで、穏やかな波音は耳心地がいい。賊や魔物がいて、警戒なしに出歩くことが容易ではない三大陸に比べて、ここは楽園だった。

 神の別荘とはよくいったものだと思いつつ、浜から移動し視線の先にある建物へ進む。

 シーズンズ家と同程度か、少し小さい木造の建物で、人の気配がある。

 玄関を開くとそこにリジィたちが立っていた。足下に中型犬サイズの虎たちがいる。


「こんなところで立ってないで、リビングとか使えばよかったのに」


 呆れた表情のセルシオに、リジィが飛びついてくる。


「終わった?」

「終わったよ。誰も俺たちのことを追ってこない。指差されることもないから、堂々と往来を歩ける」


 セルシオの言葉を疑わず、安堵した笑みを浮かべたリジィを撫でて、皆を手招きし別荘の奥に進む。リビングにあったソファーに座らせ、セルシオは飲み物を取ってくる。

 ダウンロードしてもらった知識から、コーヒーと紅茶の湧く水筒を見つけ、大丈夫とはわかっていても、一応皿に少し注いで匂いを確認する。


「大丈夫だね」


 頷いたセルシオは、水筒とマグカップと砂糖をトレーに載せてリビングに戻る。

 皆にどちらを飲むか聞き、ぞれぞれに渡していく。


「手馴れているように見えますわね」

「慣れてはないよ。知識としてあるだけ。んでなにから話そうか」

「とりあえずここの詳しいことかな。安全な場所だってのは聞こえてきたけど、どこなのかはわからないから」


 アズの言葉にほかの者たちも頷く。


「ここはジョインド大陸の北にある孤島で、普段から結界で隠されてる神々が使っていた別荘」


 神と聞き、皆驚く。その反応を見て、自分たちとたいして変わらない存在だとぶっちゃけようかと思ったが、いきなり言われても納得できないだろうと説明はやめた。


「今は使われてない場所だから、そこらへんは気にしなくていいよ」

「眠っているらしいから、使うことはできないんだろうが、俺たちがここにきてよかったのか?」

「一応所有者は俺になってるし、いいと思うけどね」

「神の物でしょう、ここ」


 イオネがなに言っているのかと不思議そうな表情で言う。


「引き継いだ形になってるから。細かいことは気にしないほういいよ。ここにいても大丈夫だって理解してればそれで大丈夫」

「今はそれで納得しておいた方がいいんだろうな」


 後で詳しいことを聞こうと決めて、シデルは頷く。


「そういえばクリスティーさんにお礼言うのが遅れたね。恩返しっていう理由で助けに来てくれて、アズを助けてくれてありがとうございます」


 頭を下げるセルシオに、クリスティーは疑問しか浮かばない。


「どうしてそのことを?」

「いろいろと情報収集できるようになってて、そこら辺が手配書出された原因なんですよ」

「わけがわからないままここにいるんだが、力になれたのだな?」

「はい。すごく助かりました」


 アズを助けてくれたことだけではなく、少しだけでも味方がいるというのは嬉しかった。

 笑みを浮かべてしっかり頷いたセルシオに、クリスティーは満足した様子で頷きを返す。


「それはよかった。だが一つ気になっていることがある」

「はい?」

「ここから船は出ているのだろうか?」

「あ、そういえばどうやったらアーエストラエアに帰られるかわかりませんわね。そこのところどうなっているんです?」

「俺が送れるよ。転送っていうスキルを得てね、好きな場所に一瞬で行けるんだ」

「便利ですわね」

「じゃあ、私は帰ることにしよう。手助けできたとわかればそれで十分だ。詳しい事情を知ったところで意味はないからな」


 深入りしては迷惑だろうと立ち上がる。


「その前に少しだけ説明させてください。クリスティーさんの主をはじめとして世界中の人たちは俺のことを忘れています。だから俺を手助けするために旅に出たこともなかったことになっています」

「不思議なことだらけだから、なにがあってもおかしくはない。それを信じるとして、そうなると私の扱いはどうなるのだ?」

「休暇がてらルバルディア勇隊の様子を見に行っていたということになっています。騎士としての身分も元のままです」

「それならば恩返しはまだ果たされていないと判断されるのでは? 私を送り出すことが恩返しの一部だったのだから」

「そこらへんは手を加えて、既に恩返ししたことになっています」


 時期にズレはあるが恩返しを受けたこと事態は変えていないので、問題あるわけではないだろう。


「こんがらがってきたが、恩を返せたことは間違いないのだな?」

「はい」

「それだけわかっていれば問題ないだろう」


 詳しいことは聞かないことにしたのだ、自分にとって大事なところだけ確かめて頷く。


「ちょっと行ってくる」


 そう言って、クリスティーに手を出してもらい、二人は消えた。

 その一分後に一人で戻ってくる。


「イオネに伝言、また会おうだってさ」

「わかりました」

「セルシオ、詳しい説明を頼む」


 シデルの要求に、セルシオは頷く。


「説明はするけど、まずは武装解いて楽にならない? この島には魔物いないし」


 それに四人は頷き、女たちはそれぞれの荷物を持って、隣の部屋に行く。


「着替えている間に、ピクニックの用意でもしようかな。この別荘いろいろと便利なんだよ?」

「神の別荘っていうくらいだから、俺には予想つかないものがあるんだろうな」


 驚かないぞと言うシデルが、なにも入っていない底の浅い箱からサンドウィッチが次々と出てきて驚くまで後十五秒だ。

 全員が楽な格好に着替え終え、別荘の前にある浜辺に行き、ビーチパラソルを差した下に座って話し出す。

 始終四人を驚かせた話の後は、シデルとリジィをシーズンズ家に、アズをリンカブス王都に送る。

 日暮れ前に迎えに来ると言って、セルシオは別荘に戻る。一人別荘に残っていたイオネは、三匹の虎を撫でていた。


「お帰りなさい」

「ただいま。その子たちと意思疎通ってできる?」

「吠えないから無理ですわね。虎を模っていますが、虎ではありませんし」

「やっぱり?」


 セルシオはルビーの虎を抱き上げ、撫で始める。


「いろいろあったねぇ」

「そうですわね」

「これからどうしようか? また探索再開する?」

「強くなりたいから続けますわ……そういえばセルシオに強い魔物を出してもらえば訓練相手に困らないですわね」


 生命創造が可能になっているので無茶ぶりではなかった。現在いる魔王級も昔いた魔王級も、過去の勇者たちも創造可能だ。言うとおり相手には困らないだろう。


「となるとダンジョンに拘る意味はないのかしら」

「俺も強くなりたいし、ダンジョンに行けば色々な状況で魔物と戦えるから行くのもありかな。シデルとアズはどうするかわからないけど」

「シデルはオータンと結婚したら、オータンの補佐に集中するかもしれませんわね。アズはセルシオと一緒にいると思いますわよ」

「シデルが抜けてアズが入る?」


 シデルの結婚はそう遠い出来事ではないだろうと思いつつ、イオネは頷く。


「そうなるかも。リジィが前衛としても動けるようになってきていますから、バランス的にはちょうどいいのでは?」

「リジィの師匠として見て、前衛任せられる?」

「意外と筋がいいですから、大丈夫でしょう」

「筋いいのか」


 将来、自身を追い越していくリジィの姿が想像できて、誇らしいやら寂しいやらといった感情が湧く。

 強さを追い越してもリジィがセルシオから離れることはないので、守ってやれない寂しさのかわりに頼りになる心強さが生まれ、心を満たすだろう。


「セルシオは強くなりたいということですが、十分強くなったでしょう? 制限あるといっても誰にも負けないだけの力がありますし」

「これじゃなくて、自力で強くなりたい。なんというかこれを使っても強くなったって気がしない」

「それもセルシオの力ですから、自力って言ってもいいと思いますが。そこらへんは自分が納得しないと意味のないことかもしれませんね。一緒に強くなっていきましょう?」


 微笑み誘うイオネにセルシオは笑みを返す。

 リジィたちを迎えにいくまで時間があるので、二人は浜辺で昼寝することにした。

 気持ちよい風と波音が二人をすぐに眠りに誘う。その二人に虎たちが寄り添う。


 日が傾き、瞼に眩しさを感じたセルシオはそろそろ約束の時間だと気づき、イオネを起こしてからリンカブスに飛ぶ。

 城に入ることができないセルシオは待ち合わせ場所を決めていて、そこでアズを待つ。素顔をさらしてベンチに座っているが、誰もセルシオを気にすることなく歩いていく。

 記憶と記録の消去は上手くいったのだと確認でき、小さく安堵の溜息を吐いた。


「セルシオ」


 アズの声が聞こえて、そちらを見るとミドルとオルトマンも一緒にいた。


「二人とも久しぶり」

「大変だったみたいだが、無事終わったようだな」

「終わったよ」


 褒めるように言ってくるオルトマンに笑みを返す。


「お疲れさん!」


 ミドルは言葉と共に手を上げ、意図を察したセルシオも手を上げて、ハイタッチする。


「セルシオはこれからどうするんだ?」

「探索を続けるよ。もっと強くなりたいんだ。道具で底上げした強さじゃなくて、自分の強さを上げたい。オルトマンは?」

「俺は姫様から新兵指導を頼まれているから、それを受けるつもりだ。アズはアーエストラエア行きだな」

「アズはこっちで仕事に復帰してもいいと思うけど? 行き来は簡単にできるようになったし」

「野暮なこと聞くなよ。セルシオと一緒に行動するに決まってるだろ」


 少しでも一緒にいたいという心情をオルトマンは察していた。


「早く孫の顔を見たいからな?」

「お父さんっ」


 照れから顔を赤くしたアズが軽くオルトマンの胸を叩く。


「アズを幸せにしろよ」


 ミドルもオルトマンに追従するように言う。

 それにセルシオは姫様を大切になと返す。エルメアの婿は何事もなければミドルだとセルシオは知っていた。


「どちらの子が生まれるのが早いか楽しみだ」


 しみじみとからかう様子なくオルトマンが漏らす。自身が人形になっていた時のことを聞き、今のように将来を思えるのは奇跡に近いと理解している。

 三人の将来が輝かしいものになることを願い、楽しげに話している三人を見る。

 会話を十分楽しんだセルシオは、夕日の色が濃くなった空を見上げ、そろそろ別荘に帰ることにする。


「お父さん、体に気をつけてね。ミドルは姫様をよろしく」

「無茶はしないさ。アズもたまには顔を見せろよ」

「姫様のことは任せとけ。でも寂しがるかもしれないから、たまには帰ってこいよ」

「セルシオに頼めばいつでも帰ってこれるから大丈夫」


 ね、と問いかけてくるアズに、セルシオは頷く。


「二人とも元気で」


 そう言い歩き出すセルシオの隣に並び、そっと腕を取るアズ。

 そんな二人をミドルとオルトマンはしばらく見続けてから城に帰っていく。


 アズを別荘に送るため、浜辺に出た二人は海に沈む夕日の綺麗さに見惚れた。

 別荘に向かうアズの背を見送り、次はリジィとシデルの二人を迎えに行く。

 修復された門から入り、シーズンズ家に向かう途中で女二人に挟まれたレオンを見かけ、声をかける。もちろん生き返らせた男もそばにいる。


「セルシオ? 久しぶり!」


 二人から離れてセルシオに近寄る。

 戦った時の陰鬱な雰囲気は消え、以前のような輝きを持った目でセルシオを見ている。


「うん、久しぶり」

「同じ街にいるのに会う機会が少ないよな」

「まあ、同じ街って言っても人が多いし、生活スタイルも違うだろうしね」

「そっか」

「四人はダンジョンからの帰り?」

「いや、ようやく魔王級討伐戦で負った傷が癒えてね。鈍った体を鍛えなおしてきたところなんだよ」

「治るのにすごい時間かかったね」

「俺たちも不思議に思ってるんだけど、それだけ魔王級が強かったってことだな」


 記憶に齟齬はないと胸中で頷いた。


「セルシオの方はずっと探索してた?」

「ここ数ヶ月は街の外にいたね。休憩して近々探索再開する予定」

「楽しみだよな、久々の探索! いやセルシオはそうでもなかったんだっけ?」

「楽しみだよ。俺もそう思う」


 同意を得られたことにレオンは少し驚いた後、嬉しそうな表情を浮かべた。

 レオンに今が楽しいか聞いてみたかったが、その表情と言葉で答えは得たも同然だった。

 レオンを仲間たちが呼んでいる。仲間たちの表情にも暗さはない。


「じゃあ、もう行くな?」

「ああ、また」

「おうっまたな!」


 再会を約束し、レオンは仲間たちに囲まれ去っていく。

 セルシオも再び歩き出し、シーズンズ家に着いた。門番に断り、敷地に入ると明かりに照らされた庭にシデルとオータンがいた。


「あ、セルシオか」

「こんばんは、セルシオ」

「オータンさん、こんばんは。シデル迎えにきたよ」

「それなんだが、今日俺はこっちに泊まろうと思ってな」

「いいと思うよ。じゃあ、リジィと一緒に帰るね」

「私が呼んできます」


 屋敷に向かうオータンの背に礼を言う。


「シデルはいつオータンさんと結婚するの?」

「は? どうした急に」

「昼にね、イオネと話しててシデルは結婚したらパーティーから抜けるだろうなって。シデルはもう目標達成したし強くなる必要はないでしょ? ダンジョンに用事はないからパーティーから抜けるんじゃないかって」

「たしかにオータンのそばで仕事を手伝うつもりだ。でももう一年くらいは探索続ける」

「どうして?」

「結婚指輪の金や結婚資金くらいは稼ぎたいぞ?」

「なるほど」


 納得したと頷く。


「結婚指輪買ったら、一度貸してくれる? 祝いに健康維持の効果を付与するから」

「それは俺とオータンにとってなによりの祝いだな」


 神の祝福を受けたといってもいい指輪があれば、オータンは体調を崩すことなく過ごせ、シデルも元気なオータンと一緒にいられて嬉しい。

 その時はよろしく頼むとセルシオの頭を力強く撫でた。


「いつかはパーティーを抜けるだろうが、繋いだ絆は切りはしない。いつでも会いにくればいい、いつでも歓迎してやるから」

「ん、ありがとう」


 柔らかな口調のシデルに、セルシオは思いやりを感じ取る。

 今後の予定などを話していると、オータンがリジィをつれて戻ってくる。

 シデルとオータンに別れを告げて、兄妹は手を繋ぎ屋敷を出る。日が落ちても人々の喧騒が賑やかな通りを、のんびりと門へ向かって歩く。


「兄ちゃん」

「ん?」

「こうやってのんびりと歩けるようになってよかったね」

「そうだね。皆に追われるような日々はもう勘弁だ」

「兄ちゃんと一緒に歩けて、一緒にいられて嬉しいよ」


 リジィのセルシオの手を握る力が強くなる。セルシオも握り返す。


「俺もリジィが隣にいてくれて嬉しい。アズやイオネやシデルがいてくれて嬉しい」


 笑みを浮かべたリジィは半歩横に移動して、セルシオの腕に自身の腕をからめ、セルシオを見上げて口を開く。


「兄ちゃん大好きだからね」

「俺も好きだぞ?」

「なんとなくニュアンスが違うような気がするけど、今はそれでいいよ。まだまだ時間はたっぷりあるし」


 意味に気づいているようないないような曖昧な笑みを浮かべたセルシオは口を開く。


「何日か別荘で休むつもりだから、その休みのうちにロッドのところに行こうか、三人も誘って。リジィはサーカス初めてだろ?」

「楽しみにしてる」


 アーエストラエアを出た二人はもう少し歩き、別荘に帰る。

 帰りを待っていたアズとイオネにただいまと告げ、おかえりと返される。

 当たり前のことだが、嬉しいことだった。

 別荘の設備の使い方を説明しつつ、豪勢な夕食を準備して四人は楽しい時間を過ごしていく。


 神がいて、神が去った世界で、新たな神となりうる可能性を持っていた青年はその道を進むことはなかった。

 世界に神は生まれず、これまでどおり神のいない時代が続くことになる。

 世界を掴めた青年は、その手で大事な者たちの手を取る。

 それが一番の幸せだと確信して。


感想ありがとうございます


》もしかしてゴーレム達によって死んだ人達やレオンの仲間とかは~

》この後は能力をフルに使って、世界中からセルシオに関する~

あたりです、展開読まれました


》セルシオが作った奴かもしれないなとちょっとにやにやしておりました

以前も似たようなもの出したなと思ったんですが、そのまま使いました。後年時空の裂け目に落ちたというのもいいですね

そういったちょっとした繋がりならできそうですし


》なるべく主人公が幸せになる終わり方だといいなぁと~

幸せになれると思える終わり方だったでしょうか?


》空を飛ぶモンスターみたいなものを用意して、堂々と侵入は難しいのでしょうか

》町の攻略などの対処に関しては、毎日ラノベとか読んでいる捻くれた現代人と違って~

》単に呪術結界破りと、破った呪術に対する呪い返しを行えば~

空飛ぶゴーレムや呪い返しは、セルシオと書き手には思いつかないことでした

すごい力があっても、使いこなせるだけの知恵がないと意味がないということですね


》さらなる大暴れに期待大ですね

セルシオは大暴れしなかったですね。リジィはやりましたが

リジィをヤンデレにしようかなと思ってた名残がでました


》戦略兵器「イースミクの怒り」登場~

はい、意見反映したと思ってもらってオッケーです



終わりました。今まで書いていた話の中で一番早いペースでした

この話のモデルというか下敷きは、パソコンゲームのスポアとシムシティーのNPC側です

つくられた世界で生きていく人々、そんな人たちからセルシオを抜擢して書いてみました

最後はチートでしたが、成長する主人公を目指しました。力は上がったけど心の方はどうだったのだろう

今後彼は三人娘とイチャラブして暮らしていくでしょう

一年後にはロッドがなにも忘れずに記憶を取り戻し、さらに幸せに


次の予定は明日竜殺しの更新で、その後二週間くらい新しいものの書き溜めか、ほかのなにかをする予定です

新しいやつは、神無の世界の過去編として書こうと思ってたので、別の世界観ですが少し設定がかぶってたりします

題名はいいものが思い浮かばなかったので、直球でいくことに

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― 新着の感想 ―
[一言] ふう、なにはともあれ大団円。 セルシオは神の座を継ぐ事無く、コレからもこの星は神無の世界! 手にしたチートも便利使いに留めて生きていく。 だって人間だもの!
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