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41 その手に掴むは、 2

「正攻法が使えない場合は、邪道搦め手とかを使うのもありか。伯爵夫人の時と同じように、隣からぶちぬく? それに意味はない。もっとほかの……」


 考えの参考になればと地図に意識をやって、全体を見ていく。そうしていると隠し通路が目に入った。


「隠し通路……人に隠され誰も通らない通路……そうかっ! なにも人が作った道を通る必要はないんだ。壁をぶちぬいたように、自分で道を作れば、誰も知らない通らない道ができるっ」


 そこまで考えさらに思いつく。脱出もそういった方向でいけば楽勝だと。三時間の脱出経路思索が無駄になったが、安全に楽に脱出できるならそれにこしたことはない。


「まずはここからリジィたちのいる部屋に通路を繋げて」


 地図を見ながら、通路の繋げ方を考えていく。だが地図は城のみなので、城外への通路を作るには不十分だった。


「ありゃ、とりあえずは地図の端ぎりぎりまでの通路を作ればいいか。日をまたいで通路が消える前にもう一回、街の外に出口を作れば問題はないはず」


 そうしようと、ここからリジィたちの牢屋へ。次に荷物のある詰め所へ。最後に地図の端までといった枝分かれした通路を脳内に思い浮かべた。


「これでいいかな。あとは地図を消して、実際に通路を作るだけっと」


 ベッドをずらし、食料を床に出して、空いた穴の底に手を置いた。


「通路作成開始」


 言葉と同時に急勾配の坂道ができる。


「成功。でも暗いな、まあ当たり前か」


 明かりなど入る隙間はないのだ。暗くて当然だろう。基本一本道で、罠はなく、魔物もでないので、気後れすることなく穴に入る。

 作った通路は人が両手を広げると触れる広さで、高さは二メートル弱だ。

 リジィたちの牢へのわき道を見逃さないよう手を壁につけて進み、十分後には行き止まりに着いた。いきなり牢の壁をぶちぬくと騒ぎになるだろうと、厚さ一センチほど壁を残しておいた。一箇所のみ、ミリ単位で薄くしているところがある。そこを手で押すと、簡単に穴が開いた。

 地図ではシデルが寄りかかっている箇所で、ちょうど背中辺りだ。温かい背を指で何度か突く。

 少し身じろぎしていたシデルは、異変に気づき壁を見る。


「気づいた?」

「セルシオっ!?」


 思わず大きな声を出したシデルはしまったと口を塞ぐ。

 見張りはそれに気づくが、シデルたちが寝ていたことを知っているので寝言だろうと判断する。念のため牢を覗くが、シデルが寝たふりをしているので、やはり寝言かと地下牢の入り口に戻っていった。


「大声出さないでよ」

「すまん。でも誰だって驚くぞ? 寝ていた奴が、いきなり牢屋に穴を開ければ」


 二人は小声で話し始める。


「そりゃそうか」

「いろいろと聞きたいんだが、それは後回しにして。元気か? 体に異常はないか?」

「どこも異常はないよ。洒落にならない事態にはなってるけど」

「牢屋に入れられているんだ、尋常な状況じゃないだろうさ」

「そうなんだけど、世界中のお偉いさんに命狙われることになったんだ俺」

「は? ど、どういうことだ?」


 声を潜めることを忘れて聞き返しそうになり、シデルは冷や汗を流す。

 力を得て、それを求める人排除したい人がいることを話す。


「その力でここまで来たんだよ」

「そんなこと有り得るのか? いや、ここに実際にいるんだ、本当なのか?」


 いまいち信じられないというシデルに、セルシオは無理もないと思う。


「シデル? さっきから一人でなにを?」


 小声だったが、ぼそぼそとした人が気になったかイオネが起きる。


「口を手で押さえてくれ」

「はい?」


 いいからと言うシデルに従い、口を押さえる。


「セルシオが壁の向こうにいる」


 シデルは位置をずれ、開いた穴からセルシオが手を出しひらひと揺らす。

 イオネは驚きの声を出そうとして、慌てて手でしっかり口を押さえた。


「心配かけてごめんね。元気にやってるから。あと二、三日で一緒に脱出できると思う」

「な、なにが、どうなって?」

「それはシデルから聞いて、簡単に事情を言ってある。リジィを起こしてくれる? 元気だって知らせたい」

「わかりました」


 リジィの体を小さく揺らす。起きて目を開くが、目に生気が薄い。

 そのリジィに口にイオネは手を置いて、セルシオがいることを知らせる。壁から出された手を見た途端に目が生気が戻り、起き上がろうとする。それをイオネは押さえる。


「見張りに見つかると大変ですから静かに、いいですね?」

「うんっ」


 何度も頷いたリジィは静かに動き、シデルと位置を変わってもらう。

 セルシオの手を恐る恐る取り、幻ではないとわかると力強く握り頬に当てる。


「兄ちゃんだ。兄ちゃんの手だ」

「心配かけたね。もう三日もしたら脱出に動くからそれまで辛抱してくれる?」

「うん。また一緒にいられるよね?」


 流れた涙が手に触れて、泣かせないという約束を破ったとセルシオの表情が歪む。


「約束破っちゃったね。泣かせないって言ったのに」

「それは嬉し泣きだから、気にしなくていいと思いますわよ?」


 イオネの言葉にリジィが頷く。セルシオは二人にありがとうと返す。


「食べ物とか不自由してない? 逃げる時のために体力温存してもらいたいんだけど」

「ちょっと足りてねえな」

「じゃあ、取ってくる。ちょっと待ってて」


 すぐに戻ってくるからと名残惜しそうにするリジィに手を離してもらい、自分のいた牢に戻る。

 約二十分かけて行き来して、携帯食を渡していく。その時に床に放り出していた食料と水筒を通路に移動させた。


「これも変化させて作ったのか?」

「うん。三日後には消えるからとっておいても意味ないから、全部食べちゃって」

「わかった。んで脱出するって言っていたが、どんな風に動くんだ?」

「ここに繋げた通路を街の外まで広げようと思ってる。それだけだけと逃げたらすぐにばれるから小細工していこうと思ってる」

「どんな小細工なんだ?」

「俺は自分そっくりの人形を作れば誤魔化せるよ。横たわっていればあっちが寝てるって勘違いしてくれるし。でも三人はどうしようかなって思ってる。なにかいい魔法道具でもないか検索で探してみるつもり」

「ほんとになんでもできるんだな」


 その言葉には呆れと僅かな畏怖が込められている。その反応は予想できていたので、壁の向こうで苦笑を浮かべるだけだ。

 事情がわからないイオネは首を傾げ、リジィは目を閉じ温かな手の感触を飽きることなく感じている。

 そろそろ見回りがくるころだろうと、セルシオは牢に戻る。

 三十分後に見回りが来て、セルシオはそれをやりすごし、リジィたちの牢まで行くと、眠いから寝ると言ってから牢に戻る。

 また午前0時になり力が使えるようになると、精巧な自分の偽物を作ってベッドに置き、通路に入る。次に大量の明かり粉を作り、明かりを確保した。

 

「シデルシデル」

「なんだ?」

「俺たちの荷物取ってくる」

「そこにも通路繋げているのか?」

「荷物は兵の詰め所にあって、その近くの茂みに穴を開けたんだ」

「無茶しないでくださいね?」

「する気はないよ。逃げられるチャンス潰すことになるかもしれないから慎重に動く。明日には脱出だから、三人とも体力温存しておいてね?」


 わかったという返事を聞き、セルシオはリジィたちから離れる。

 明かり粉を撒きつつ進み、茂みに続くわき道へと進む。

 穴から周囲の気配を窺い顔を出す。時刻は深夜で、茂みには明かりは届かず暗い。あちこちに兵の気配を感じるが、近くにはいないため、静かに茂みから出る。

 荷物は入り口近くの部屋に放り出されている。セルシオたちの物と忘れ、誰かが置いているのだろうと関心を払っていないのだ。

 兵の気配は仮眠室やトイレにあり、荷物の置いてある部屋にはない。


(今の内かな?)


 誰か近寄ってきていないか急いで気配を探り、部屋に入る。荷物に手をかけると、トイレにいた兵が動く気配がした。用を足し終えたのだろうと、セルシオは慌てて荷物を掴み入り口に急ぐ。

 セルシオが出ると同時に、兵が部屋に入ってくる。

 

「ん? 誰かいたのか?」


 誰か外に出た気配を感じ首を傾げる。入り口に移動して、周囲を見渡す。少し離れた位置に見回りを見つけ、あいつが何かの用事でいたのかと思い、戻っていく。

 セルシオはその近くの壁で息を殺し、兵が気づかずに戻るのを待っていた。


(焦ったぁ)


 小さく溜息を吐き、行き以上に慎重に茂みに戻る。

 通路に入ったセルシオは安堵から大きく息を吐いた。

 リジィたちの牢へ戻り、無事荷物を取り戻したことを伝えると、毛布に包まり魔法道具の検索を始める。

 アカデミーが作った物や個人が作った物、果ては神々の使っていた道具まで大量の魔法道具が検索で出てきた。

 それを一つ一つ調べていくのは苦労しそうだが、幸い攻撃用防御用といった具合に大別されていたので、最初から読んでいくといった気の遠くなることはせずにすんだ。それでも求める物をみつけるのに四時間かけたが。

 見つけだしたのは「幻煙の香炉」という道具で、その名の通り幻を見せる煙を出す香炉だ。今から千年以上前によその大陸のアカデミーで作り出された道具だ。

 大国と小国の戦争があり、小国側が戦力不足を補うため、アカデミーに依頼し出来上がったという経緯がある。どうでもいい戦場にこれを持って行き、戦力を拮抗しているように見せかけ足止めや時間を稼いでいる間に、戦力を集中させ敵本隊を叩いて引き分けにまでもっていった。

 あまりに精巧な幻を見せ、日常生活でも扱いに失敗し混乱が起きることがあり、幾度かの使用の後に製作制限をかけられ、そのまま忘れられていった。


「目的の物は見つけ出したし、眠ろうかな」


 それをリジィに知らせて、眠りに落ちる。

 時間が流れて、午後六時頃に目を覚ました。動き出した気配を察したリジィが話しかけ、それに答えていく。

 日が暮れて深夜となり、力が戻ってくるのを感じたセルシオは、三人に声をかけて穴を静かに広げてもらう。その間に幻煙の香炉を作り出す。使い方は簡単で、香炉の側面にある四角い宝石に額をつけて、見せたい幻のイメージを込めていく。込め終わったら額を離し、香炉の底にある紋様を指で擦れば、煙が出始める。

 香炉を作りイメージを込め終わり、穴を広げるのを手伝う。

 大人が這って通れる穴ができ、リジィが通ってセルシオに抱きつく。このままではシデルとイオネが通れないためすぐに放した。


「三人とも荷物を置いてある場所まで先に行ってて、香炉を置いたら俺もすぐに行くから」


 煙に巻き込まれないように離れてもらい十分距離を取ったのを見て、息を止めて香炉を使い、牢に置く。

 急いでその場を離れたセルシオに、リジィがまた抱きついてくる。シデルとイオネは無事の再会に喜びに笑みを向けたが、すぐに表情を驚きへと変えた。それにセルシオは首を傾げ、リジィを抱いたままシデルたちを先導する。


「なあ」

「なに?」

「目の色が変わっていることに気づいているか?」

「目? 俺の目って黒だよね?」


 鏡で何度も見ている目の色は黒だ。思わず左手を目にやる。


「私たちもそう思っていたのですが、今は蒼穹、空の色と同じになっています」

「力を得たことで変わったんだろうなぁ」

「それ以外に理由は思いつかないね」


 シデルの言葉に同意し頷く。ほかに変調はないかと聞かれ、覚えがないため首を横に振る。

 進むうちに通路は下り坂となった。


「下り道なのはなんでだ?」


 地上に出るのなら上がるはずだと疑問を抱く。


「真っ直ぐに進むと堀にぶつかるんだ」

「あ、なるほどな」


 二十分と少し進み、四人は行き止まりに着いた。

 

「ここが言っていた行き止まりですか」

「うん。すぐに進めるようにするから」


 検索で王都周辺の地図を呼び出し、王都から一時間ほど離れた林の中に出口を作ることにする。

 壁に手を置き、力を使う。

 一瞬でできた通路に、シデルとイオネは驚きを隠せない。


「こうやって実際に見ると、本当なんだって信じるしかないよな」

「そうですわね。人が持つには大きすぎるものだと思います」


 難しい顔の二人にセルシオは、俺もそう思うと言って先に進もうと促す。

 出口近くまで来ると、四人は武具を身につけていく。

 リュックに入れていた物は無事だったが、身につけていた能力上昇のアクセサリーは没収されている。リジィの魔力上昇の手袋だけは無事だった。それは片手だけつけているのも邪魔なのでリュックに入れていたためだ。

 通路から出ると外の空気が体中に感じ取れ、四人とも晴れ晴れとした表情で深呼吸を繰り返す。


「ようやく自由になったって実感できたな」

「ほんとに。これからどう動くか決めていますの?」

「リンカブスに行こうと思ってる。力を使えばオルトマンを元に戻せると思うし」

「リンカブスもセルシオのこと知ってて、排除や利用しようとするんじゃないのか?」

「そうなるかもしれないけど、オルトマンは助けたいしね。力を使ってどうにかこっそり近づくよ。その後は半年間逃げ隠れして、アーエストラエアに戻って出発の間に行くつもり」

「わかった。じゃあ早速出発するか」


 とりあえずは近くの村か町にでも行って馬車を使おうとシデルが言う。それをセルシオは止める。


「なにか理由がありますの?」

「あと二日もすれば俺がいないことに気づかれると思う。どうやって逃げたかはばれないだろうけど、追っ手は向けられると思うんだ。そんな状況で、人のいる場所に姿を現せば追っ手にヒント残すようなものだと思う」

「それはそうだが、徒歩でリンカブスまで行くつもりか?」


 馬車でも一ヶ月近くかかった距離だ。徒歩だと五ヶ月かかってもおかしくはない。


「徒歩はさすがに俺も嫌だから、力を使って馬車を作ろうと思う」

「できるのか?」

「食べ物とか魔法道具を作れたんだから、馬車はできると思うよ?」

「車体の方はできるかもしれんが、馬の方は無理じゃないかと思うのですが」


 イオネの思うように生命体を創り出すことは不可能だ。しかし擬似生命体ならば可能なのだ。それを説明を読んで知っていたので、大丈夫だとセルシオは頷く。

 力に関しては四人の中でセルシオが一番詳しく、セルシオがそう言うなら大丈夫なのかなとシデルとイオネは一応納得する。リジィは一緒にいられればどうでもよかった。

 四人はすぐにその場を離れ、リンカブス方面へと人目を避けて移動していく。森や林といった人の少ないところを通るため、必然的にそこを住処とする魔物と出くわすが、鈍った体や勘を本来の調子に戻すのにちょうど良いと戦っていく。ダンジョンのように階層にそった一定の強さの魔物が出るわけではないので、無闇に突っ込んでいくということはなかった。

 そして日が傾き始め、林のそばで野営の準備を整え、さっさと眠る。

 セルシオは力が戻る頃に見張りになるよう時間を調整していて、馬車が作れるようになるとすぐに土を使い馬車を作る。

 車体はオータンたちとエンキスに行った時に使ったものをイメージした。馬の方は遠目で見ると栗毛の体の大きな馬に見えるが、近寄ると毛のない馬の形をしたなにかに見える。できあがったのは馬型のゴーレムだ。食事も睡眠も必要とせず、体力も無尽蔵にあるのでこっちの方が都合がよかった。

 馬車を引かせるものとしては違和感があるが、魔物に馬車を引かせることもあるので、怪しすぎるということはない。

 おまけとして車体に最上級の頑丈の魔法と同等の変化をさせて、悪路での故障が起きないようにした。明日は馬と車体を固定化して、旅の間使えるようにするつもりだ。

 作り上げて少しすると交代の時間となり、イオネを起こす。


「うわぁ、本当にできてますわ」


 改めてその力を見て、味方でよかったと安堵の思いを抱く。


「完成は明日だけどね。このままだと三日しかもたないから」

「三日だけでもすごいですわよ? それにしても車体の方に見覚えが……」

「シーズンズ家の馬車をイメージしたから」

「ああ、それでですか。なにはともあれ旅が楽になるから助かります」

「んじゃ、俺は寝るよ」

「おやすみなさい」


 リジィの隣に行き毛布に包まる。寝ながらその気配を察したか、リジィは寝返りをうってセルシオに寄り添う。

 その様子をイオネは微笑みを浮かべて見て、周囲の警戒を始める。

 朝になり、馬車を見たシデルの反応もイオネと似たようなもので、リジィはすごいねときらきらとした目でセルシオを見ていた。

 御者はシデルがすることになり、三人は交代で隣に座り、操作を覚えていくこととなった。シデル自身も馬に乗れても、御者としては不慣れなので最初はゆっくりと動かして操作を覚えていく。

 その夜は予定していたとおり馬車の固定化を行い、残った一回で耐魔術魔法の道具を作る。これは乗っている馬車を覆うくらいの結界を作り出す道具で、シデルが念のために作っておいたほうがいいと提案したのだ。

 さらに次の日、その道具を固定化したセルシオは、そろそろばれた頃だろうと、検索で自身を取り巻く状況という条件で情報収集する。

 案の定ばれており、どういうことだと見張りが厳しく尋問を受け、城下の捜索や王都周辺の捜索が始まっている。その捜索の間に林へと繋げた穴も塞がっており、手がかりはなくなった。

 犯罪者としてセルシオだけではなく、四人の似顔絵つき手配書が出ることになり、うかつに街などに近寄れなくなった。

 それらは予想のうちだったが、予想外のことがあった。

 他国の者たちがセルシオ脱走を知っていたのだ。どうやって知ったのかというと、評判のいい占い師を何人も呼び、行動を探らせていた。そして占い結果の統計をとり、占い精度を高めたのだ。

 占いでわかるのは逃げ出したということだけで、どこに向かっているのか、今いる詳細な場所はわかっていない。今いる最高の占い師でも大まかな現在地がわかるのみなのだ。例えるならアーエストラエア周辺にいることはわかっても、宿に泊まっているのか、どこか廃墟の潜んでいるのか、ダンジョンに入っているのかはわからない。滞在する様子を見せたらそこに兵なり傭兵なりを派遣すると決められた。

 情報を読み進めていくうちに、この占いはセルシオを基点として行われていることもわかった。適格者はすごい力を持つが、それだけ特異で目立ち、遠く離れた地からでも占うことができるのだ。それに顔も名前もわかっていて、おそらくいるだろう地域もわかっている。それらの情報のおかげで、適格者であるというだけで占うよりはましな結果が出ている。


「三人にも手配書が出たみたいだよ。巻き添えにしてごめん」

「気にしてないよ」


 リジィはすぐに平気だと言ってセルシオを励ます。


「仕方ないですわ、予想できていたことです。セルシオの近くにいるんですもの、捕まえて交渉材料にしようとするのは当然ですわ」

「そうだな。平気というわけじゃないが、ずっとこの状態ってわけでもないんだろう?」

「うん。装置を使えるようになったら、脅すなりして交渉すればさすがに手配書は撤回すると思う」


 脅せば反発するだろうが、セルシオに手は出せないだろう。装置のあるところにいけるのはセルシオのみだ。暗殺者を送り込むことなど不可能だ。

 リジィたちに危険が及ぶかもしれないが、そこは装置と併用し強力になった力が活躍するだろう。馬ゴーレムのように強力な魔物を生み出し護衛をとしてつけるなり、強力な道具で身を固めるなどで対応すればいい。幻煙の香炉を探していた時、不可侵の結界を張る道具なども見つけた。それらを同時に使えば魔王級といえども容易には近寄れない。


「世界を相手取れるようになるんだ、自国を保ちたいなら反発するような馬鹿はいないか」

「いるところにはいそうですが、まあ極少数でしょうし、さすがに周囲の人間が止めるでしょうね」

「だろうな。俺たちは最長で一年くらい耐えればいいってことか」


 少し長いなと思ってはいるが、ずっと犯罪者のままよりはましだ。

 三人にありがとうと言うセルシオは心強さと申し訳なさを感じていた。

 


 セルシオの手配書が出されて十日以上経った、どこかの国。

 クリスティーは当主に呼ばれて、執務室に向かっていた。何の用事だろうかと思いつつノックして、返事を待ってから扉を開ける。


「お呼びでしょうか?」

「ああ、こっちにきなさい」

「はい」


 扉を閉めて、当主の机の前まで進む。


「以前、プライアを取り戻しに行ったな?」

「はい」

「その時に世話になった者がいると、報告書に書かれていたが」


 懐かしいとクリスティーは少しだけ表情を弛ませる。


「イオネ、セルシオ、シデル、リジィ。この四名ですね。よく覚えています」

「やはりか」


 溜息を吐いて難しい顔となる当主に、クリスティーはなんなのだろうと表情を僅かに変える。それを読み取った当主が口を開く。


「セルシオという者が世界中に手配書を出された。仲間も同様だ」

「は? あ、すみませんっ!」


 敬うことを忘れて反応を返し、慌てて謝る。


「気にするな。私もこの話を聞いた時、どういうことかと首を捻ったものだ。前情報がまったくない状態からいきなり世界中へ手配書だ。不思議に思うなという方が無理だ」


 世界中へ手配書が出るような者は、どこかの地域で先に悪名を広めているものだ。今回はそんな前情報がまったくない。

 一般人なら知らされたことを受け入れるのだろうが、ルバルディア家は世話になった時に一応調査したのだ。それでただの挑戦者だと結論を出している。地下闘技場へ参加したらしいというずれたことはしているが、予想から大きくはずれた者たちではなかった。

 手配書は、当主にとって疑問しかわかないものだった。


「私を呼んだのは確認のためですか?」

「それもあるが、もう一つある」

「それは?」

「以前私たちは恩を受けた。金を返したとはいえ、それだけでは不十分だと思っていた」

「その通りだと思います」


 クリスティーも受けた恩は忘れていない。


「だが今回のことにルバルディア家をあげてフォローに回るのは難しい。なにせ世界が相手だ」

「……はい。失礼ですが一貴族である当家だけではどうしようもないかと」

「うむ。そこでだ。クリスティー、君に一時的に当家から消えてもらおうと思っている」


 この流れでくびの話ではないだろうと、クリスティーは続きを求め、当主を見る。


「家では無理でも、一個人としてひっそり動くなら、もしかするとなにかの役に立つこともあるのではと思うのだ。セルシオという青年と会ったことのある君にアーエストラエアへ行ってもらいたい。もちろん件の青年が本当に罪を犯していれば、助けはしなくていい」

「お任せください」


 もしかすると死ぬ可能性もあるが、躊躇うことなく頷いた。恩を返すという思いもあるが、イオネという友も助けたいのだ。


「では一時的にクリスティーという人間は当家にいなかったことになる。家紋の入った武具は使えない。代わりの武具や資金は用意しておいた。恩を返すため、行ってきてくれ」

「はい。必ず恩返しを果たしてみせます」


 深々と頭を下げたクリスティーは、主であり親友でもあるオディアに一時の別れを告げるため部屋を出て行く。

 オディアからも激励を受けたクリスティーは、アーエストラエアへと向けて出発する。


 マレッド王国、その王都。

 城の謁見の間で、レジェンド化した武具を着たレオンは膝を着き、王を見ている。その表情に覇気はない。

 そんなレオンを気にせず、王が口を開く。王にとってレオンの覇気のなさは最初からなのだ。これが標準だと思っている。


「勇者よ。命を下す」

「はっ」

「逃亡した犯罪者セルシオを追って捕まえるのだ。殺してはならんぞ」


 セルシオという名を聞き、レオンは少し反応を見せるが、誰も気づくことはなかった。


「お任せください」

「うむ。良い報を待っておるぞ。ではすぐにでも出発するのだ」

「はっ」


 立ち上がったレオンは謁見の間を出て行き、別の人物が謁見の間に入っていく。

 レオンはその足で、与えられた家に戻る。

 執事や使用人に出迎えられ、それに特に反応を返さず自室に戻る。そこには一人の男がいた。

 男を見ると、レオンの目が強い光を放つ。それに対し男は嘲笑に表情を変化させた。


「睨むんじゃないよ。まあ、それくらいしかできないんだろうが」

「用件はなんだ」

「セルシオという男を侯爵様が欲している。捕まえた時、王ではなく侯爵へと差し出せとの命だ。見事これを達成できたのなら、女二人は返してやるとさ」

「ほんとだな!?」

「ああ、嘘を吐いたことは無いだろう?」

「っ!?」


 嘲笑の笑みを深くした男に、レオンは思い出したくないことを思い出す。それは仲間の死体だ。

 レオンの仲間三人は、男の主に人質として囚われていた。貴族たちにとって、権謀に疎く力が弱く後ろ盾のない勇者など利用価値の高い道具でしかなかったのだ。

 仲間が囚われ、言うことを聞かないと仲間を殺すという脅しにレオンは一度反抗した。そして仲間の一人が死体となって王都の裏路地に捨てられた。

 それを貴族の仕業だと周囲に知らそうとした時、さらに脅しが入り、なにも言えなくなってしまった。それからは侯爵の言いなりに動くだけとなり、王に面会した時には覇気のない状態だったのだ。


「けけっ思い出したか?」

「用件はそれだけだな? さっさと出て行け」

「おー怖い怖い」


 面白そうに怖がるふりをして男は出て行く。

 一人残ったレオンは大きく溜息を吐くと椅子に座る。


「どうしてこんなことに」


 まじりっけのない後悔の声が部屋に消えていく。

感想誤字指摘ありがとうございます


》国や神殿に適格者が現れたこと、ましてその細かな情報が

わりとしょうもない理由だったりします


》相変わらず人の扱いが酷い話ですが、こーぎったんぎったん~

アーエストラエアに戻ったらしでかします


》変化のレベル上昇は1回1レベルですか? 10、100単位だと

100どころか、カスントのレベル2000までいっきにいけます

でもセルシオは殺しに躊躇いがあるので、手加減しても虐殺しそうなカンストとか無理ですね


》少し前、小説の存在意義について調べました

難しいことはよくわかりません。楽しく書けたらそれでいいじゃないと思いつつ書いてきました


》前の作品もそうですが、アイディアはすごくいいのに~

淡々と進むのはもう仕様と割り切っていたり。いや割り切っちゃいけないんでしょうが

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