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38 復讐の錆びた刃 前

 時が流れる。冬が終わり、春が過ぎ、初夏が来て、夏も盛りを過ぎようとしている。

 リンカブスでの騒動に比べると平穏ともいえる日々が過ぎていった。ダンジョンに行き、資料庫で調べものをして、時々街の外に気晴らしに出かける。そんな落ち着いた日々だった。

 騒がしさといっても、一度様子を見に来たアズとリジィの間でセルシオが引っ張りまわされた程度だ。その時はイオネが漁夫の利を得た。それを得とイオネが感じたかはわからないが。

 十分以上の装備のおかげでダンジョン探索は順調に進み、百階近くまで到達している。

 一方で調べものの方は順調とはいえなかった。一度読んだ薬学関連の本を読み直すなどして、調査を進めていっている状態だ。

 セルシオたちの強さはというと、進んだダンジョンに見合うだけの強さを得ている。

 セルシオはレベル220で、対人戦のハンデもほとんどなくなった。剣ツールの成長はまだだが、技量自体は上げている。治療魔法ツールは成長し、回復量が上がっているのでさらにしぶとくなっている。

 リジィのレベルは197で、ツールは新たに雷導と器術(雷)を得ている。器術のおかげで接近戦ダメージが上がったので、活かせるようにイオネから本格的な手ほどきを受けている。

 シデルのレベルは206。最近ツールを成長させてジョブ魔術戦士を得た。炎をまとった斧の一撃は必殺の域に到達していて、イオネの破壊力に迫ろうかという勢いだ。新しく両刃の鋼製グレートアックスを買っており、頑丈と破損修復(弱)の魔法がかけられている。

 イオネのレベルは211。ツール成長はないが、レベルが上がったことで鉄拳の威力も上がっており、パーティー随一の破壊力ということにかわりはない。

 順調に日々が過ぎていき、このままの生活が続くと思っていたある日、シデルが手紙を残して荷物ごと消えた。

 その日はセルシオたち三人は出かけていて、宿に帰ってくるとベッドの上に一枚の手紙が置かれていた。

 それをちょっとしたことづけだと思ったイオネが拾い、読み上げる。


「パーティーを抜ける。事情はセルシオが知っている……え?」


 書かれているのはこれだけだ。

 短すぎる内容に戸惑いつつ、イオネとリジィは視線をセルシオに向けた。そのセルシオも内容に驚いている。


「もしかして事情を知らないのですか?」

「知ってる。でも手伝うって言ったんだ。一人で行くとは思ってなくて」

「事情ってなんなの?」


 リジィの言葉に一瞬だけ言っていいものか迷うが、話してもいいと手紙に書かれているので知っていることを話す。


「復讐ですか」

「全然気づかなかった」

「一度だけ復讐心をむき出しにしたシデルを見たことがある。普段と雰囲気がまったく違ったよ」

「そう、ですか……これからどうします? このまま私たちだけでダンジョン探索を続けますか?」


 イオネの口調からはその気は感じられない。


「追うよ。手伝うって言ったんだ、あれに嘘はない」


 ふと数ヶ月前の占い師の言葉が思い出された。ここ数ヶ月はなにもなかったが、このシデルへの手助けが発端になるかもしれない。だからといって止める気はない。あの夜に約束したのだから。


「私も加勢しますわ」

「あたしも」


 三人は視線を交わして頷いた。

 荷物をまとめつつ、話し合う。


「まずはどこに行ったか調べないといけませんわね」

「ヒントを持ってそうなのは、教会とオータンさんかな」

「オータンの方から行ってみましょう。一言くらい挨拶して出ていると思いますから」


 荷物をまとめ終わった後、三人は外に出る。時刻は午後四時。シデルが出たのがいつかはわからないが、距離は丸一日開いているわけではないだろう。順調に情報を集めたら、道中で追いつけるはずだ。

 シーズンズ家に着いた三人は、門番にオータンへと取り次いでもらう。

 三人は客室に通され、すぐにオータンが入ってきた。オータンの目は充血し赤かった。


「シデルのことですね?」


 椅子に座ってすぐに、オータンは口を開く。


「うん。どこに行ったか知っていれば教えてもらえませんか?」

「私は教えてもらっていないんです。ただ復讐のヒントが見つかったと教えてもらい、別れを告げられただけで。死に別れることになるかもしれないから、必要以上近づかないようにしていたのだと、今日ようやくわかりました」


 行かないでと止めたが、シデルは止まらなかった。好きだと愛していると思いのたけをぶつけても駄目だった。

 伝えられるだけの想いを言葉にしても、シデルの復讐心を揺るがしはしたが、止めることはできなかった。

 オータンはそれで諦めはしていない。しばらく泣いたが、動き出したのだ。


「家の者たちにシデルのことを調べに行ってもらいました。少なくともどこ行きの馬車に乗ったかくらいはわかるはずです」

「俺はその情報が集まる前に、教会に行ってきます」

「教会ですか?」

「道場破りのことを調べてもらっていたらしくて。教会から情報をもらったから動き出したんだと思います」


 よくよく思い出してみると十日前からどことなく落ち着きがなかったのだ。それが情報を得たからだとはまったく気づけなかったが。


「道場破り関連の情報ならば、お金を払えば私たちでも教えてもらえそうですね」

「さっきも言ったように、俺が聞いてきますよ。すぐに戻ってくるんで待っててください」

「わかりました」


 リジィとイオネには残ってもらい、セルシオは走ってハウアスロー教会に向かう。


「情報を売ってもらいたいんですが!」

「情報ですか?」


 受付にいた神官は戸惑ったように聞き返す。


「そういうのはダンジョン管理所か傭兵ギルドの管轄だと思いますが」

「仲間がですね、ここの神官に情報を集めてもらってたんです。それで俺たちもその情報を知りたくて」

「調べるように頼んだ相手は誰かわかりますか? そちらに聞いてみます」

「たしか高位神官のラーン様とエゼル様だと。クレイル神官もなにか知っているかもしれません」

「ラーン様とエゼル様ですか!?」


 出世街道にのっている二人の名前が出てくるとは思っていなかった神官は驚きの声を出す。


「えっと、教会に関する重要情報だと渡すのは無理だと思いますが」

「いえ教会に関することではなく、道場破りという賞金首の情報なんです。教会の情報網を使って探してもらっていたみたいで」


 動いてもらうためのお金として千コルジ入った袋を渡す。その重さに受付の表情は上機嫌なものとなる。


「教会に頼むにはまたおかしなものですね……わかりました、少々お待ちください」


 受付はその場から立ち去り、クレイルを探しに向かう。

 ちょうど神官が集まり仕事をしている部屋にいたので、苦労せず見つけることができた。クレイルは道場破りについて知っていた。情報を受け取りシデルに渡したのがクレイルだったのだ。

 二十分ほどで受付に戻ってきて、セルシオに近寄っていく。


「聞いてきましたよ。道場破りそのものの情報ではなく、道場破りの後をついていっていた賊について情報を渡したようです」

「どんな情報ですか?」

「彼らの隠れ家らしき洞窟についてですね。今それらについて紙に書いていきますから」


 さらさらとメモ紙に書いていき、それをセルシオに渡す。

 隠れ家はアーエストラエアから北にある。以前オルトマンたちと依頼で行ったネルゼウ、その近くにあった川を越えて、そこから北へ徒歩十日で荒地に到着する。そこに地下洞窟がいくつかあり、その一つを隠れ家として使っているらしい。

 メモにはどの洞窟が隠れ家なのか、賊の規模、最近の活動といった情報まで書かれている。


「わりと詳しく調べたんですね」

「みたいですね」

「ありがとうございました」


 ほしかった情報を得て、セルシオはシーズンズ家に戻る。日は既に傾き始め、夕日が街を染め始めている。

 門番に顔パスで通してもらい、オータンの部屋に入る。部屋にはスフリもいて、リジィの隣に座りなにかを話していた。


「行った先がわかりました。この紙に書かれています」


 オータンは差し出されたメモを受け取り、読んでいく。読み終わったそれをセルシオに返しつつ口を開く。


「こちらも情報が入ってきました。馬を借りて北へ向かったらしいですから、このメモの場所に向かったのでしょうね」

「馬ってことは馬車よりも速いペースで進めますわね」


 宿場や村で乗り換えれば、馬の体力を考えずに進むこともできる。のんびりしていると差は開いていくばかりだろう。


「俺たちもすぐ出よう」

「それに反対する気はありませんが、この時間で馬車は出ているでしょうか?」

「シーズンズ家が懇意にしている馬車屋に、私が手紙と馬車のレンタル料を出しましょう。今からでも出してくれるはずです」


 十日に近い馬車のレンタルはオータン個人の持ち金を大きく削ることになるが、シデルの安全がこれで買えるのなら安いものだった。

 ありがとうとセルシオたちが頭を下げると、オータンもシデルのことをお願いしますと頭を下げた。

 オータンはすぐに手紙を書き始め、封筒に入れる。ジーズンズ家の家紋の判で封筒を閉じる。


「これを渡せば大丈夫なはずです」

「必ず生きているシデルと帰ってきます」

「私も皆様の無事を祈っています」


 オータンとスフリに見送られて、セルシオたちは馬車屋に向かう。

 事務所に駆け込んできた三人を、何事だという顔つきで見ている受付に用件を伝えて、オータンからの手紙をカウンターに叩きつける。

 懇意にしているというだけあって、すぐに家紋に気づき、上司へと手紙を持っていく。


「馬車を出すのはかまいませんが、なにぶん急なことなので、二時間ほど準備に時間をいただくことになります。よろしいですね?」

「わかりました」


 急かしても意味はないだろうと、三人は頷く。

 その時間がくるまで、三人もできるだけの準備はしようと、事務所を出て行く。携帯食料や道具を買い集め、二時間経つ前に事務所に戻ると受付から手紙を渡される。


「これは?」

「この手紙は、ネルゼウの船屋にあてたものです。馬車を載せられる船は順番待ちしていることが多いので、すぐに川を越えられるように手配しました。バンクルン船屋に持っていって渡してください」

「ありがとうございます」

「いえ、こういった手配ができるだけのお金を貰っていますから」


 オータンが動かしたお金は、一般家庭の生活費半年分だ。無理を言ってレンタルするにしても余計に支払っているので、これくらいのサービスは当然ともいえる。

 十分して準備ができたと知らせがきて、セルシオたちは街の出入り口に向かう。

 そこにあったのは二頭立ての小さめの幌馬車で、五人も入れば窮屈に思えるものだ。造りはしっかりしているので、手荒い扱いにも平気だろう。食料は十日分積まれている。

 すぐに乗り込み、出発してもらう。暗くなり始め、人影のない街道を馬車は進む。

 馬車は基本的に止まることなく進んだ。そんな進行では御者や馬が持たないが、それは道中の村で交代して解決している。

 魔物や賊に警戒するのは三人の役目だ。このため三交代で寝起きし、周囲の警戒をしていた。

 急いで移動したおかげか、以前は四日かけた距離を二日もかけずにネルゼウに着いた。運がいいことに、ネルゼウまでは魔物などに襲われることなく順調に来ることができた。

 馬車を町の入り口に置き、そこにいた馬車屋の従業員にシデルのことを聞く。特徴を伝え、ほかの者にも聞いてもらうと、覚えている者がいた。


「覚えてるぞ。馬も人もずいぶん疲れている感じだったのに、目だけはギラギラとしてたから、印象に残っている。

「見たのはいつですの?」

「六時の鐘が鳴る前だ。話を聞いたら日が上る前に来ていたらしい。急いではいるが、起こすのは迷惑になるんで待っていたと言っていたよ」


 今は午後三時半くらいだ。差は開いても縮まってもいなかったのだろう。ここでシデルがロスした時間分、縮まったと知り三人は少しだけ安堵する。


「その後、彼はどうしました?」

「馬をうちに預けて、船着き場に向かったよ。あの時間だったら、船が出るまで少し待ったんじゃないかな。船が動き出すのは七時からだし」


 情報に礼を言った三人は町に入る。


「バンクルン船屋だっけ?」


 確認するように聞いてくるリジィにセルシオは頷く。


「普段なら観光がてら自分で探すところですが、今は探す手間も惜しいですわね。そこらを歩いている人に聞きましょう」

「それがいいね」


 早速近くを歩いている人に聞くが、荷を解いてのんびり歩いている旅人だったようで知らなかった。礼を言って、さっさとほかの人物に話しかけて聞き、その人物も外し、三人目でようやく場所を聞くことができた。

 教えてもらった場所に行き、看板を確認して入る。


「すぐに手配しますが、一時間ほど時間かかりますので、少しお待ちください」

「わかりました」


 セルシオたちは頷き、建物の外にでる。

 ぽっかりとあいた時間に、なにをしようか考える。


「休憩時間と思ってゆっくりしようか。まともなご飯食べに行こ」

「携帯食ばかりで寂しい食事でしたからね」

「リジィはなにを食べたい?」

「なにがいいかな……あ、オムライスだって! あそこがいい」


 オムライスと書かれたのぼりを見たリジィが指差す。


「イオネもあそこでいい?」

「ええ」


 時間帯が中途半端なためがらがらだった店に四十五分ほど滞在し、バンクルン船屋に戻る。


「こちらの札をうちの名前が書かれた船に持っていってください」


 そう言って渡された木札をポケットにしまい、三人は馬車に戻る。

 三人が町にいる間に、馬も御者を交代していて、馬車自体の点検も終わっていた。

 馬車に乗って移動し、船着場に着くと、すぐに船に乗ることができた。

 ゆるりとした流れの川を十分と少しかけて渡り、すぐに北へ出発する。

 この道中では二度魔物の襲撃を受けた。一度目はリジィが警戒している時に前方にいた魔物を御者が発見し、リジィが雷線で追い払った。二度目は夜中にセルシオが気配を察して、馬車を止めてもらい追い払った。

 馬車は目的地まで一日といった距離にあるミツサイドという村で止まる。契約で移動はここまでとなっているのだ。この先は馬車での移動に適した場所ではないし、賊がいるところまで一緒に移動するのは危険だ。

 食料の補充をしながら、シデルの情報を集めていく。

 それで二時間前まで滞在していたいことがわかった。宿で半日ほど休憩して出発したらしい。


「さすがにここまでぶっ通して移動して疲れてたのかな」

「私たちみたいに交代で寝るなんてことはできませんからね。それに賊は近いですから、体調を整えるのは必要なことでしょう」

「俺たちはどうする? 最悪とはいわないけど、万全ってこともない」


 睡眠不足というわけではないが、体の芯に疲れが残っている感じはする。ずっと馬車の中で寝起きしていたのだ、疲れも溜まるだろう。


「シデルが徒歩だったら少しは寝ていってもいいと思うのですが、馬に乗っていったということですからね。ここはすぐに出発した方がいいかと。私たちは徒歩ですし」


 三人とも馬には乗れないのだ。少しでも進んで、道中で休憩した方がいいと考える。


「リジィもそれでいい? 疲れてるなら少しくらいは休めるけど」

「大丈夫。あたしだって挑戦者だよ。これくらいはへっちゃら。早くシデルさんを追おう?」

「ん、じゃあ出発しよう」


 イオネとリジィは頷きを返す。

 ミツサイドを出て五時間も歩くと、風景は草原から草木の生えない荒野へと変わった。地面には大小さまざまな石があり、速度をだして移動はできないと思える。これならばシデルとの距離が大きく開くことはなさそうだ。

 賊のいる洞窟はまだ先だ。目印となる岩や山の位置はわかっているので、荒野を流離うことはない。


「そろそろ休憩しませんか?」


 疲れた様子を見せるリジィを気遣い、イオネが提案する。日が暮れても進んでいたが、さすがにリジィにはきつそうだった。


「そうだね。ここまできたらシデルも徹夜で進むことはないだろうし休もうか。どれくらい休む?」

「……六時間で私とセルシオの二交代でいいかと」

「それでいいよ。そういうことだから、リジィはご飯食べたらすぐ寝ちまいな」

「ありがとう」


 携帯食を味わうことなく詰め込み、リジィは薄手の毛布に包まってセルシオの膝を枕にして横になった。


「じゃあ、私も寝ますね」

「うん。おやすみ」


 毛布を下に敷き、荷物を枕にしたイオネも横になる。

 時間が流れていき、東の空がうっすらと明るくなっている。しっかりと休みの取れたリジィは疲れの無い様子で起き、残る二人は少しだけ寝不足な様子だ。しかし最低限の休息は取れたので、体調が悪くなったということはない。

 顔を洗い、ブラックのコーヒーを飲んで眠気を飛ばした二人は、賊との戦闘があるかもしれないと気合を入れる。

 歩き出した三人は昼過ぎに、目的地へと到着した。


「もしかしたら周囲から観察しているシデルに会えるかもって思ったけど……」

「すでに始めてますわね」


 静かに洞窟入り口まで移動したのだが、騒がしい物音が聞こえてくるのだ。あとは空気穴らしき小さな穴から黒い煙が出ている。炊煙かもしれないが、もしからしたら注目を逸らすためにシデルが火を放ったのかもしれない。


「行く?」


 聞いてくるリジィ、行くしかないなと二人は頷いた。

 洞窟は緩い下り坂になっており、人が住んでいるためか松明があちこちに置かれ、わりと明るい。道幅も広く、人が五人並んでも余裕がある。

 

「血の匂いが」


 そう言ってリジィが顔を顰める。シデルが暴れているのか、捕まえた人を日常的に嬲っているのか洞窟の空気には血の匂いが混ざっている。

 警戒しつつ三分ほど進み、セルシオは先の方に四人の気配を感じた。

 小声でそれを伝え、静かに移動する。壁を掘って造った部屋に誰かいるようで、声が聞こえてきた。耳を澄ませば情報を集められるかと思っていたが、布の仕切りを潜りその四人が出てきた。


「誰だ!?」

「同類には見えないし、乗り込んできた奴の仲間かもしれませんぜ!」

「捕まえれば、奴にとっての人質になるか」


 賊たちは腰のナイフを抜いていく。動きからそれなりに戦えそうだとわかるが、手強そうだと感じる者はいない。


「殺さずに気絶させよう。なにかわかるかもしれない」


 言葉通りに情報を求めての発言だが、リジィに人を殺させたくはないという思いもあっての発言だ。


「わかりましたわ」

「うんっ」


 セルシオとイオネが前に出て、リジィは後衛でいつでも雷線を撃てるように準備しておく。

 二人はいっきに賊との距離をつめ、鞘をつけままの剣と拳を振るう。

 戦う前に感じたように手強い者はおらず、あっさりと全員気絶させることができた。常人の強さは超えていたが、レベル100もないように感じられた。

 気絶した四人を出てきた部屋に運び込み、そこにあった布を裂いて口を塞ぎ、手足をしっかりと縛っていく。

 そのうちの一人を起こして、現状を聞いていく。最初は口答えしていたが、剣を首に当て少しだけ皮膚を斬ると素直に答えていった。

 聞きたいことがなくなると、イオネが再び気絶させる。

 聞けた情報から、シデルが来ていると確定した。暴れ始めて一時間も経っていないことも。

 賊の戦闘員は約五十人で、一番強い者でも推定レベル170。道場破りに頼ってばかりだったので、あまり強くないということらしい。

 シデルが洞窟内のどこに向かっているかはわからないが、おそらく親玉のところではないかと思われる。

 ついでに道場破りの居場所を聞いたが、それは知らなかった。知っているのはトップ辺りらしい。


「聞くことは聞きましたし、奥へと向かいましょう」

「そだね」


 賊たちがあまり強くないということなので、緊張感が緩くなった。

 だが思いのほか広かった洞窟内をうろつき次々と賊と鉢合わせし、連続して戦うことになり、弱くても数が多いと面倒だと学び、緊張感は元に戻る。

 戦闘回数が十回に到達し、気絶させ縛って転がした数が三十人を超え、三人はようやくシデルにおいついた。

 川の流れる大広間で、シデルは八人を相手に戦っている。シデルを相手しているのは五人で、残り三人は少し離れたところで、指示を出したり、指示を出している者を守っている。一度に五人相手は格下でもきついのか、いまいち攻めきれていない様子だ。

 入り口から聞こえてきた足音に、シデルは賊を相手しながら増援かと舌打ちする。しかし、


「誰だっお前たち!」


 という親玉らしき男の驚きの声で、増援ではないのかと疑問を抱いた。

 そこにセルシオの声が聞こえ、どうしてここにと驚く。


「リジィ、シデルに援護をっ」

「わかったっ」

「私たちは加勢ですわね?」

「当然!」


 セルシオとイオネはシデルの隣へと駆け出す。その勢いのままシデルを囲む二人を蹴り飛ばす。


「こっちは俺たちに任せて、シデルはあっちのリーダー格に行って!」

「……っ、わかった!」


 感謝と罪悪感を抱き頷く。

 シデルの加勢に動揺している隙をついて、賊たちの間を通り抜け、ボスへと走る。


「ちっ相手は消耗してるっさっさとケリをつけちまうぞ!」

「「おうっ」」


 高みの見物をしていた賊たちはナイフと剣を抜き、シデルへと駆ける。

 援護を受け、背後に頼りになる仲間がいるシデルの動きはこれまで以上で、近寄ってきた賊二人を二振りで斬り捨て、親玉へと迫る。

 強さの差に及び腰となった親玉の頭へと斧を振り下ろしかけ、狙いをずらす。肩から先を斬り飛ばされた親玉の悲鳴が響く。シデルは振り抜いた斧を放し、悲鳴を上げる親玉の顎へと拳を振り上げた。親玉はそれで意識を失い、地面に倒れる。

 道場破りのことを聞く前に死なれても困ると、嫌々ながら治癒薬を使い、腕の怪我を治し血を止めた。

 振り返ると、セルシオたちも五人を気絶させていて、少し離れた位置では襲い掛かってきた賊二人を気絶させたリジィが見えた。

 リジィは器術(雷)のスキル、ショックアタックを使ったのだ。筋力はあまり高くは無いが、殴った際に発生する雷は魔力の高さのおかげで、人を簡単に気絶させられるだけの威力があった。これまでの戦闘経験や魔王級に比べたら大抵の相手は迫力不足で、落ち着いて拳を当てられるだけの度胸もある。もう街のチンピラに怯えることもない。

 戦闘を終えたセルシオたちは周囲の警戒をしつつ、シデルに近寄る。


「約束したとおり、手伝いにきたよ」


 勝手な行動に罵声を浴びせられるかもと身構えていたが、予想していない言葉にシデルはすまなさと嬉しさを混ぜた笑みを浮かべた。


「ありがとう」


 頭を下げたシデルにイオネが近づき、でこぴんをする。


「一人で行くなんて水臭いですわよ。仲間でしょう?」

「そうだよ、いつもあたしたちがお世話になってるから、こんな時くらい頼ってくれていいんだよ? それにオータンさんもすごく心配してた。さっさと用事すませて帰ろう?」

「……こんな血なまぐさい用事には付き合わせたくはなかったんだがなぁ」


 言葉とは裏腹に感謝の想いを込めて、妹分のように思っている二人の頭を軽く撫でた。


「セルシオ」

「ん?」

「二人と一緒に先に出ててくれ」

「どうしてか聞いてもいい?」

「情報を聞きだすのに、手荒な真似をするかもしれんからな。お前たちには見せたくない」

「また一人でどこかに行こうとしない?」

「ああ、約束する。道場破りのところへはお前たちと一緒に行く」


 何秒かセルシオはシデルの目を見て、嘘がないか読み取ろうとする。

 シデルは逸らしはせず、その視線を受け止める。


「わかった」

「外で待ってますからね?」

「後でね」


 言葉を信じ、三人は来た道を戻っていく。その途中で怯え隠れていた、さらわれていた人たちに自由に逃げていいのだと説明しつつ。

 三人の気配が遠ざかったのを確認し、穏やかな雰囲気を一変させたシデルは親玉を蹴り起こした。


「なっ!? 足をどけやがれ!」

「黙れ! 余計なことは喋るな」


 斧を首に当てる。


「脅そうってのか? それくらいでびびる俺じゃねえぞ!」

「脅しじゃない」


 そう言うとシデルは耳を削ぎ落とす。

 再び親玉の悲鳴が上がる。


「脅しじゃないってわかったところで、聞きたいことがある」

「答える! 答えるから殺さねえでくれっ!」

「道場破りはどこにいる?」


 命乞いには答えず、静かな口調で道場破りの居場所を尋ねる。


「道場破り? なんであいつのことなんか!?」

「余計なことは喋るなといったぞ?」


 首に当てられた刃を押す力が増し、親玉は小さく悲鳴を上げた。


「わ、わかったから。あいつはベンセルトっていうちんけな村の裏山にいる。そこに捨てられていた廃墟を住処にしてるっ」

「ベンセルト? たしかネルゼウの北東辺りにある村だったか」


 ネルゼウの川を渡った時に小耳に挟んだのだ。その時は関係ないと聞き流したが。

 ベンセルトは親玉の言うとおり普通の農村で、人口も三百人弱と小さな村だ。変わった野菜を作っているわけでもない。


「ああ、そのとおりだ!」

「そこに行ったら誰もいないなんてことは」

「ないっ。ここ一年はずっとそこから動いてないんだっ」


 たまに監視を送り、動かない道場破りにいらいらとしていたのだ。


「そうか。聞きたいことは聞けた」

「足をどけてくれよっ」

「死ね」


 シデルは躊躇いなく斧を振り下ろし、首を斬り飛ばした。賊たちも仇なのだ、見逃すわけがない。

 絶望に目を見開いた親玉の首が転がっていく。それをしばらく見てから、視線を外しセルシオたちが気絶させた賊たちの首を次々とはねていく。

 斧から血を滴らせるシデルは一つ溜息を吐いた。仇討ちの一部を完遂したが、達成感は小さかった。


「やっぱり道場破りを殺さないとだな」


 セルシオたちには見せられないと賊たちの服で血を抜き取り、血臭に満ちた広間から出て行く。

 洞窟から出ると、捕らわれていた者たちはいたが、セルシオたちはいない。そのことに首を傾げ、周囲の者たちに聞く。


「あの人たちなら、食料とか金品を集めてくるとまた中に」


 ここにいる者たちの旅費や食料を集めに行ったのだ。それをシデルも察した。


「手伝うか? いやここで見張りしとくか」


 賊の生き残りや出かけていた者、魔物の襲撃もありうるのだ。警護は必要だろうとその場に留まり、三人を待つ。

感想ありがとうございます


》勿論その気持ちがきちんと~

出会った頃のウィントアみたいに一方的では駄目ということですね


》アクセサリーでいけるダンジョンにセルシオ達が行ってたら~

》ちょ、今回の4つのアクセの先にあった~

行ってたらわかってましたね。アクセサリーを渡した時点では、誰も奥にあるものはわかっていないんで行こうと思わないんですが

方法はセルシオも考えた殺して生き返らせる。神々の所持していた道具で時間を操作する道具で肉体時間を戻す。クローンを作り、殺して出た魂稀珠を入れる。といった実行不可能な方法を提示されましたが。


》今回は久々のほのぼので面白かったです

久々のほのぼのにして、最後のほのぼのでした。この先はほのぼのはないと思われます


》セルシオが伝説の編み物師になる

それだったら平和的に物語が進んで、今書いている部分全部必要なくなってしまいますね!


》3人が扉の先で手に入れた知識って~

道具と金脈の人はお金儲けのためそれを求めました。金銭トラブルでわりと困難な人生を送りそうです

スキルの人は憧れからそれを求めたので、誰に教えず、これから訓練に励みます。習得にそれなりに時間がかかるので、それまではトラブルにはあわないかと。その後は弟子にしてくれといった人や国からの誘いがくるのだろうと思います

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