37 プレゼントフォーユー
一月も半ばに四人はアーエストラエアに帰ってきた。戦いが終わり、傷を癒した多くの傭兵が既に移動していたため、行きよりは楽に帰ることができた。
なんとなく落ち着く街の雰囲気や風景に、セルシオは居場所に帰ってきたんだなと思えていた。
赤鳥の群亭に入るとすぐにセオドリアが声をかけてくる。
「お、帰ってきたか」
「帰ってきたぜ、旦那」
「全員無事だな、いいことだ。オルトマンたちは元気だったか?」
「一段落つきましたが、オルトマンという方は無事とはいえませんね」
「なにかあったのか?」
事情を話すとセオドリアの表情は暗くなる。会う機会は減っているとはいえ友達なのだ、心配する思いはある。リンカブスの方角を見て、無事を祈る。
四人は邪魔しては悪いかと、少し待つ。一分ほど黙祷していたセオドリアは目を開いた。
「すまんな。部屋を取るんだろう?」
「はい。いつもと同じように四人一部屋で、一ヶ月先払いでお願いします」
「ん、わかった。部屋は前と同じだ。あ、そうだ」
忘れていたと手を叩く。それにリジィが小首を傾げて聞く。
「なにを忘れてたの?」
「何度かお前さんたちに客が来ていたんだ」
「客? シーズンズ家か?」
自分とリジィとついでにイオネの帰りを知るために尋ねて来たのかと、シデルは思う。しかしセオドリアは否定した。
「ガッドブームの奴らだ。挑戦者で赤い布を巻いていたから間違いないだろう」
「ガッドブームって、この街で最古のパーティーの?」
セルシオの確認に頷いた。
「なんの用事なんだろ。特に接点ないんだけど」
「どんな用事かは聞いてないな。ただお前さんたちの特徴を聞いてきたんで、いたと教えたんだ。剣呑な雰囲気とかじゃあなかったから教えたら、五日に一度の割合で聞きに来るようになった」
「次はいつ来る?」
「明後日明々後日くらいだろうな」
「ふーん、まあ用件は会ったら聞けばいいか」
鍵を貰い部屋に入った四人は、その日はのんびりと過ごして旅の疲れを取る。
そして次の日、シデルとリジィはシーズンズ家に挨拶に、セルシオとイオネはダンジョン管理所にエルメアからの手紙を渡しに行く。
挨拶ついでに、宝石の換金ができるか聞いてとシデルに頼み、宝石を預けた。
管理所に来た二人は、地下の資料庫に行き、受付に用件を伝える。
「第二第三を利用したくて、王族の手紙もあると。上の受付に行って用件を伝えてください。私は下っ端で決められないんですよ」
そいうことならと二人は階段を上がり、受付に用件を伝えた。
「ちょっと待ってください。その手紙を借りていいですか?」
「どうぞ」
セルシオから受け取り、後ろの棚から本を取り、なにかを調べていく。調べているのは手紙の封にもなっているリンカブスの紋章だ。
寸分の違いもないことを確認した職員は、上司に話して手紙を渡す。上司が手紙を開き、読んでいく。読み終えた手紙を丁寧に閉じると、それを持ってどこかへ向かう。
「少々時間がかかると思うので、資料庫で待ってもらっていいですか?」
「どれくらい時間かかりますの?」
「最大で三時間くらいかと」
「それくらいなら」
「ではのちほど、係りの者が結果を伝えに行くと思うので、名前をお聞かせください」
二人は名前を伝えて、資料庫で時間を潰す。二時間を過ぎた頃に、資料庫の受付をしていた職員が二人を呼び出した。
「結果をお伝えしますね。第二の利用許可は下りました。第三は駄目です。ですがこちらで第三からこれはと思うものを探すことになりました。このことはこちらからリンカブスへ連絡いたします。あとはこれをどうぞ」
メタリックグリーンのコインを差し出してくる。表には本の絵が彫られて、裏には許可証といった文字が刻まれている。
「今度からこれを受付に提出してください。そうすれば第二へと入ることができるようになります。第二を使用するにあたっての注意は第一と変わりません。注意を守ってご利用ください」
「わかりました。早速行っていいんですよね?」
「はい」
許可を貰い、どんなところか見てみるため二人は第二へと続く扉を開く。
第一とどこか違うといったことはない。変わらず本がずらりと並んでいる。利用している客も少ないがいる。
近くにあった本を手に取ると、二百五十階以降にいる魔物について書かれた本だった。第一にはこの階層の魔物の情報はない。少し離れた位置でもイオネが本を読んでおり、それにはオリジナルスキルについて書かれていた。習得方法は書いていないが、どこの誰が生み出し、どんな効果を持つか書かれている。習得したいものがあれば、書かれている人物の子孫を探せばいい。その情報だけでも、オリジナルスキルを求める者にはよだれものだろう。
第一とは秘匿レベルの違う情報に、二人は期待する。ここならばなにかしらのヒントがあるのではと。
「今日のところは目星をつけるだけにしようか」
「そうですわね。シーズンズ家に行った二人も、そろそろ帰って来る頃でしょうし」
三十分ほど薬について書かれた本を探した二人は、資料庫を出て宿に帰る。
宿前で戻ってきたシデルとリジィに会い、そのまま宿に入る
昼食を注文して、互いに報告し合う。
「こちらは第二資料庫の利用ができるようになりましたわ。情報もいいものが揃っていました」
「そりゃいい情報だ。鑑定してもらった宝石は九十万弱だった。換金はまだしていない。欲しがる奴がいれば、もう少し値段は上がるってさ。そういった奴を探すか探さないかはこっちで自由に決めてくれって話だ」
「九十万でも十分大金だから、その金額でいいと思うよ、俺は」
「あたしも」
「私もそれで十分ですわ」
「じゃあ、現状でいいと伝えておくよ」
シデルも高値で売るつもりはなかった。現状では大金を必要としていない。
「んで、使い道だが」
「新しい装備かな」
鎧がそろそろ買い替え時かもしれないと思い、セルシオは言う。
「それに反対はしないが、全部それにつぎ込むのもどうかと思うんで、一人十五万くらいで後はパーティーの財産として残しておくってことでどうだ?」
「今の階層でそれだけの値段をつぎ込めば十分でしょう。それで構いませんわ」
「じゃあ、お昼からは買い物?」
リジィの疑問に、三人は頷いた。
お金自体はセルシオが持っている。今日全員が装備を変えても、宿代は払っているし、生活費も一月分は残るので問題ない。
昼食を食べ終えた四人は武具店に向かう。以前行ったことのある「寝そべる黒猫」に入る。
いろいろ見ていくと、予算を一つの武具だけにつぎ込むと高価武具が買えるとわかる。
「欲しいと思ってたジュエルメタルは無理だが、ダマスカスやハイグラス製なら買えるのか」
つぎ込むのもありかと、シデルが考えている。その二種類は三百階辺りを探索している挑戦者も使っているのだ。悩むのも当然だろう。そのままの品ではなく強化されたものだが、不足というわけでもない。
「私もいっそのことグローブのみにつぎ込もうかしら」
「いやイオネは防具優先した方が」
攻撃力は鉄拳で十分だ。
セルシオは楽しげに悩むイオネに一応口を出す。しかしお金はイオネの自由に使えるので、強制するつもりはない。
「兄ちゃん、また選んで」
「ん? 自分で決めていいんだよ?」
「兄ちゃんに選んでほしい」
「じゃあ、探そうか」
「うんっ」
リジィのローブは既に高価武具なので、手袋や靴を選ぶかと思い移動するセルシオは、ふと月と同じ白みがかった黄色のローブを見つけた。
ルナス布製と書かれており、これも高価武具だ。今の魔布製よりも性能は上のようで値段は十三万。鋼製の鎧以上の防具だと説明が書かれている。
「これがいいかな。ローブタイプとコートタイプがあるけど、どっちがいい?」
「今までと一緒の方がいいからコートで」
「サイズはっと……」
一番小さなサイズを選んで体にあわせて、ふと気づく。一年前よりもリジィが大きくなっていることに。再会した頃は140半ばだったが、今は150を少し超えたかといった感じだ。なんとなく感慨深いものがあった。
「成長したなぁ」
「大きくなるのは当たり前だよ?」
「……うん、そうだよな。もう少し大きくなるかもしれないし、今よりもサイズ上のものを選んだ方がいいな」
このまま健やかに育ってほしいと思いつつ、別のコートを選んだ。
「これでいい?」
「うん。ありがとう」
「次は俺のかな」
残り予算二万では、グローブもブーツも今のものと大して変わらないので、リジィの買い物はこれでおしまいとした。
今使っているものを下取りに出せば、予算が増えることに気づいていない。気づくのはシデルに教えられてだ。
「剣はこれで十分とするか、もっと上を目指すか」
六万ほど使えば、二種類の魔法をかけられた鋼製の剣を買うことができる。
攻撃面では三人がいれば十分かなと思いつつも、戦力アップしておいて損はないとも思う。
「決めた、剣を買うか。少し使いづらいしね」
奪ったサーベルも使えないことはないが、直剣の方が慣れているのだ。
リジィと一緒に、剣の置かれている場所に行き、二種類強化されているものを探していく。長持ちするように頑丈の魔法がかけられたものは外せない。もう一つは切れ味増幅にしようかと見ていき、一品物で気になるものを見つけた。
「スキルブースト(小)なぁ」
その名の通り、スキル効果を増幅するのだ。いつでも増幅するのではなく、剣を握っている状態でスキルを使うと気力を余計に消費して効果を上昇させる。
このブーストはどんなスキルにも効果を発揮するのではなく、攻撃スキルのみだ。
「これはこれで面白そう。頑丈の魔法もかけられてるし、これにしようかな」
材質は鋼、形状はブロードソードだが、これまで使っていたものよりも少し長めで重さも異なる。振っていれば慣れるだろうと購入を決めた。
ここぞという時の攻撃力アップになるし、リジィに持たせても効果が出る。お買い得だろうと思えた。
鎧の方も二百六十階に出るという蛇の皮を使った鎧を見つけた。鋼並みの硬度で、炎と氷に耐性がある。重さはこれまでのアビロムカデの革鎧よりも重いが、鉄鎧よりもまだ軽い。色はリジィの髪と同じ青。値段は七万だった。
セルシオが選び終えた頃には、シデルもイオネも選び終えていた。
「俺はダマスカス製の鎧だ。軽量化の魔法がかけられているから予算を少し超えたが、今使っている鎧を下取りに出せば足りるはずだ」
ハイグラス製の鎧と迷ったが、そちらの軽量化の魔法がかけられた鎧は下取りに出しても足りそうにないので止めたのだ。
「……下取り? あ、そういやそんなこともできたんだっけ。前買った時はそんなことをしなかったから気づかなかったよ」
「私はセルゲンクロコダイルという魔物の革を使った手甲とブーツと胸当て一式に、魔布製の道着ですわ。予算はオーバーしましたが、手持ちのお金を足してギリギリといった感じでした。私も下取りのこと忘れてたので、なんとか足りると思いますわ」
道着は白の半袖ズボンタイプで、手甲などは艶のある黒灰色だ。どれも魔法はかけられていないが元から軽いし、使っていたものより丈夫だ。
一度に会計して、以前と同じように金額に驚かれた。使ったお金は予定していた六十万ほど。使っていたものを下取りに出したので、お金は十万弱残った。
サービスで細かなサイズあわせをしてもらい、ついでにこれまで使っていた盾などを修理に出した後、四人は店を出る。この防具で、二百階までは確実に変えずにいけるだろう。盾やブーツなどを今日買ったものに合わせれば、二百五十階でも十分通用する。
明日から探索を始める予定だが、これまでよりもペースを上げてもしばらくは平気なはずだ。
どこかに寄り道することなく宿に戻り、庭で動きを確かめる。そのまま今日の訓練に移行していき、日がそろそろ沈むといった頃、セオドリアに頼まれて、従業員が四人を呼びに来た。
ガッドブームからの客が来たとのこと。
「一日早いね」
「そうだなぁ」
兄妹は首を傾げたが、セオドリアが言ったのは予定なので別におかしなことでもなかった。
食堂に入ると、腕に赤い布を巻いた三人の挑戦者がカウンター近くにいた。男二人に女一人で、三人とも二十後半に見える。身につけている武具はセルシオたちと同格だが、細かな傷がついていて着慣れている感がでている。
やって来た四人に気づき、セオドリアが指差す。
「来たぞ、あいつらがお前さんらの待っていた奴らだ」
「どうも」
セオドリアに礼を言って、三人はセルシオたちに近寄ってくる。
「話があるんだが、いいか?」
「どんな話なんだ?」
一番年上のシデルをリーダーと思ったか、三人組の視線がシデルに集まる。
「前回の奉納祭のバザーで、古いアクセサリーを買ったのはあんたたちであってるか? 食器とかと一緒にアクセサリーも売ってた露店で買ったらしいが」
「そんな露店だったのか?」
シデルがセルシオに聞く。
「たしかそれであってたよ」
「そうか! そのアクセサリーなんだが、売ってくれないか!? 買った時以上の値段を出す。二千で売ったらしいから、二倍でどうだ?」
「鑑定してもらって一つ二万以上ってわかってるから、4千でも安すぎですよ?」
「そ、そうか」
四千で買えたら儲けものだと思っていたので、少しだけ気落ちする。
「そう上手くはいかないか。鑑定しているかもと予測はしていたが」
「鑑定結果で一つ二万以上、そこにプラスして合計で十万出すから売ってもらえないかしら」
セルシオはどうしようかとシデルたちに視線を送る。
「あれを買ったのはセルシオだから、セルシオの好きにするといいですわよ」
「……すみませんが、断らせてもらいます」
「十万では足りない? 見たところ装備はいいものだけど、挑戦者になって長くはなさそうだから、十万はそれなりに大金だと思うけど」
「十万は確かに大金ですけど、あれは役に立ってるんで手放したくないんです」
「そういうこと、それは困ったわね。ちなみに役立ってるってどんな風に?」
求めているアクセサリーがどのような効果を持つのか彼らは知らないのだ。彼らはアクセサリーの効果が目当てではなく、アクセサリーそのものをわけあって求めている。
「力とか魔力とかが上昇して、戦力アップしてますから」
「そういった効果なのか。だとしたらこんな条件はどうだろう? 同じ効果の道具と交換する。戦力低下が嫌なんだろう?」
「それなら問題はないかな。俺はそれでいいけど」
シデルたちはどう? と見る。
同じ効果の物が手に入るのならば執着がないのは、シデルたちも同じようで頷く。
「俺も問題ないぞ」
「私もですね」
「あたしは、兄ちゃんからもらったものを手放したくない」
大事なプレゼントだとリジィは髪飾りを両手で握り締める。
「リジィはそうでしょうねぇ」
「だな。とりあえず、かわりになる道具を集めてきたらどうだ? こっちでもできるだけ説得はしてみるから」
「助かる」
彼らも大事にしている物を無理矢理奪うつもりはないのだ。そんなことは気が引けてできない。
説得すると言ってくれたシデルに頭を下げた。
「どんな効果があるのか、詳しく知りたいんだが。あと一応アクセサリーを見せてくれ、偽物だったら交渉に意味はない」
それぞれ身につけている物を示していき、三人は探しているものだと頷いた。
その三人にセルシオは効果を言っていく。
「筋力と魔力と頑丈さを十パーセント上昇して、一日一回最大三十秒間ステータスの運動に百追加」
それを聞いた三人の表情が難しいものに変化した。
「十パーセント増しの分はなんとかなる。だが最後のやつが厄介すぎる」
「短いとはいえ百追加だものね。まあ、なんとかしないと」
難しいということなので、セルシオは代替案を出す。
「まったく同じじゃなくて、似たような効果か同等の価値で面白そうなものがあればそっちでもいいですよ? なんでもいいわけじゃなくて戦闘に役立つ物って条件がつくけど」
日常生活に役立つ物を持ってこられても困る。その場合はよほど面白いものでなければ受け取らなかっただろう。
「そうか、それならまだ探しやすいな」
探してくると行って三人組は去っていった。
出て行く三人を見送り、シデルはリジィを見る。視線に押されるように髪飾りを握ったまま、リジィは一歩下がった。
「さてこっちはリジィの説得だが」
「それは簡単ですわ」
「簡単か?」
「ようはそれ以上に大事に思える品物をセルシオがプレゼントすればいいのです」
そのプレゼントとは? とシデルは先を促す。
「それは」
「それは?」
「セルシオが考えてください」
丸投げにシデルとセルシオと、話が聞こえていたセオドリアが脱力した。
こう言ったがイオネは頭の中で一つ案が浮かんでいた。結婚の証となるものを贈れば一発だろうと。それはセルシオにいろいろと足りないものがあるだろうと、自重して口に出すことはなかった。
「頑張ってくださいな、セルシオ」
「すっごい無茶振りされたような気が」
頭を悩ませるセルシオはリジィからの視線を感じそちらを見る。リジィは期待を含んだ視線でセルシオを見ていた。
この期待は裏切れないなと、リジィの頭を撫でて考え始める。
夕食を終えて、風呂に入って、寝る直前までセルシオは考え続ける。
ただプレゼントするだけでは駄目で、大事に思えるものと条件をつけられたことでさっぱり思いつかなくなっている。
答えはわりと簡単なのだ。セルシオが真剣に選んだ、形に残るものならばリジィは喜ぶだろう。答えが簡単すぎて、セルシオは逆に思いつかなくなっている。
翌日も朝から考え続ける。
「セルシオっ丸投げした私が言えたことではありませんが、探索中はこっちに集中してください!」
「ごめん。でもなぁ……」
言ったそばから歩きつつ考え始める。
そして見落とした罠を発動させた。草むらから光線が飛んできて、四人に当たる。ダメージを与えるようなものではないので、ほっとするがその後の戦闘でスキルを封じるものとわかり、リジィが一時間ほど戦闘参加できなくなった。セルシオも動きが鈍く、戦闘は実質シデルとイオネの二人でこなすことになる。
「セルシオっ」
「痛っ!?」
いまだ考えているセルシオにシデルが拳骨を頭に落とす。
「気持ちを切り替えろっ。この調子で探索するなら、俺たちここで死んでもおかしくないんだぞ! リジィを殺したいのかお前は!」
リジィが死ぬかもしれないとあっては、セルシオも考えることを止める。喜ばすことを考えて、殺す結果に繋がるなんて皮肉でしかない。
両頬を勢いよく叩き、気合を入れる。
「ごめん。探索中はこっちに集中する」
気持ちの切り替えはできたようで、ミスもボンヤリする回数も激減した。
ダンジョンから出た途端にまた考え始め集中しだす。そのセルシオの手を引くのはリジィで、それで誰かにぶつかることはないので、シデルたちはリジィに任せた。
答えは一日二日と経っても出ず、休養日がやってくる。
朝食を食べて少しして、セルシオは部屋を出ようと立ち上がる。
「ちょっと出てくる」
「どこ行くの?」
「いい考えが出ないから、一人で散歩してくる」
ついて行きたかったが、邪魔しては悪いとリジィはセルシオを見送った。
「あそこまで悩むとは思っていませんでしたわ」
「そうだな。といっても俺も答えがわかるわけじゃないんだが」
「そういえばシデルはオータンにプレゼントしたことありますの?」
「花くらいならな」
敵討ち失敗で死んでしまう可能性もあり、形に残る物は渡しにくかった。花ならばいつか枯れて捨てるなりするだろう思って、何度か渡した。だがその花をオータンが栞にしたりドライフラワーにしていることをシデルは知らない。せっかくのプレゼントだからと、オータンは捨てるという選択を選ばなかったのだ。
セルシオは散歩ではなく、相談目的で宿を出た。向かう先はハウアスロー教会。レッドシムかクレイルに相談してみようと思った。その二人が駄目ならば、クースルトのところへ行くつもりだ。シデルとイオネに聞かなかったのは、二人からリジィへと情報が流れないようにするため。
教会の受付で、小額の寄付という賄賂を贈り、二人がいるか調べてもらう。
「レッドシム神官は街を出ています。クレイル神官はいますね。呼び出しますか?」
「お願いします」
「ではそこの長椅子に座ってお待ちください」
受付が近くにいた神官見習いに指示を出すのを見ながら、セルシオは椅子に座る。
十五分ほどして、神官服に身を包んだクレイルがやってくる。
「客って誰かと思えばセルシオか」
「久しぶり。呼び出してごめん」
「休憩とろうと思ってたから別にいいよ。それで何か用事か? また厄介事でも起きた?」
「厄介事じゃないんだけど、ちょっと聞きたいことがあって」
「外に出ようぜ。また飲み物でも奢ってくれ」
「わかった」
それくらいならばと頷き、外に出る。
屋台で温かいココアを二つ買い、クレイルに渡す。
寒空の下、暖かいココアが美味しく、ほうっと吐いた息が白い。
少しの間雑談をして、ココアが温くなり始めた頃、セルシオは会いに来た目的を話す。
「クレイルはどんなプレゼントが嬉しい?」
「プレゼント? なんでそんなことを聞くんだ?
「相談したいことって、どんなプレゼントをもらえたら嬉しいかってことなんだ」
「ふーん。プレゼントねぇ、恋人でもできた?」
ちらりとアズの顔が浮かんだが、首を横に振る。
「いや、できてないよ。あげるのは妹」
「妹? あの子だよな?」
なんで妹にプレゼントをあげるのに相談しなくちゃいけないんだと首を傾げた。家族ならば気楽に渡したりできるのではと思うのだ。
「わざわざ相談することじゃなくね? 好きそうな物をあげればおしまいだろ」
「それだと駄目そうなんだよ」
「事情がよくわからないから、どうしてプレゼントすることになったのか教えてくれ」
頷き、説明していく。
「今持っている物以上に喜ばれる物を渡す、か。たしかにただプレゼントすればいいってもんじゃないな」
「どうすればいいと思う?」
「聞かれてもわからないよ。参考になるかわからないが、俺が貰って嬉しかったのは、レッドシムさんからもらった手袋とか、昇進祝いにちびどもがくれた花かな。時季にあった物とか、あって邪魔にならない物とか、心の込められた物。そういった物が喜ばれるプレゼントだと思う」
「なるほど」
セルシオは感心したように頷く。そこに思い出したことがあり、クレイルは付け加えた。
「さっきは好きそうな物って言ったけど、そういった趣味に関わりのあるやつは既に持ってる場合があるから、気をつけた方がいいって聞いたことがある。本が好きな奴に、既に持っている本を渡しても迷惑なだけだろ?」
「そだね。ありがと、参考になった」
「それはよかった」
「んじゃ、もう行くよ」
「ああ、またな」
「うん」
走り去ったセルシオを見送り、クレイルは教会に戻る。今度レッドシムが帰ってきたら、なにかプレゼントでもしようと思いつつ。
クレイルに話を聞き、セルシオは贈る物になんとなく方向性をつけた。時季にあった物、あって邪魔にならない物、心の込められた物。これらを満たすプレゼントのため向かう先は、シーズンズ家だ。
「すみませんっ」
「おうっ!? お前はシデル殿の仲間だったか」
勢いよく声をかけたセルシオに、門番は驚いた表情を見せる。
「はい! 少しお聞きしたいことがありまして」
「なんだ? サマス様なら出かけているが」
「いえ、オータンさんかメイドのララムさんって屋敷にいますか?」
「その二人ならいるが、会いたいのか?」
「はいっ」
「聞いてこよう。ここで待っててくれ」
「わかりました」
持ち場をもう一人の門番に任せた男は、屋敷へと入っていき、十分ほどしてララムと一緒に出てきた。
ララムはセルシオに一礼し、話しかける。
「お久しぶりです。私になにか用事だと聞きましたが」
「あの、編み物ってできますか?」
「編み物ですか? ええ、上手とはいえませんができますよ」
「教えてくださいっ」
勢いよく頭を下げた。
思いついたプレゼントは手作りのマフラーだ。始めは手袋だったが、サイズを正確に把握していないので、サイズの関係のないマフラーを作って渡そうと思った。
リジィはマフラーを持っているが、二枚あっても邪魔にはならないし、心を込めて作ることができるので、これだと思ったのだ。
「それはかまいませんが、理由を聞いても?」
「リジィに秘密にしてもらえるなら」
「妹さんに作るのですか?」
頷いて、発端とその経緯を話していく。
微笑ましいものを感じたのか、ララムと門番は笑みを浮かべた。
「まずは雑貨屋で毛糸とかぎ針といった編み物に必要なものを買ってきてください。編みたいものを店員に言えば、必要分の毛糸を教えてくれるはずです。練習分も必要でしょうから、多めに買ってください」
「わかった」
早速雑貨屋に走って、三十分で屋敷に戻ってくる。
そのまま中に通され、オータンの部屋に案内された。
「久しぶりですね。シデルとリジィちゃんには会いましたが、あなたも元気そうでよかったです」
「オータンさんも元気そうで。シデルとはどうですか?」
「少しだけ距離を感じるような気がしてますね。なにか私に言えない、言いたくないことがあるのかもしれません」
よく見ているとセルシオは驚きに表情を変化させた。
それでオータンはセルシオが何か知っていると気づく。だが聞くようなことはせずに、シデルから教えてもらえる時を待つことにした。
「今日は私も一緒に編み物をすることにしたんですよ。シデルに贈ろうと思って」
「一緒に習うから俺はここに通されたってことですか?」
「お嬢様に教える編み方とあなたに教える編み方は別物ですけどね。お嬢様は編んだことありますし」
「家族にマフラーを編んだことがありまして。今度はセーターに挑戦してみようかなと」
では早速とララムは二人用に準備を整えていく。
「まずはどんな風に編み上がっていくか、様子を見ていてください。はじめはお嬢様の方からです」
手馴れているようで、作り目をささっと作り、素早く編みあがっていく。オータンには2目ゴム編みで、セルシオにはガーター編みで手本を見せた。ハンカチよりも小さい模様の違う正方形が二枚出来上がる。それを見た二人は手の動きの速さに、なにがなんだかといった感じだ。
「こんな感じで編んでいくことになります。今度はゆっくりといきますね」
もう一度最初から編んでいき、同じ程度まで編み、その次は一緒に編んでいく。
ある程度教えるとララムは仕事のため、部屋を出て行く。
部屋に残った二人は集中し、静かに時間が流れていった。
日が傾いて夕日が部屋に差し込み、時間を悟ったセルシオはいつまでもいられないと片付けていく。
「ララムさんにお礼を言っていたと伝えてもらえますか」
「ええ」
シーズンズ家を辞したセルシオは宿に編みかけのマフラーを持ち帰り、その日から宿の従業員用休憩室などで隠れて編み進めていく。失敗するとそれはそこで止めて、最初から編み始め、時間のある日にララムへどのように修正するか聞きにいく。そんなことをしていたため、四枚マフラーの作りかけができた。
隠れてなにかしているとリジィたちは気づいていたが、なにをしているのかまでは気づけず、首を傾げる。
そして作り始めて二十六日経ち、セルシオは四枚、黒、白、黄、橙のマフラーを完成させた。技術はないので、一色のみで飾り気はない。
出来上がったものを見たセルシオは達成感に包まれて、早くリジィに見せたいと部屋に走って戻る。
「リジィっ」
勢いよく開けた扉の音に、ビクリと体を震わせてリジィは振り返る。武具の手入れをしていたシデルとイオネもなんだなんだとセルシオを見ている。
「な、なに?」
「これを髪飾りの代わりにあげる!」
「マフラーは持ってるよ?」
「知ってるけど、二枚あっても邪魔ないよね? それとこれは買ったものじゃなくて手編みなんだ! 頑張ったよ!」
「手編み?」
差し出された白のマフラーを受け取り、広げてみてみる。ところどころ編み方がおかしな部分があり、本当に手作りなのだとわかる。それを胸にギュッと抱く。
少し呆然としていたが、いろいろと理解してリジィは満面の笑みを浮かべた。
その笑みでセルシオはこの二十六日の頑張りが報われたと感じる。
「ありがとう。大事にするよ!」
「うん。そうしてもらえたら嬉しい」
早速首に巻きつけるリジィに、セルシオは嬉しそうな笑みを向けた。
「こそこそなにかしているのは、それのためだったのですね。手作りとは考えましたね」
「ああ、あれならあの髪飾りよりも喜ぶのは当然だな」
「シデルも嬉しかったみたいですしね」
シデルは一足先に完成させていたオータンからセーターを受け取っていた。今着ているグレーのセーターがそうだ。
常にララムに教えてもらえ、時間もセルシオより多くとれるオータンの方が完成は早かったのだ。
「同時に似たものをプレゼントとは偶然でしょうか?」
「偶然じゃないよ。オータンさんと一緒にララムさんから編み方を習ったし」
はい、と黒のマフラーをイオネに渡しつつ言う。
「私にもあるんですの?」
「ついでというか、最初からやり直したせいで四枚出来上がったんだよ」
「ついででも嬉しいですわ。ありがとう」
大事にしますと嬉しげに受け取る。
「シデルにも」
「俺にもか?」
「うん」
ありがとうと笑みを浮かべ、橙のマフラーを受け取る。
「どうせならアズにも作ればよかったのに」
「そうしようとも思ったんだけどね」
シデルはオータンから受け取っているし、橙のマフラーはアズに送ろうと思っていたのだ。しかしリンカブスに着く頃には冬が終わりかけているだろうと、時季外れになるかもと思い止めた。
「サマーセーターでも編めたらよかったんだろうけど、そこまでの技量はないしね。今年の十一月頃に間に合うようにゆっくり編んでいくよ」
「そうですか」
この日から二日後に、ガッドブームの三人組が宿にやってくる。
探し始めて十六日で品物は揃えていたのだが、説得がまだということで交換はしていなかったのだ。セルシオが大丈夫だと自信ありげに言ったので、三人は受け取り日数が延びてもさほど焦ることはなかった。
「はい、これ」
セルシオがまずは一時加速以外の道具を渡す。
差し出された三つを受け取り、三人は大きく喜んでいる。
「おおっようやく手に入ったぞ! ではこちらが約束の品だ」
筋力上昇はかわらず腕輪。頑丈さも同じく腕輪だが、こちらは上腕につけるタイプだ。魔力上昇は片手の薄い手袋だ。
「一時加速の代わりはどうなりました?」
「そっちは同じものはなかったんで、見つけてきたものから一つ選んでくれ」
そう言うとテーブルに、十五センチのペーパーナイフと小さな金属板に繋がったネックレスと小さな菱型宝石のついたチョーカーを置き、説明していく。
ペーパーナイフは剣の柄に傷をつけることなく刺し込むことができる。刺している間、刃がプラス二十センチ伸びる。この時に重さ頑丈さの変化はない。ペーパーナイフを抜けば元に戻る。十センチほどの伸び縮みはいつでも自由にできるので、不意を突くのにいいかもしれない。
ネックレスは金属板に使用者の血を塗ると身につけている間、魔術と魔法への耐性をかなり上げる。ただし害のあるなし関係ないので、自分の使った魔法にも味方からの支援にも阻害が発生し、十分な効果を得られない。事前に使った魔法の効果も減少させる。
最後のチョーカーは最大気力量の半分を消費して、ステータスどれか一つを現時点の半分、三秒間のみ上乗せする。消費した気力は、半日間、自然回復も気力回復錠でも回復しない。例えば今セルシオの筋力は四百ほど。これを使えば六百にまで上がる。使いどころを間違えなければ、強力な武器となるだろう。
「この中ならチョーカーかな」
「選ぶならネックレスとチョーカーの二つだと思ってたから、予想通りだな」
セルシオは指輪を渡し、チョーカーを受け取る。
「これで先に進める」
男は指輪を感慨深そうに握り締めた。
「それってなんのために必要だったのか聞いてもいいですか?」
少しだけ考え込み、ほかの二人と視線を交わし頷いた。
「ダンジョンを進んでいると時々開けられない扉があるんだ。そこを無視しても進行に問題はない。そういった扉を通るには特定条件を満たすか、鍵となる道具を集める必要がある」
「鍵がその四つだったと?」
「ああ、八年前にとある文献を手に入れて、それからずっと扉を通るために動き回ってきたんだ。情報かき集めて君たちにたどり着いたのさ」
「八年もですか」
「ああ、苦労が報われる時がきたんだ。じゃあ、俺たちは帰るよ。早速行ってくる」
「なにがあるか楽しみですね」
楽しみだと三人は頷いて、早足に去っていった。
扉を潜った三人は、新たなダンジョンに足を踏み入れることになる。そこは二十階からなるダンジョンで、最奥には知識があった。一人一回のみ知りたいことをなんでも知ることができるという知識の宝庫だった。
三人はそれぞれ喪失したオリジナルスキルの習得の仕方、秘匿された道具の作り方、発見されていない金脈といった知りたいことを知ることになる。
ちなみに三人が扉を潜ると、鍵だった四つのアクセサリーは空中に溶けるように消えていった。
セルシオがマフラーをプレゼントして二日後の休養日。その日はシデルたち三人がシーズンズ家に行くというので、セルシオは早めの昼食を取った後、一人でダンジョン管理所にきていた。
第二資料庫に入り、薬関連の本を開いていく。一時間ほど読み続けて、とある薬を見つける。
「死者蘇生の薬か。最後の手段として殺して生き返らせれば元に戻る? さすがにそれは無茶か」
なに考えているんだかと首を横に振る。それを実行したところで元に戻る保証はないし、必要とされる材料も三百階辺りや天の塔でのみ手に入るものばかりで、さらに入手が難しいとされているものだ。それにセルシオにはオルトマンを殺せはしない。ほかの者もやれないだろう。
「ちょっとほかの本を読みながら休憩しよ」
思考がおかしな方向へといきそうな気がして、読んでいる本を閉じる。
薬とは関係のない棚を見ていき、偉人関連の本を取り出す。偉人に関しての本はここではない、第一資料庫や普通の本屋にも置いてある。そういったものは、彼らが行ったことを記してあり、ここに置かれているものは彼らの能力に関して書かれていた。
「最初の勇者ホユス。へー女の人だったんだ」
焼き尽くすものという炎をまとった大犬の魔王級を討った勇者だ。今から約四千八百年前に存在し、水の魔術を使う魔術拳士。魔王級に故郷を滅ぼされ、復讐のために技術を磨き、復讐を達成した。その後は権力闘争に少し巻き込まれたが、その時に出会った子爵と結婚し幸せな人生を送った。
最初にツールを五段階目にまで成長させた人物でもある。その時に得た蹴りのスキルは水旋槍破と神によって名づけられ、オリジナルスキルとして伝えられている。魔王級にとどめをさした技でもある。
勇者のページが続いていき、四十人の紹介が終わると、医者や発明家などの紹介に移っていく。
発明家のページを読んでいき、ユー・サアベという人物で止まる。
「この人が煙幕とか作ったのか」
ピンチな時などに世話になった道具を作った人なので、感謝の思いが湧く。
四千四百年前の人物で、多くの魔法道具を発案したことで魔法道具の父とも呼ばれている。
薬の発展に大きく貢献し、世界で一番人を救った人物といっても過言ではない。彼の作った薬には今もなお改良することすらできずに、使われ続けているものがある。治癒薬系統や気力回復錠系統がその例だ。
ほかにハーフやクオーター差別に反対したという話も残っている。伴侶がハーフだったらしい。
ほかにもいくつか目立った行動を起こしている。
この人が今いればオルトマンを助けることができたのになと思い、続きを読んでいく。
「いろんな人がいたんだな」
意外と面白く最後まで読んでしまった。
時計を見ると午後三時を過ぎている。
「夕食前には帰ってきてって頼まれたっけ」
リジィの頼みを思い出したセルシオは、今日はここまでと本を返し、管理所を出る。
「そこに行くお兄さん! 聞き間違いじゃあないよ」
雪がちらつく中、宿へと帰る途中でセルシオは呼び止められた。勘違いかと思ったが違うらしく、声のした方向を見ると、三十過ぎに見える女占い師が手招きしている。その隣には十五くらいの少女がいた。顔や手に赤い線がはしっており、火人だとわかる。三十過ぎの女は人間なので姉妹や親子などではないのだろう。
「呼びました?」
「呼んだよ。ちょいと私たちに付き合ってくれないかい?」
「占いには用事はないんですが」
占いが嫌いというわけではない。今は別に占ってもらう気がしないというだけだ。
「そう言わないでさ。お金を取ろうってんじゃない。少しだけこの子の練習に付き合って欲しいんだ」
指差された少女がぺこりと頭を下げた。
「どうして俺?」
「すっごくわかりやすいからだね」
「そんなに?」
「わかりやすいっていうのは占い師が見てだね、性格が単純って意味じゃない。そこまでわかりやすい奴は初めてだよ。まるで看板を背負って歩いてるみたいだ」
「目立つね」
その姿を想像し、それはわりやすいとセルシオは頷く。
「すぐに終わるならいいですけど」
「十分くらいさ」
それならと用意されている椅子に座る。
「さ、占ってみな」
女は席を譲り、火人の少女をセルシオの真正面に座らせる。
「手を」
少女は短く用件を告げる。右手でいいかと聞くセルシオに頷きを返す。
出された手をじっと見て、一分で離す。次はセルシオの目をじっと見る。黒みがかった黄色の目がセルシオの黒の目を覗き込む。
「大きな出来事?」
「それであってるよ、続けな」
ちらりと確認するように自身を見た少女に頷きを返す。
「助かる……助ける? 助けることで始まる。待ち受けるのは……苦難と大きな力と……再会も?」
「そうだね」
「あとは……わからない」
しゅんと落ち込んだ様子の少女を撫でる。
「私もそこから先はわからないから、気にしなくていいよ。これで占うという感覚が掴めただろう?」
「うん」
「あとは全ての人にその感覚で占っていけばいい」
少女に場所を代わってもらい、セルシオを見る。
「ありがとうね。占ったことをもう一度聞くかい?」
「お願いします」
「誰かを助けることで、何か大きなことが始まるらしいね。大きな力を手に入れるが、苦難もやってくる。あとは再会の兆しも見えてる」
「大きな力の詳細ってなんでしょう?」
「わからないよ。私では見通せないなんらかの力、ということだね。言えるのは筋力といった単純なものではなさそうだってこと」
「苦難もあるんですよね」
「あるね」
「避けたいんですが」
力に興味はあるが、それ以上に苦難を避けたい思いがある。大きいということはリジィたちを巻き込むだろうから。
「んーそれは難しいね。既に言ったようにわかりやすいほどに大きな兆しなんだよ。小さいなら避けることもできるんだが、そこまでだとほぼ百パーセントで起きちまう」
「……いつ起こるかは?」
「一年以内くらいじゃないかねぇ」
「対策ってなにか思いつきません?」
「そこまではちょっと。ただ感じ取れるのは苦難だけじゃないから、もてる全てを使って行動すれば乗りきることはできると思う」
「そうですか……」
難しそうな顔で考え込むセルシオに、申し訳ない思いを抱いた女は一つ提案する。
「なにか占ってほしいことはないかい? 不安にさせた詫びとして無料で占うよ」
「苦難の解決策と言いたいけど無理そうなんで、探しものとか大丈夫ですか?」
「大丈夫さ」
じゃあとオルトマンを助ける方法のヒントになればと話してみる。
「ふむ、知識のありかね。んじゃ、ちょいと目を拝見」
少女と同じように目を覗き込む。
「さっきの占いで出た結果に繋がるってるみたいだよ。その出来事の中で見つかるらしい」
「本当に?」
「当たり外れがあるのが占いだけど、この占いは外しようがない。それくらいにはっきりと見えてる」
「そっか、苦難ばかりじゃないってわかっただけも儲けものだ。ありがとうございます」
こっちこそ、いい練習だったよと笑みを返す。
二人にわかれを告げて宿に帰る。先に三人が帰ってきており、セルシオを出迎える。
テーブルにはクッキーが置かれていた。数種のナッツやチョコが入ったクッキーだ。それを一つ取ってリジィがセルシオに近づく。
「兄ちゃん兄ちゃんっ食べてみて」
あーんと口元に持っていく。近くで見ると見た目が少し不恰好だった。それを素直に口で受け止める。
さくっとした口触りで、甘さ控えめのクッキーとチョコの甘さが合わさって、ちょうどよい塩梅となっている。
「美味しいよ」
「本当に?」
頷くと嬉しげな笑みを浮かべた。
「それはリジィの手作りですのよ。マフラーのお礼にと、ララムに習いに行きましたの」
「へー、ありがとう。もっと食べたいな」
「うん!」
一緒に食べようと手を引っ張って椅子に座る。
「私が作ったのもありますから、感想聞かせてくださいね?」
「どれがイオネ製なの?」
リジィからクッキーを受け取りつつ聞く。
「四角いクッキーがそうですわ」
「わかった、ちなみにシデルが食べてるのはオータン製?」
「そうだ。オータンやスフリも交えて皆で作ってたみたいだぞ」
穏やかなおやつの時間は、占いで感じた不安を溶かしてく。
報告は後にして、今はこの温かい時間を満喫しようとセルシオは占いのことを頭の隅に追いやった。
感想ありがとうございます
》エルメア姫
ショタは意外だったんですねぇ、この程度ならありきたりだろうと思ってました
孤児院は訪れているでしょうね。イメージ壊さないように臣下たちに暴走するなと釘を刺されているでしょうが
》姫の立てたフラグ
フラグ発動は、今回の話を合わせて三話後です
》ロリコンを出してリジィがピンチ
没ルートで出たし、ロリコンはでないと思われます。でてもちょっとした脇役かな
》冒険者が気軽に買えるアイテム~
ぶっちゃけるとそこらへん考えていなかったんですが、強力なアイテムありそうですね
書かれているように取り扱い注意で作成禁止になっているかもしれません
とりあえずダンジョン管理所の第三資料庫にはそういった道具の作り方の載った資料があると思います
作成と使用の解禁は傭兵たちが全滅後でしょうか




