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31 リンカブス騒動 2

「アズさん、いつまで呆けているんですの?」


 ちょいちょいとイオネが頬を突き、アズは驚きから戻ってくる。


「必要額は百万って言ってたよね? それ以上稼いで、しかも使わなかったの?」


 お金を稼いだ経緯がわからず聞く。


「使ったよ? リジィを取り戻すのに合計百五十万くらいだっけ? それでも手元に百五十万残ったはず」

「三倍稼いだの!? 稼ぎすぎでしょっ」

「命賭けたからね」


 その時についた傷と言って両腕の袖を捲る。


「その傷のほかにも対人戦ができなくなったり、肉が食べられなくなってますから、三百万は当然かもしれませんわ」

「そんなことまで。無茶しすぎよ」

「多少の無茶はしないといけないって思ってたけど、無茶しすぎる気はなかったんだよ。なんというか成り行きで、大金稼ぐか死ぬかの二択になってた」

「ほんとにいろいろな経験をしてたのね。レベルってどれくらいになった? 私は130くらいなんだけど」

「俺は170を少し超えたくらい。130だとリジィより少し上って感じだね」

「リジィちゃんもそんなにあるんだ」

「レベルに合わない探索に連れまわしていたみたいですからねぇ。魔王級なんてその最たるものですわ」


 連れまわしたというよりはくっついて離れなかったというのが正しい。

 話はツールのことにまで及び、エクストラツール持ちが三人ということにも驚かされることになる。

 自分のことは終わりと、セルシオはアズたちが反乱軍と戦った以外のことを聞いていく。

 その話はセルシオたちほど波乱万丈ではなかった。ミドルがアケレーオに挑み続けたり、周辺の町村の視察に出たり、エルメアの相手をしていたといった、騒がしくも常識の枠内の話だった。

 エルメアが作らせていた薬の餌食になったミドルの話は、ミドルの名誉のためか、城に行くならいずれ知ることになるためか話すことはなかった。

 そうしているうちに、サマスが紹介状を書き終えて戻ってきて、三人は帰ることにする。

 メイドに頼んで、シデルとリジィにそのことを伝えてもらう。

 玄関まできて、アズが紹介状のことなどをサマスにお礼を言っている時に、リジィがスフリと一緒に玄関にやってきた。

 リジィの毛先にはライトグリーンのリボンが結ばれていて、スフリと似たような髪形になっている。


「兄ちゃん、帰るの?」

「そうだよ。リジィはもう少しいるでしょ?」

「ううん、私も帰る」

「しばらくスフリに会えないから、ゆっくりしていっていいんだよ?」

「別れはちゃんと言ったから大丈夫」


 大丈夫なのはリジィで、スフリの表情は寂しげなものになっている。

 それにリジィも気づいているが、優先順位は兄の方が上なのだ。

 また遊びに来ると約束してセルシオたちと一緒にシーズンズ家を出る。


「そのリボンってどうしたんですの?」


 リジィの動きに合わせてゆらゆらと揺れる毛先を指差し聞く。


「スフリが無事に帰ってこれるようにお守りにって」

「そうでしたか。戻ってきましょうね」

「うん」


 二人の会話を聞いてアズがセルシオに話しかける。


「劣勢になっても四人は脱出できるようにしてもらうから大丈夫」

「勝率はそう高くない?」

「わからない。チャンカ様はどれだけ傭兵を集められるかって言ってた」


 平民を徴兵はできないのだ。リンカブスでは貴族に徴兵権限はない。民を兵として扱う場合は王家から許可を貰う必要がある。その王家は宰相の手に落ちている。王を解放するためといって勝手に動かすことはできないのだ。

 理由はもう一つあって、数ヶ月前の戦いでは徴兵していたのだが、その傷跡のことや農業への影響を考えると再度の徴兵はできない。

 宰相もそれを考えたか、それとも城の兵や貴族の私兵と傭兵で十分と思っているかはわからないが、徴兵はしていない。

 ついでに圧政もしていない。今までと同じ政治だ。上位貴族の役職や重要な役職には変動があったが、基本的に下位貴族の役職は国王派宰相派にかからわず変っていない。そのためそのまま動かず静観しようというのが、下位貴族たちの主な考えになってきている。

 国王は傀儡だが、一応トップが代わっていないし役職もそのままならば、今までと変わらないだろうと言い、国王派への協力を渋っている。宰相からの要請もないことから、中立を名乗っているのだ。

 対立の構図は、宰相についた公爵一つ伯爵二つと国王派代表チャンカについた公爵一つ侯爵一つ子爵一つという形だ。宰相自身は伯爵だ。

 侯爵家がまだ一つあるが、そちらは静観組のトップとなっている。

 リンカブスは人口五百万という比較的小さめな国なので、比例して貴族の数も少なめになっている。建国百年くらいまでは一千万近い人口がいたのだが、外交失策などで国の規模を小さくしていき、人口も減っていった。


「リンカブスに行けばもう少し詳しいことがわかるかな」

「うん。私はほかの商人を回ってみるから、ここで分かれるね」

「ついていかなくていいの? というか行くよ。リジィ、イオネ、俺たち商人のとこ行ってくる」


 リジィは少し不満そうにしていたが、イオネに子供が行くと交渉の邪魔になるかもと言われて渋々頷く。

 宿へと戻る二人を見送り、セルシオとアズも歩き出す。


「ありがとね。正直一人は不安だったの」

「友達だろう? 気にしなくていいよ。それに一緒に行くだけでなんの役にも立たないしね」

「それでも一人じゃないっていうのは心強いから」


 微笑みもう一度礼を言う。それにセルシオは微笑み返しどういたしましてと答える。

 紹介状は三枚あり、書かれた名前を頼りに店を探していく。

 色よい返事はどこも貰えず、一つのみ後日返事をという保留の答えを貰えた。その店はリンカブスの特産品を仕入れていて、税が免除になるならと考えたのだ。

 返事は二日後で、いくらかの資金援助がされることになる。それが書かれた手紙を受け取り、アズはほっと胸を撫で下ろす。期待されていないとはいえ、それでもなにかしらの成果を残せたのは嬉しかった。

 

 手紙を受け取った次の日に、セルシオたちはサマスから荷物の詰まったリュックを買い取る。

 そのリュックにはもう少し物が入るので、セルシオの私物を入れて、セルシオが背負うことにした。今まで使っていたものはリジィに渡され、リジィが使っていたものはアズに渡された。アズは今だ普通のリュックを使っていたので、容量はさほど入らなくとも貰えたのはありがたかった。

 宿を引き払った五人は、まずはエルゼラン帝国行きの馬車に乗って、アーエストラエアを出る。

 馬車乗り継ぎのタイミングがあえば二十日ほどで到着するが、予定としては一ヶ月を見込んでいた。

 馬車が西へ西へと進みマレッド王国を出て、やがてエルゼランに入って、リンカブスに近づいていく。近づけば近づくほど、リンカブスを目指す傭兵の姿が増えていく。傭兵募集の情報を得て、集まってきているのだ。既に集めた傭兵同士をぶつけ、小競り合いを起こしたという情報も聞こえてきたが、あくまで噂話の域を出ず信憑性はなかった。

 そしてあと二日でリンカブスに入るという距離にある宿場町で一泊することになり、五人は馬車を降りる。ここに来るまでに二度ほど早く着かないかと逸るアズをセルシオが宥める姿が見られた。

 宿場町は傭兵が多く、いつも以上の賑わいを見せている。


「これだと宿をとれるかわかりませんわね」

「まあ、ほかの奴のように町のすぐそばにテントを張ればいいさ。これだけ賑やかなんだ賊も魔物も近寄ってこない」

「そうしましょうか。三人ともそれでいいですか?」

「体を伸ばせて眠れるならテントでもいいよ」


 リジィの返答にイオネが笑みを浮かべた。


「さすがにセルシオにくっついていてもきつかったようですわね」

「うん。寝転びたい」

「私も同じですわ」

「携帯食ばかりで飽きたし、ご飯くらいは食堂で食べたいね。少し早いけど、テント張る前に食べにいかない?」


 セルシオに皆同意し、町に入っていく。

 赤鳥の群亭よりも美味い料理とはいえなかったが、携帯食の味気なさよりもましで、五人とも満足できた。

 テントを二つ張り終えて、風呂に入りに行く。テントを二つ用意したのは、持っていたものだと五人は狭いからだ。いつもは見張りなどで常に一人外にいる状態で、一度に入るのは三人なのだ。たまに四人で入ると手狭に感じていた。

 

「いってらっしゃい」

「お先にいただきますわね」


 テントの見張りがあるため、男と女でわけて風呂に入りに行く。

 リジィとイオネは銭湯へ、アズは宿に風呂を借りに行くため途中でわかれた。


「ここまでくるとたくさん傭兵がいるね」

「そうだな。すぐに敵味方にわかれるんだろうな。どれだけ生き残ることになるのかね」

「生き残れるかは、俺たちにもいえることだけどね。アズに協力するために即決したけど、よく考えたら殺し合いに参加するんだよね。ちょっと怖くなってきた」

「俺も怖いな。だがこれを乗り切ればもっと強くなれるはずだ。参加したことを後悔はしないし、死ぬ気もない」

「シデルが強くなりたい理由って? イオネみたいに本能からくるものじゃないよね?」


 以前聞こうと思っていて、そのまま聞かずにいたことを、リジィたちがいないのでいい機会だと聞く。

 シデルは話したものかと少し迷うが、セルシオたちの事情も深く知り、自分だけ隠すのはどうかと思い話すことにした。隠すことでもないと思ったのだ。


「俺は復讐したい奴がいる。そいつは強いんだ。だから勝てるくらいの強さがほしい」

「復讐……誰かを殺された?」

「俺の家は独自の剣術を教える道場を開いていたんだ。俺も小さい頃からその剣術を教え込まれ育っていた。飲み込みの悪さというか、なんとなく向いてない気がして、熱心というわけじゃない出来の悪い子供だった。そのことを叱られたり呆れられたりしていたから、親父はあまり好きじゃなかった」

 

 向いていないのは、エクストラツールが斧だったことからよくわかる。エクストラツールは秀でた才能が発露したとも言われているのだから。


「それでも剣術を止めることなく十七才になった時だ。道場に一人の男がやってきた。見た目は四十過ぎで、着ているものはそこまで上等ではない落ちぶれた傭兵のようも見えた。だが纏う雰囲気は尋常ではないものだった。魔王級には及ばないがな。そんなものと会ったことのない俺にとっては初めて会う、危険すぎる人物だった」


 当時のことを思い出しているのか、シデルの表情は引き締められ、憎悪の炎が目の奥に揺らめいている。勘の鋭い傭兵が何人か、何事かとシデルに視線を向けた。


「その男は道場破りだと、こちらの言い分を聞かずに道場生へと襲い掛かり始めた。俺は震えて動けなかったよ。そうしているうちに親父がその男と戦い始めて、五分ほどは互角のように打ち合っていた。だが男が急に動きを変えてあっさりと親父を斬り捨てた。それを見て俺は雄叫びを上げて、男に斬りかかったよ。嫌いだと思っていた親父だが、殺されれば怒りを感じる程度には好きだったみたいでな。そんな俺をあっさりと蹴り飛ばし、気絶した俺を気にせずほかの奴に斬りかかっていった。俺みたいな雑魚に構う気はなかったんだろうな」


 親を殺された怒りと無視された悔しさを示すかのように、シデルの握られた拳に力が込められる。力を込めすぎて、拳から血の気が引いている。


「その後、俺は気絶している間に奴隷として売られ、お前に買われるまで八年ほど奴隷だった」

「その男の詳細を知ってるの?」

「なんとか調べた。有名な道場破りらしい。色々な道場に行っては、戦いながら相手の技術を盗み、その技術に習熟した者を斬り殺して去ることを繰り返している。賞金首にもなっていて、道場破りってそのままな二つ名を持っている。俺が見逃されたのは、剣術の腕がほかの奴に比べて殺す価値もないって思ったからなんだろう」


 シデルを奴隷に売ったのは道場破りではない。道場破りの後をついていっている賊がいるのだ。道場破りが暴れた後に、道場に押し入って金品を盗み、人を売る。そいつらにシデルは売られたのだと、奴隷の首輪をつけられた後に情報を得た。

 その賊も復讐の対象だが、道場破りを殺せるようになるまで強くなれば賊も殺せるだろうと、標的は道場破りに合わせているのだ。


「有名ならどこにいるのかわかりやすいか。居場所がわかれば復讐に行く?」

「今わかっても勝てないからな。もっと強くなる必要がある」


 どこにいるかの情報収集は、セルシオの見張りを受ける時に教会に頼んである。二ヶ月に一回ほど情報を聞きに行っているが、まだどこにいるかわからない。ここ三年ほど道場破りをする頻度が減っているのだ。情報が入りにくくなっていた。


「ロッドのことで頭に血に上った俺に言ったことは経験談だったんだね」

「ああ、動きたくても動けなかったってのもあるんだがな。奴隷になったことで一つだけ感謝することがあるなら、頭を冷やす時間を得られたことだろうな」


 復讐しようと動こうにも首輪のせいで店から離れられず、復讐を果たす方法を考えることしかできなかったのだ。

 シデルの復讐心は道場破りに叩きつけられるのを待っている。時間をかけて煮詰められ凝縮されたことで、普段の様子からは他者に悟られにくいほどに秘められている。


「そんなわけだ、いつかパーティーを抜けるだろう。復讐を果たせれば戻るだろうが、戻らなければ……」

「俺が手伝ってもらったように、俺たちに手伝ってもらおうって思わないの?」

「……そういやそう言ったんだっけか」


 ぽかんと虚を突かれたような表情となる。誰にも相談せず一人で考えていたことで、傭兵を金で雇うくらいしか他者の協力を得る方法はないと思い込んでいた。他者のことはわかっても自分のことになると、わからないものがあるということなのだろう。


「……そうだな、その時がくれば頼むか」

「うん。力を貸すよ」


 頼むと返し、深呼吸を一つ。漏れていた剣呑な雰囲気はシデルの中に納まっていた。それで傭兵たちの注目もなくなっていった。

 会話はただの雑談に移り、そのうちに三人が戻ってくる。

 夜が明けて再び馬車に乗り、リンカブスに入る。そのまま進み、とある町で馬車を乗り換える。乗っていた馬車は王都に向かうのだ。三人が向かうのはドラニ侯爵領だ。

 さらに三日ほど馬車に乗り続け、アーエストラエアを出て二十五日後にアズたちが本拠地としている街ガズバレアに到着した。

 街の規模はそこそこ大きいがアーエストラエア以下。人口は二万。野菜畑に周囲を囲まれた第一次産業を主力とした街だ。

 傭兵もひとまずここに集められ、チャンカの指示によって三箇所に振り分けられている。

 サマスに会いに行った時に着た正装のアズに先導され、セルシオたちは街中を足早に歩いていく。リジィが駆け足状態だが、アズはそのことに気遣う余裕もないらしい。

 アズが目指しているのはドラニ家の屋敷だ。


「止まれ、何用で来られた?」


 屋敷に着き、門番に止められる。胸の紋章でリンカブスの関係者だとはわかるが、それだけで入れるわけにはいかない。特に宰相とことを構えている現状では。

 アズはもどかしそうにチャンカから預けられた手紙を取り出す。


「チャンカ様から命じられ外に出ていた者です。中に入りたいのですが構いませんね?」

「それはドラニ家の家紋……申し訳ありません、普段ならばそれで入ることはできますが、今は警戒レベルを上げていますので、少々お待ちください。確認してきますので」


 そう言うと門番はアズに名前を聞き、手紙を預かり屋敷に入っていく。

 アズは苛立たしげに右の靴先でトントンと土を踏む。


「すぐに来るんでしょうし、少し落ち着いたらどうです?」

「そ、そうですね」


 指摘され恥ずかしげに頬を赤らめて、深呼吸する。

 それで落ち着きはしたが、三分ほど待つと今度は組んでいた腕を人差し指でトントンと叩き出した。

 そんな様子をセルシオたちは仕方ないなと苦笑を浮かべて流す。

 結局十五分待ち、屋敷に入る。

 門からは使用人に客室まで案内される。今チャンカに来客中でアズには会えないということらしい。


「どれくらい待てば?」

「長くて一時間ほどだとチャンカ様から聞きました」

「わかりました」


 五人に一礼して使用人は去っていく。


「この一時間は、旅の疲れをとるためのものと思ってゆっくりしよ」

「それがいいな」


 セルシオの言葉にシデルも同意して、ソファーにもたれかかりくつろぎ始める。


「リジィも、俺の太腿を枕に寝ていいよ? 来たら起こすから」

「いいの?」

「うん」


 じゃあと早速セルシオの太腿に頭を置いて、目を閉じる。すぐに寝息が聞こえてきた。それなりに疲れが溜まってたのだろう。


「アズも寝たら? 疲れているように見えるよ」

「私は……」


 起きていると言う前に、イオネがアズを引き寄せて自分の膝に寝かせる。


「これから本格的に働くんですから、休める時に休んでおきなさい」

「そうだよ。いざって時のために体力は蓄えておかないと」


 イオネとセルシオの言葉に渋々頷き、アズは目を閉じる。リジィに負けない早さで寝息が聞こえ出した。


「やはり疲れてましたのね」

「眠りが浅かったみたいだしね。疲れは取れにくかったと思う」

「俺も眠らせてもらうわ」


 目を閉じながら言うシデルに、わかったと返す。

 セルシオとイオネも疲れはあるが、夜まで我慢できないわけではない。リジィとアズと眠らせたのは、五人の中でも疲れが大きく溜まっているように見えたからだ。

 しばらく静かな時間が過ぎて、一時間と十分ほど経ち、この部屋に誰かの気配が近づく。

 そろそろだろうと判断したセルシオとイオネは、熟睡している二人を扉が開く前に起こす。

 ノックして入ってきたのは、白髪をオールバックにした六十過ぎに見える老人だ。少し背筋が曲がっているが、まだまだ歩くのに不自由するようには見えない。


「お久しぶりです、チャンカ様」


 ソファーから立ち上がったアズが一礼し、セルシオたちも同じく立ち上がり、一拍遅れて頭を下げる。


「よく戻ってきた。少しは元気になったようじゃな」

「お気を使わせてしまったようで」

「気にするな。お主が元気であれば、姫もお喜びになる。そちらの者たちの紹介をしてくれるか? お主と年が同じに見える者がセルシオだとはわかるのだが」


 オルトマンたちからセルシオの話を少し聞いており、年齢くらいは知っていたのだ。


「はい、私と年齢が同じ青年がセルシオです。ほかの者はセルシオの妹と仲間となります。セルシオの隣にいる女の子がリジィ。もう一人の男がシデル。最後にイオネです。私に力を貸してくれるとここまで来てくれました」


 セルシオたちは呼ばれた順に頭を下げていく。相手は貴族でも上の者で、どのように接すればいいのかわからず、逆に緊張感がなくなっている。


「うむ。わしはチャンカ・ドラニ侯爵。エルメア姫の元教育係で相談役じゃった者だ。現状ではその役職は解かれておる。よろしく頼む」


 教育係の前は国中の農地を管理する部署のトップにいた。それを息子に譲って侯爵家当主の座も渡そうとしたのだが、その仕事と侯爵としての仕事の両立はまだ無理だと断られて、いまだチャンカが当主だった。そろそろ仕事に慣れて大丈夫だろうと思っていた時にこの騒ぎだ。エルメアも心配なので最後の勤めのつもりで国王派のトップに立った。

 トップに相応しそうな公爵は、宰相派と国王派のどちらが勝っても自分たちに流れる王家の血を残せるように二手に分かれただけなので意欲はそこまで高くなく、トップに立つことは辞退していたのだ。

 座るように勧められ、全員ソファーに座る。


「交渉の件ですが」

「どうなった? 失敗しても気にすることはないが」

「少しだけ助力を得ることができるようです。詳しくはこちらの手紙に」


 アズが差し出した手紙を読んでいく。内容は資金援助についてだ。支援額も見返りも予想の範囲内で、この支援は大助かりというわけではないが、あって困るものでもない。

 手紙を読み終わったチャンカは顔を上げ、アズを労う。


「少しだけでも成果を見せるとはな。ご苦労。この成果が国王や姫の助けとなるよう、わしも頑張らねばならんな」

「お願いします。話はかわりますが、父さんが帰ってきたか聞きたいんですが」

「オルトマンか、まだ音沙汰なしじゃ」

「そう、ですか」


 沈んだ表情のアズを励ますように、セルシオがアズの肩に手を置く。置かれた手に手を重ねて、アズは弱い笑みを浮かべ視線だけで感謝を伝えた。


「これからどう動くんですか?」


 シデルが聞く。


「そろそろ大きく動く。傭兵が集まったからな。それは宰相も同じだと情報を掴んでおるよ。わしらがこれからすることを簡単に言うと、防衛戦で宰相側の攻撃をしのいでいる間に姫を助け出し、その後城まで進軍し宰相と対決。姫をトップに据えて無事を知らせれば国王も動けるはずじゃ。姫を人質に取られて動きを封じられたのじゃからな」


 王としては国のため娘一人切り捨てる覚悟も必要だろう。

 宰相が国を荒らせばそれもやむなしと考えていたが、やっていることは以前と変わらないことで、このようなことをしでかした原因を探る様子見も兼ねて宰相に従う姿勢を見せている。


「救出ってお城にいるのではありませんか?」


 アズの疑問にチャンカは首を横に振った。


「いや、外に出されたと聞いている。反乱が起きて、数日後には城のどこにも姫の姿はなかったと言う話じゃ」


 いろいろと入ってくる情報を取捨選択し、出した結論だ。もちろん宰相の流した欺瞞情報もある。それを完全に見抜けた自信はない。だが最善を尽くし調査は行った。完全に的外れな結論を出したという思いはない。


「いるであろう場所は二箇所に絞ってある。そのどちらも宰相側の貴族たちの土地で、反乱後にこっそりと物々しい警備の馬車が入っていったらしいな」

「もう救出には行ったのですか?」

「いや結論を出せたのが昨日なのだ。まだ細かな人選もすんでおらん。ミドルとアズを向かわせることは決まっているが、そうだな片方はお前たちに頼むか」

「俺たちに?」


 その選択はどうなのかとシデルは疑問の声を上げた。


「無関係な俺たちじゃなくて、城の兵とか騎士とか相応しい人いるだろ、じゃなくているでしょう?」

「そういった者も動かすが、そっちは囮として使おうと思っておる。二箇所に絞った以外の場所に姿を見せれば、見当違いな場所を探していると油断をさそえるじゃろ。それに無関係ゆえに宰相の息はかかっておらんし、アズの信用もある。任せるに足ると思ったのじゃ」

「私からもお願します。皆さんが来てくれれば心強いです」

「少し相談してもいいですか?」


 セルシオの希望にチャンカは頷いた。


「たしかにすぐに結論を出せと言われても無理か。そうじゃな、明日の朝までに結論をだしてくれ」

「わかりました」

「部屋を用意させよう。すまないがほかにも客はいて、一部屋しか用意できないがかまわないじゃろうか?」

「大丈夫です。いつも一部屋で過ごしていますから」

「助かる。使用人に案内させるので、もうしばらくここで待っていてくれ。アズも今日は休むといい」

「ありがとうございます。最後にミドルはどうしているのか聞きたいのですが」

「ミドルは傭兵たちをまとめる手伝いをしておるよ。日が暮れる前には屋敷に戻ってくる。アズが帰ってきたことが伝わるように、命じておこう」


 ゆっくりと旅の疲れをとりなさいと言って、チャンカは部屋を出て行った。

感想誤字指摘ありがとうございます


》コースケみたいなトンデモ能力を持ってない~

勇気と根性でどうにかなったらいいなと思ってます。頑張ってほしいです

あとチート手に入れても無双できなくね? と最近疑い始めました。一度くらいは無双させてあげたい


》セルシオの扱いが不遇みたいなコメント~

なれませんね。表舞台で活躍するには単純に力が足りませんし


》世界?地図

素人絵になりますから、見苦しいだけかと


》お姫様助けるのに主人公が活躍するのでしょうか

次々回の話でそこら辺はわかると思います


》対人戦に慣れてきたといっても迷宮に挑戦する前の~

実際に戦う時までには少し時間が流れますので、もう少しましになっていますね。それでも無理ゲーなんですが


》セルシオの貯蓄

生活費に使っていましたが、贅沢も装備の新調もしていないので、大きく減ることはありませんでした。ダンジョンでの収入もありましたしね

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