19 名剣プライア 前
「いやはや今日もよく戦いましたわ」
「元気だねぇ」
日はとうに沈み、明かりに照らされた道を四人が歩いている。
どこか艶々とした感じのイオネに、リジィを抱っこしたセルシオは呆れた視線を向ける。戦い好きというのがどうも理解しづらいのだ。
「セルシオも元気ですわ」
「まあシデルとリジィに比べたらね」
アラートアイの時までとはいかないが、今日は多めの魔物との戦いになったのだ。それでリジィは疲れ果て抱っこされている。シデルは歩けてはいるが、喋る気力がない。
セルシオが平気なのは一度戦った魔物だったということと、レベルのおかげだ。イオネと同レベルならば疲れていただろう。
道を歩く四人の耳に、遠くから何が壊れる音や悲鳴が聞こえてくる。そしてそれは徐々に近づいてきていた。
「なんだ?」
「化け物とか聞こえますわね」
顔を見合わせた二人は、すぐに化け物の正体を知ることになる。
それは鎧を着込んだようなゴリラだった。着込んでいるのではなく、体に防具のような銅板がくっついるらしい。
戦う能力のない一般人は逃げて、挑戦者や傭兵たちは止めようと攻撃している。タイミング悪く実力者がいないせいか、動きを止められない。
それを見て手強いのだと思ったイオネの表情が輝いた。
「私も行ってきますわ!」
「怪我しないようにね」
まだ戦うのかと呆れた表情を浮かべて、魔物へと駆けていくイオネを見送った。隣に並んだシデルも似たような表情だ。
イオネが格闘スキルの三段目、鉄拳を使いゴリラを地面に叩きつけたことで、反撃の流れが生まれたのか他の挑戦者たちも倒れたゴリラにスキルを叩き込んでいく。
そんな様子を見て、街人はもう大丈夫だろうと落ち着きを見せ始めた。
イオネが戦い始めて、十分も経たずに騒動は収まる。一番の活躍を見せたイオネは他の挑戦者たちに周囲を囲まれていた。
倒されたゴリラは騒ぎを聞きつけて集まってきた警備兵が運んでいく。そんな警備兵からどこか手馴れたような感じを受ける。
騒ぎが落ち着きを見せ、イオネもセルシオたちの元へと戻ってくる。
「そこまで強くなかった……期待はずれですわ。鉄拳じゃなくて剛拳で十分でした」
「お疲れ様。いろいろと話しかけられてたね」
「パーティーへの誘いが多かったですわ。今のパーティーを離れるつもりはないと断りましたが」
「うちの主力だし抜けられるのは困るな」
「抜ける気はありませんし、心配せずともよいですわ」
帰りましょうと宿へ歩き出す。
いずれはシデルとリジィも主力になりえるだろうが、今のところはイオネが主力だ。通常攻撃ではセルシオとそこまで大きな差はない。しかしスキルを使うと、明確な差が出る。スキル二段階目と三段階目の差だ。
宿に戻った四人は空腹なこともありそのままの格好で、夕食を食べることにした。宿に着く頃にはリジィもある程度回復していて、自分で歩いて椅子に座る。
「結局あの騒ぎはなにが原因だったんだろうな?」
「門番たちが侵入を見逃したのでしょうか?」
「それはないんじゃないか?」
「なにを話しているんだ?」
注文の品を持ってきたセオドリアが聞いてくる。料理を受け取りつつリジィが答える。
「街中で魔物が暴れてました」
「魔物? またアカデミーの奴らか?」
「アカデミー? 色々な物を発明しているっていうところの?」
セルシオが知っているのはそれくらいで、騒動の原因となるといったことは知らない。
「ここ三年はわりと静かだったんだが、それ以前は時々騒動起こしていたんだあいつら」
「どんなことが起きてたの?」
「んーたしか、くしゃみを連発する薬を街全体に撒き散らしたり、夏をさらに暑くしたり、雑草が異常成長したりだったか。騒動起こすたびに貴族や教会の者たちから怒られていたようだな。今回久々に怒られるんじゃないか」
客が多く、いつまでも話してはいられないと去っていく。
最近静かだったのは交代した所長がしっかりと管理していたからだ。今回の騒動はそんな管理を超えた研究者がいたのだろう。
「いろんなことのある街だね」
セルシオの言葉に三人は頷き、料理を食べ始める。
そして二日後、休憩日で特にすることがなく、宿でのんびりとしていた四人。いつもならばシデルは傭兵ギルドで仕事を探すのだが、疲れをとるため宿に残っていた。
武器の手入れなどをのんびりとしていると、扉がノックされ声が聞こえてきた。
「会いたいという方が来られてます」
誰だろうと首を傾げセルシオは扉を開ける。見覚えのある従業員が立っていた。
「客の名前とか姿とか教えてもらえますか? あと誰かを指定してました?」
「名前は聞いていませんが、アカデミーからの使いだとか。指名はおそらくイオネさんではないでしょうか? 女性の獣人と言っていましたし」
セルシオが振り返りイオネを見ると、イオネはベッドから身を起こしキョトンとした表情を浮かべていた。
「下で待っているのですか?」
イオネの言葉に従業員は頷く。少し待ってもらうように伝えて、身支度を整えていく。
暇なので他の三人も話を聞くため、身支度を整えていく。イオネは止めず、一緒に下に行くため三人を待っている。
「店主さん、私にお客と聞いたのですが」
「ああ、あそこのテーブルに座っているあいつだ」
セオドリアの指差す方向に、奉納祭で見たアカデミー関係者と似た感じの男がいた。健康そうとはいえないやつれた感じだが、雰囲気的には気力に満ちた感じで病気とは縁遠そうだ。
「こんにちは。私があなたの待ち人ですわ」
「こんにちは、ナンバーと言います。あなたが魔物改造実験体十四号を倒したのですか?」
「魔物、改造、実験体?」
「あ、そういってもわかりませんね。ゴリラの魔物を倒したんですよね?」
「ええ、たしかにその魔物と戦いました、私一人で倒したわけではありませんが」
あの場には他の挑戦者たちもいて、自分一人で戦ったと言うつもりはなかった。
「主力があなただったと聞いていますから。まずはお礼を、暴走したあれを止めていただきありがとうございます。そしてっ挑戦状を叩きつけさせてもらいます!」
深々と頭を下げて、顔を上げたナンバーの目にはギラギラと燃えるような情熱の色があった。謝ることよりも、挑戦状の方が本命だったのだろう。
「突然なんなのです?」
「あれは私の自信作の一つ! 運動能力計測中に暴走し逃げたとはいえ、自信を持っていたものだったのだ! それが負けたと知ってショックだった。そして思ったのです! ジョアソンの仇をとり、私の作り上げたものが素晴らしいことを証明するのだと!」
「……証明とやらに興味はありませんが、準備しているものはあれよりも強そうですわね?」
ナンバーはふっと自信に満ちた笑みを浮かべた。
「実際に体験してみるといいっ」
「わかりました。その申し出受けましょう。正直にいえばあれは物足りなかったのです。もっとましなものと戦えるのでしょうね?」
「っ!? ふ、ふふふふ、よかろう! 壁を乗り越えてこそ研究者だ。君が満足できるものを準備しよう」
楽しみですわと笑うイオネに、顔を引きつらせたナンバーが笑みを返す。
挑発みたいになっているが、イオネにその意図はない。純粋に楽しみに思っているのだ。
これからアカデミーに向かうことになり、セルシオたちもついていく。同行許可は貰えた。むしろ自分の生み出したものが勝つところを見ろと引きずってでも連れて行く勢いだ。
アカデミーは街の南西にある。広い敷地を持っていて、その敷地を五メートル近い石壁が囲っている。敷地面積ではこの街一番だろう。常に五百人の研究者たちがつめていて、日夜趣味に邁進している。
壁で囲まれているのは研究成果を狙う者を防ぐため、というよりは作ったものが外に出ないためだ。この壁はその役目をきちんと果たしているが、今回のようにたまに飛び出ることがあり、出たものが騒動を起こしているのだ。
一つしかない出入り口から内部に入ると、全体の四分の一の広場と建物群が目に入ってくる。
「ここが知識の宝庫にして、研究狂いの巣窟! アカデミーだ!」
自身で狂いと言っているが、そこに恥じるものを感じられない。声が聞こえた者たちから拍手が送られてくるくらいだ。
「ここは俺の常識から外れた場所なのかもしれないな」
「俺もそう思うよ」
リジィもこくこくと頷いている。
自覚はないだろうが、四人にとってここは長居していい場所ではない。研究を知らずに持ち出す可能性があり警戒される、アカデミーは基本的に関係者以外が入っていい場所ではない。これらの理由ではなくエクストラツールの持ち主や資格者というのは研究者たちの研究意欲を刺激するのだ。それを知られたら最悪アカデミーから出られなくなる。監禁するほどとち狂った者は片手で足り、建物の奥底で研究に集中し滅多に出てこないのだが。
「こっちだ」
ナンバーに先導されて、広場の方向へ歩き出す。広場ではほかの研究者もいて、それぞれが作ったものを使い騒いでいる。
ある者は人形に見えるものの動きを観察して、ある者はナイフの切れ味を確かめていて、ある者は薬を植物にかけていて、ある者は薬を壁に投げつけている。
人形はぎこちない動きを見せており、ナイフは斬った肉を燃し消した後に崩壊し、薬をかけられた植物はうねうねと動き出し、壁は薬をかけられた部分が膨らみ始めていた。
それぞれの成果を見て、彼らは一喜一憂している。
それを横目に理解できそうにないと理解を深めた四人は、広場の片隅に到着する。そこには布がかけられた檻があった。
「見るがいいっこれが魔物改造実験体十五号ドータニアだ!」
布を外された檻の中には、以前見たゴリラよりもスリムな魔物がいた。椅子に座り眠ったように見える。十四号と同じように、銅製のプレートをあちこちにつけている。
姿形はゴリラなのだが、二本足は人に近く、肉体は筋肉を減らさず引き絞られている。十四号がパワータイプならば、こちらはスピードタイプと判断できる。
「目覚めよっドータニア!」
ナンバーが声をかけ、檻を叩くと、檻はばらばらに崩れた。そしてドータニアが目を開き、雄叫びを上げて立ち上がる。ゴリラと違い二本足歩行で、身長は二メートル。
雄叫びは他の研究者たちの注目を集め、なにが始まるのかと好奇心に満ちた視線が集まる。
「ドータニア! そこの獣人と戦うのだ!」
「がっふ!」
ナンバーの命を受けたドータニアが動き出し、イオネへと走り出す。命令を聞いて標的をイオネに定めているのだろう。邪魔にならないようにとセルシオたちは離れていく。
両者の距離が縮まっていき、いよいよぶつかるなとその場にいた者たちが思った時、ドータニアはイオネは飛び越した。
「おや?」
「どういうことかしら?」
「……暴走、じゃないかな」
皆がドータニアを目で追い、壁を越えて街に出て行く姿を見た。
そこかしこから「おーいナンバーがまたやらかしたぞ」「またか?」「この前もやらかしただろう?」「所長が怒るなー」「巻き添えくのは嫌だぞ」といった声が聞こえてくる。慌てた様子はまったくない。常識のなさがよくわかる一面だった。
「あー……すまないが捕まえてきてくれないか? できれば無傷で。礼はアカデミーから出ると思うから」
「無傷は無理ですわ。それはわかるでしょう?」
前回のように挑戦者や傭兵に倒される可能性があるのだ。
「できれば無傷がいいんだがなぁ……仕方ない、死体でもいいから連れ戻してきてくれ頼む」
仕方ないですわね、とイオネは頷いて、セルシオたちも仕方ないなと協力することにした。
アカデミーを出て周囲の人々に話を聞き、ドータニアが去った方向を追っていく。ドータニアは目立つので追跡は楽だった。追いつくのは容易ではなかったが。スピードタイプというのは伊達ではなかった。動きは早く、屋根などの道ではない場所を移動し、移動力という面ではセルシオたちを凌駕していた。
「厄介だなぁ」
「追いつけないね」
「悲鳴を追えばいいから、追跡は楽なんだが」
「私たちも屋根を移動した方が楽に追えるような気がしてきましたわ」
やってやれないことはないだろう。ただし苦情がすごいだろうが。
「とりあえずイオネにそれで追ってもらうか。追いつけて倒せれば問題ないしな。俺たちは罠でもはれないか移動しながら考えてみる」
「じゃあ、行ってきますわ」
イオネはそこらの塀を利用して、軽々と屋根に駆け上っていった。
「さて俺たちは考えを出し合うわけだが、なにかいい考えあるか?」
「ご飯で誘き出す?」
「動きを止める道具が売ってたっけ。それを利用できないかな」
「それくらいだよなぁ、あとは偶然倒されるのを期待するか」
シデルの言葉の後に人のものではない悲鳴が上がり、徐々に小さくなっていった。
まさかなぁといった顔でシデルは声のした方角を見る。
「……倒されたか?」
「どうなんだろう?」
「行ってみよ」
リジィの提案に頷いて、三人は声のした方向へと向かう。
少し歩くと人が集まっている場所があり、おそらくそこだろうと人の輪に入っていく。
イオネと白い鎧を着た見知らぬ金髪の女が話していて、そばには地に伏せて動かないドータニアがいた。女の手には血で濡れた剣があった。
「イオネ」
セルシオの呼びかけに振り向く。
「三人とも来ましたわね。こちらの方がドータニアを倒してくださいましたわ」
三人は依頼を終わらせてくれた女に礼を言って頭を下げる。背中までの髪が一緒に揺れる。
「いきなり目の前に下りてきたから思わず斬っただけだ。偶然だから気にしなくていい」
セリフだけを聞くと危ない人物だが、いつも手が早いわけではない。悲鳴は聞こえていたし、目の前にドータニアが現れた時きちんと魔物と見極めていた。迷惑の主はこいつだろうと判断して、剣を抜いたのだ。
「アカデミーから謝礼が出ると思うので一緒に行きましょう?」
イオネの誘いに女は首を横に振る。
「これから用事があるので、一緒には行けないのだ。では失礼する」
剣についた血と脂を拭って、女は去っていく。颯爽とした様子に周囲にいた人たちからほうっと溜息が漏れる。
その背をイオネが残念そうに見ていた。女はイオネよりも強い。ドータニアを胴への袈裟斬り一太刀で倒したのだ。イオネも勝てるだろうが、鉄拳でも一発は難しいと考えていた。
実際は偶然一太刀で倒せただけで、イオネとそう実力は離れていなかったりする。それはそれで拮抗した戦いを楽しめるからイオネ的には満足できるだろうが。
「手合わせしたかったですわ」
「縁があったらできるだろうさ。ドータニアを運ぼうぜ」
イオネとシデルが手を持ち、セルシオが両足を持ってアカデミーへと戻っていく。
「おーっ!? ドータニアーっ!?」
動かないドータニアを見てナンバーがその死を嘆く。
「お前の死は無駄にしないぞ! 次なる十六号がきっと仇を討ってくれるっ。それがお前の供養となるだろう!」
「盛り上がっているところに水を差すようですが、ドータニアを倒したのは私ではありませんからね」
「じゃあ誰なんだ?」
「通りすがりの女性ですわ。用事があるとかでここに来ることはありませんでしたわ」
「む……その人の特徴を聞かせて」
もらえないかと続けようとして、ナンバーは屈強な男二人に両腕を掴まれた。ナンバーと同類には見えないので、警備員かなにかだろう。
「な、なんだ!?」
「所長がお呼びです」「説教タイムの始まりです」
「まだ話を聞いていないんだっもう少しだけ!」
「「待ちません」」
そう言うと暴れるナンバーを引きずって建物の方へと歩いていく。
かわりにメガネをかけた男が近づいてくる。
「あなた方が暴走した魔物を止めた人たちでしょうか?」
「探し回りはしたが、実際に倒した人はほかにいるぞ?」
「そうなのですか? その人の名前や居場所を教えてもらえないでしょうか?」
四人は詳しいことはなにも知らないと正直に答えた。
「困りましたね……礼はいらないと判断しましょう。こちらが暴走を止めてくださったお礼となります。四人でおわけください」
「ありがとうございますわ。もう帰ってもいいのでしょうか?」
「はい。入り口まで送りましょう」
敷地内を好きに歩き回られるのも困るのだ。きちんと出たか見届けるため、男は入り口まで同行する。
男に見送られてアカデミーを出た四人は夕日に染まった街を歩く。
「たまには宿以外のお店で食べない?」
セルシオの提案に、三人はいいよと頷く。
「どこがいいかな」
「俺は特にリクエストはないな」
「あたしは兄ちゃんの行きたいところでいいよ」
「イオネは?」
「私は……カレーかな?」
近くの店から漂ってきた匂いに食欲を刺激され答えた。
「じゃあカレーでいいね」
セルシオも特に行きたい店はなかったのだ。せっかく宿を出たので、提案してみただけだった。
近くの店に入っていった四人は、シーフードカレー二つ、チキンカレー、カツカレーを頼んでいく。
宿とは違い、カレー専門店なので味はこちらの方が上だった。満足した夕食を終えて、少し遠回りな散歩をして宿に戻る。
「あの人」
リジィが指差す方向にドータニアを倒した女がいて、難しい顔でフライ定食を食べていた。
一言挨拶していこうと四人は近づいていく。
「こんばんは」
イオネの挨拶に女は顔を上げた。
「あ、さきほどの。あなた方も夕食なのか?」
「私たちは夕食をすませて宿に戻ってきたところですわ。あなたがいたので一言挨拶をと」
「そうなのか」
「なにか難しい顔していたな? 用事が上手くいかなったのか?」
シデルが返答を期待せずに聞いてみる。話せることならば大したことはないだろうと思ったのだ。
「うむ。上手くいかなかった……そうだな少し相談にのってもらえないだろうか? 私一人ではどうすればいいのか」
「先にこちらが助けてもらったので、問題ありませんわ」
四人は椅子に座って話を聞く態勢になる。女は箸を置いて背筋を正す。
軽く自己紹介をしてから本題に入る。女の名前はクリスティーだ。濃い金の髪に明るい茶の目を持つ凛々しい女で、女のファンがいそうな容貌だった。
「四人はルバルディア家という家を知っているか?」
声を小さくして話し始める。多くの者に聞かれたくないのだろう。それでも話すのは悩んでいるからだ。
リジィ、イオネはわからず首を傾げて、セルシオとシデルはどこかで聞いたと首を傾げている。
ルバルディア家とは今から八百年ほど前に有名になった家で、初代は勇者だ。魔王級「突き進むもの」という名のサイ型の魔物を倒したことで勇者となった。
魔王級とは、その昔神々が滅した魔王ルルダゲインのように強いとされる魔物に与えられる称号のことだ。今も三体確認されていて、この大陸にはオオコゲラ山というところに、山猫型の魔王級がいる。
「勇者バムの家やルバルディア勇隊のリーダーの実家といえばわかるか?」
それならわかると四人は頷いた。
勇者バムの話は兄妹はレッドシムから、ほかの二人は親から聞いたことがあるのだ。ルバルディア勇隊もこの街ではそれなりに有名だった。
セルシオは勇隊の方で、シデルはルバルディア家の方で聞き覚えがあったのだ。
「すごく強い魔物を倒した人だって聞いたことある」
「うん、そのとおり」
リジィにクリスティーは微笑みを向ける。
「そのルバルディア家は近々当主が交代するんだ。跡を継ぐのは長女であるオディア様。ルバルディア家は男だろうが女だろうが関係なく、最初に生まれた子に家督を継がせてきた。勇者の武具と一緒にな」
勇者の武具という部分で、再びクリスティーは表情を曇らせた。
「剣聖とも呼ばれたバムのレジェンド武具で、一番有名なのが名剣プライアだっけか」
魔王級を倒すことで勇者の使っていた武具が強化される。それをレジェンド化といい、強化した武具をレジェンド武具と呼ぶ。
レジェンド化は、その武具がもともと持っていた性能を強化する。魔王級には最高品質の武具を持って挑むのが常識で、強化されると希少武具を超える品質を持つ。
そのためレジェンド武具の伝承には、湖を消したといったことや小島を一飲みにできる大魚を倒したなどといった規模の大きな話が残っている。
プライアもバムの息子が、十メートルのロックゴーレムを一刀両断したという話が残されていた。
「ああ、大事に保管されていたんだ。時々式典に使われるくらいで、その剣の輝きに人々は魅了されたものだ。そして当主交代にもプライアが儀式の一部として使われるんだ」
「話の流れ的に、プライアって剣になにかあった?」
セルシオの言葉に重々しく頷く。
「すりかえられていた」
「……大事じゃないか、それ」
たいしたことないと思っていた話が、自身の手に負えないことでシデルの表情は呆けたものとなっている。
「そうっ大事なんだっ。一応事前の確認という名目で、プライアを抜いてみたら鍔や柄が似ている偽物だった! 当主様たちは大慌てで、調査した。そしたら長男であるライド様が旅立つ前に宝物庫に入ったことがわかり、その後は誰も入っていないこともわかった」
「長男が持ち出したのですか?」
「私たちはそう思っている。以前からライド様はプライアに高い関心をもっておられた。だから私が確認のために来たのだ。そしてライド様に会ってプライアの鍔と柄にそっくりな剣を持っているとわかった。確認のために抜いてみてくれと頼んだのだが断られ、偽の使者と言いがかりをつけられてライド様が滞在している宿から追い出されたのだ」
「それで難しい顔をしていたんですのね」
「ああ、どうすればいいと思う? ちなみに身分の証明は管理所を通して本家に連絡してもらっているから、三日もあればできる」
難しい問いだった。
「言いがかりってのが怪しいよな。なにか後ろめたいことがありそうだ」
「家宝を勝手に持ち出した時点で、後ろめたくなるのに十分だと思いますわ」
「あ、そりゃそうだな。管理所やルバルディア勇隊の奴らに事情を説明して、返還を迫ってみたらどうだ?」
「それは考えているのだが、ライド様のことを考えてなるべく穏便にいってくれというのが当主様やオディア様からの頼みなのだ」
「脅迫は最終手段ってことか」
「そうなると身分を証明した上で、通い続けるしかないんじゃ? 渋れば困ることになるのは自分だってライドって人もわかるだろうし」
セルシオの言葉に、それしかないかとクリスティーは頷いた。クリスティーもそれは思いついていたのだ。というよりそれしか思いつけなかった。真正面から訴えて、ライドの良心に期待するしかない。それでも駄目ならば脅迫となるのだろう。
結局はなんの解決にもならない相談だったが、困っていることを吐き出すことができ、クリスティーは少し楽になった。
その後、イオネは訓練に付き合ってもらい、クリスティーも体を動かしたことでさらに表情は晴れたものとなった。
感想誤字指摘ありがとうございます
》シーズンズ家の人々は今後も出てくるのかな?
ちょくちょく出てくる予定です
》兄妹愛、イイですね
ありがとうございます。妹の方はライクとラブが混ざってそうです
》逃げることが出来ない探索家は、早死にしそうなタイプ
常に真正面勝負だと死にますね。だからイオネも仲間を探そうと思ってました
》今回の更新は残念。
仮面に関しては仰るとおりです、一度くらいは外した方が礼儀としても恥ずかしがりやとしてもわかりやすかったですね
》一緒に戦って、強かったしパーティに入れるとか
これはあれです、作者が仲間に入れると決めてたから加入判断が甘くなってた