11 奉納祭
夏が過ぎて久しく、街の外では木の葉の色が変わり始めている。
村では収獲を終えた頃だなと、ぼんやり考えていたセルシオは管理所の壁に目立つものを見つけた。
「ダンジョン管理所休業日のお知らせ、だってさ」
セルシオが張り紙の文字を読み上げた。
入り口の真横の壁に大きな紙が張り出されていた。文字も大きく、さらに赤字で目立たせようという意図が伝わってくる。
挑戦者たちがそれを見るため一度立ち止まるため、いつもより入り口が混雑している。
「なんで休みになるって?」
「奉納祭のついでに、各機材のメンテナンスをするんだとか。十日後の二日間売店とカウンターと出発の間が使えなくなるって書いてある」
「奉納祭か、それなら仕方ないのかな。王都の祭とどちらがすごいんだろ」
収穫と創世の感謝をあわせた祭で、世界中どこでも祭が行われる。
ミドルたちが住んでいたところの祭は大きいものだった。
「人が多いし賑やかになりそう」
「すごい賑わいだろうな」
「村よりも賑やかになりそうだってのは簡単に想像できる」
セルシオがいた村でも当然祭は開かれていたが、料理を持ち寄り騒ぐくらいだった。普段食べられないような料理を食べることができて、それでも十分楽しかった。
「ここみたいな大きな街の祭ってどんな風なの?」
「俺たちが前いたところだと、バザーが開かれたり、自由参加のイベントがあちこちであったり、演劇や大道芸があちこちで見られたな。多くの人が騒ぐから、喧嘩も頻繁に起きたりな。騎士をやってた頃は騒動を鎮めるために走り回っていたものだ」
オルトマンが過ぎ去った賑やかな記憶を懐かしげに思い出している。
「あー楽しみだな。セルシオ、一緒にあちこち行こうぜ」
「うん。こういった祭は初めてだし、俺も楽しみだ」
「お金があるからって、無駄遣いしちゃ駄目だからね」
賑やかで楽しい雰囲気は財布の紐を緩めるのか、散財する者が多い。ミドルもそちら側で、もらった小遣いをあっというまに使い果たすことが当たり前になっていた。
今年は稼いだ分や口止めとして渡されたお金が余っているので、調子にのらないかアズは心配していた。
「必要分だけ残してあとは父さんに預かってもらった方がいいかも」
「そこまでしなくても大丈夫さ、きっと!」
本当に預かられてはたまらないと、慌てた様子で無駄遣いに気をつけると約束する。
本当にとジト目で見てくるアズに、こくこくと何度もミドルは頷いた。
心配すべきはセルシオかもしれないとアズは気づいていない。初めての大きな祭で羽目を外しすぎた者は過去何人もいたのだから。
「祭までまだ十日ある。浮かれてないで気を引き締めろ、これから探索だからな」
オルトマンの言葉に、三人は弾みだしていた気分を自覚し、気を引き締めた。浮かれたままでは危なすぎる、それをきちんと理解していた。
そうして十日経ち、祭の日がやってきた。
日に日に賑やかさを増していった街の熱はいまや最高潮といってもいいだろう。そういった徐々に盛り上がっていく様子すら初体験のセルシオは驚きを隠せないでいた。
街には観光にやってきた周囲の村人、稼ぎ時だと気合を入れている店の主、雰囲気に浮かれてはしゃぐ子供に大人が溢れている。
「祭っだーっ!」
窓を開いて、ミドルが外へと叫んでいる。それを奇行だと思われていないのは賑やかさ故だろう。
オルトマンは見逃さず、ミドルの頭へと拳骨を落とした。
「いたいっ!?」
「あまり調子を外すな。余計なトラブル呼ぶぞ?」
「でも祭だよ? もう楽しみで楽しみで」
「それはわかるけどな。今日の予定はどうなってる? 俺はセオドリアに手伝いを頼まれて、少し回るだけだが」
「私はバザーに行った後、大道芸とか見るつもり」
色々なものが持ち寄られるので、掘り出し物があったりするのだ。掘り出し物がなくとも、気に入る物があるかもしれない。
「俺はミドルについていく」
連れまわす予定のミドルに三人の視線が集まる。
「あちこち!」
わかりやすい一言を、楽しそうに言い放った。
まだでないオルトマンとアズを残して、ミドルとセルシオは早速街に飛び出していく。
まずはどんなものがあるか見て回る。それだけでも初参加のセルシオにとっては楽しめることだった。
「人が多くて歩きづらいな」
「これも祭の醍醐味だと思うけどな。お金は腕輪の中だからすられる心配はしなくていいし」
お金をたくさん持っている可能性のある挑戦者はスリにとって絶好の狙い目なのだが、腕輪からお金を抜き取る技術など持っておらず、挑戦者がスリの被害にあうことはほぼない。時々腕輪に入れずにいる挑戦者がすられるくらいだ。
「お、あそこ押し合いしてる。見てみようぜ」
押し合いはそのまま手と手を合わせて押し合うことで、単純ではあるが声援が飛び盛り上がっている。今は十才ほどの子供が手加減している大人相手に頑張っている。
子供の参加費は十コルジで、勝っても負けてもお菓子がもらえるようだ。勝てば少し豪華なお菓子になるため、頑張る子供もいる。
そこだ頑張れと二人も声援を送る。
大人や挑戦者の場合は上限三百までで勝てば賞金が倍になる。対戦する相手もそれなりのレベルの挑戦者のようで、勝つ者はそう多くない。それでもちょっとした力試しで受ける者が後を絶たない。
二人も敵わないと知りながら十コルジを払って、挑戦し負けた。
「あの人強かったな」
「そうだねー」
最初から負けるとわかっていたし、賭けた金額も少ないものだったので、笑って話せている。
「次はなにがいいかなー」
「向こうが賑やかだけど」
「行ってみよう」
二人は人が集まっている場所へと走って向かう。
行った先は広場で、そこではアカデミーの関係者が祭用の発明を置いていた。
「なんだあれ」
「すごいな」
戸惑う二人の視線の先では、子供たちがあちこちに張り捲らされたロープに掴まり、身軽に飛び移っている光景があった。その隣では大人たちが一度のジャンプで建物の屋根に上がっていた。腕輪が見えないことから一般人らしい。どういうわけか高い場所から落ちても痛みは感じていないらしく、地面に落ちた子供が泣くことなくもう一度ロープへとジャンプしていた。
驚いているのは二人だけではない。多くの者が見入っている。
「面白そうだ!」
「うん!」
子供も大人も跳ね回る光景に二人は目を輝かせている。
自分たちもやりたいと近づいて説明を受ける。
「二種類の飴玉を食べることで、ああいったことができるようになっています。一つは体重を軽くする飴、もう一つは浮遊効果のある飴。これを食べると、あんな風に身軽になります」
「いくら?」
「一回一時間で百コルジです」
飴玉二つに百は高いが、それだけの効果があるのだろうと腕輪で支払い、二人も飴を口に含む。
注意点として飴玉が完全になくなるまで大人しくしていること。効果がなくなる頃には体が重くなり始めるので、地面に下りること。周りをよく見て跳ねること。この三つだ。
飴を噛み砕いて、完全に溶かした二人は早速近くの建物の屋根へと飛び上がる。
「「おおっ!?」」
フワリと浮いてスタンっと軽く着地する。初めての感覚に二人はとても驚いている。
屋根に上がると、多くの者たちが屋根から屋根へと跳ねて移動している様子が見える。ほかには街で一番高い建物に上がって景色を楽しむ者がいたり、ほかの者と協力してどれだけ高く飛べるか試している者もいて、この飴の効果を思いっきり楽しんでいることがわかる。
遊び道具としては成功しているが、この飴は実は狙った効果を出せない失敗作だった。
体重を軽くする飴は、物に振りかけて軽くする水を作ろうとしたのだ。しかし液体ではどうしても効果がごく短時間しか現れず、長続きさせるには? という試行錯誤の末固めると伸びるということがわかった。固めた状態では振りかけることはできず失敗策となった。飴を砕いて粉にして振りかけても効果はでなかった。
浮遊の飴は、それ単体では効果が小さかった。精々十センチ高くジャンプできる程度だ。作成前に考えていたような自在に空中を飛べる効果がでなかったので失敗作扱いされた。
「いいなこれ!」
はしゃいだ様子のミドルにセルシオも頷きを返す。
ほかの者たちと同じように街中の屋根を駆け回り、どこまで高く飛べるか競争し一時間動き続けた。空を飛ぶといったこととは違うが、それに近い風を切っての移動に二人は夢中になっていた。鳥の気持ちが少し理解できたのは二人だけではないはずだ。
思いっきりジャンプして街全体を見下ろせた時は、気分爽快だった。
楽しんでいると、効果切れが近づきジャンプ力が落ちてきた。
「もう効果切れかー」
「楽しかったね」
地面に下りてミドルは残念がる。セルシオは満足している。
「もう一度やろうぜ」
「いいけど、その前になにか飲ませて。喉渇いた」
「俺もだ」
二人は休憩がてらジュースを飲み、その後二時間身軽な散歩を楽しんだ。
飴の高評価に良い資金源になると研究者たちは喜んだが、販売に関して横槍が入った。利益を狙ってというわけではなく、安全面から警備兵たちが口出ししてきたのだ。この飴を使えば塀を簡単に飛び越えることができ、警備の目を届かない場所から泥棒に入ることができると考えた。事実、祭の最中に民家の庭へ着地した者は数え切れないくらいいて多くの苦情が上がった。
こういったわけで無制限の販売は禁止になり、売る相手も子供のみ。持ち帰りなしと制限がつけられた。
苦情や泥棒といったことを失念していた研究者たちは、渋々と要求を受け入れることになる。
散歩を終えて、昼も食べた二人はほかになにか楽しいことはないか探し始める。
見世物小屋にいた珍しい動物に驚いて、砂漠の暑さを体験してみてばててみたり、ジャグリングや皿回しに感心してみたりと祭を満喫する。祭が楽しいのは良いことだと思うが、遊びすぎて宿に帰ったのが午後八時前だった。
連絡もなしにその時間になると、待っている者はさすがに心配する思いを抱く。セルシオとミドルたちが初めて会った時のようにトラブルに巻き込まれたのではと考えたのだ。
「遅くまで遊びたいなら一度帰ってきて一言でも連絡を残しておきなさいっ」
借りている部屋にアズの大きな声が響く。
腰に手をあて仁王立ちになっているアズに、ミドルとセルシオは怒られていた。
オルトマンも叱らないとと思っていたが、アズが怒っているので一言注意するだけで済ませようと考えている。
「心配したんだからね! 小さな子供じゃないんだから好き勝手動かないのっ」
「「ごめんなさい」」
正座していた二人はそのまま頭を下げる。
「明日は私も一緒に行くから」
「別にいいけど、さすがに今日みたいな時間にはならないと思うよ」
ミドルの言葉にどうだかと疑わしそうに視線を向けている。
「疑わしいって思いもあるんだろうが、一緒に遊びたくもあるんじゃないか?」
「ち、違うもん! そりゃ一人で少し寂しかったけど」
ほんのりと頬を赤らめてオルトマンを軽く睨む。
「俺たちだけで楽しんでごめんな。明日はアズも一緒に行こうな」
「きっと楽しいよ、うん」
二人からの生暖かい視線にさらに恥ずかしさが増したのか、赤みが増す。
怒っているんだからねと説教を再開するが、赤さがなくなっていなかったので怖さはまったくなかった。
そして翌日、約束どおり三人で外に出る。オルトマンは昼間までこの宿の用心棒の予定なので、その後一人で歩き回るつもりだ。
賑やかさは昨日に負けず劣らずで、今日も楽しいことがありそうだと思わせる雰囲気が漂っている。
「今日はなにがあるかなー」
「昨日聞いたけど宝探しがあるんだって」
大道芸を見た後に芸人が宣伝していたことをアズは思い出す。
「それに参加してみるのもよさそうだね」
面白そうだとセルシオは乗り気だ。ミドルもほかに行きたい場所はないので、宝探し参加に頷く。
「管理所か礼拝堂のどちらかに行けば説明受けられるってさ」
現在地からだとハウアスローの礼拝堂が近い。
礼拝堂には多くの人が集まっていて、神官たちから説明を受けていた。
「この大陸だと主流なだけあって立派だな」
「そうだね」
礼拝堂を見上げて言うミドルとアズに、セルシオは首を傾げた。
「ドナテルアの礼拝堂はこの一回り小さいよ」
「うちんとこも同じだ」
信者の数、入ってくる寄付の差なのだろう。ダンジョン管理所内での力もハウアスローとエルベラッジェが大きく、両者が主に貴族たちに対抗しているのだ。
「じゃあ他所の大陸だと、ハウアスローの礼拝堂が小さくなる?」
「行ったことないから正確にはわからないけど、そうだろうね」
アズの返答になるほどと頷いたセルシオは、見覚えのある神官を見つけた。少し考えたセルシオは二人に断りを入れて、その神官に近づく。
タイミングよく説明が終わったようで、神官に話しかける。
「レッドシムさん、お久しぶりです」
五十を超えた男の神官に話しかける。青い髪を刈り上げた、柔和な雰囲気を持つ人物だ。目の前に立ったセルシオを見て、少しだけ思い出す様子を見せたレッドシムは驚いたように黒い目を見開く。
「セルシオ君!?」
「はい。顔をみかけたので挨拶にと」
「どうしてここに? いや他所の街に働きに行ったと聞いたからここで会ってもおかしくは……」
「俺は働きに行ったことになってるんですか?」
「そうだよ。私は君の両親からそう聞いた」
「そう、ですか」
表情を曇らせたセルシオを見て、その腕にある腕輪に気づく。
「その腕輪は……もしかして働きにでたというのは嘘だったのかい?」
「……はい。奴隷として売られたんです」
「そうか」
レッドシムは沈痛な表情で頷く。
「運よく奴隷にならずにすんで、今は挑戦者としてダンジョンに挑んでます。仲間もできて楽しくやってます」
「本当に運が良かった。元気な姿を見ることができて嬉しいよ」
浮かべた笑みには再会を喜ぶ気持ちが篭っていた。セルシオも似たような笑みを浮かべる。
「ロッド君とリジィちゃんが心配していたから知らせた方がいいかな?」
「んー……いえ知らせないでください。二人から父母に話がいくと、また奴隷として売られる可能性もあるし」
弟妹のところでは心配する気持ちが込められていて、両親の部分では感情が込められていなかった。両親のことはどうでもいいということなのだろう。
レッドシムは、そんなことはないだろうと言いたかったが、一度売られたことは事実で否定できなかった。
少し沈んだ雰囲気を払うように、セルシオは表情を笑みに変える。
「レッドシムさんはどうしてここに? 各地を回っているんじゃ?」
「たまにアーエストラエアに帰ってきているんだよ。孤児院のことも気になるからね」
「そういえばクレイルから世話になったって聞いたことある」
「ん? クレイルを知っているのかい?」
「何度か話したことがあります」
同じ街に住んでいるし、礼拝にも行くのだ、会う機会はそこそこある。そのたびに少し雑談しているのだ。
「そうかい、今後もあの子のことをよろしく頼む」
「俺の方こそ世話になっていますよ。じゃあ、そろそろ行きます。仲間を待たせているんで」
「うん、怪我なんかしないようにね」
「はい、レッドシムさんもお元気で」
互いに頭を下げてわかれる。立ち去るセルシオを心配する目で見ていたが、説明を求めてきた人に話しかけられ視線は外された。
待ち合わせに指定した木の下に行くと、すぐに説明を受けた二人がやってきた。
「挨拶終わった?」
「終わったよ。元気そうだった」
「それは良かった」
「受けてきた説明聞く?」
聞いてくるアズに頷きを返す。
宝は街中のどこかに隠されている。隠されているのは宝そのものではなく、交換できるガラス玉だ。大きさは握り拳よりも小さい。ガラス表面に白く動物の絵が彫られていて、ガラスの色も様々。ガラス玉に掘られた動物は十二種類、そのうちの一個を手に入れればいい。手に入れたガラス玉によって景品がかわる。
ここでは二箇所のヒントがもらえた。ここのヒントで探せなければ、よそのヒントを聞きに行ってもいい。
「ヒントの一つは、時を示すものと同じ方角を見よ。その直線上にて仲間が見つかる。その周囲で仲間はずれを見つけ出せ、あとは仲間はずれが語るだろう。二つ目は、人や物を飲み吐くもの。もっとも大きなそれを探せ。次なる指示はそこにある」
「時を示すものってのは時計塔じゃないかってアズと話してたんだ」
「俺もそう思う。そっちに行ってみる?」
ヒント二つ目の人や物を飲み吐くもの、それについてセルシオは思いつかなかった。ミドルも同じで、アズは門のことじゃないかと考えていた。
時計塔には既に人が集まっていて、多くの者が時計が向いている方向を見ている。
「ここからだと仲間って見えないな」
「ほかの人も歩いていってるし、俺たちもそうしよ」
「そうだね、なにか見つかるだろうしね」
のんびり歩いていると、ほかのヒントを参考に歩いている者たちと行き会う。少なくない数の参加者がいるらしいとわかる。そんな人々に、ちょっと休憩しないかと声をかけているのは屋台の主たちだ。
頭上には二つの飴を食べた者たちが移動している様子が見える、あれはなにと首を傾げたアズに、二人は飴の効果を話し、楽しかったことも話す。楽しそうな口調に興味が湧いたが、スカートなので今はできそうにないなと諦めた。
賑わいの間を通り抜け、人が多く集まる広場に出た。
「仲間ってあの日時計のことかな?」
アズの指差す先にある日時計の近くに、人が多く立ち止まっているので間違いないだろう。
三人は周りを見渡し、仲間はずれを探していく。見つけた者がいるようで、その人の後をついていけば正解にたどり着くのだろうが、それでは楽しくないので、三人とも自力で探す。
周囲には屋台が出ていて、どこもそれなりに客が着ている。
「あれかな」
ミドルが指差したのは飲み物を売っている屋台だ。人が一番多いというヒントがあったのだが、ほとんどが食べ物か小物を売っている屋台の中、ただ一件飲み物を売っていることで仲間はずれじゃないかと思ったのだ。
理由を聞いて二人も納得し、飲み物を買うついでに宝探しのことを聞いてみることにした。
「すみません」
「いらっしゃい」
「リンゴジュース三つください。あと宝探しについてなにか知りませんか?」
「リンゴ三つだね、三十コルジだよ。器を見てみること」
値段の後に、ぽつりと付け加える。
これは当たりらしいと三人は頷き合う。
木の器に入ったジュースを飲み終え、器を見ると街南部の簡単な地図が描かれており、自分たちの泊まっている宿に印がつけられていた。
「ここに行けってことだよね」
セルシオの言葉に二人は同意する。
器を返して、宿に戻る。宿には人が多く集まっており、いつも以上に賑やかな様相を見せている。
集まった人たちの間を通り抜け、三人は用心棒をしているオルトマンに話を聞きにいった。オルトマンはこういった状況になるとわかっていたセオドリアに頼まれ用心棒を引き受けたのだった。
「お前たちもう帰ってきたのか?」
「いや宝探しの途中なんだ」
ミドルの言葉にお前たちもかと苦笑を浮かべた。
「ちょっと待ってろ」
そう言って三人から離れていったオルトマンはカウンターの裏に回り、床に置かれていた木箱から鳥が描かれた朱色のガラス玉を取り出した。
「ほれ、これがお前たちの探していたものだ」
「意外と簡単に見つかったね」
もう少し捻ってあるのかと受け取ったガラス玉を見つつアズが言う。
「本格的な宝探しをさせるためじゃなくて、目的は街を歩かせて色々なところを知ってもらうためだからな」
「なるほど」
「景品の受け取り場所は知っているか?」
「うん、聞いてる」
街で一番広い広場だ。
そこに向かう前にアズはオーバーオールに着替え、その上からローブを着る。宝探しの後に二つの飴を食べるつもりなのだ。
宿を出て、大広場に行くと既に到着した者たちが景品とガラス玉を交換していた。
中にはガラス玉を記念品に貰いたいという者もいて、そういった者は景品の代わりにガラス玉をもらっていた。
「もらえるならもらいたいな」
綺麗だしと手の中のガラス玉を転がす。
「俺はべつにそれでもいいけど」
「俺もかまわないよ」
「ほんと? ありがとう」
嬉しそうに笑い、ガラス玉を太陽に透かす。ガラス玉を落さないように、ボタンの付いたポケットに仕舞い、二つの飴を食べるため歩き出す。
アズはこれを見るたびに、三人で祭を楽しんだことを思い出すようになる。時間が経つごとに三人の絆の証となっていったのだ。とてもとても大切なアズの宝物だ。
感想、誤字指摘ありがとうございます
書き溜め終わったので、また溜めてきます