プロローグ - 着信 -
(携帯電話の着信音が鳴っている…。またマナーモードにし忘れたな…)
真夜中の静寂を劈くメロコアアレンジの着信音。アナログ時計はちょうど午前二時、丑三つ時を指し示している。訝しがりながら携帯電話を開く。豆電球の灯りが微かに照らす小さな部屋を、バックライトが明るく照らし出し、開いたばかりの目に飛び込む光が視覚を刺激する。
- 非通知 -
(こんな時間に誰だ。面倒くさいな…放っておくか)
しかし、無視しようとする意思とは裏腹に、指は引きよせられるように通話ボタンに向かう。自分の行動に驚きながらも問いかける。
「はい、もしもし…」
「・・・」
応答はない。真夜中の静寂が視覚の冴えを助ける。携帯電話に耳を当ててすぐに、相手が様子を伺っているのが分かった。意図の分からない電話に不自然な鼓動の高鳴り。
「誰ですか?」
「………。………。……『誰』…」
「『誰』…ははは、やった。これでやっと開放される…。私が誰かは君にとって意味はない。狂っているのは私じゃない。このシステムの方だ。君にもすぐ分かる。私は君に引き継ぐ」
電話の誰かはそれだけを言って通話を終了した。感じていた不可思議さに裏切られるような、あまりに普通の声だった。ただ、疲れと歓喜の入り混じった声の調子のなかに、先の無い終わりが安堵であるかのような思いを感じ取った。
(『君に引き継ぐ』ってなんだ。まぁ、いいか…明日も学校だし、早く寝よう)
「君に引き継ぐ」、この言葉が意識の裏を駆け巡るのを感じながらも、朝に備えるかのように深い眠りへとおちていく。
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