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月光

蒼夜、陸そして來の会話がメインです。

 ――翌日、立川基地の第17特殊近接小隊隊舎。

 昨日の戦闘の余波はあまり残っていなかった。

 小隊長の東堂は昨日のうちに明日はオフと伝えていた。傷などは美月の治癒魔法でほとんど残っていないが、休息も兵士の大事な仕事だ。

 執務室でコーヒーを飲みながらここ数日のことを整理する。

 川越で蒼夜がアルグスに一目置かれているのは確かだ。クシフォスと呼ばれるアルグスに一太刀浴びせてプライドを傷つけたのか、良いおもちゃを見付けたと思ったのか。

 どちらにしろクラトシアが蒼夜を知っていたのは驚きだ。

 蒼夜、陸そして來が報告した内容では、カルナ達はクラトシアの指示で蒼夜を探していたそうだ。この2体のアルグスにどんな因果があるのか。魔族内部も一枚岩ではないのか。

 疑問は増える一方だ。

 東堂は目を瞑りさらに深く思考の海に沈む。

 防衛軍情報部からの報告では東京保護区近辺のアルグスは三体。青梅市方面、熊谷方面、厚木方面にそれぞれ軍団規模で占領している。

 これまでの状況から青梅方面はクラトシア、熊谷方面にクシフォスそして厚木方面はまだ見ぬ未知のアルグスが待機していることが推測できる。

 この3軍団が同時に攻めてきたら東京防衛軍は壊滅するだろうが、ここ10年ほどはアルグス同志で結託して攻めてくることはなかった。つまり、アルグスは連携を取るつもりはないらしい。

 それがアルグス同志の離反や内乱を意味するのかは不明だ。

 ここまで考えて東堂はコーヒーが空になっていることに気付く。


「ポットに水入れるか」


 独り言を零しポットに手を伸ばしたところで、薄い壁越しに渇いた木がぶつかる音が響く。

 木刀かな。

 東堂は執務室の唯一ある窓から稽古場を見下ろす。

 蒼夜と陸が木刀で打ち合っているのが見えた。

 早いな、蒼夜は。

 初めて蒼夜の剣術を見た時は驚いた。あの歳でここまで強さを磨いた隊員がいるとは。特殊空挺団に所属していると言われても違和感がない。

 その蒼夜に必死に食らいついている陸も中々やるな。

 蒼夜に決定打を打たせない立ち回りと隙あらば反撃を繰り出せる胆力。陸も、蒼夜が来てから少しずつ成長している。良い影響が出ていて嬉しい限りだ。

 誰も見ていないところで東堂は笑顔を浮かべる。

 大切な部下たちを守るために知恵を働かせなければ。

 少なくとも蒼夜が狙われていることは確定している。アルグスと一騎打ちなんてさせたら、いくら蒼夜でも危ないだろう。陸と來に蒼夜を見ておくように指示しておくか。

 東堂が思考を巡らせていると、執務室のドアがノックされた。


「入っておいでー」

「失礼します」


 来たのは來だった。


「おう、どうした來」

「ちょっとご相談があります」

「何だい?」


 來が少し深刻な顔を浮かべながら言う。


「昨日の戦闘で自分の弾丸は避けられました。当たったのは蒼夜君に斬り掛かり無防備だったカルナ一体です」


 確かに昨日の戦闘で狙撃は効果的ではなかった。


「昨日の戦闘は好戦距離が狙撃向きではなかったじゃないか」

「はい、ですがあのような奇襲では自分は役立たずです。なのでお願いがあります」


 東堂は無言で來の言葉を待つ。


「小隊の後ろを任せられるだけの白兵戦の技術を教えて下さい」


 來は綺麗な四十五度敬礼を見せる。

 東堂はジッと來を見つめる。確かに來の狙撃は超人的だが、白兵戦はほとんどできない。かと言って魔力がない來に白兵戦を教える意味はあるのか。

 東堂は悩みながら、蒼夜と陸の稽古を見る。ただの剣術なら良いが敵は魔法障壁がある。紫石が含まれる軍刀の開発がされていたが、刃が脆くなるだけという結果が出た。魔法障壁を破れる兵器は現状、紫石を含む弾丸と魔力を流した刃だけ。可能性があるとすれば魔法障壁の隙間、魔力の繋ぎ目を狙う攻撃。來にその隙間を狙うだけの剣技を身に着けさせるのは相当時間がかかる。

 だが、可能性は0じゃない。


「來、お前は紫石感応度0だ。魔力がなければ、魔法障壁は破れない」

「分かっています」


 來の目は真剣だ。東堂は真っすぐ來の目を見る。


「それでも、俺は戦いたい。蒼夜君や陸の背中を守りたい」


 その言葉に東堂は椅子から立ち上がり來の目の前に歩み寄る。


「今すぐ白兵戦が出来るようにはならないが努力次第ではある程度戦えるようになる方法はある。やるか?」

「はい、努力次第ならば、全力で修行します」


 來は固い意志を持って言う。今のままでは蒼夜や陸の背中を守り切れない。この小隊の背中は俺が守るべき領域だ。そう覚悟を決めた顔を東堂に向ける。


「分かった。早速外に行くぞ」

「了解しました!」


 年相応の反応を見せる來に東堂は微かに笑みを溢す。


「今回の防衛戦を乗り切れれば來も化けて来るな」


 新しく入れたコーヒーを机に置いて、外の空き地に向かった。



 ――連隊司令室では今日も作戦会議が開かれていた。


「まず、我が方の戦力はこの連隊6000人と、中央即応旅団から2000人、それと空軍の総力の半分である戦闘機F-15が200機だ。地上戦力は8000人になる」

「敵の地上戦力は5万、そして航空戦力、つまりスヴェイルは500体。あとアルグスが一体。戦力差は依然10倍程だな」


 第一中隊の小田一尉は立川周辺の地図に映し出された、敵の予想侵攻ルートと第14陸戦連隊の配置図を見る。

 

「やはり、敵の砲撃陣地を二個中隊で襲撃し、アークウォールの崩落を遅らせる方が良いだろう。航空支援があれば可能なはずだ」

「小田。その作戦での予想死傷者数は300人ほどだ。もしアークウォールが崩落した際、その300人ですら惜しい。迫撃砲などで牽制し消耗を抑えるべきだ」


 小田の発言に第二中隊の中隊長、後藤ゴトウ一尉が反論する。


「そもそもアークウォールの崩落を防ぐ方が肝心だろう」

「だが、300人も死傷者を出すということは二個中隊の約4割が損耗することを意味する。こんな作戦があってたまるか」


 戦死者をできるだけ減らしたい後藤の主張も、アークウォールの崩落を防ぐべきという小田の主張も桧垣一佐は理解できる。目を閉じて自分の心に問う。

 300人か。もしかしたらもっと死ぬかもしれない。だがその決断をするのが自分の仕事だ。目を開き15人の中隊長たちの顔を見る。


「小田と後藤の発言はどちらも理解できる。だが、あえて言おう。今回の作戦は全滅すらあり得る。だからこそアークウォールの崩落だけは避けなければならない。よって敵の砲撃陣地への進撃を第一中隊と第二中隊に命じる。もちろん、壁上からの砲撃支援、そして各中隊から術式支援小隊を全て引っこ抜いてこれも支援に回す」


「了解です」


 後藤はすぐに返事し、小田を1つ質問をする。


「第17特殊近接小隊はどうしますか?報告によれば最近入った柊士長がアルグスに狙われているとのことですが」


 桧垣は深く椅子に座り考える。


「その小隊は壁外には出さない。可能な限りな。アルグスは俺達でやる」

「了解です桧垣一佐」


 兵士でありながら、子供でもあるあの子たちを守るためにやれることはやる。これが大人の役目だ。

 作戦会議はさらに熱を帯び始めた。


 ――夜、蒼夜、陸そして來は隊舎の屋上でのんびり過ごしていた。陸の作った料理を満腹になるまで平らげ、風に当たろうとした蒼夜に二人が付いて来た形だ。

 三人が並んで寝転んでいると、ふいに陸が口を開いた。


「なあ蒼夜、川越ではどんな戦いがあったんだ?」


 これから川越と同等の規模の攻撃がされると予測されている現状で、陸はその攻撃の経験者である蒼夜に疑問を投げる。


「……地獄でした」


 答えは一言。地獄だ、と。


「そう、だよな。やっぱりアルグスが憎いか?」

「憎い、ですか?」

「そう。アルグス憎しでも、魔族は全員殺すでも、何でもいいからお前の率直な気持ちが聞きたいんだ」


 蒼夜はゆっくりと当時のことを思い出す。賢治がいて、天野さんがいて他の仲間たちがいて、一緒に戦いそして自分以外死んだ。

 その時感じたことは多分。


「この軍刀は戦友から譲られたものです」


 蒼夜は刃を抜き夜空に向ける。闇に溶け込む刃に星々が映る。


「この軍刀でクシフォスを殺すことが自分の役目です。なのでクラトシアに負けてる暇はありません」


 陸と來は蒼夜が来る前に共有されたデータを思い出す。戦死者5804人。生存者1名。その戦友がどうなったかは明白だ。

 これだけ強い蒼夜が勝てなかった相手に、彼はもう一度挑もうとしている。その背後にどれほどの想いがあるのか想像に難くない。


「なら、クラトシアの方は俺に譲ってもらおうかな。クシフォスは蒼夜に譲るぜ」


 陸が務めて明るい声で言う。それに來が乗っかる。


「陸だけだと不安だから僕も一緒に行くよ。陸はたまにポカをやらかすからね」

「何だと⁉俺だってやるときはやるぞ!」


 冗談を交わしながら笑う陸と來に蒼夜も疑問を投げる。


「そう言えば來さん。なぜ軍に入ったかまだ教えてもらっていませんね」


 初日に來が帰投後に話すと言っていた入隊の動機は、その後のゴタゴタで聞けていない。


「あー紫石感応度が0で軍に入った理由ね」


 蒼夜は黙って來の言葉を待つ。


「九条って苗字に聞き覚えがあるかい?」


 九条來。それが彼の名前である。九条と言えば何だったかな、と蒼夜は考える。だが、ずっと外地にいた蒼夜は世間のことをあまり知らないため何も思い付かない。


「すみません。ずっと外地にいたので何も思い付きません」

「そうだよね。入隊してからほとんど外地にいた蒼夜君は知らなくも無理はないか。じゃあナインロックス社は知ってるよね?」

「はい、現在の東京保護区の経済はナインロックス社に支えられていると聞いています」

「そう、そのナインロックス社の会長は九条統志郎っていうんだ」

「九条...?あ!」

「そう俺のおじい様がその会長なんだ」


 ナインロックス社の御曹司、それが來の世間からの見え方なのだ。


「あのナインロックス社の⁉」


 蒼夜は驚きの声と共に、來を横目に見る。


「びっくりした?まさか大企業の会長の孫が最前線の兵士になっているなんて思わないよね」


 來は悪戯が成功した子どもの目で蒼夜を見返す。


「外地でもナインロックス社の話しは聞いてました。紫石関連の開発はナインロックス社が独占していて、東京防衛軍も頭が上がらないって以前の隊の隊長が言ってました」

「そう、その影響力があるのは開発した兵器の有用性を軍が認めているからで、その兵器の有用性を示すために戦地で実演するために僕は入隊したんだ」


 なるほど、だから紫石が含有されている銃弾を來は持っていたのかと、蒼夜は腑に落ちた。


「紫石感応度が0でも戦えることを示すためだったんですね」

「そういうこと。だから狙撃しかできないんだ」


 陸はその話を聞きながら苦虫を噛んだ表情を見せる。


「全く酷い話だよな!死ぬかもしれない戦地に送って自社の製品のデモンストレーションをさせるなんて」

「最初はすぐ死ぬと思ってたよ。だけど以前いた隊が壊滅してこの隊に拾われてからは自分の意思で戦ってる。いや、戦えてるかな」

「ご実家に帰りたいと思わないのですか?」

「今はあまり思わないかな。ここにいる方が心地いいくらいだよ」


 あんな冷たい場所に戻りたいなど一度も思ったことがないけどね。來の内心は二人には言わなかった。代わりに、陸に話しを振る。


「陸はお兄さんの仇を討つんだよね」

「おう、俺の兄貴は戦争が始まる前から自衛隊にいたんだ」

「自衛隊に...」


 東京防衛軍の前身となる組織。開戦当初は命を張って国を守った英雄達だ。戦死者は毎日数千人規模で出たと聞く。


「兄貴とは戦争へ行く前に、帰ったら焼肉食べようぜって話してた。結局出征してから一度も会えずじまいだったけど」

「戦死されたのですか?」

「うん、富士の戦いで戦死したらしい。偵察任務だったけど、アルグスが出てきてあっと言う間に全滅だったそうだ。どんなアルグスか知らねーが、絶対仇は取る」

 

 空に拳を突き出しながら陸は言った。

 幼い頃の、戦争が始まる前、兄貴との記憶を思い出しながら陸は笑った。


「兄貴はさ、結構バカで、自衛隊に入隊したのだって面白そうだからって理由で入ったんだよ。笑えるだろ?」

「陸の兄貴って聞くと想像できるね」


 來は笑った。陸はどういう意味だ!。と笑顔で返す。二人の笑い声を蒼夜は無言で聞く。


「今回の防衛戦負けられないな」

「そうだね、アルグスが来たって負けられないよ」


 陸の言葉に來は返す。二人は蒼夜の様子を見るが返答が返って来ることはなかった。

 三人は静かに夜空を見上げ、それぞれの決意に想いを馳せる。

 月がいつもより近く感じられた。


 夜空を見上げて蒼夜は拳を固く握る。小隊の全員が生き残れればいいが、大軍のドロヴァ、二刀流のカルナ、そして理不尽な暴力であるアルグス相手に果たして何人生き残れるか。

 また失うのか、とそれが何よりも恐ろしいことだった。

三人の想いの語るシーン如何でしたでしょうか?

少しでも蒼夜が心を開けばと思う一話でした。

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