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蒼夜の魔力

小隊の全メンバーが揃いました。

どんな仲間か是非ご覧下さい。

 結論から言えば、蒼夜は玲と一馬の二人を同時に相手することになった。

 昨日の宴会で約束した二人との模擬戦は、どちらが先にするか玲と一馬が喧嘩を始め、そこに蒼夜の『同時にしますか?』、の一言。それに舐められていると感じた二人が蒼夜を滅多打ちにしようと結託した結果、正面で軍刀を構える二人と同時に戦うことになった。

 

「一馬、あいつの体、重くしてやれ!」

「了解です!」


 一馬は右手で軍刀を持ち突撃しながら左手を伸ばし、魔力を蒼夜の足元に送る。

 蒼夜の周囲、半径3メートルほどに魔法陣が現れ、魔法が発動する。空気を軋み空間が重くなる。

 蒼夜は重量の餌食になる前に後ろへ飛びのく。

 だが、それを読んでいた玲の魔法、氷の槍が上から降り注ぐ。

 蒼夜はそれを目視することなく、魔力の感知だけで避ける。


「そんなのアリかよ⁉」

「マジっすか⁉」


 魔力探知は魔法が扱える者なら誰でも出来るが、正確に避けられる兵士は見たことがない。

 各々の訓練を中断して観戦している小隊全員が驚嘆する。陸だけはやるなー、とニヤけているが。

 玲と一馬の動揺は一瞬だった。すぐさま軍刀を構え臨戦態勢を整える。

 蒼夜は微かに漆黒の魔力を全身に纏う。魔力の余波が地面に黒い霧のように広がる。


「一馬来るぞ!」

「玲さん!氷の壁お願いします!」

「あいよ!」


 二人が急ぎ迎撃態勢を整える。

 玲が魔法を発動させ氷の壁を生成しようとしたとき、蒼夜の魔力が爆発し、その壁を打ち消す。魔力の干渉による魔法発動の妨害。高難易度の魔力操作をしなければできない技能を蒼夜は容易くこなして見せた。

 これには陸も驚きの声を上げる。


「剣術だけじゃねーのかよ」


 蒼夜は相変わらずの無表情で、相対する二人を見据える。切り札の1つを見せた。

 右手に持つ軍刀へ魔力が流れる。それを玲と一馬が認知した瞬間には、蒼夜は二人の目の前に踊り出ていた。

 軍刀を大きく振りかぶりまずは一馬の首を狙う。一馬の視線は確かにその軌道を捉えていたが、体が動かない。まるで足に重い蔓が巻き付いているようだ。

 蒼夜の刃が一馬の首に迫る中、玲の氷の槍が蒼夜の後方に生成される。蒼夜はその魔法を無視して振り抜く。


「うがっ!」

 

 軍刀の衝撃で吹き飛ばされる。

 一馬脱落。

 玲は氷の槍を蒼夜の背中に向けて発射する。蒼夜は一瞥もせず軍刀を体の左側から後ろに回し氷の槍を全てへし折る。

 思わず舌打ちを漏らす玲は、自分の左右に氷の槍を生成し正面から突撃する。斬撃を防げば氷槍が、それを防げば斬撃が蒼夜を襲う。

 この二択に対し、蒼夜は後方へ飛びのく。距離を開け氷槍と玲の斬撃のズレを狙う。

 だが、着地した時足が滑る。下を見ると薄く氷が張られていた。

 玲と共に氷槍もすでに目前に迫っている。

 避けるには足場が悪い。

 蒼夜は即座に判断し、魔力をさらに解放する。漆黒の炎のように広がり、地面の氷を蒸発させ、氷槍を消し飛ばす。

 そして、一瞬遅れて肉薄した玲の刃を軍刀で受け止め身を右に逸らしながら、軍刀を滑らせ流れるように玲の横を過ぎ、玲の胴を斬る。


「そこまで!」


 東堂の声が道場内に響き渡る。

 観戦していた皆、自然と蒼夜に視線を向ける。

 自分ならどうやってこの怪物と戦うか、脳内でシミュレーションをしていた。

 

「あークッソ――!強いな蒼夜くん!完敗だったよ」


 玲が悔しそうに蒼夜に歩み寄る。昨晩の歓迎会から急に蒼夜くんと呼ばれているが、蒼夜はあまり気にした素振りはみせない。


「ほんと化け物すぎますよ柊士長」

 

 一馬が美月の治癒魔法を受けている。首に傷を負わせてしまったか、と蒼夜が少し申し訳ない表情を浮かべる。


「すみません鳴海二士。首は大丈夫ですか?」

「大丈夫です!気にしないで下さい!」


 そうですか、と短く返し蒼夜は玲に向き直る。玲は悔しさと次への興奮が入り混じった顔で蒼夜を見る。


「約束通りフィードバックしようか」

「了解しました。まず――――」


 蒼夜、玲そして一馬は模擬戦の振り返りの時間を持つ。その様子を静かに東堂、凛花、來が見ていた。


「結局、柊士長の魔法は見られませんでしたね。魔力強度が高いのは判明しましたが」

「人事資料にも書いてなかったな」


 凛花の言葉に東堂が気の抜けた返事をする。來は先ほどの模擬戦を思い返す。

 あの黒い魔力は魔族の魔力に近いと感じたが、使い方が全然違う。紫石感応者なら誰でも出来ることを高いレベルに昇華し使っているだけだ。

 哨戒任務のときの抜刀術もそうだ。魔力を極限まで薄く延ばし軍刀の切れ味を最大限活かした抜刀術。どれもまだ魔法の行使ではない。


「切り札はまだ見せていない。そんな雰囲気ですね」

「そうだな。あの川越を生き残ったんだ。技は俺達が思っている以上に持っているんだろう」


 東堂はそう言って小隊各員に訓練続行の号令をかける。

 來はもう一度蒼夜を見て呟く。


「秘密主義はお互いさまだね蒼夜君」


 ――東京保護区、首相官邸の総理執務室。

 戦争が始まっても民主主義は一応保たれている。救国保守党の総裁である小原隆司オハラ リュウジは戦前から残る立派な椅子に腰をかけて、目の前の軍人の話を静かに聞いている。


「西東京戦線の第14陸戦連隊の連隊長である桧垣一佐から近いうちに大規模侵攻があるという報告が上がっています。中央の分析官たちも同じ結論に至り、援軍の準備などが進められています」


 報告しているのは東京防衛軍参謀本部から出向している渡辺龍之介ワタナベ リュウノスケ二等陸将。軍服からもわかる隆々とした筋肉に小原は少ししり込みしている自分を自覚していた。


「この大規模侵攻により同連隊が壊滅した場合、西東京の防衛は不可能となります。他戦線から人員を割いたとしてもアークウォールの修繕を進めながら防衛は現実的ではありません」

「なら守り切ってもらわないとな」

「それには戦闘機を飛ばす燃料費、補充する弾丸の買い取り費用など予算が必要なのですが?」

「そのことだが、議会で補正予算案を通せる見込みがな」


 小原は思案顔を浮かべる。議会に通すため策略ではなく、目の前の軍人をどうやって帰らせるかを。


「議席は半数以上確保されているのにどうして法案が通せないのですか。今こうしている間も兵士たちは前線で戦っているのですよ!」


 渡辺は語気を少し荒げて小原に詰め寄る。その語気に押されるように小原は背もたれに身を預ける。


「渡辺くん、現実を見たまえ。10年だぞ、10年。国民も議会も、もう疲れているんだ。戦費は予算の三割。これ以上は無理だ」

「それはそうですが……。このままでは戦えなくなります」

「そこをどうにかするのが、君たち幹部だろう?」


 またか。渡辺は前回の報告会でのことを思い返す。あの時も軍部の予算は削れら、ナインロックスへの研究投資という形で金が流れた。

 このままではナインロックス社から弾薬や軍刀など基本装備すら買い取れない。

 それに大規模攻勢が本当に起きた場合、戦闘機を飛ばす燃料が備蓄の2割ほど使われる試算だ。とても各戦線への補給などできる状況ではない。


「さすがに我々にも限界があります。幹部の給与ですら四割カットして弾薬の一発、軍刀の一振りを買い取っている状況です」

「それは我々政治家もそうなのだよ。市民のために働き、考え、市民の幸福のために動いている」


 何が市民の幸福だ。昨日だって政治家の集まりで金を散財していたくせに。


「では、戦果があれば予算を増やして頂けますか?」

「戦果とは?具体的になんだね?」

「人類初のアルグス討伐」


 報告によれば川越陥落時に唯一生き残った少年兵がアルグスと一騎打ちの末、撃退したと聞いた。本人も重症を負ったが、一定の戦果を挙げている。その彼は最近立川基地に異動になっていたはず。可能性は0じゃない。


「アルグスの討伐?ははは!そんな快挙を成したのなら防衛予算の増額なんてすぐに可決するだろうな」

「そのお言葉忘れないで下さいね。総理」


 そう言って渡辺は踵を返して執務室から出た。

 執務室の外まで小原の笑い声は聞こえて来た。


「外は魔族、内はクソ政治家。我々の周りは敵だらけだぞ桧垣」


 旧友に届かない愚痴を吐く。あの少年兵がどこまで戦えるか、特殊空挺団の投入を総司令官に進言するか、考えることが増えたなと思案する。


 執務室に残った小原は通信端末の画面を起動する。そこには一人の老人の顔が映し出されていた。


「お聞きしていたと思いますが、近々大攻勢があるようですな。すでに把握済みでしょうか九条閣下」


 九条統志郎クジョウ トウシロウ。ナインロックス社の会長にしてこの東京保護区の産業の8割握っている権力者だ。

 

『ああ、聞いているとも。かのお方は今回の大規模侵攻で西東京の完全攻略をお考えのようだ』

「これで、溢れかえった『口減らし』も捗り、魔族側への人体供給もまた可能になりますな」

『そうなれば我が社の研究のためにも魔族の遺体が供給される。これで新たな兵器を開発しそれを軍に売る。まったく戦争は儲かるな総理よ』

「全くですな。それに防衛軍は全滅しても我々の身分は保証される。かのお方には感謝しかないですな」


 その言葉に九条統志郎は微かに口角を上げて応え、通話から落ちた。


「東京防衛軍には悪いが、これが処世術というものだよ渡辺君」


 小原は通信端末を横に置き、本来の執務に取り掛かった。


 数日後、蒼夜達は壁外にいた。

 哨戒任務だ。前回と同様に壁上エレベーターを使い外に出て、緩衝地帯を抜けて瓦礫の森に入る。

 いつ来てもおかしくない魔族の大規模侵攻に対して、蒼夜は小隊のメンバーとある程度戦術的行動がとれるようになった。

 中でも陸との連携は非常に取りやすくなった。白兵戦をずっとやってきた者同士通じるものがあったらしい。


「蒼夜」

「なんですか?」


 自然と一緒にいることが多くなった蒼夜と陸は二列の隊列を並んで歩いている。


「どんな女が好みなんだ?」

「……」

「無視んなよー」

「……」

「おーい」


 心の距離は、まだ遠かった。


「はあ。分かりません」

「分からないってどういうことだよー」


 いつまでもしつこく聞いてくる陸に、蒼夜は素直に答えた。分からない、と。


「分からないんです。考えたことがないので」

「なら美月とかどうだ?」

「榊原さん?」

「私のこと呼んだ?」


 後ろから声がかかった。後ろに並んでいる美月だった。


「いえ、話題に上がっただけです」

「私の話題⁉え、何々?どんな話題?」

「陸さんが……」

「言わんでいい蒼夜」


 蒼夜の言葉を遮り、陸が言う。


「これは男同士の友情の会話だ!美月はまた今度な!」

「じゃあ俺は入って良いよな?」


 次は前から声が聞こえた。

 東堂が陸に笑顔を向けているが、圧が怖い。

 基本厳しいことは言わない東堂だが、任務中の度が過ぎた会話は諫める。


「楽しむことは止めないが、今は任務中だ。陸ー」

「ご、ごめんなさい兄貴」


 東堂の横で鋭い視線を向けて来る凛花も中々な圧を放っている。


「何で俺だけ。美月も騒いでたじゃん」


 二人にバレない程度の小声で陸が愚痴を溢す。

 それに美月が軍刀の柄で小突きながら言う。

 

「陸が最初に振って来たんでしょ」

「そうだけどー。蒼夜も叱られてくれよー」

「……嫌です」


 少し考えてちょっとあの二人の眼光は受けたくないな、と考える蒼夜だった。

戦争と仲間の狭間で蒼夜がどう生きるのか是非刮目下さい。

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