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哨戒任務開始

哨戒任務って響き好きなんですよね。

実際に行きたい訳ではないですが笑

 魔物は大きく3つに分類されている。翼竜型、獣型、そして人型のアルグス。アルグスの観測事例はそれほど多くないが、出現した際の被害は他の二種とは比べられない。対アルグス戦で人類が生還したのはたった1回だけだ。

 そんな魔族軍だが、通常時は中隊規模での行動が多い。ドロヴァ150体、スヴェイル5体。この構成が基本だ。これに対し防衛軍は3個小隊120人で対応する。だが第17特殊近接小隊は1個小隊12人でこれの撃破を達成する。それほどに練度の高い部隊なのだ。よって哨戒任務もこの小隊単体で遂行する。


「さて、蒼夜の実力も分かったことだし、哨戒任務行くかー。あーめんどいなー」

「隊長、部下の前です。控えなさい」

「はい、すみません、と」


 蒼夜と陸の模擬戦が終わり、隊舎の案内が終わった後、突然東堂が言う。


「ここにいない隊員は先に斥候として出してる。普段は斥候なんて出さないけど、今日は哨戒任務と蒼夜の受け入れの時間が被ってな」

「哨戒はアークウォールの昇降エレベーターで外地に行き実施します」

「蒼夜君は外地任務が多かったんだよね?」


 如月が補足し、ほのかが興味津々を全面に出して蒼夜に聞く。


「はい、川越前線基地は外地にあるので基本的に内地には戻りませんでした」


 防衛軍の基地は基本的に南関東を囲むアークウォールの内部に建てられるが前線基地としていくつかは外地に建造される。領土回復を目的とし将来的にはアークウォールの拡張工事が予定されていた。川越陥落でこの予定は白紙に戻ったが。

 蒼夜は当時の生活を思い返す。毎日魔族と戦い、休日なんてなかったが、信頼する仲間が側にいたから戦えた。小隊と分断された時も仲間は命がけで救出しに来てくれた。その仲間もあの地獄ですべて失ってしまった。もっと強ければ、アルグスに勝てる力があれば失わずに済んだのに。そう考えない日は未だ来ていない。


「外地での任務に長く就いていた蒼夜には不要な説明かもしれないが、一応伝えておく」


 東堂が隊舎を出ながら話し始める。


「外地は基本的に瘴気が溢れている。俺たち防衛軍が魔法を行使するときに使う紫石はその瘴気が岩石に浸透することによってできるから、大きな塊があったら持って帰って来い。ナインロックス社が買い取ってくれるからな。あと魔族軍が罠を張っている場所があるから、探索魔法を使って確認してから進むこと。ま、単独行動はやめておけということだ」


 ナインロックス社。紫石を武器産業に利用した初めての企業だ。今やこの産業がないと防衛軍は戦うことすらできない。だが、軍が持ち帰る紫石がないとナインロックス社も製造ができないため、協力体制が築かれている。


「蒼夜、何か質問はあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか、初任務だ。気楽にいこう」


 そう言って東堂はアークウォールを見上げる。昇降エレベーター以外特に何もない白い壁。鉄筋コンクリートで建てられ魔族の魔法砲撃を防げるほどの分厚さを誇る。高さ200メートル、幅30メートルの巨大建造物。全周は蒼夜も知らないほど長い。

 10機あるうちの1機の昇降エレベーターが下がっている。操作盤付近にこの連隊の工兵らしき兵士が立っている。


「お疲れ様です。先発隊は30分ほど前にエレベーターを降りました。すでに二号エレベーターを下しているので乗って下さい」

「ありがと、田代(タシロ)一士。すぐに出るよ」

「はっ!」


 蒼夜たちはエレベーター乗り込む。鉄柵で作られたドアが鉄の音を立てて閉まり、重い機械音とともに上昇し始める。200メートル上昇に約45秒かかるが、その間誰も口を開かない。

 壁上にエレベータが到着した。太陽が少し近く感じられる。反対側の鉄柵の扉を開き振り向くと基地を一望できる。その奥には予備陣地。さらに奥に見えるビル群は民間人が住む居住区。戦争が始まる前から変わらない風景が広がっていた。

 だが、前を向けば倒壊した建物と人が住まなくなって増殖した草木。アークウォール付近1キロは索敵のために整地されているがそこから先は魔族のテリトリーだ。瘴気が漂い、まだ昼前なのに薄暗い。


「よし、まずは合流予定地点に行こうか。蒼夜、インカムは着けたな。周波数は俺のを見て合わせておけ」

「はい」

「凛ちゃんは探知魔法をお願い」

「いつも言ってますが、りんちゃん呼びはやめて下さい。しばきますよ」


 どうやらこの東堂と言う男、この副長の尻に敷かれているようだ。蒼夜は無駄な思考を払い降下用のエレベーターに乗り込む。降下も同じく45秒かかるが先ほどの沈黙とは違う雰囲気を感じた蒼夜は小隊の隊員に目を向ける。静かにスナイパーライフルを握る來は目をつむり集中している。陸は腰に軍刀を下げ、背中には20式小銃を引っ掛け周りを見渡している。ほのかも陸と同じ装備だが、目を引くのは手首に着けたアクセサリーとそれにはめ込んだ紫石。紅い輝きを放っている。

 エレベーターが地上に着いた。久しぶりの外地に立った蒼夜は周りを見渡す。無造作に吹き抜ける風を感じ戦場のコンクリートを踏みしめる。緩衝地帯の先に広がる瓦礫の山と戦争の傷跡。

 とりあえず歩き始めた一行は1キロの緩衝地帯を抜けようとする。


「合流予定地点はここより5キロ先、旧昭島方面だ。斥候の報告ではトラップなどは無かったらしいが一応気を付けておけよ」


 東堂が短く指示を飛ばす。魔族のトラップと言えば落とし穴や魔法陣トラップがある。どれも回避可能だが一度かかれば即死とまでいかないが、死ぬ可能性は十分ある。トラップ以外にも魔族の伏兵や山岳兵がいることがある。だが小規模なことが多く、おそらく蒼夜単体でも撃破可能だろう。

 一行が緩衝地帯を抜け破壊された街に入る。ここから一気に瘴気が増える。瘴気は及ぼす人体への影響は今のところ判明していないが、魔力を知覚できる者は不快感を覚えるという。

 街並みは戦争の爪痕がそのまま残っている。魔法砲撃で破壊された商店街、コンクリートが剥がれている道路、破壊された装甲車両。ここもかつては地獄だったことが伺える。

 そんな過去の街並みを見ているとふいに來が話しかけて来た。


「蒼夜君」


 蒼夜は後ろを歩いていた來に振り向く。


「何ですか?」

「ふと気になったんだけど、いつ軍に入隊したの?」

「自分は入隊四年目です」

「四年目⁉14歳で入隊したの?」

「はい、そうですが」

「俺たちはみんな入隊三年目とか二年目なのに蒼夜君は四年も戦っていたのか」


 來は感心したように反芻する。四年かー。よく生き残ったなー。

 

「蒼夜君の強さは長年の戦闘経験から来るのかもね。僕も狙撃だけじゃなくて剣術も練習しないとな」


 蒼夜も気になっていることがあった。


「九条さんはなぜ狙撃のみを担当しているのですか?」


 來が静かに蒼夜の目を見る。

 

「俺は紫石感応度が0なんだ」


 驚きのあまり蒼夜は思わず足を止めてしまった。この軍は小銃などを使うが、結局は紫石を使用した魔法を含めた近接戦闘をすることになる。蒼夜のように最初から近接戦闘をする兵士は稀だが。それなのに目の前の來は狙撃だけで生き残っているのである。

 

「紫石感応度が0……。なぜ軍に入ったのですか?」

「ちょっと複雑な事情があるんだよねー。帰投したら話すよ」


 複雑な事情。蒼夜が入隊したのは戦争孤児を面倒見る施設から出るためだったが、同じような事情が彼にもあるのだろうか。

 癖で來を観察していた蒼夜は來の狙撃銃を見る。64式7.62mm狙撃銃。自衛隊時代からの古い銃だ。今や魔族に対して狙撃をするものなんていない。魔法障壁が邪魔で致命傷を与えられないからだ。


「この銃も普通の銃だよ。秘密は弾にあるんだ」

「弾にですか」


 予備弾倉から一発の弾丸を取り出して來が続ける。


「これはナインロックス社が開発した対魔族用の狙撃弾。魔法障壁も貫通して致命傷を与えられるんだ」

「魔法障壁を貫通できる弾丸があるのですが⁉」

「まだ開発途中だけどね。だから20式小銃で使う5.56mmの弾丸に転用して量産は出来ないんだ」

「なぜそんな弾を來さんは持っているのですか?」


 來は人差し指を口に当てて言った。

 

「秘密だよ」


 二人の会話を後ろから聞いていたのは陸とほのかだった。


「確か1年生存率って30%とかだったよな?」

「どうしたの急に」


 小銃のセレクターに指を掛けながら、陸が言う。

 

「いや、4年生存率ってどのくらいなんだろうと思って。多分あいつ4年でたくさんの大事なものを失ったんだろうなって」


 ほのかは何を当たり前のことを、という顔で陸を見る。戦場で仲間を失うなんてよくあることだ。


「俺は入隊3年目だ。しかも内地防衛の任務にしかついていない。外地任務で過ごした蒼夜は俺たちよりも多くを失って、その中には命より大事なものもあったんだろうなって」

「それは、確かにそうなんだろうね。何か思うところがあるの?」

「模擬戦の時の蒼夜さ、何て言えばいいのかな」


 陸は言葉を選ぶように口を開く。


「戦っているときの蒼夜の目が、俺を見ているんだけど、なんか。他の人を見ているようだったんだ」

「それが戦死した仲間だったんじゃないかってこと?」

「うーん、分からないけど、すぐに俺たちの小隊に馴染める気がしない」

「それは私たちも同じだったじゃない。すぐにこの小隊に染まれる人は多分ここには来ないと思うよ」

「それでもほのかはすぐ距離を詰めたがるから、やめとけよって話しだよ」


 陸がほのかをからかうように言っているが、目は真剣だった。

 ほのかもそれを正確にくみ取り、笑っていじけるように答える。


「わかってるよ、さすがにそこまで子どもじゃないもん」

「分かってるなら良いんだよ」

 

 ふと如月が足を止める。


「隊長。霧島から無線です。ポイント224で敵を見つけたようです。規模2個小隊。ドロヴァとスヴェイルの混成部隊です」

「分かった。ポイント186に集合し殲滅する。あいつらに伝えておいて。よし急ぐぞ」

「はいっ!」


 一気に緊張が広がる。一行は走り出した。集合場所は1キロほど先だ。先に戦闘が始まってはいかに精鋭部隊でもきついだろう。

 蒼夜は魔力を少し解放し、大きく跳躍する。道なき道を歩くより瓦礫の山を飛び越えた方が早い。その様子を見た東堂は指示を変更した。


「蒼夜!陸!俺と一緒に先行するぞ!凛ちゃんたちは後で合流、ほのかは大規模魔法の準備をしておけ!」

「了解!」


 急な指示変更だが、合理的だ。高速移動できる3人が援軍に向かい、後衛組が後からサポートに入る。

 蒼夜達が先行で走る中、東堂が声を張り上げる。


「蒼夜!戦術的なことはまだ考えなくて良い!好きに動け。陸!サポートしてやれ!」

「了解です兄貴!」


 陸が上官への欠礼で処罰されそうな返事をするが、東堂は気にした様子は見せない。むしろ笑顔を見せる。

 不意の爆発音が空気を揺らす。目を上げると前方500メートルに煙が上がっている。

 蒼夜は軍刀の柄に手をかけてさらに加速する。一気に東堂達を後ろに置いていき、爆発音の中心に飛ぶ。


「速すぎだろ!」

「速いなー蒼夜は」


 後ろから陸の焦る声と、東堂ののんきな声が聞こえた気がしたが、無視して急ぐ。

 爆発から数秒後、少し左側から複数の魔力を検知した。途端、莫大な水の壁が、煙が上がる方向へ流れ込む。小隊の誰かが放った魔法だろうか。大規模魔法を扱える者が宮園以外にいるのか。

 瓦礫の隙間から6人の防衛軍兵士の姿が見えた。まだ白兵戦にはなっていないようだ。前衛に立っている3人の兵士はまだ小銃で応戦し、後衛の3人は魔法を展開している。敵は2個小隊と報告があったが確かにドロヴァ80体ほど、スヴェイルは5体か。

 魔力が霧状に戦場を埋め尽くす。さっきの水の魔法と同じ魔力だ。そこに別の魔力が混じり合うのを感じる。霧の1つ1つが氷の針となる。そして魔力が爆発したとき氷の針が魔族の軍に襲い掛かる。魔族の暗い血飛沫を舞い絶叫が響く。相当数の魔族を殺したのが分かるが、それ相応の魔力を消費しているはず。

 蒼夜は紫石が鈍く光るほど魔力を解放し、瓦礫の砂埃が高く舞うほど加速する。蒼夜の戦闘服が風に靡く。

 仲間の屍を踏み越えて防衛軍に襲い掛かる魔族の先鋒が、前衛の3人まであと数メートルだ。だが、蒼夜の速度は異常だった。

 蒼夜は土埃を上げながら前衛よりも前に飛び込み、膝を曲げ力を溜める。そして一気に魔力と筋力を解放し、最前線のドロヴァに切りかかる。魔法障壁など脆いガラスのように砕け散り、ドロヴァの首を切り落とす。勢いを殺さず、2体目のドロヴァに闇の目を向ける。相手の構える大剣に自分の顔を反射しているのが見える。大剣を振り下ろす前に蒼夜の剣はドロヴァの両腕を切り落とし、1回転して首も分断する。

 この間たったの一秒である。先発隊の誰かが、呟くのが聞こえた。


「何が起きたの……」


 ドロヴァ達の注意が全て蒼夜に向く。100近くの獰猛な目が蒼夜に向けられる。だが、威圧も恐怖も蒼夜の足を止めるには不十分だった。


「ふ、足りないな……」


 蒼夜の口が微かに歪む。背後の誰も気づかなかった。

 足を止めていたドロヴァ達が一斉に、蒼夜に飛び掛かる。剣を構え直す余裕のある間合い。軍刀を鞘に納める。自分の間合いにドロヴァが入るの目視する。


 ――紫石術式「漆閃抜刀」――。


 暗黒の魔力を限界まで薄く剣に纏わせた斬撃。魔法障壁による力の減衰が極限までなくなる。ドロヴァの肉など紙よりも薄い。

 一閃で四体のドロヴァの上半身と下半身を分離させた。アルグスには届かなかった刃、だがこの戦場には通用する。

 しかし、この技には弱点がある。一時的な魔力の枯渇だ。

 柄を握る指が痺れるのを感じながら、地面に足を付け体制を戻す。


 1体のドロヴァが蒼夜の隙に気付き大剣を振りかざす。だが、微かな空気の切れる音。そして魔法障壁が砕け、ドロヴァの頭蓋骨が砕ける音。

 ドサッと音を立てて巨体が倒れる。

 狙撃だ。直観的に銃弾の軌道を追い目線を向ける。だが、來の姿は見当たらない。少なくとも肉眼では。とんでもない狙撃の腕だな。蒼夜は短く驚嘆を抑え、前を素早く見る。

 だが、次の攻撃は空からだった。

 上空を旋回しているスヴェイルが急降下してくる音がする。最高速度500キロ毎時を誇るドラゴン型の魔族、スヴェイルは人間を2人くらいなら丸飲みできるほど巨大な口から鉄すら溶かすほどの灼熱が、蒼夜の頭上に迫り来ている。もう1つの太陽が近くに誕生したような明るさだ。回避は間に合うが、後ろにいる連中は大丈夫だろうか。死なせる気はないが守り切れるか……。

 灼熱が蒼夜の頭上に迫りくる中、背後で莫大な魔力の流れを感じる。後ろを振り向くと眼鏡をかけた少年が魔法陣を宙に浮かべ詠唱している。


「紫石法術、村雨の興り、天の帳」


 魔力は水となり陽光に輝く。そして灼熱の業火を包み込み、2つの魔力がぶつかり合う。大規模魔法と大規模災害の衝突は水蒸気爆発を伴って爆散した。

 爆風が蒼夜の体を掠め、ドロヴァの一団は足を竦ませる。

 このチャンスを逃すほど蒼夜は優しくなかった。

 ここから先は殲滅戦だ。

初の魔族との戦闘いかがでしょうか?

状況が把握できるように執筆したつもりですが、分かりずらいなどがあれば是非コメントで教えて下さい。

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