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新たな小隊

世界観が少しでも伝わればと思いこの第二話目を書きました。

新たな小隊での出会いをお楽しみ下さい。

 10年前、群馬県前橋市郊外に巨大な門、禍門〈カモン〉が突如現れ開いた。あふれるほどの魔物が門から現れた。翼竜型、獣型、そして人型などの人外の戦力に北関東はあっと言う間に支配され、それに対し臨時政府は東京を中心に関東平野南部を囲う壁を築いた。

 『アークウォール』

 それが、今の日本人の檻の名前だ。

 東京、埼玉、千葉、神奈川の一部。今やこの“壁内”だけが、関東で人間がまともに暮らせる最後の砦だった。

 最後の砦を守るのは東京防衛軍。柊蒼夜は防衛軍で戦う17歳の少年兵だ。


 ――川越での激戦から3カ月後。立川基地。

 この基地を本拠地にするのは第14陸戦連隊。総勢6000人を従える連隊長は桧垣宗太郎ヒガキ ソウタロウ一等陸佐。桧垣は連隊に配属される隊員の情報に目を通していた。

 柊蒼夜陸士長。17歳。身長165cm。紫石感応度35%。近接戦闘に長けており紫石を通した魔法は闇属性。3カ月前に勃発した川越防衛戦でアルグス、個体名『クシフォス』と戦闘、川越陥落時に連隊で唯一生き残る。療養期間を経て本日、第17特殊近接小隊に配属。

 なるほど、おもしろい。紫石感応度35%とは第一特殊空挺団の選抜基準を超えている。この戦争では局面をひっくり返す大事なピースだ。

 桧垣は情報端末から目を外し、目の前の蒼夜に視線を向ける。背格好は桧垣の息子より少し高いくらいだが、体格は筋肉質で目つきは髪色と同じく暗く闇に満ちている。とても年相応な子供には見えない。数多の激戦を潜り抜けて仲間の死を見すぎた少年を哀れだと桧垣は思った。これから先も戦い、幾多の戦場で仲間を失って孤独を味わうのだろうか。


「柊、休め」


 蒼夜は敬礼の態勢から両腕を腰に据えて直立不動になる。


「お前の配属先の小隊は第17特殊近接小隊だ。隊長と副長を除けば全員お前と同じ10代。ようは捨て石のような扱いを生き抜いた猛者たちで構成されている」


 少年兵の集まりか。珍しいな。蒼夜はそんなことを考えながら桧垣の説明に耳を傾ける。


「単独での討伐任務が多いため、個人の能力への評価と小隊長からの要請による異動だ。部屋の外に小隊長が控えているから、後のことはそいつに聞け。以上だ」

「はっ!失礼します!」


 蒼夜は再度桧垣に敬礼を送り、部屋を退出した。ドアを閉じたところで、背後から若い男の声が投げられる。


「お前が柊蒼夜か。俺は東堂正人トウドウ マサト。第17特殊近接小隊の隊長だ。よろしくな!」


 声の方へ体を向けると、蒼夜より少し背の高い兵士が立っていた。表情は優しい雰囲気を見せているが、厚い胸板と戦闘服の上から分かるほど発達した腕の筋肉から、歴戦を生き抜いた獰猛な戦士の香りがする。

 肩章、肩についている階級章を見ると二等陸尉であることが分かった。蒼夜と同じ戦闘服を少し気崩している。


「柊蒼夜陸士長です。よろしくお願いします」

「おう、先の防衛戦は大変だったな。怪我とかはもういいのか?」

「ご心配ありがとうございます。昨日、軍医から復帰許可が下りたため本日配属となりました」

「そうか。ま、とりあえず小隊のメンバーと顔合わせするぞ。お前の実力、俺たちに見せてくれ」

「え?」


 蒼夜は思わず聞き返した。


「お前の能力がどれほどのものか、俺たちの目で見せてもらいたいんだ。他のメンバーも揃っているから、場所を移すぞ」

「はい、よろしくお願いします」


 二人は基地の西にある隊舎へ向かった。

 立川基地はアークウォールのすぐそばに設置されており日光が入りにくいが、ここはより一層暗い雰囲気を漂わせている。

 広さは縦横100mほどの規模で使い古された建物だ。所々ペンキが剥がれているが、隊舎としては十分機能するだろう。


「蒼夜、ここが俺たちのたまり場だ。任務の時以外ここで訓練なり飯なり好きに過ごしていいぞ」

「了解しました」


 正人は蒼夜を見てニカッと笑って施設のドアを開ける。鉄の軋む音が鳴り響く。


「ようこそ、第17特殊近接小隊へ!早速だが、お前の歓迎会は模擬戦だ!」


 正人が隊舎のドアを勢い良く開く。中にはすでに待機していたのだろう、四名の戦闘服を着た兵士が立っていた。


「初めまして柊士長。私は如月凛花キサラギ リンカ三等陸曹。歓迎しますよ」

「よろしくお願いします」


 一歩前に控えていた女性の兵士。制服を軍規に則って着こなし長い黒髪を後ろに纏めている。三等陸曹ということは蒼夜より二階級上ということだ。蒼夜は綺麗な敬礼をし挨拶を返す。

 如月の後ろに整列している兵士たちは少年兵なのだろう。蒼夜と同じ年頃だった。茶色の髪を少し伸ばしてオシャレにセットしている青年が口を開く。


「僕の名前は九条來クジョウ ライ。この小隊で唯一の狙撃手だよ。後方から必要なサポートをするから、後ろは任せてね」


 來という青年は腰に軍刀を差しているが、あまり馴染んでいないように思える。狙撃に特化しているということか。物腰は軍人としては柔らかすぎるな。そんな考えていると少し紅色を含む髪を伸ばした少女が続く。


「私は宮園ミヤゾノほのかっていうの。炎の大規模魔法が得意だよ!近接戦闘はあまり得意じゃないけど頑張るね!」


 天真爛漫とはこのことだろう。底抜けに明るい。戦争を戦い抜いている者は等しく地獄を見ているはずなのに。


「俺は相沢陸アイザワ リク。お前と同じ白兵戦が得意だ」


 くすんだ赤髪を短く切りそろえた青年が答える。体格はがっしりしていて、いかにも軍人らしい。

 

「そして模擬戦の相手は俺だ」


 髪と同じ赤みがかった目を向けて来る。

 蒼夜は目を逸らし質問を投げる。


「お願いします。模擬刀は使用しますか?」

「いや、真剣でいく」


 答えたのは東堂だった。まさか真剣とは思わなかったが。


「安心しろ。魔法で膜を作り切れ味を消す。とりあえず稽古場に行くぞ」


 隊舎には稽古場、射撃場、トレーニングルームが併設されている。蒼夜達一行は稽古場に向かう。広さは20畳と言ったところだろうか。そこそこの広さだ。


「蒼夜、軍刀を貸せ。魔法をかけるから」

 

 東堂は手を出し蒼夜の軍刀を要求する。

 蒼夜は腰に手を当て無意識に庇ってしまう。己の魂として、友の形見として大切な軍刀。一呼吸おき蒼夜は抜刀する。黒鋼の刀身は賢治から譲り受けた軍刀だ。

 正人は軍刀を受け取り、観察する。

 聞いた話では白兵戦を得意とするはずの蒼夜の軍刀は刃こぼれがほとんど見受けられない。新調したのだろうか。


「よし、魔法を展開する。陸も軍刀を出せ」

「はい、兄貴」

「誰が兄貴だ」


 そう言いながら東堂はどこか嬉しそうだった。

 東堂は二振りの軍刀に手を当て魔法を纏わせる。切っ先から鍔の手前まで、薄い膜を張る。

 こんな魔法があるのか。蒼夜は正人に発現した魔法の正体が少し気になった。


 蒼夜と陸は向かい合って剣を構える。蒼夜は無造作に切っ先を下に向け、陸は中段の構えをする。東堂は両剣士を見て片手を上げる。そして振り下げる。


「始め!」


 東堂の短い号令が訓練場に響く。

 陸は勢いよく踏み出し、一気に距離を詰めた。その動きは俊敏で、体の中心に据えられた雷属性の魔力が、彼の筋肉質な体から弾けるようにほとばしる。

 陸は右手を蒼夜に向け、掌から雷撃を放った。威力は抑え気味だが、まともに食らえば継戦困難となるだろう。

 だが、蒼夜の反応は早かった。


 ドクン、ドクン。


 鼓動が、異常なほどにゆっくりと、そして鋭く、音を立てる。

 速いが、見えている。

 蒼夜の瞳に映る雷撃の軌道は、まるでスローモーションのようだ。彼は一瞬で雷撃の進路を見極め、左足でわずかに地面を蹴った。その動きは、まるで風に揺れる柳のようになめらかで、放たれた雷撃は彼の右肩をかすめ、背後の壁に焦げ跡を残した。


「まじかよ……!」


 陸は驚きに目を見開いた。魔法は、放たれた瞬間から着弾まで音速を超えている。だが、蒼夜はそれを見切り、最小限の動きで回避した。その人間離れした動体視力は、陸の予想を遥かに超えていた。


「すごい、蒼夜くん!」


 見ていたほのかが、思わず声を上げる。

 蒼夜は何も答えない。

 魔法を避けられた陸はすでに次の一手を放っていた。踏み出した足を軸に一気に蒼夜との距離を詰め、胸元を狙った突きを放つ。

 蒼夜の目はその突きの軌道を正確に読んでいた。雷撃を避けたのと同じように左に体を動かす。だが陸もその動きを予測していた。左手に準備されていた二撃目の雷撃。突きだした右手と入れ替えるように左手を前に出し魔法を放つ。

 だが、蒼夜の姿はすでにそこにはなかった。

 魔力を込めて地面を蹴り、陸の頭上を高めの前宙をするかのように跳躍する。そして勢いを生かして軍刀を陸の背中に向けて振り下ろす。

 わずかな殺意の眼差しで陸は蒼夜の狙いを気付き、ギリギリのところで軍刀を背中に回し防御する。

 蒼夜は陸に背を向ける形で着地する。

 背を向け合った二人は一呼吸置き、振り向きながら互いの距離を一気に縮める。

 二振りの刀と二人の視線が交わる。


「やるじゃねーか蒼夜!」

「……っ」


 鍔迫り合いの奥で陸が緊張の抜けない笑みを浮かべる。まるでかつての戦友のように。

 一瞬蒼夜の意識が戦いから逸れる。三カ月前まで横を笑顔で歩いていたあいつと同じだ。

 陸は蒼夜のその隙を見逃さなかった。

 右足を思いっきり蹴り上げる。剣道だと反則だが、戦場では反則なんてない。

 蒼夜は左足を上げてガードするが、そのタイミングで陸が軍刀に思いっきり体重を乗せ押し込む。蒼夜は自身の不利を悟り一瞬で後ろに飛ぶ。

 前方を体重を乗せていた陸はバランスを崩す。その間に蒼夜は小さく息を吐く。

 途端、蒼夜の雰囲気が変わる。陸は本能的に後ろに下がり軍刀を構える手に力を入れる。

 蒼夜は軍刀の柄を顔の横に持って行き、切っ先を陸に向ける。腰を落とし、じっと陸の様子を伺う。

 陸は額に汗を滲ませる。蒼夜から放たれる威圧感が足を地面から離させてくれない。観戦している正人達も固唾を飲んで蒼夜に視線を向ける。

 稽古場を包む静寂を破ったのは、蒼夜の地面を蹴る爆音だった。

 陸が気づいた時には蒼夜の軍刀の先が目の前にあった。咄嗟に軍刀を振りなんとか攻撃をいなすが、頬を掠る。

 魔法で切れ味を無くしていても斬られたと錯覚するほどの鋭い突き。

 いなされた刀身を巧みに引き、下段から胴体目掛けて振り上げる。

 二撃目も態勢が整わないながらも軍刀で受け止める。

 二振りの刀が弾ける。

 蒼夜の二撃を凌いだ陸だったが、余裕がない。

 振り上げた刃を蒼夜は正面から陸を見据えて振り下ろす。

 陸は慌てて軍刀の柄と刀身を両手で持ち、蒼夜の斬撃を受ける。

 なんて、重さだ。

 斬撃の重さに陸は片膝を地面につけて耐えるしかなかった。

 刀身越しに蒼夜の目を見る。

 真っ黒く、無機質な目。視線は確かに陸に向いているが、陸を見ていないようだった。

 こいつも戦場で無くしてきたんだな。

 直観的に陸は理解した。


 蒼夜の追撃は終わらない。

 一度軍刀を引き、陸が本能的に身体を後ろに退こうとするところを、首を狙って水平に刀身を滑らせる。陸が軍刀を防御に回す。

 しかし、蒼夜はそれを狙っていた。刀が触れた瞬間に刃を滑らせ体を沈ませる。まるで重力に従う水のように。

 あまりにも滑らかな動きに陸は反応が出来なかった。

 蒼夜の刃は陸の腹部に直撃し、陸の体は宙に舞う。

 

「そこまで」


 東堂の声が響き、模擬戦は終わった。

 陸は息を切らし、床に伸びる。

 

「はは、参ったな……。こんなに強いやつ、初めてだぜ」

 

 陸は汗をぬぐい、笑顔を見せる。


「ありがとうございます。相沢さんも強かったです」

 

 蒼夜はお世辞のつもりはなく言ったが、陸は少し捻くれていた。


 「ずいぶん余裕そうに勝ってたじゃねーか」


 その言葉にも、蒼夜は無反応だった。


 模擬戦を終え、蒼夜と陸の汗をぬぐう姿を、東堂と如月は静かに見つめていた。

 蒼夜が彼らのもとへ戻ってくると、東堂は「お疲れさん、蒼夜」とねぎらった。


「ありがとうございます」


 蒼夜が頭を下げるのを見て、東堂は笑顔で言った。


「やっぱり、とんでもないな。お前の能力は。俺たち小隊にとって、お前は間違いなく切り札になる。そうだろう、りんちゃん?」


 東堂に話を振られ、如月は冷静にうなずく。


「はい。探知魔法で捕捉できないほどの速度、一撃の重さ、そして何よりも、戦況を予測する能力。これほど完璧な近接戦闘員は見たことがありません。我々の任務は、対多数戦闘で本隊到着まで防衛もしくは殲滅すること。蒼夜さんのような戦力は、その任務において不可欠です」


 如月は、蒼夜を冷徹に、そして客観的に分析した。その言葉に、蒼夜は複雑な表情を浮かべる。

 東堂はそんな蒼夜の様子を察して、穏やかな口調で言った。


「まあ、難しい話はこれくらいにしておこう。この小隊はな、優秀な能力を持つ子供たちを、わざと集めて作られた小隊だ」


 東堂は、訓練場にいるメンバーを一人ひとり見渡しながら続ける。


「みんな、どこかで独りで戦ってきた。俺もそうだった。だけど、そんな孤独な戦いを、もうこいつらにはさせたくないんだ。だから、俺は連隊長にお願いして、この小隊を作ってもらった」


 そして東堂は、蒼夜をまっすぐに見つめ、笑って言った。


「ここは、みんなが家族だ。俺も、凛花も、お前も。みんな。だから、無理に笑顔を作る必要はない。ただ、ここにいてくれればいい。いつか、お前のその心の傷が癒えて、笑える日が来たら……、その時は俺のことを兄貴って呼んでくれ」


 蒼夜は何も答えない。

 ただ、東堂の言葉が、胸を突く。家族なんて、大切な者なんて、いない方が簡単なのに。

新たな出会いと本格的な戦闘シーンいかがでしたでしょうか?

少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。

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