剣士として
ついに蒼夜とゴードの一騎打ちです!どう戦うのかお楽しみに!
鋼のぶつかる激しい音が壁上に響く。
地上よりも少し強い風が蒼夜の耳を掠める。
「重っ!」
ゴードの振り下ろした剣はクシフォスに次ぐほど重かった。
軍刀に魔力を纏わせていなかったら今頃折れている。
胸元の紫石が淡く光る。
まだ魔力は練れるな。
「どうした人間。この程度か」
ニヤリと嘲るゴードに無言の目を向ける。
力に力で返しても人が魔族に勝てる訳がない。
蒼夜はゴードの斬撃を受け流し、一旦後方に退く。
痺れる手を握り直す。
まだ一人じゃ勝てないな。
耳に装着しているインカムに手を伸ばす。
「來さん、見えていますか?」
ノイズが走り來の声が聞こえる。
『見えてるよ。いつでも撃てる』
声に少し硬さがある。集中しているのか。
「合図したら撃ってくれますか?狙いは肩で」
『肩ね。了解だよ』
作戦はある。成功するかは、分からないけれど。
軍刀を霞崩しに構え、軍刀の先をゴードの顔面に向ける。
頭一つ分高いゴードの顔には余裕が浮かんでいる。
あの頭落としてやる。
魔力を爆発させ地面を抉るように強く蹴る。
ゴードも呼応するようにこちらに疾走してくる。
重い剣を二連撃で振り下ろす。
空を切る音を耳元で聞きながら避ける。
ゴードの真横を流れるように抜け、横っ腹に一太刀浴びせる。
黒い血がローブに薄く染み出る。
まだ浅いか。
「やるではないか人間の剣士」
ゴードは痛みを耐えるような様子を見せない。
強がりか、本当に痛みを感じていないのか。不快な笑みを浮かべたままだ。
「チッ……」
イラ立ちが蒼夜の思考を鈍らせる。
背後では銃声と砲兵達の悲鳴と断末魔が広がる。鋼か血か。鉄の匂いが鼻を衝く。
川越の時からこの匂いは嫌いだ。隣にいた奴を思い出す。
柄を握る手に力が入る。
風を背中に受け、ゴードに突撃する。
ゴードは不敵な笑みを浮かべ両の刃を構える。
剣の間合いに入った時、蒼夜目掛けて両腕からの二連撃が振り下ろされる。
蒼夜はわざと大きく右に飛ぶ。
「今!」
瞬間、喧騒に紛れ音のない銃弾がゴードの右肩に向かう。
ゴードは姿勢を左に傾け、避ける。
それが狙いだ。
重力に逆らうように蒼夜はゴードに飛びつく。
ゴードが左腕を振り抜く。
姿勢が傾いているおかげで先ほどより近い。
速さは武器だ。敵の目測を欺ける。
間合いの更に奥に入る。
ゴードの目が初めて歪む。
己の刃をゴードの腕に向けて振る。
だが、目の端に光るものを視認する。
目だけをゴードの背中側に向ける。
ゴードは右腕の剣を己の首の後ろに通し、切っ先をこちらに向けて突きだしている。
眼球のすぐそこまで剣の先が来ている。
空中にいるため、逃げられない。
首を傾げてギリギリ避ける。
刃が頬を通り過ぎる。
微かに痛む。
一瞬の間。
次は激痛が腹部に走る。
ゴードの蹴りをもろに食らい蒼夜は吹っ飛ぶ。
口の中に血の味が広がる。
「ガハッ」
膝を着き、軍刀を地面に突き立てる。
「この我に剣以外の攻撃をさせるとは」
ズシリと音を立ててゴードがゆるりと歩いてくる。
『蒼夜君!まずい!陸たちも限界だよ!』
ノイズ混じりに來の声が耳に届く。
横目に砲兵達を見る。
砲兵のいた場所に血溜まりが広がる。
陸と志信が必死に応戦しているが、それでも押されている。
早くこいつを仕留めなければ。
ゴードを睨みながら震える膝に力を籠める。
「蒼夜!生きてるか⁉」
陸の声が響く。
まだ声が出せない。喘鳴が口から零れる。
「ぜえぜえ……は、い」
「こっちすぐ片付けてそっち行くからな!」
陸だって限界だろうに。
志信の瞬間移動の魔法も発動にラグが生じている。
『こちら連隊HQ。司令部にもカルナ侵入!基地内には約200体のカルナが侵入したと思われる。基地内の全中隊は応戦せよ』
基地に目を向けると煙が所々に上がっている。
川越の時と同じだ。
嫌な記憶が脳裏を掠める。
砲兵の数は減る一方だ。
術支隊も応戦しているが、壁上の狭い空間では効果的に攻撃できていない。
奥の手はある。でもこの技を使うと、しばらく動けなくなる。
だが、迷ってる暇はないな。魔力の回復を待たずに砲兵達の援護に行けばいい。
一撃で殺す。
何とか立ち上がるが、呼吸が荒い。肩が上下に揺れる。
魔力を限界まで練る。
胸元の紫石が淡く光り、蒼夜の周りを黒い魔力が渦巻く。
ゴードは近寄るのを止め、両刀を構える。
砕けて散らばっているコンクリート片が揺れ音を立てる。
「漆黒の魔術とは、稀有なり」
ゴードが呟く。
そしてゴードも体内で魔力を練っているのか、蒼夜はゴードから魔力の波動を感じ取る。
「一撃で終わらせる」
「やれるものならやってみせよ人間」
途端、蒼夜の姿が消える。
「速っ⁉」
驚きのあまりゴードは声を上げる。
だが、彼も歴戦の戦士。
蒼夜の姿を視界の隅に捉える。
「ここか!」
両刀を蒼夜を視認した右側へ振るう。だが、掠りもしない。
まるで煙を切ったような感覚。
背後から風を切る音がする。
ゴードは急ぎ回転し剣を回す。
だが、空を切る。
焦燥が紅い目に浮かぶ。
次は左で地面を蹴る音が聞こえる。
左手の剣を無造作に振る。
不発。
背後。右。上。
視界の隅に蒼夜を視認する度に斬るが、当たらない。
「どこにいる⁉人間の剣士!」
答えは耳元で発せられた。
「俺の名前は蒼夜だ。魔族の剣士」
――紫石術式「影虎」――。
首元に冷たい感触が広がる。
一秒もしないうちに熱いものが溢れる。
視界が回転する。
ああ、首が斬られたのかと、認識する頃にはもう絶命していた。
「はあはあはあ」
肩で息をし、地面に倒れかける。
胸元の紫石が暗く静まっている。
蒼夜は軍刀を地面に突き立て手を付いて何とか倒れないでいる。
早く立て。援護に行かなきゃ。
動かない体を引きずり目だけを砲兵達に向ける。
まだ半数は生きてるな。
筋肉が軋むのを感じながら立ち上がる。
だが、すぐに倒れこむ。
立て。今すぐ立て。まだ終わっていないぞ。
意識を手放したくなる。だが、ここで立てなきゃアルグスには到底勝てない。
復讐のため、今倒れることは許されない。
陸がカルナ数体相手に何とか立ち回っているのが見える。
複数の傷を負っている。
志信が砲兵達の援護射撃を受けながらカルナと近接戦闘をしている。
視界がぼやけている。酸欠だろうか。
呼吸を深くする。息を吐くごとに意識が遠のく。
その時空気が揺れるのを感じる。
けたたましい鉄の弾む音。
ヘリだ。それも数十機。
『連隊HQより各隊へ!中央即応旅団到着!繰り返す中央即応旅団到着!』
インカムに援軍の知らせが飛び込む。
陸たちの上からロープが降ろされるのが見えた。
防衛軍人が一気にロープを使って降下してくる。
空からの銃撃と突然の援軍にカルナ達は次々と倒れる。
その様を見ながら蒼夜は意識を手放した。
――蒼夜がゴードと対峙していたその頃、陸は死線を彷徨っていた。
陸の魔力は枯渇し始める。
蒼夜の方に援護に行きたいが、ここで俺が離脱したら砲兵達が全滅する。
ゴードとか言ってたっけ。あいつの剣術に俺の剣は届かない。
「蒼夜!生きてるか⁉」
蹴り飛ばされた蒼夜に声を掛ける。
目の前のカルナの斬撃を躱し、カウンターで突きを狙う。
微かに蒼夜から応えが返って来る。
とりあえず生きている。
「こっちすぐ片付けてそっち行くからな!」
叫びながらカルナを一体屠る。
返り血を浴びながら次の獲物に目を向ける。
『こちら連隊HQ。司令部にもカルナ侵入!基地内には約200体のカルナが侵入したと思われる。基地内の全中隊は応戦せよ』
思わず舌打ちをする。基地内部にまで入られたか。
手早く壁上の敵を片付けないと。
外では小田隊長達も戦っている。
帰還する場所を守らないと。
頭上から、二振りの大剣が重なり合って振り下ろされる。
反射的に後方へ飛び退いたが、直後に背筋を凍らせるような殺気を感じ、なりふり構わず横へと転がった。
刹那、先刻までいた地点に凄まじい衝撃が轟き、分厚いコンクリートが破片となって弾け飛ぶ。
前後を囲まれた。
志信の転移魔法で飛ばしてもらうか。
声を掛けようと志信に目を向ける。
肩で息をし、カルナの剣を避けている志信。
あいつも魔力が限界か。
砲兵達も何とか応戦しているが、次々と倒れていく。
首のない死体、両足が飛んで行った死体、上半身と下半身が分かれてしまった死体。
壁上は血の海が流れている。
途端、蒼夜の方から不気味な魔力が発せられるのを感じる。
ゴードの大技か。
カルナ達もその魔力に気を取られ視線を向ける。
陸はその隙を見逃さず、横のカルナの首を一つ斬り、包囲を抜ける。一呼吸置き、蒼夜達に目を向ける。
予想に反し、魔力は蒼夜から発せられている。
あいつここで魔力を使い切るつもりか。
いや、そうじゃない。使い切らないと倒せないのか。
暴風のような漆黒の魔力が蒼夜を中心に広がり、闇がゴードを覆う。
刹那、静寂が広がる。
蒼夜は姿を消し、ゴードの剣は幾多の虚像を切る。
蒼夜の刃だけが、鈍く闇で光る。
そして、瞬きの間にゴードの首は落ちていた。
カルナ達に動揺が広がる。
あいつやりやがった。一人でカルナの隊長格に勝っちまったよ。
興奮が全身の筋肉に染み渡る。
陸は四肢に力を入れ、カルナ達にその暗い赤の目を向ける。
荒い呼吸に視界が揺れる。
俺も敵を殺さないと。基地防衛のために働くぞ。
「志信!粘れ!蒼夜が隊長格をやった!守り切るぞ!」
「マジっすか⁉柊士長強すぎるっす!」
声に覇気が戻って来たな。
しかし、その覇気をぶつける相手は陸達から離れる。
カルナ達は隊列を組み剣を構え徐々に後退する。
そして、一斉に蒼夜に向けて走り出す。
異質な声で咆哮を上げる。まるで殺せと叫ぶように。
「蒼夜が狙われてる!志信!蒼夜を安全なところに飛ばせるか⁉」
「すみません、魔力尽きました!」
「くっそ!」
カルナの速さに追いつくために疾走する。
「蒼夜ーー!!」
意識が飛んでるであろう蒼夜に声を投げる。
その時。
空を削り取るような、重厚な風切り音が響く。
頭上から押しつぶされそうな風圧を感じ上を見る。
ヘリボーンで数人の防衛陸軍が降下してくる。
同時にインカムにノイズが入る。
『連隊HQより各隊へ!中央即応旅団到着!繰り返す中央即応旅団到着!』
思ったより早い到着だった。
精密な射撃と圧倒的剣術でカルナを血祭りにあげる。
カルナ達の咆哮が壁上に響き渡る。
この援軍は基地全体に広がっていた。
「おい、ガキ!生きているか⁉」
中即団の隊員が蒼夜を抱きかかえているのが見える。
「あ、そいつ俺らの隊の奴です」
「おう?そうか。じゃあ頼んだぞ」
屈強な隊員が陸の目を見る。
同じ戦闘服を着ているはずなのにこんなにも風格が違うのか。
陸は意識を失っている蒼夜を引き取りながら中即団の隊員を見上げる。
カルナはすでに血の海に全て沈んでいた。
壁内と壁上は何とかなりそうだな。
陸は未だ激戦の最中にいる第一中隊と第二中隊に目を向ける。遠くからでも分かるほどの死体の山が出来上がっていた。
――敵砲撃陣地には大量の人と魔族の死体が転がっている。
小田一尉の前には相当数のカルナが立っていた。
基地への奇襲と同時にこのカルナの一団が第一中隊と第二中隊に襲い掛かった。
「我が名はフィゴ。我が主、クラトシア様の近衛騎士団団長なり」
この一団を率いるのはフィゴ。彼の乱撃で第一中隊の半分は壊滅した。
「てめぇ。よくもやりやがったな」
小田は軍刀を構え、枯渇した魔力を無理やり纏う。
胸元の紫石はひび割れていた。
新技「影虎」いかがでしたが⁉
映像でみたらカッコいいと思うんですよねー




