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黒川の策謀。伊達鶏胸捕らえらるの事

カタクラコンロは真っ赤っ赤。


鬼の顔して真っ赤っ赤。


殿を捕られて真っ赤っ赤。


猪苗代(いなわしろ)からとんで帰って


青葉の城は真っ黄っ黄。


殿を捕ったは黒川の (はかりごと)かは分からねど


伊予の芋炊き伊達をとり むね肉と煮るや甘辛く。



今も宮城に残る抱田十一年の芋煮戦争についてのわらべ歌である。トラック兵含む二万三千もの大兵力で進軍を続けていた片倉焜炉(かたくらこんろ)は、猪苗代、正確には翁島(おきなじま)を目の前にして突如宮城へ引き返すことになる。主君、伊達鶏胸(だてとりむね)の身柄が突如、愛媛県芋炊き隊と名乗る集団に拘束されたからだ。


そして歌にある通り、仙台青葉城は突如、鬱金(うこん)染めのような黄色い色に染められてしまう。後から振り返ればこれこそは、南東北を襲った災厄の先駆けであった。




「郡山で戦わず磐越道(ばんえつどう)に入れたのは僥倖であったな」


幾度かの折衝(せっしょう)の後、郡山軍の見張り付きとはいえ戦うことなく会津方面へ出立した片倉は、すでに会津との衝突を見据えていた。


会津の芋煮は、名を「きのこ山」という。

名の通り地元で採れる茸をたっぷり入れる芋煮だ。豚肉に味噌味の多数派に所属しながらも、ヒラタケや極大粒の山ナメコ、柿の木を切り倒したものに生える茸、カキモダシなどが入り、その特色は他のどの地域とも折り合うことはない。

積極的に攻めの姿勢を取る山形と真逆に、会津は長らく独立独歩の姿勢を貫いてきた。

隣接する領土に攻め込むことはほとんどないが、いざ戦となれば守りのためにはどんな手でも使ってくるのが会津勢である。


中枢を担う会津若松市は人口約十万。うち兵として動員できるのはせいぜい一万人程度だ。大軍相手でも真っすぐで遮るもののない広域農道に相手を引き込み、両端の稲刈り後の田を使ってきのこ山の集中砲火を浴びせる戦術を得意とする。以前上杉率いる山形軍も、喜多方でこの戦術に敗れ撤退している。


しかし、米沢へ抜ける道を通りたいならば若松を落とさねばならない。片倉は全軍に通達を出す。


「若松とは鍋を交えることとなろう。街のはずれを流れる阿賀川(あががわ)沿いの河川敷に強襲をかけて兵力差で磨り潰す。領主の葦名(あしな)大盛(おおもり)を倒せればあとは米沢へと向かうだけだ。」


片倉の軍勢二万三千は、今のところ大きな損耗は受けていない。軽トラック戦術は兵站の強靭さを保ち、兵たちの士気も高い。


「片倉様、会津にも美味い芋があるのだと聞きました。戦勝のあかつきには会津の里芋、その種芋をぜひ持って帰りましょうぞ」


片倉の手勢、針生(はりう)がそう言う。会津に古くからある里芋は、元はと言えば京の海老芋に近い種類である。これも美味であるし、芋の種類の豊富さは芋煮においても有利に働く。宮城への手土産にするのにはちょうど良いかも知れなかった。山形と戦うことを忘れるなよ、と釘を差すものの、片倉のまとう雰囲気も幾分柔らかかった。



その時である。片倉の持っていたスマートフォンが着信音を響かせた。


「殿から……?」


スマートフォンの画面に『伊達鶏胸』の名が出ている。


「はい。こちら片倉」


『あぁ……良かった、繋がったか』


疲弊しきった主君の声。明らかな異常事態に片倉は血の気が引いた。


「殿!?いかがされましたか、敵襲ですか!?」


『抜かったわ……仙台港から……鼠が乗り込んできおった』


「殿、今どちらに!?」


『私のことは……いい。もはやこれが天命よ』


「殿、片倉が今戻りますゆえ、しばしお待ちを!」


『片倉、私のことは……探すな。それと、頼みがある』


「殿!なりませぬ、自ら諦めるなど!」


『焜炉……青葉城を……頼む』


「殿!殿!!」


片倉の呼びかけ虚しく、電話は切れた。片倉は慌てて全軍を止めさせる。


「殿の御身に変事あり、これより宮城へ取って返す!多賀城へ向かう隊と青葉城へ向かう隊に分かれ、それぞれ全速で以て戻れ!」


会津への進軍をやめた片倉遠征隊は、猪苗代湖畔にてUターンし猛然と宮城へ引き返し始めた。




『…………ふむ。やはり戦上手の片倉と言えど、伊達を抑えられては進撃出来まい』


暗闇の中、声が響く。ヒトの発する声でありながら、それは不気味な響きで聞くものを恐れさせた。


「神がかりとはまさにこのことですかな。あなた様にかかればすべての物事がこの葦名の思う通り運びまする」


『神がかり、にございますか。それは少し違いますな。(すべ)て、因果の定め。片倉と伊達は、約定(やくじょう)を違えたゆえの勝利を収めた過去がある。その因果がまさにここに巡ってきたのでしょうぞ』


「因果……中々に怖ろしいですな。ヒトは皆因果の絡んだ糸団子のようなものですかな、()()どの?」


『はは、ヒトがそうであるならば、むしろこの世は、天地そのものは……』


蝋燭の火が、亡者のような生気のない、しわだらけの顔を照らす。


『皆ことごとく因果の果てにあるものでございましょう。逃げられるものなどありはしない……何人たりとも』


笑いを含んだその声は、もはや人間のそれでは無かった。齢いくつであるかはもはや誰も知らぬ。乾ききった屍のような体を袈裟に包み、その者は寺院の奥深くにて、この世を嘲笑う。


南高梅(なんこうばい)天海(てんかい)。会津黒川の闇の底で、怪僧の笑い声はいつまでも、消えることはなかった。

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