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宮城軍南進す。田村市満腹者累々の事

「田村郎党、(これ)尽く討ち取ったり!」


宮城軍の遠征を率いる片倉(かたくら)焜炉(こんろ)が声高らかに勝ち(どき)を上げる。


阿武隈(あぶくま)山地の山中にある交通の要衝、田村市は、国道四号沿いに南進してきた宮城軍の前に必死の抵抗もむなしく、十月を待たずして敗北した。軽トラックに満載した野菜と鍋ですぐに調理を開始する片倉の電撃戦は、山あいにある田村でも無類の強さを誇った。


かつてホップ畑だった風光明媚(ふうこうめいび)なキャンプ場には、満腹になった田村方の者どもが無数に倒れている。その数、実に三千。持てる戦力を使い尽くした田村方は、もはや宮城への恭順(きょうじゅん)無くば再びの芋煮会を開くことさえも叶わない。


「豚肉に味噌味は宮城式も福島式も同じ。なればあとは数の多寡(たか)のみ。何ゆえ最初から(こうべ)を垂れぬ」


宮城軍の軽トラック兵の一人がそういう。福島式と宮城式は、そも豚肉に味噌味の芋煮であることは共通していた。


強いて言えば福島県、ことに中通りのものは宮城式よりさらに具だくさんであり、たっぷりの大根、にんじん、ごぼう、長ねぎが入る。さらになめこが入る場合もある。貯蔵(ちょぞう)野菜として作ったはいいが保管庫に入り切らず、貯蔵しきれぬ野菜たちを、無駄なく食べるべく確立した芋煮なのだ。

この成り立ちからすでに、宮城式よりも切迫した福島、中通りの芋煮の様子が見て取れる。


宮城軍の南進に伴い、福島市と伊達市が百万都市仙台との繋がりを理由に早々に降伏したときから、もはや中通りの命運は決まっていた。兵力差七対一。勝てる戦など何処にも無かったのだ。


「頭を垂れる……か。知れたこと。我ら征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)坂上(さかのうえの)田村麻呂(たむらまろ)が郎党を祖とする者。……伊達、片倉の木っ端共に……下げる頭など持ち合わせるものか……」


満腹の田村方がそう言い残し深い眠りに落ちた。



その言葉を信ずるならば、この地にもやはり、古より根付いた誇りはあったのだろう。そうして、誇りゆえに田村は午睡(ごすい)累々(るいるい)の地獄と化した。誇りなど持たなければよかったのか、それともこの結末のほうが、田村方にとっては胸に収まる結果だったのか。今となってはもはや確かめる(すべ)は無い。



この先には郡山(こおりやま)も控えている。平伏せよとの文書(もんじょ)は送ってあるが、未だその返答はない。このまま進むなら郡山もまた凄惨な芋煮戦争の戦場となるだろう。戦うは容易(たやす)いこと。だが米沢への進軍を目指す片倉はなるべく消耗を避けたいと考えていた。郡山も三十万の人口を擁する都市である。もし押し通るとなれば無傷で通れまい。戦いを避けるなら一計を案じる必要があった。


「二の手を打つ!針生(はりう)!いるか!」


片倉は配下の針生(はりう)牛蒡(ごんぼう)を呼びつけた。


「はっ!ここに!」


「針生、田村の惨状をスマートフォンですべて記録し、郡山軍に見せしめとせよ。そしてもう一つ、芋煮のレシピを中通りとすり合わせる。折衷案を引き出せ。さすれば無用な戦いをせず郡山を抜けられよう」


「宮城式に従えるのではないのですか?」


片倉の提案に針生は疑問を(てい)する。


「今、敵は山形だ。郡山ではない。山形が落ちれば郡山は(まつりごと)範疇(はんちゅう)で手なずけて置けば良い」 


片倉は兎角(とかく)、郡山は無傷で通ることを重んじた。

どの道、中通りを抜けても、地元意識の高い会津(あいづ)勢は宮城軍の進軍を(ゆる)しはしないだろう。それも手は打ってあるが、肝心の山形式芋煮との決戦を前にむざむざ消耗したくはない。


「かしこまりましてございます!」


針生はスマートフォンを手に走っていった。片倉は秋の暮れなずむ空のもと、この先の戦いについて思いを馳せていた。


「……数で勝てるのはここまで。ここからは利を取らせねばなるまいて……」


九月三十日、宮城軍進軍開始よりわずか二日のことであった。

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