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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD1 シンプル末期異世界『ディスパリティNo.0410』
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W1-8 "使役者"のマジカルな地獄

 某国。他国と比べると、もはや飽きすら感じるほど、摩天楼が生い茂るように乱立する大都市。

 その一角に、明らかに浮いた中世の王族の宮殿を模したような巨大な石造りの建物があった。


 建物の中心には、古めかしい木製の椅子と机が円形に並べられた、広々とした空間がある。


 ここはこの国の最大級の決断を行う議事堂。そしてこの空間はそれを固めるための議場である。


 この日、数百人の議員たちは脂汗を額や首筋から流しつつ、せかせかと入場し、各々の名前が彫られた机に着席する。

 数百人の議員らは、緊急でここに招集された理由――他国の滅亡を受けての我が国の対応と、それに対する自党の方針を脳内で暗唱しながら、議長の到着を待った。


 廊下から中心の一段高い位置にある議長席へ通じる両開きの扉が、側部の壁にぶつかるほど豪快に開く。

 そして廊下から、腹部がやたらと膨らんだ白髪の老人の男が、放物線を描いて議長席に叩きつけられた。


 議員たちは全員、一斉に開いた扉の先を見る。

「ごきげんようですわ、ブタさんの皆様」

 そこから、フリルの多い服を着た、まるで令嬢のような雰囲気の紫髪の少女がそこにいた。

 彼女はコツコツとローファーで岩床を鳴らしながら、議長席までの動線を歩く。

 その台と、議長の机に上がると、議長の白髪を右手で掴み、議員数百人に見せびらかすように彼を力ずくで持ち上げた。


 議長席の側の席にいた議員が叫ぶ。

「いきなり何かね君! その者は我が国の清く正しい政治をまとめ上げる……」


「議長さんですね? 流石にわかりますわよ、私。なんせここに書いてありますものね」


 少女は机にある『議長』と金文字で掘られた名札を、片足で二、三回小突いた後、思い切り蹴って粉々にした。


「お……ああ……き、さ……」

 髪を掴まれ宙ぶらりんになっている議長は、うめき声を上げる。

 その時の男の表情は、自分の体重が頭皮と毛根に襲いかかる激痛がまるで伝わらない、ひどく青ざめ、やつれたものだった。


 少女は空いている左手でまず、ピンと張った議長の白髪の中点辺りを指差す。

 そこには、僅かな隙間が空いた紫色の光の輪が、まるで髪をまとめ上げるかのように浮かんでいた。

「皆様、ここを御覧くださいまし。この輪っか、一箇所だけ欠けているでしょう? これは今のこの私腹を肥やしに肥やして脂ぎった偉大な老いぼれさんの『余裕』の部分ですわ」


「どこが余裕だというのですか! もう今にも死にそうではありませんか!?」


「ええ、もうすぐ死にますわ。この通り、あと少し『これ』を受けると暗黒に落ちますもの」


 続いて少女は左手を、紫色の輪から男の側頭部へ平手にしつつ移す。

 そして、手のひらの近くに紫色の泡のような球体を作り出し、それを議長の側頭部に当てる。


 その直後、議長の頭の上に浮かんでいた輪の隙間が埋まり、完全な輪となる。


 最後に少女は議長を軽々と議場の空中へと放り投げた。


「……ごぁッ……!」

 議長の全身は真っ黒に染まり、やがて光の塵となって跡形もなく四散したのだった。


 呆然と立ち尽くす議員たちを見渡しつつ、両手を勢いよくこすりつけ、汚れを払う手振りをしつつ、少女は語る。

「おっといけない、自己紹介が遅れましたわ。私の名前は”使役者”。お察しの通り、外国で暴れている方たちの……ご知り合いですわ。以後、お見知りおきを」

 そして少女――使役者はスカートをつまみつつ、丁寧に頭を下げた。


 しかしその瞬間、後方からカチャ、っと、危険な雰囲気の音がした。


「よくも俺たちの祖国で勝手な真似をしてくれたな、貴様!」

 それはある議員の手にある、拳銃からのものだった。


 その銃と、中年男性の議員の真っ赤に染まった顔を交互に眺めた後、少女は首をかしげて、

「まぁ、ここはそんな野蛮なものを使って国策を練るのですか?」


「いいや違う……これは本来、議論中に弱腰見せた軟弱者を脅すために隠し持ってきた道具だった……俺もびっくりだよ、まさかそれ以上のクソッタレのタマるために使うとは……」


「口上が長すぎますわよ」

 使役者は目前の空間に手のひらをかざし、再び紫色の球体を作り出し、弾丸並のスピードで射出する。


「うごぁ!?」


 その紫色の球体は中年男性が自ずと大きく開けていた口にスッポリと入る。

 男の頭上に紫色の輪――今回はどこも欠けていない――が浮かび、同時に、全身は真っ黒に染まる。

 男が塵となって爆散したのは、まもなくのことだった。


「うわぁ!? な、何だこのゴミは!?」

「あ、貴方! 貴方の頭に何か浮かんでますわよ!?」

「これはあの輪っかの一部か何かか!? 一体何なんだ全く!?」


 拳銃を突きつけた議員の周囲にいて、その死の間際に放たれた塵を浴びた他の議員たちの頭に、小さな紫色の光が浮かんできた。


「それは一パーセントの表示ですわ。あの塵は単なる演出ではなく、微量ながらクラダラ……」


「おのれよくも俺の党員をォォォォ!」

 この怒号は斜め右から聞こえてきた。


 その声の主、先程の拳銃議員の代表格なのはほぼ確実であろう壮年の議員が、同胞十数人とともに使役者を睨む。

 何故そう断言できるかと言うと、彼はその怒りに燃える双眸の先に重ねるように、機関銃の口を少女へ向けているからだ。

 おまけに周りにいる同胞たちも、各々銃火器を装備しているという徹底ぶりもいい推理情報になった。


「卑怯ですわね。そんな恐ろしい武器を使うなんて」


「テメェのほうがよっぽど得体のしれない何かを使っているだろうがァァァァ!?」


「あ……言われてみればそうでしたわ……とでも言うと思いまして!?

 ざーんねん、あれは私にとって、ほんの小手調べにもならないのですわよ?

 私のメインの武器は、こちらですわ!」


 使役者は右手を天井に掲げ、そこから紫色のまばゆいオーラを放つ。

 閃光が収まると、その右手には黒と紫を基調にしたファンシーなコンパクトがあった。


「そんなオモチャでこの国を壊せると思うなァァァァ!」

 銃声音の予習の如く大声を出した代表議員は、機関銃の引き金を引く。


 しかしその寸前、その銃身にぬいぐるみが激突し、男の手から弾き落とされた。

「な、何しやがる!?」


 ぬいぐるみ――グリフォンをSD化したようなもの――-はしばらく議場を飛び回った後、中心の議長席へ、そしてその机に立つ使役者が掲げている、自ずと蓋が開いたコンパクトに腰掛ける。

 それと同時に使役者は叫ぶ。


「ミラキル、きらきら・チェンジ!」

 

 刹那、掲げたコンパクトを中心に紫色のオーラが展開され、使役者を議長席の台ごと覆い包む。

 議員の何人かはそれへ発泡を試みる。だが放たれた弾丸は全て球体に当たるなり、塵になって消えた。


 そんなことはさておいて、球体の中で使役者は一旦紫色に輝くインナーを経由して、身体のあちこちを、前に着ていた私服よりもフリフリの衣装で飾っていく。

 そして自分を覆っていた球体を紫色の光の粒に置き換えて、


「とびでるマジカル! みせるよミラクル! でもってフォールン! 使役者、きらきらウィザードフォーム!」

 と、口上を述べながら、可憐なポーズを決めて、その典型的な魔法少女のように衣装をお披露目する。


「だからどうしたっていうんだ!」

 議員たちはリロードを行った後、使役者めがけ一斉掃射を仕掛けた。

 

 対する使役者は右手にこれまたファンシーな飾りのついた杖を具現化し、射手たちの方へかざす。

 すると杖の先で泡のような紫色の光の球体――変身前のものより遥かに大きい――が出来る。

 使役者はすかさず球体を放つ。

 球体は少女へ当たる弾をかき消しながら、大きさに反して凄まじい速度で飛んでいき、そして代表議員に命中して爆発した。


 機関銃を一心不乱に撃っていた代表議員は言わずもがな、その周りを囲んでいた議員は紫色の爆炎を受けて、一瞬で頭の上に輪を浮かべた後、塵になって消えた。

 おまけに、その火の粉にかすった比較的遠めの位置にいた議員たちも、八分の一ほどの輪を頭に浮かべつつ、顔色を悪くして机に伏せ始めた。


「ぐ、ぐるじい……!?」

「お、オエェェェ……」

「誰が、ぎゅうぎゅうじゃ……」


「な、何だあの攻撃は……?」

「他の国はこんな目に合って滅んでいったのか……」

「と、とにかく、避難を!?」


 元気のある議員たちの半数は、この国の権力を守り続けてきた椅子や机を蹴飛ばすのも躊躇せず、大慌てで廊下へと走っていった。

 そこへ使役者は杖をかざし、紫色の極太レーザーを射出し、彼らもことごとく塵に変えた。

 さらにその塵は、一歩遅れて逃げ出そうとした議員にかぶさり、彼らを床にうずくまらせた。


 完全に腰が抜け、理由もわからず机にしがみついていた議員たちは言った。

「あ、悪夢だ……こんな簡単に人が死んでいくなんて……!」

「お、おい誰か! 守衛官は、警察は、軍隊は、一体全体どうした!?」

「というより、なんで少しでもホコリとかを浴びたぐらいで皆様は死んでいるのだ……」

 そして彼らは床から吹き出た光の柱に包まれ、消滅した。


 どうすればいいか完全にわからなくなり、わめき散らしたり、無意味に議場を走り回る議員たちを掃除していく。


「あ、そうそう。いい忘れましたけど、私の攻撃、全部毒ですわよ?」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 使役者のほとんどの攻撃に使われている紫色の物体。これは『クラダラエネルギー』という邪悪で有害なエネルギーだ。

 このクラダラエネルギーを一定量浴びると、いかなる概念も問答無用で塵となって死滅してしまう。


 これを浴びたものが頭に浮かべる輪は、そのメーターの役割を果たしている。

 当然、クラダラエネルギーは純粋に浴びると害になる物質であるため、並の人間ではかすり傷でも行動不能になり、最悪、体調を一気に崩して生物としての機能停止=死亡になる恐れがある。


 そして気になるこのクラダラエネルギーの解毒方法だが、それは二つ。

 一つは使役者本人がそれを使い手としての権限で除去すること。

 もう一つは……


「ミラテラエネルギーを使って相殺すれば治りますわよ?

 ……ま、こんなよわよわぐだぐだ世界にそんな立派なものがあるはずありませんけどね」


 やがてここに集った議員たちは全員等しく塵に変わり、議場は使役者を残してただ一人になった。


「……はぁ、ごめんなさい。今回はあなたたちの出番はなかったようですわね」

 

 いや、あと四匹いた。

 使役者はコンパクトをキープしていたグリフォンのぬいぐるみと、特に出番のなかった他三匹ぬいぐるみをなでる。


 使役者は変身を解除し、元の私服姿で議場を出る。

 それから使役者は、ぬいぐるみ以外の誰とも出会わず、人気のない議事堂構内を歩いていった。


【完】

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