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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD5 誘導された復讐の舞台『マナイトソイズ』
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W5-7 EPRogue

 茶色に塗装された鉄柵と、小規模な花壇と広葉樹によって、車道から隔てられた、温かみのある広々とした歩道。

 朝の陽気な日差しが街路樹の枝葉を潜ってできた木漏れ日を、スーツ姿で薄いフォルムのリュックを背負った人々や、のどかに外の空気を楽しむお年寄りたちが入り混じって歩いている。


「スマン、マジでスマねー!」

 その隙間を強引に突き抜けながら、一人の少女は、赤みがかった銀色の髪をなびかせながら、必死に駆けていた。


 彼女の名前はブリギッド・アクセルロッド。

 ブリギッドは急いでいた。十五分後、通っている高校で朝のHRが始まってしまう。その後に教室に入れば遅刻とクラスメートの嘲笑という二つのペナルティが待っている。

 けれども、焦ってはいない。彼女はもとより、素で身体能力が高いからだ。

 

 一ヶ月前の初登校の時、念のためネットのマップで、自宅から学校までの登校時間を調べると、徒歩三十分と出た。

 だがブリギッドは全力で足を動かせば、その半分で到着できる。今いるのは通学路のおおよそ中間地点、何かトラブルでも怒らない限り、それなりの余裕が持てる。


 しかしブリギッドは、そういった計算はまだ苦手である。


「そこまで急ぐ必要はないんじゃあないか? ブリギッド」

 なので彼女は、校門からあと二百メートルのところで、普通に歩いていた友達の少年にからかわれた。


 ブリギッドは走りから歩きに戻り、

「別にいいじゃんかよ、雄斗夜。いざってときのために余裕を作りたかったんだよ、アタシは」


「だったら無駄な二度寝時間をなくしたらいいんじゃあないか? それのほうが『余裕』ができあがるだろうぜッ!」

 この少年の名前は逢坂雄斗夜。

 髪は青と赤、目は橙色と青緑と左右非対称になっているという見た目からしてもそうだが、言動までもが何かと奇妙な人物である。


 それでも余程のことがない限り嫌なことはしてこないし、何よりも同じ学年となっているので、ブリギッドは自然に程よく仲良く接しているのだ。


「二度寝なんかしてねーよ。アラームミスっただけだっての」


「十五分くらい?」


「んだよ。スマホの充電ケーブルが取られてたんだよ。ったく……」


 そして二人は校門の手前までついた。


「ほら、早くしろ。もうすぐHRが始まっちまうぞー!」

 そこで、絵に描いたような逆三角形のマッチョ体型の男性が、本日の登校を急かす門番担当として、生徒たちへ声をかけていた。

 ティモシー・ベル。ああいう体型ではあるが、科学、特に宇宙学の担任の先生であるというギャップを持つ。まだ配属されたてホヤホヤの教師であるため、部活顧問にもなっていない。


「おう、ティモシー、おはよ!」

「今日も達者にやってるな、ティモシーさんよォ~~ッ!」


「ここでは先生をつけろ! アクセルロッド、逢坂! でもって急げ! さもないと何のためにここ立たされてるんだって先輩から怒られちまう!」


「「はーい、サーセン」」


 そして二人は、ティモシー先生の面子を守るためにも、小走りで校舎へ入り、HRの教室で待機した。

 事務的な内容のHRを経た後、二人はそれぞれの科目の教室へと行こうとする。


 その寸前、ブリギッドは次の授業に使う教科書をカバンの中から探していた時に、気づいてしまった。

 ブリギッドは思わず雄斗夜へ向いて目を見開き、

「やべー、ペンケース忘れた!?」


「やりやがったなテメェ!?」


 一日の授業の過半数を占める座学は、ペンケースがなければほぼまともに受けることが出来ない。

 ブリギッドは、ひょっとしたらカバンの中の、今まで触れたことがない空間にペンケースが滑り込んでいないかと期待しつつ、無駄にそこを覗く。


 その時、ブリギッドの元に、比較的大柄な男子が現れ、その側に、シンプルなメッシュ製のペンケースを置いた。


「おお、ありがとよ、ヴィクトール」


 それから大柄な灰色髪の男子――ヴィクトールは、もう一つのメッシュ製ペンケースと、必要最低限の教科書・ノートを持って、次の授業先へと向かった。その間、彼は常に真顔であった。


「ほんと、ヴィクトールも同じ学年で助かったな、ブリギッド」


「ああ。アイツがスペアも持ち歩く主義で助かった」


 それからブリギッドは、心の中でヒーヒー言いながら、頭をオーバーヒート寸前まで熱くさせながら、午前の授業を乗り切った。

 

 その後の給食は、ブリギッドにとって何よりの癒やしだった。

 この学校の給食は、各料理の量が固定されているタイプのビュッフェ形式。ブリギッドはこうした疲れを吹きとばせそうな、ジャンキーな品々をチョイスして、それらが乗ったプレートを、食堂内のテーブルに置く。


 そこには既に、二人の知り合いが座っていた。

「こんにちはですわ、ブリギッドさん」

 と、令嬢のような雰囲気の紫髪の少女――藤本あめすは、アンパンを持ったまま挨拶し、


「やあブリギッド。今日もお疲れかね?」

 と、長身かつスタイル抜群な青髪の女性――蒼陸華は尋ねた。


「そりゃ疲れるだろ。合計四時間くらいじっと座ってよくわからん話を聞かされまくったらさ……」


「けど、僕が教わっている学問よりは遥かに楽だろう? まだ君たちの学年は、ほんの末端しか触れていないのだから」


「そうだな。お前は大学、アタシは高校だもんな……」


「それで私は中等部ですわよ」


 この学校は中高大一貫の超大型学園。通常ならば棟が離れ離れになっている関係もあって、等部が違う生徒同士が会うことはあまりない。

 ただし彼女たちは元より知り合いである。なので昼食などのまとまった自由時間では、ここ、食堂などの共有スペースで、頻繁に会っているのだ。

 

 あめすはカフェラテを一口飲んだ後、こう尋ねた。

「ところでブリギッドさん。貴方は部活かサークルに入る予定はございませんの?」


「まだアタシはいいよ。授業だけでもクッタクタだってのに、その上スポーツで休む時間を削られちゃあこまる」


「けど、入ったほうが、色々といい収穫がありますわよ?」


「かくいうあめすも、まだどこにも入っていないじゃないかよ」


 あめすは目線をビュッフェに並ぶ列にそらしつつ、

「いやー、だって、私は運動しちゃうとマズイですし、既存の文化部もなんか、不器用なので周りに馬鹿にされちゃいそうな気がしますから……」


「そうかい。けどこれは例外だよ」

 陸華は、ズボンのポケットから折り畳んだチラシを取り出し、二人の前で開いて見せる。

 その内容は、彼女が所属している演劇サークルの勧誘だ。


「中々の美男美女が集まっていて、とても有意義な体験ができる。ブリギッド、君もそこに華を添えてくれないかね?」


 ブリギッドは、過去の彼女の行動の傾向から、このチラシと彼女の顔を、怪訝な気持ちを露骨に表して交互に見て、

「おい陸華……その有意義って、やっぱヘンなことじゃないよな?」


「違うよ。同志は皆、サークル内の演技には皆真剣に向き合っているさ。まぁ、主役級の方々は時間が終わると肩を寄せ合って帰っているが……」


「じゃあいいよ。入ったらアタシぜってー邪魔してやるだろうし……それに、別に部活なんかしなくても、授業がキツくても、楽しいからな、こうやって学校にお前らと通えることがよ」


「そうですの……ありがとうございますわ、ブリギッドさん」


「けどやはり演劇部には君の大胆なスタイルが必要だから……」


「だから、もう勧誘してくんな! 陸華!」



 昼食後、残りの二つの授業にも耐えて、ブリギッドは放課後を迎えた。

 最短経路、『廊下では走らない』ルールに適応する歩速で、校舎の出入口へ向かうと、


「おーいブリギッド。一緒に帰ろうぜェ~~ッ!」

「……」


 雄斗夜とヴィクトールが待っていたので、走り判定スレスレの早歩きして合流する。


 そこから二人(ヴィクトールは無口なのでただついてきているだけ)は、今日の授業の感想と、周りで何が流行っているかとか、人間関係にまつわる噂などを交換し、雑談し続けた。


 そして二人は、上階になるにつれて階段状になっているモダンなマンションに着いた。

「これ大丈夫か、ブリギッド? 俺たち『付き合ってる』とか噂たっちまわねーよなァ?」


「雄斗夜、お前毎回言うよなそれ」

 ブリギッドは雄斗夜とヴィクトールともに、短いが十分ストレスになる待ち時間を挟んで、エレベーターに乗る。

 そこから迷いなく廊下を歩き、ブリギッドはドアノブにルームキーをかざして解錠してから、ドアを開ける。


 すると、

「相変わらず遅いなお前ら」

 と、ティモシーはダイニングテーブルで小テストの採点をしつつ言い、


「私、もう宿題終わりそうですわよ?」

 と、あめすはティモシーの向かいに座ってプリントを解きながら言った。


「しゃあねーだろ! アタシたちと違って、帰還者は非常勤だから授業が終わればすぐ帰れるし、使役者は五時限の曜日なんだからよ!」

 と、ブリギッドは、二人に怒鳴り返してから、冷蔵庫内で冷やされているコーラを一杯飲み干す。


「ちなみにだが、簒奪者は演劇サークルと『夜』まで『付き合い』があるから、今日も戻って来るのが遅れるらしいぜ」


「全く、つくづくエンジョイしてんなアイツ……あとお前ら! 今は気を抜いてもいいけど、学校の中でコードネームで呼び合ったりしてないよな!?」


「ああ……多分、大丈夫だ! 多分……」


「しっかし『慣れ』とは恐ろしいものだぜ。かれこれ四つ……いや、レベルツェルの件を加えれば、五つの異世界でずっとコードネームで呼び合ってたせいで、本名で呼び合うことのほうが『違和感』が生じるとは、な」


「私はヴィクトールという名前で呼ばれることに感謝している」



 話はさかのぼること、一ヶ月前。

 脱走者ことブリギッドたち、4Iワールドエンフォーサーズは、パニッシュメント号内リビングの丸テーブルで、毎回恒例、コバヤシから次の任務先についての説明を受けた。


 世末異世界『エンティティ・ファントム』。

 この世界で秘密裏に流れている『EP』なる正体不明のものによって、世界各地の権力者が死の危険に晒されている。

 その結果、九割ほどの発展途上国の政府機関や企業が機能しなくなり、それとは対象的に、法と資金という基盤が確立している先進国は、EPと上手いこと共存し、戦争地帯への投資によって過剰な利益を獲得し続けている、という不健全な国際状況に陥った世界だ。


 これだけ聞くと、六人の最初の任務先、『ディスパリティNo.0410』と似ているかもしれないが、この世界はある一点が異常すぎた。

 そのEPを生み出し世界に広めたのが、これまた詳細不明ではあるが、国家機関や犯罪グループなどの、一定の権力のある組織に属さない、一般市民であるのは確実だということ。


 そうした国際社会の秩序維持や経済の循環などをよく知らないであろう人間が、全権力者にEPなるナイフのようなものを喉元に突き立てた結果、こうして世界は荒れたのだと、圧倒的上位存在は分析している。


「よって、今回の指定破壊規模は『EPを発生源もろとも撲滅し、格差社会に陥るに至った秩序を完全に破壊すること』だ。

 想定される敵の抵抗手段は、銃器や、戦車・戦闘機などの大型兵器、それとEP自体にも気をつけたほうがいいだろう」


 話の切れ目を見つけて、脱走者はビシッと手を挙げた。

「で、どうやってそのEPを撒き散らしてる奴をとっちめればいいんだ? 世界中回って一人ひとり殴ればいいのか?」


「そんな非効率で非人道的なこと、君たちのような優れたチームにはさせない。

 キチンと目星をつけてある。

 何やら、この世界の最大国にある、とある中高大一貫の大規模学校で、不可思議な怪死事件が発生し、それが国家権力で都度隠滅されているという。これは何か、都合の悪いもの……おおよそEP絡みの何かが巣食っているに違いない。

 そこでだ……君たちには、その学校に行ってもらう」


 ということで、脱走者、首謀者、戦死者は高校生、使役者は中学生、簒奪者は大学生、そして帰還者は教師、と、それぞれの人物像に合わせたバラバラの設定を与えられ、学校生活を送りつつ潜入調査をしているのだ。


 ちなみに、全員がルールに反して本名を名乗っているのは、下手に偽名を使って怪しまれないようにするため。

 この世界は文化が混沌としているため、あえてそれぞれの異世界でつけられた本名を名乗ったほうが自然であるから、という理由もある。



 帰還者ことティモシーは、生徒たちが真剣に取り組んでくれた小テストを、折り目がつかないように丁寧にクリアケースに入れた後、

「簒奪者が帰ってきてからちゃんとした報告会をするつもりだったが、一応概要だけひとつまみさせてくれ。今日はここに戻って来るまでにどんな収穫があったんだ、お前ら?」


 その問いに、ブリギッドは答えた。

「学校生活も楽しいけど、やっぱ4Iワールドエンフォーサーズの皆といられて安心する」


 するとティモシーは、あめすとお互いの顔を見合った後、不潔にならない程度にブッと吹き出す。

 それから彼は、三人へ向いて微笑みつつ、

「なんでここでもう皆わかりきったこと言ってんだよ、お前」


 すると遅れて、雄斗夜とヴィクトールは言う。

「だけどよ、マジで報告することがなかったんだよ」


「ただただ充実した授業と学生との交流でした」


 これにあめすも乗っかって、

「私も、今日も普通の学校生活を過ごしていましたわ。久々に同年代の友達にも出会えましたもの」


 そうした四人の報告を受けて、ティモシーは頭を抱えて、

「……悪い、俺もずっとアンテナ張ってたんだけど、マジで今のところただの新米教師にしかなれてないんだ……宇宙の授業するのスゲえ楽しいんだよ」


 4Iワールドエンフォーサーズの活動は、そう簡単には終わらないようだ。


【To Be Continued……?】

あとがき


 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。作者です。

 

 今作はざっくり言いますと、周りの流行を一切合切気にせず、私の好きなことをごった煮して、好き勝手に書いたものです。


 前作『カンナギイヤサカ』も、ジャンルにありがちな展開を外しまくって完結させた作品ですが、それでも『クラス転移』という人気ジャンルのものですので、やっぱり流行を意識してた部分は多々ありました。

 それのおかげでネット小説大賞をようやく一次通過できたかもしれませんが……


 というわけで今回はより、私色にハンドルを切って、本作を書き上げました。

 その感想ですが、ベタに言うと、のびのび一作品が作れて楽しかったです。

 多分、また私の過去作と同様、流行にハマらなすぎてあまり人気は出ないと思います。

 二年前のカンナギイヤサカのように、今作もネット小説大賞で成果が出せるかについても、非常に怪しいと思っております。

 感想サービスには拾っていただけることを願っておきましょう。


 それでもこうして本作を書き上げたことで、私としてはまた色々と学びになりましたので、執筆が楽しかったのも含めて、決して無駄な作品にはならないと信じております。

 特に、最終盤まで書き貯めしてから投稿開始したほうが、質的な部分で安定するという学びは、大きい収穫だったと思います。

 今までは本当に書いて出しのスタイルでやっていた者ですから、もう誤植や矛盾が出るわ出るわで、数少ない親愛なる読者様に申し訳なかったですよ本当に。


 文章力についてはまだまだかと反省しております。同じような構文を使いまわしている自覚がございますので。

 あとどこかで書いていました『感情や状況表現の幅』が狭いという重大な私の弱点は、未だに改善されていない気がします。

 モノとか場所は資料を買い漁ってどうにかしようとはしていましたが、人の感情表現はどうも上手くいっていないかと思います。目の動きでの感情表現の依存度は減ったと思いますが、手の動きがその次の割合を占めただけのような気がします。


 映画などを沢山観て勉強していたつもりなのですが、やはり『つもりになっている』のがよくないということでしょう。


 まだまだ書きたいこと(本作を思いついた経緯や、キャラクター誕生秘話など)が山程ありますが、それは未だに記事が一本しか無い私のnoteにでも、必要あり次第書くことにします。


 では最後に、ここでお伝えしておかなければならないことを二つ、ザックリと記載します。


 本作はこの話で終わりです。

 上記の通り、WORLD6 なんたらかんたら『エンティティ・ファントム』が始まりそうな描写がされておりますが、現状本作の今後の更新予定はありません。

 一応、その後のストーリーはもっさりと考えてあります。ひょっとしたら私の熱意、あるいは、非常にレアな事態でしょうが、読者様からのお声が集まれば続編が出るかもしれません。


 次に執筆しようとしていますのは、私の代表作『六人の娘たちが帰ってくるだけの話』のシーズン4です。

 いつぞやのどこかのあとがきで話していた通り、今年の末頃には開始予定です。当然、十分なストックを作って、休載が多発しないように、絶対。

 ただし、一、二ヶ月は映画と、ますます積み上がる未読本などを使った勉強期間を挟んでおきます。


 こちらの事情などをダラダラと書いてしまい申し訳ございませんでした。

 上記のシーズン4など、どこかでまたお会いしましたら、そこでもご拝読いただけますと幸いです。


 それからもちろん、今作への感想やコメントはご遠慮なくお願いいたします。 


 以上、ありがとうございました。作者の都Pでした。

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