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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD5 誘導された復讐の舞台『マナイトソイズ』
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W5-6 LOVE & JUSTICE

 王城。壁も天井も消し飛んだ最上階にて。

 この即席の舞台の上で、脱走者とレベルツェルによるリベンジマッチが行われていた。


 脱走者はアクセルロッド粒子を全身から放って超加速し、レベルツェルめがけてパンチを繰り出す。

 そして命中の寸前、脱走者は拳もろとも急激に勢いが衰えた。


 その姿を見据えつつ、レベルツェルは槍先を脱走者に合わせて構え、

「【藍玉光の(アクアマリン・)討斬スラッシュエンド】ッ!」

 怒涛の如く豪快に突き出す。


 しかしそれで貫けたのは何もない空間のみ。脱走者は槍を突き出し始めたコンマ一秒後に十メートルほど後ろへ高速移動し、逃げていた。


 そしてレベルツェルが槍を突き出し終えた刹那、脱走者は十メートルほどの間合いを詰め直し、キックを放った。

 だがこちらも見えない壁に当たったように威力が減退し、レベルツェルの槍の構えをじっくり見させられる羽目になる。

「こんな短い間でもすぐできるのかよ……」


「【無望廃絶陣】は何度でも連続発動できるのです。これ前にも説明しませんでしたか?」


「知るかッ!?」


「よくそんな心構えでリベンジマッチを果たしにきましたね……【黄玉光の(トパーズ)討斬スラッシュエンド】ッ!」

 レベルツェルは、スパークのように弾けるオーラを纏わせた槍を、背面から力いっぱい振るう。


 ここでも脱走者は、レベルツェルが槍を操り始めた瞬間に後退し、攻撃範囲から逃れた。


「反撃に警戒してすぐに逃げるようになったのは目覚ましい進歩でしょう。ただ、それでは果たして私にいつ攻撃を当てられるでしょうか?」


「お前が何もしないでいればいいんだろうが!」

 脱走者は床の縁を十数回転し、レベルツェルの周囲に赤い光の輪を作り出す。

 そうしてタイミングを調整した後、意表をついて彼女の真正面から殴りかかった。


 だがそれも無意味だった。【無望廃絶陣】はレベルツェル本人の意思なく自動的に発動させられる。

 あえなく脱走者は拳を振り上げた状態で止まり、

「【翠玉光の(エメラルド・)討斬スラッシュエンド】!」

 レベルツェルは斜め上へ槍を突き出す。


 脱走者はアクセルロッド粒子の加速で、即刻後退。止まった時にはレベルツェルは空を刺しつつ自分もろとも槍を回していた。


 回転が終わった後、レベルツェルは床から二メートルほど浮いたまま、脱走者へ笑みを浮かべる。土手っ腹に大穴が空かなくてよかったですね。と言わんばかりに。


 脱走者は拳を構えたまま、唇を噛んでそれを見上げた。

 レベルツェルの挑発にまんまと乗って苛立っているため……ではない。

 自分の戦闘能力の不十分さを痛感しているためだ。


 特に、レベルツェルの鉄壁のカウンター戦術を崩す手段を、未だにできていないことについて、彼女は内心吠え散らかしていた。

(あの技はいったいどうすればもっかいできるんだよ……!)


 過去にリアセリアルでの戦いにおいて、勝負の趨勢を自分に呼び込んだ、レベルツェルの鎧を吹き飛ばした『あの正拳』……それをもう一度できればきっと相手を倒せる。

 それを自分が信じ、仲間に信じてもらったからこそ、このタイマンが叶ったのだ。


 しかしその望みをものにできず、回避ばかりの戦闘を続けるばかり。

 相手がどの必殺技でカウンターを仕掛けるか見切って、カウンター返しを仕掛ける。という誰でも思いつくだろう作戦すらも、多彩過ぎるカウンター手段に怯えてままならない。

 こうした自分の不明に、脱走者はひたすら憤る。それでいてここから先、何をすればいいのか見当もついていないことにもストレスが貯まっていく。


 その果てに脱走者は、

「おいお前! いつまでそこで止まってんだよ!」

 とりあえず気になったレベルツェルの態度に文句をつける。


「これは失礼。貴方の力があれば空中にいるのもあまり意味がありませんよね」

 と、言って、レベルツェルは翼を動かし、ふんわりと床に両足をつける。


「そういうことじゃねーよ! お前またほとんど同じところから動いていないじゃないか!よ」


「ええ、そうです。あの屈辱の戦いにて途中で投げ出した戦法を、ここで完遂する。そうして貴方から些細な希望すら奪い尽くす。それが私の復讐の作法であり、正義の証明です……!」


 脱走者は少し構えを緩め、

「正義の証明、か……なあ、お前のいうその正義はなんなんだ?」


「物わかりが悪いです」 

 と、馬鹿にしつつも、レベルツェルは親切に答えた。

「度し難い理由のもと、私の出身地で大虐殺を行い、私の主と兄弟や仲間をも奪った、貴方たち性根が腐り果てたアク役どもを罰する……この正義の行いを、私の実力で証明するのです」


「……そうか。じゃあ、もう一個質問いいか?」


「尺稼ぎはやめてください」


「違う。マジでただの疑問。レベルツェル、お前はそれを心の底から正しいことだと思っているのか」


 レベルツェルは、はっきりと答えた。

「はい。誰しも自分の故郷や仲間を消されて恨みを抱かずにいられるはずがないのですから。

 さては脱走者さん、貴方、またこの世界を生き餌にするために必要だった犠牲について問い詰める気でしょうか?」


「いや、違う。それで、今わかった……お前には正義がある。って」


「そう言ったではありませんか。

 急にどうしたのですか? もうとっくに勝ち目がなくなり絶望して、潔く私に断罪されるのを希望しているのでしょうか?」


 このレベルツェルの問いに、脱走者はあえて不親切に答えぬまま、語る。

「家族と仲間たちが殺された怒りをたった一人でアタシたちに向けた。それは紛れもなく立派な正義だと思う。

 けど、アンタの正義は周りを巻き込みすぎているだろうが」


「それは貴方たちも同じでしょう? 自分の罪状を棚に上げないでくださりますか」


「ああ、そうだよ。何ならアタシは、お前の世界に行くずっと前にも、大勢の人を殺し回って世界を壊した。

 それもアタシは正義だったと思ってる。その大勢の人は、アタシの家族同然だった子どもたちを実験材料にした奴らだから。アタシの世界はそんなクズたちに支配されてたとこだったから」


「責任を他人に押し付けて自分の罪から逃れようとしているのですか」


「それはお前も同じだろうが! アタシと同じだろうが!」


「違う! 貴様の殺戮は単なる憎悪のためで、私の殺戮はロトディフェイチ様への忠誠のためです!」


「そういうのが正義ってモンなんだよ! アタシとお前と……いや、この下にいる簒奪者も帰還者も戦死者も使役者も首謀者も、それからコバヤシとか、デモリオスとか、アトゥンとか、ベンヤミンとか……どいつもこいつも別々に持ってるものが正義なんだ!」


「それこそ違う! 私こそが正義だ、貴方こそが悪だ! そして悪である貴方は、正義である私の元に裁かれるべきなのだ!」

 そしてレベルツェルは脱走者のいる方角めがけ、槍を振るう。

「【金剛光の討斬】ッ!」


 脱走者はそれに向かって渾身の蹴りを打ち込み相殺して、レベルツェルへ訴え続ける。

「けど、アタシは、アタシも、お前も、正義だと思ってる……同じ、誰かのために戦いたい人だと思ってる」


 レベルツェルは少し観念して、内に溜ったガスを抜くようにため息をついた後、脱走者へ尋ねた。

「だったら貴方はどうしたいのですか? 形が違えど同じ正義と戦うことなんて必要性がないではありませんか。もしかして、自分がより優れた正義だと騙り、私を相対的に悪とみなしているのですか!?」


「……なんかここに来る前、コバヤシは、正義ってことについて色々話して、アタシを励ましてくれた。さっきの『別々に持ってるものが正義』ってのも、アタシがかろうじて覚えてたことの丸読みだ。

 けど、正直アタシの頭じゃあ、思い出してもいまいちどういうことだかわからないんだ。

 だから、ここはアタシなりにまとめる。多分コバヤシからしたら勝手なことしてるんだと思うけど。

 正義なんて全部正しくないんだ。それでも、アタシたちはそれに従って生きていかなきゃいけない。

 なのに、さっき言った通り、全員が持ってる正義は違う。それでお互いのそれが気にいらないからって、喧嘩になっちまうんだ。

 そうして喧嘩すれば、たとえ勝ったとしてもそいつは罪悪感を感じたり、巡り巡って罰を受けちまう。それこそ嫌だろ?

 だからアタシは、せめて正義をもって動く時はこう思うことにした……んだけど、なんだかなぁ、悪いな、アタシ、あんま語彙力ないんでな……ヘンな感じになってもツッコむなよあんま。

 たとえどんな嫌な奴であっても、最低限は愛するようにする。でもってそれ以外の部分をなんとかしようとする。

 そうしてアタシは、この全異世界中にいる何人かが泣かないようにする……そう決意したんだ」


 脱走者の言葉を全てしかと聞き、噛み締めた上で、レベルツェルは短く問いかける。

「それで、私にはいった何をするつもりでしょうか?」


 脱走者は強く握り締めた拳を向けつつ、

「お前みたいな仲間思いに、無駄な悪事をさせないために……お前をここで止める!」

 と、言い放った瞬間、脱走者は超高速でレベルツェルへ駆ける。


「貴方の救済など必要ありません……それよりも先に御命を落としてくれませんか!」


「だったらまずこれを受け止めてみやがれぇぇぇ!」

 そして脱走者は、レベルツェルめがけて後先考えない全身全霊のパンチを放つ。


 もれなく相手の妙技である【無望廃絶陣】が発動した。

 レベルツェルは、脱走者の走りとパンチの勢いを吸収し、いずれかの必殺技の構えを取った。


 その最中に、脱走者はレベルツェルの顔面に、赤く煌めく右拳を打ち込んだ。

 刹那、その一点から激しい閃光とともに衝撃が巻き起こり、レベルツェルは舞台の外へ飛ばされた。


 レベルツェルは翼を動かし、吹っ飛ぶ勢いを制御した。

 城の残った床に立つ脱走者から斜めに二十メートルほど離れたところから、相手の様子を確認する。


 脱走者は、数秒前にレベルツェルがいた空間に、右拳を突き出したまま、目を点にしていた。だがやがて、彼女は有頂天になり、思い切り笑って叫んだ。

「これだ……ようやく出来たぞオレ!」

 

「たかがまぐれで一発当たったからと、調子に乗らないでいただきたい!」

 レベルツェルが未だに痛みが残る顔をしかめつつ、脱走者めがけ槍を突き出して突進する。

 脱走者は右足に力を込め、思い切り回し蹴りを繰り出した。


 するとレベルツェルは瞬間的に構えを正した。再び【無望廃絶陣】を発動させ、カウンターの準備を始めたのだ。

 またしても脱走者はエネルギー奪取時の制限をものともせず、レベルツェルの胴につま先を当てた。

 たちまち閃光が迸り、レベルツェルは胴を中心に波のようにとてつもない衝撃が全身に響くのを感じた。彼女は上半身の鎧の破片を撒き散らしながら、場外へ弾き飛ばされた。


 レベルツェルは再度翼を動かし、吹っ飛ぶ威力を制御して、脱走者を見据えつつ、

「何故です!? 何故、今になってこうした威力の技を出せるようになったのです!?」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。


 脱走者は、過去の人体改造によって、体内でアクセルロッド粒子を生成し、放出できる性質を持っている。

 アクセルロッド粒子とは、摩擦・慣性・空気抵抗・重力……などなど、物体の運動を阻害する要素を無効化する、強大なエネルギーを秘めた物質のことだ。

 走行時、これを全身の表面にコーティングしつつ、体内に循環させることで、脱走者は並外れたスピードを得られるのである。


 先程の強烈な衝撃を伴う攻撃には、これが絡んでいた。

 使う部位から、過剰なまでのアクセルロッド粒子を放出しつつ、攻撃を命中させる。

 すると、その接地面で、先に相手に触れて跳ね返ってきた粒子と、発生源近くの粒子が激突し、即席の小規模な対消滅が発生する。

 これにより通常の打撃よりも遥かに大きい、【無望廃絶陣】でも抑えきれない規模の衝撃が生まれるのだ。

 特に、レベルツェルの【無望廃絶陣】は相手の技の威力を抑える性質があるため、空間上に留まった粒子との激突も起こるため、その威力は計り知れないものとなる。


 実は今まで脱走者は、アクセルロッド粒子の放出を制限していた。過去の所業や本人の隠れた優しさによって、『本気を出せばまた良からぬことが起こるかもしれない』と無意識に抑えつけていたのだ。


 リアセリアルでの時は、本当にまぐれであった。

 しかし今回、迷いを断ち切った自分の強い覚悟と、レベルツェルに対する『止めたい』という願いがそのリミッターをふっとばし、この攻撃を発動できるようになったのだ。


「知らん! とにかくこっからはおもいっきし反撃してやるぜーッ!」

 もっとも、未だにアクセルロッド粒子の特製を把握できていない彼女は、上記の仕組みを理解していないが。


「そんなこと、させはしない! 【紅玉光の(ルビー・)討斬スラッシュエンド】!」

 レベルツェルは柄の中点を軸に、槍を高速回転させつつ、脱走者へ飛行する。


「てかあれ? お前今またオッパイ丸出しだけどいいのか?」


 飛行中、レベルツェルは首を前に傾け、左右それぞれでこぼれて揺れる自分の乳房を一瞥し、

「あのような失態は……もうしない!」

 赤く染まりきった顔と、噛み締めた歯を見せた。


 レベルツェルが押し付けた回転する槍を、脱走者はいつもの高速移動で楽々かわしつつ、側面を取る。

「そうすると思ってましたよ! 【紫水光の(アメジスト・)討斬スラッシュエンド】ッ!」

 すると咄嗟にレベルツェルは、【無望廃絶陣】を介さず、即刻槍を構え直し、脱走者に連続刺突を放った。


 流石にこれは油断してしまった。脱走者は急ぎガード体勢を取って後退したものの、二割ほど受けてしまい、傷ついてしまった。


 レベルツェルは、槍を持っていない腕を胸の前に置きたい衝動をこらえながら、

「私とて、貴方を倒すために相応の覚悟はしているのです!」


「おもしれー……だったらこっちも負けちゃいねーぞッ!」

 脱走者は、先程の刺突を受けてできた、スーツの裂け目に手を突っ込み、力ずくで上半身を覆う生地を引きちぎる。ぱるん。と自分の豊かな乳房を開放してみせた。


「これでお前と同じ条件だ……もうこれで負けても文句いえねーよな!?」


「それは前回でもやっていたでしょう……変に親切するのはよしなさい!」


 ここから、二人は王城最上階のフィールドを余すことなく使い、激闘を繰り広げた。


 脱走者は、自分の『細やかな作業を得意とする』という長所を活かし、あの過剰粒子放出攻撃を完全にものにし、幾度とレベルツェルへ衝撃をぶちかました。

 レベルツェルは、もはや意味をなさない【無望廃絶陣】を封印し、本来の槍術と観察眼だけで、的確なタイミングで防御と必殺技を使い、相手の攻勢を幾度と止めた。


 そしてこの激しい技と技の応酬の果てに……揃って満身創痍となった二人は、全身全霊で戦場中央へと突き進む。相手に、最後の一撃を食らわすために。


「いい加減止まりやがれこの野郎ォォォ!」

「雪辱を果たすッ! 【柘榴光の(ガーネット・)討斬スラッシュエンド】!」

 

 レベルツェルは手前の地面に槍を叩きつける。間もなく、オーラの隆起が突き上がる。

 だがその寸前に、脱走者はその範囲へ決死の覚悟で踏み入り、突き抜けて、レベルツェルの懐に潜り込んだ。

 そしてそこから脱走者は、レベルツェルの顎を右拳で捉え、彼女を三メートルほど上へ打ち上げた。


「ご……はッ……!?」

 レベルツェルが大の字になって床に落ちた時、脱走者は両膝を突いて、その場から動けなくなった。

 これまででは考えられない量のアクセルロッド粒子を放出した。慣れない行動による身体の負担が今、彼女の身に重くのしかかっていた。


 レベルツェルも度重なる攻撃を受けたことで疲労困憊である。だが、この好機を逃すわけにはいかない。

 得物の槍を支えにして、ブルブル震えながら立ち上がり、この切先を突き刺してやらんと、一歩一歩、着実に脱走者へ接近する。


 すると、脱走者は飛び込むように、レベルツェルの腰へ抱きついた。


 これを引き剥がそうと、脱走者の両肩に手をおいて、

「……何のつもりですか、これは……」


「……優しさのつもりだ……お前、ここでアタシたちを待ち伏せている間、ずっと一人だったんだろ……?」


「……ええ、貴方がたのせいでね……一応あの馬鹿きょうだいがいらっしゃいましたが、アレは話し相手になりませんから……」


「……だろうな……ごめんよ、アタシたちのせいで……」


 レベルツェルは、脱走者の両肩に触れている手の力を抜いた。

 合理的でないのはわかっている。だが、今、脱走者の肌と、声から伝わる温もりを感じては、どうにも引き剥がす気持ちが沸かなかった。


「……あれは、貴方がたなりの正義があってしたことでしょう。謝らないでくださいよ……でしたら、どうして貴方はこんな嫌われるようなことをするのですか……」


「……だって、これがアタシたちの仕事だから。

 アタシたちみたいなろくでもない奴らが、どっか遠くの異世界の人か、他の仲間たちが、この世にいられる理由だから……

 ……だから……キッチリ決着つけてとっと次の任務先に行かせてもらうぞ! レベルツェルッ!」


 脱走者は、右手でレベルツェルの左太腿を、左手で腰をガッチリと掴んで立ち上がる。

 レベルツェルを持ち上げたまま、脱走者は、先程の会話中にちょっぴり回復していた体力を用い、アクセルロッド粒子を噴出して加速。

 瞬く間に床から跳び、レベルツェルの背を地面に向けて落下する。


「こ、この卑怯者! ほんの少しでも同情した私が馬鹿でしたッ!」


 レベルツェルが翼を広げ、落下の速度を減らす。

 その途端、脱走者は裂帛の気合とともに、自分とレベルツェルを包むほどのアクセルロッド粒子を展開。

 これにて、たとえ翼を広げようとも、落下を妨げる空気抵抗は無効化される。


「ば、馬鹿なぁぁぁッ!」


「これで、アタシの勝ちだぁぁぁッ!」

 そして脱走者は、レベルツェルに覆いかぶさるようにして、重力とアクセルロッドの噴出により、凄まじい勢いで地面に落下した。


 レベルツェルは、背中を中心とした多大なダメージによって、気絶という形で戦闘不能になるのだった。


 脱走者はゆっくりと起き上がり、倒れたレベルツェルの姿を見下ろしてから、

「レベルツェル。お前は正しい奴だった、アタシたちよりも立派だった。

 だから、ありがとう。正しいだけが全てじゃないって教えてくれて……」

 と、つぶやいてから、彼女の元から離れていく。


 その先で脱走者は、簒奪者が胸に伸ばそうとした手を払い、戦死者から借りたジャケットを着直す。

 使役者に笑顔とサムズアップを見せた後、帰還者にレベルツェルを運んでもらう。

 それから彼女は、首謀者の肩を借りて歩き、パニッシュメント号の転送地点で待つコバヤシの前に立ち、この結果の詳細を報告した。

 だが、歓喜のあまりまくし立てまくっていたため、その内容はあまりにもわかりづらかった。


【完】

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