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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD4 ロボットトイの臨界点的理想郷『ペルフェロイド』
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W4-24 悪逆の果てに

『な、なんてことだあああ!? 我々の守護神がこんな簡単に壊されるなんて、あ、あり得ない!?』


「あり得ないのはこんな像を造った、あなたたちダメな子孫の思考回路ではありませんこと!?

 こんなドデカロボットなんかよりも、うんと世の中にとって正しいお金の使い方あったでしょうに!

 大体どうして最終兵器が創業者を模していますの!? もっとカッコいいのにしなさいよ!?」


『世界平和を実現したブライアン氏の御姿を借りれば、士気上昇に繋がるからだろうが!』


「それはそれで問題がありませんこと!? よりによって平和の作り手を、こんな大掛かりな兵器にしてしまってますのよ!?」


 ティトゥス社長は少しのロード時間を挟んでから、

『それは……聖人君子だろうとも綺麗事だけでは世の中を良くできないというメッセージを込めてのことだ!』


「それは言えてるかもしれませんね。ですが、貴方たちは綺麗事のほうが少ないですわよね!? 

 自分たちの利益のことばかり考えて、社会構造から娯楽まで全て、自分たちが得するように組み替える。

 自分たちのせいで苦しむ人には全く手を差し伸べないどころか、足蹴にする。

 特に社長さん、貴方に至っては! 自分の一時のワガママでできた息子を守るためだったら、一切悪びれず人を殺す始末!

 もし私が今目の前にいるおじさんの立場になったとしたら、こんな出来の悪すぎる子孫を見て、草葉の影で泣きまくってやりますわよ!?」

 

 この使役者の遠慮がない指摘を受け、面食らったティトゥスは、しばらく操縦席で、まるでうがいのような唸り声を鳴らした。

 そして彼は苦しそうに反論する。

『う、うう……うるさい! 私は、この世で最も社会的価値のある社長なのだ!

 平民の千倍儲けて何が悪い!? 気に入らない奴らを踏みつけて何が悪い!? 国家権力を言いなりにして何が悪い!? その時グッときた女をすぐに抱いて何が悪い!? 次期社長の名誉のために人を殺して何が悪い!? 高級車や腕時計を沢山欲しがって何が悪い!?

 ……私とて人間なのに、人生を謳歌して何が悪いというのだ!?』


「全部まるっきりヒャクパー悪いですわよ! 自分以外何一つ大事にしない貴方なんか!

 おもちゃという、人に夢を与えるものを使って、自分ばっかり贅沢して、大勢の人を苦しめる人なんか! 絶対絶対ぜーったい悪いですわよ!」


『自分以外も大切にしているし、人に夢も与えているぞ! ほら、アウグスティンが望むことだったら何でもしてやっ……』


「それも自分を甘やかしている一環ですわよ! あの馬鹿息子さんを喜ばせれば、声優さんの人生を台無しにした罪から逃れられると認識をごちゃまぜにしているからではありませんの!?」


『……!』

 ティトゥスは一気に黙りこくった。これは、紛れもない図星の証拠だった。


『だ、黙れええええ! 社長に命令するなああああ!』

 巨像の肩部分の外装を崩し、そこから数万発のミサイルを撃ったことも、証拠としてカウントしていいだろう。


「もうブライアンさん、あの世があったらそこでキレ散らかしてるでしょうね……自分の像にモロに兵器を搭載されて、子孫は器がちびちびすぎますし……」

 

 使役者はコンパクトに向かって一声かけて、そこに座るドラゴンのぬいぐるみに、グリフォンに代わってもらうようにする。

「とびでるマジカル! みせるよミラクル! でもってフォールン! 使役者、きらきらウィザードフォーム!」

 そして使役者はベタな魔法少女のような衣装にチェンジ。


 そしてすぐ、クラダラエネルギーの火弾を連射してミサイルの数を減らしながら、使役者は弾幕の間を飛び回り、巨像へと接近した。特大のクラダラエネルギーの爆炎を腹部にぶつけた。

 巨像はこの威力に体勢を大きくのけぞった。

 頭部に浮かぶメーターも半分を超えた。


 ティトゥスは火事場の馬鹿力めいて、この一瞬、迅速な操作を行い、即座に体勢を正した。

 そこからティトゥスは、巨像に自分の顔面を掴み、引き剥がさせる。


 穏やかな顔をした創業者の顔パーツ外装を、適当に放り投げる。兵器然とした冷たい内部構造と、その中心に設置された砲身が露わになった。


 刹那、その砲身から危険な気配しかない赤い光が灯り始めた。


『ペルフェクシオン・ソサエティの価値は完璧でなくてはならない……! 我々の名誉を傷つけた貴様など、もう一秒たりとも生かしておけない! この我らが一族の意思を込めたレーザーキャノンで貴様を抹消してくれるわあああッ!』


「……もう返す言葉も無くなってきましたが、黙ってるのも味気ないと思いますので……自社と商品の在り方を見誤り、悪逆を尽くしたような方々の意思がこもった兵器なんかで、私には勝てませんわよ!」

 使役者は杖を側に浮いている、グリフォンが座ったコンパクトにかざす。


「必殺! きらきらダークネスマジック!」

 そして使役者は紫色に激しく煌めく杖の先を巨像へ向けて、その大きさからは信じられないくらいの莫大な量のクラダラエネルギーの波動を、豪快に発射する。


 対して巨像も、顔に備え付けられた砲身から、極太レーザーを放射した。

 二つの大技は、二人の間で激突する。それから間もなく、クラダラエネルギーは、相手を飲み込んでいくように、極太レーザーをあっけなく押し返してしまう。


『何故だ、何故だアアアアアアッ!?』


「何故負けたかですって? ペルフェロイドというおもちゃを、ご先祖様の遺産を悪用して、世の中をメチャクチャにしたからですわよ!? どうせ今度も真面目に聞くつもりはないのでしょうけど!?」


 そしてクラダラエネルギーの奔流は巨像の頭部に命中。みるみるうちに巨像はまるごと紫色に塗り替えられる。

 それと同時に、頭頂部に浮かんでいた光は、見事に正円となっていた。


 結局わからずじまいだったが、この巨像のどこかにある操縦席にいたティトゥスは、機体内部に浸透したクラダラエネルギーの滝を直に浴びながら、

『ペルフェクシオン・ソサエティよ……永遠なれええええええッ!』

 と、断末魔を残して、巨像もろとも塵となって消えた。


 この瞬間、使役者のスマホの着信音が鳴った。

 それは脱走者からの電話だった。


「はいこちら使役者ですわ。ご要件をどうぞ」


『見てたぞ今の! なんでお前だけ倒し甲斐のありそうな奴と戦ってたんだよ! 簒奪者と帰還者と首謀者とで、ペルフェクシオン・ソサエティの関連会社全部ぶちのめしたけど、まともな奴誰もいなくて退屈だったんだぞ!?』


「……いや、こっちも面白くなかったですわよ。偉そうなおじさんの偉そうな説教ばっか聞かされて」



 数分後。ペルフェクシオン・ソサエティの本社ビルにめり込んだ、巨像の顔パーツの上にて。


 ベンヤミンは自前のノートパソコンから、SNSで無数に流れる、各国政府とペルフェクシオン・ソサエティの支社との武力衝突の情報を見て、ニタニタしていた。

「もういよいよ、ペルフェロイド一強時代は終わりだな……」


「ついに終わったようだな」


「ああ、おかげさまで終わりましたよ……!?」


 ベンヤミンは振り返ってすぐ、無意識にノートパソコンをパタンと閉じつつ、目を見開く。

 そこには、既にいて、見慣れた4Iワールドエンフォーサーズの六人と、彼にとっては初登場の人物である、スーツ姿の男が現れていたのだから。


「だ、誰だお前!?」


「そう言えば君と会うのは初めてだったな。どうも、コバヤシと呼ばれております」


「はぁ、どうも小林さん。ベンヤミンです……」


 コバヤシは一礼して、淡々と言う。

「こちらこそどうも。ベンヤミンさん。この度は我々の任務に協力してくださりまして、ありがとうございます」


「いえいえ! こちらこそ僕の復讐に付き合ってくださりましてありがとうございます! ええ!」


 それからコバヤシは、始めからのトーンを維持したまま、告げた。

「それでは、我々の任務におけるルールに則り、貴方にはここで死んでいただきます」


 その瞬間、戦死者はコバヤシの左から三歩歩出て、普遍的なオートマチックピストルをベンヤミンの眉間に合わせて向ける。


「よりによって君が務めるか。まぁ、それでいいのだが」

 と、コバヤシはそれを一瞥して、ベンヤミンの挙動を見張る。


 彼はまるで急に海に突き落とされた人がするように、バタバタと両腕を動かしながら訴える。

「ま、待ってくれよヴィクトールさん! 本当によりによって過ぎるだろうが! 僕たち今までどれだけ一緒に頑張ってきたのにそれを忘れたのか!?

 あと、約束も! 『せめて僕くらい楽な感じにやってくれよ』って言わなかったか僕!? これ絶対メチャクチャ痛いやん!? せめて毒薬とかにしてくれよ!」


 戦死者ヴィクトールは応答しないまま、ピストルを構え、ゆっくりと引き金に力を加える。

 その最中、今度はコバヤシの右から使役者が出て、


「待ってくださいコバヤシさん。ここベンヤミンさんを始末する前に、どうしても言っておきたいことがあるのですが、お時間よろしくて?」


 コバヤシから「手短に頼む」と、了承を得てから、使役者は話す。

「今回、私たちはこの世界のペチャップという世界大会で、ペルフェクシオン・ソサエティの社長息子を敗北させることによって、その会社の評判を落として、ペルフェロイドの過激なブームを終わらせる作戦を取りました。

 そして私たちは見事、決勝戦で勝ってみせました。

 ですが、本当にペルフェクシオン・ソサエティの絶対的評価にトドメを刺したのは、ベンヤミンさんが、私たちに相談せずに決行した『ハッキング生中継』によるものですわ」


「つまり、何が言いたいのだ、使役者」


「となると、ベンヤミンさんは、私たちと同様、『無資格異世界破壊罪』が適応されるため、逮捕しなければいけないのでは?」


 使役者の提言を聞いて、周りにいる簒奪者、帰還者、首謀者は思った。


 これまでの約一ヶ月半、仲間として一緒に活動していたベンヤミンが、自分たちの非情なルールに殺されることから助けるために、必死に屁理屈を並べている。と、半分感心し、半分せせら笑っていた。


 一方、脱走者は『確かにそうだよな!』と、あまり深いことは考えずに受け止め、


「え、無資格異世界破壊罪……何だそれ?」

 ベンヤミンはこの新概念に戸惑っていた。

 実はペチャップ会場から逃げ出す直前に、使役者たちから説明を受けていたのだが、状況が状況なだけに頭から抜けてしまっているようだ。


 コバヤシはしばし考えて、

「確かに、言われてみればそうだ……彼は、あの悪行の生中継による社会全体の混乱を巻き起こした上、次期社長を死なせた原因も作っている……」


「え、何々? 僕、なんか逮捕されるんですか!?」


 コバヤシはまず戦死者に、撃つな。と、手のひらを出してジェスチャーで言ってから、ベンヤミンの肩に手を置く。

「ではそうしよう。お前を無資格異世界破壊罪の容疑で逮捕する。今から取調領域で担当に話をしてもらう。拒否権はない」


「ま、待ってください! マジでよくわかんないんですけど僕! おい、ヴィクトールさん! これはこれで約束が違うぞ! なんか助かった感じあるけど、絶対この後よくないことさ……」

 コバヤシはベンヤミンとともに一瞬、この場から消えて、一人だけすぐに現れた。


「……さて、この世界ですべきことは全て終わった。パニッシュメント号に戻るぞ」

 そしてコバヤシは、スマホのようでスマホではない謎の端末を操作し、六人のいる場所に淡い光を帯びさせる。


「……戦死者」


「何でしょう、コバヤシ殿」


「お前の資料の本名欄が未だに空白だったのだが、『ヴィクトール』と記載していいだろうか?」


「ええ、よろこんで」


 転送が完了するまでの僅かな間、使役者は戦死者に寄って、その笑顔を上へ向ける。

「ファインプレーでしたでしょう、私。ルールに忠実になって、ベンヤミンを始末しようとしていたようですが、これで彼は守られましたわね」


 すると戦死者は、ベンヤミンに向けていたピストルを、何も無い方向へ向けて、引き金を引く。

 しかしカチカチと、何か細かい部品が接触する音がするばかりで、弾丸は発射されない。

 戦死者は、最初から安全装置セーフティーがかかっていた銃を向けていたのだ。


「なるほど、私は戦死者さんのお望み通り動いていたというわけですね」


「私はこれまで見てきた通り、話術には長けていないのだから」


「そうでしょうか? 私は意外とあると思いましたわよ。話術も、それに必要な人間性なども?」


「……感謝する」



 次の任務先までの一週間の休憩期間の一日目。


 戦死者は自室に敷いていた耐火ゴムマットを剥がし、深緑色の布カーペットに取り換えた。


 スチールラックはそのままだが、銃整備用品は、船内の共有作業室に移し、オブジェのように銃器を並べる台にした。


 極端に壁に寄せていたベッドも、景観と機能性を両立した位置に直し、デフォルトの寝具から、ポイントで購入した自分好みのものに変えた。


 そして戦死者は、かつてのガンスミスの作業場だったような部屋から、ある程度は普通の人のものに近づいた部屋をぐるりと眺める。


 最後に、戦死者は一番殺風景に見えた壁に、使役者から贈られた、編み物の壁飾りをかけて、昼食を食べにメインルームへ出かけた。


【完】










 王城の中心に位置する玉座の間にて。


 この地で最も守護すべき空間を守る衛兵たちは、そこに敷かれた赤い絨毯に、各々赤黒い鮮血を撒き散らして倒れていた。


 間の出入口には、ティアラをつけた王妃が、背中に大きな裂傷を刻まれた状態で仰向けになっている。

 その反対側、最奥にある玉座では、この国の長である王が、玉座に座らされたまま、一本の槍で磔にされていた。


 王は口からダラダラと己の血を吐き出しながら、尋ねる。

「私が何をしたというのですか……私は国民が穏やかに、豊かにあることだけを考えて、この務めを果たしてきたというのに……」


「いいえ、別に貴方は特別悪いことはしていません。ですが、私の『計画』のためには、貴方に死んでいただかないといけませんので……」


「その計画とは、何でしょうか……?」


「教えません。私以外が知っても意味はありませんし、理解できませんでしょうから……」


 王は徐々に意識が薄れゆくのを、自分の熱が失われていくのを感じた。

 故に王は、残りの気力を使って、頼み事を遺すことにした。


「……どうか、民と、我が息子たちだけ……手を出さないで欲し……」


 王がついに絶命したのを念入りに確認した後、槍を引き抜く。

「申し訳ございませんが、半分だけ、遵守させていただきます。貴方がたの御子息は、ここを『世の末に』するのに適した人材ですから……」


 槍を振り回し、付着した血と脂を払う。

 それから、背中に生えた翼を動かし、ステンドグラスの窓を突き破って、次なる準備へと向かう。


【完】

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