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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD4 ロボットトイの臨界点的理想郷『ペルフェロイド』
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W4-14 世界大会、開幕

「……というわけで、私は誹謗中傷がきっかけで、自分のいた世界を滅ぼしたのですわ」


 例のホテルの一室で、仲間五人とともに、使役者の過去を聞き終えたベンヤミンは一旦メガネを外し、

「……なるほどね。それであんだけネットの声を気にしてたわけだ。そりゃますます僕が悪い。あんなツラツラと持論を振りかざしたらそりゃキレるわ。ネットのカスどもと同類だわ」


「いいえ、私も同類ですわ。こっちも自分の勝手で貴方を殴ってしまいましたもの」


「いいってことよ……けど、なんか反省してないように聞こえるかもしれないけど、もう周りの罵詈雑言なんか気にするなよ。アイツらは今までも今後も絶対にろくなこと言わないからな。

 お前は今は、本当に反省して、仲間と一緒に異世界を救うために戦ってるんだろ? ならそもそも奴らにお前を責める権利はねーよ。な?」


「ええ、そうですわね。私たちはこの世界を救うために頑張ってますものね」

 本当は真逆のことをしようとしているのだが、まだ言う機会ではないので、使役者はベンヤミンの言葉に乗っかって誤魔化した。他の五人も、そこを訂正しないでおく。


 そしてベンヤミンはレンズを拭き終えたメガネを付け直し、

「というわけでよ……三週間後のペチャップに備えて、心機一転……今日はもう練習終わりだ」

 

「えっ!? 心機一転の使い方間違ってませんこと?」


「……心機一転って何だ?」


「『何かしらのきっかけで気持ちを新しくすること』って意味だぜ、脱走者」と、首謀者。


「そんで今ベンヤミンは、使役者が作ったしんみりムードから切り替えて、『練習再開だ!』 って言うと予想したところで、練習終わりと言ったから、使役者は驚いたわけ」と、帰還者は言った。


「なんかこんなシーンで細かく心理分析されると気持ち悪いですわね」


「して、ベンヤミン。君はここであえて練習しないのには当然、君なりの何らかの策があるのだろうね?」


「ええそうですぜ簒奪者さん。前々から話してる通り、ペチャップは二十六社のコンペティションと販促と兼ねている大会で、最新鋭・ハイエンドのバケモノマシンがわんさか出てくるに違いない。

 ところが今、三人が使ってる機体は正直、それに太刀打ちできるスペックではない。

 だから一旦練習はストップして、いよいよお前らに究極のカスタム品を用意するのよ」


「なるほど。そう言えば今まで使ってたのはまだプロトタイプとか言ってましわね」

「マジでいよいよだな。正直アタシ、アレずっとダセーなって思ってたから丁度いいなぁ」

「……」


「というわけでもう一度……三週間後のペチャップに備えて、心機一転。今日はもう練習終わりだ」



 翌日。

 使役者、戦死者、脱走者の三人――スナック菓子チームは、ホテルの側でベンヤミンのトレーラーに乗った。

 トレーラーが自動運転で適当に各所を走行している間、その荷台で、ベンヤミンはチームの希望を再度聞きつつ、今まで使っていた機体を改修している。


 その隣で、戦死者は段ボールを台代わりにして、自機に装備する予定の、小さい重火器類を改造していた。


 ちなみに、その他の三人――簒奪者、帰還者、首謀者は、相変わらず『まだ』やることもないので、気ままに街を出歩いていた。

 きっと今頃、簒奪者はボードゲームカフェでフリーで遊び回り、帰還者は映画館でポップ&コークをお供に映画鑑賞し、首謀者は本屋で漫画を買い漁っているところだろう。


 さらなる余談だが、三人は『出番が来るまでの間、パニッシュメント号に戻ってよくないか?』と、コバヤシに聞いて頼んだところ、「暇だろうがまだ任務中だ」と拒否されたらしい。


 閑話休題。

 作業の合間にベンヤミンは、戦死者が武器いじりをするのをチラ見して、つぶやく。

「今の環境において、射撃武器はレーザーが多数派だってのに、物理弾を用いる銃器を使うだけでもかなり異常だってのに、それを分解して改造するっていうなんて……変態だろもはや」


「……」

 戦死者は、特に何も反応しなかった。


 思わず『変態』と言ってしまったことを拾われなかったので、ベンヤミンはホッと胸を撫で下ろす。

「そんな貴方に特化した試作品をお見せいたします。こちら!」

 それからベンヤミンは、戦死者の台の端に、ペルフェロイドを一機置く。

 ロボットがまだ普遍的に存在しなかった時代に、軍部が研究の果てに生み出したような、戦術兵器の極致のような無骨な作りのペルフェロイドを。


「装甲をより衝撃と耐熱性に優れる『金属粉入りプラスチック』に変更。

 関節部は特殊コーティングを行い、強度と滑らかさを両立させた。

 これによって仮に一時間銃を撃ちっぱなしても一切の支障がない。と、僕と愛用する演算ソフトが弾き出している。

 内部の機械構造も冷却プロセッサーもより効率的に稼働するものに差し替えた。もちろんバッテリーも長時間持つようになっている。

 試作の段階ではいざというときのためにスラスターを搭載していたが……お前のご希望どおり、使わないものということでオミットした。

 全体的に重量を増やしたことと、脚部に防弾ゴムを仕込んだことで、いかなる悪地でもすべらず、銃の反動を完全に殺せるようにもしてある。

 つまるところ……これは完全に物理銃を主軸に運用することを前提に設計した、戦死者による戦死者のための、戦死者のペルフェロイドだ」


 戦死者は細部を確認するため、そのペルフェロイドに手を伸ばす。

「スマン。デザートをお出ししていませんでした」

 と、その前にベンヤミンも手を出して遮って、


「最高級のナイフです。石で研ぎ上げました」

 小さいながらもまばゆい金属光沢を放つナイフを、ペルフェロイドの右前腕の装甲裏に仕込んだ。


 戦死者はうなづいてから、改めて細部を確認する。


 その後ろから、揃ってスマホをいじっている脱走者と使役者は言った。

「おーいベンヤミン、アタシらの機体はまだかよ?」

「あと私のもお願いしますわ」


「まーってくださいよ。アンタらの注文はなかなか複雑だから、時間かかるんですよこれ」

 ベンヤミンは再び作業台に向き直り、必死に工具を両手にペルフェロイドと格闘する。


 使役者はスマホを閉じ、戦死者の肩越しに、彼がチェック中の新機体を見る。

「うわあ……ものすごくゴツゴツしていますわね。本当に戦死者の専用機ですわね、これは」


 ベンヤミンはパーツにヤスリをかけつつ、

「だろー。こんな時代に逆行したようなデザイン、絶対にペルフェクシオン・ソサエティは手を出さないだろうね。けど、性能は紛れもなく奴らの最新機に勝てる、紛れもなく『完成した機体』だ」


「ふうん。でしたら、いよいよアレが必要になりますわね」


「アレってドレ?」


「名前ですわよ、名前。あなた、納得のいく出来に至った完成品にしか名前をつけない主義なのですのよね? でしたら、いよいよ名前をつけないといけないのかと思いましたが……」


「そうだな。じゃあ今ここで命名しよう。その機体の名前は……『モンスターシュタイン』とする。

 現代の製品の主流であるスーパーロボットよりも、兵器に近い、今となっては石器のような作りのペルフェロイドだから、『石の怪物』っていう意味を込めてね」


 脱走者は目をキラキラさせて言った。

「なかなかカッケーネーミングだな、ベンヤミン! お前もこれで納得だよな、戦死者!?」


 脱走者に尋ねられても、戦死者は一切応答せず、自機の細部の確認に集中し続けた。


 その様子を見て、ベンヤミンは先程の話に付け足す。

「……あと、操縦者のコイツが不気味なくらい感情を出さんからって意味も込めてる」


「ますますネーミングセンスがいいじゃんかよ、ベンヤミン。じゃあもうアタシの機体もお前がつけてくれ」


「あ、私もお願いいたします。私ではロボットにふさわしい名前は全く思いつきませんから……」


「はいはい。じゃあペルフェロイドそのものの出来上がり共々、首を長くしてお待ちくださいませー」



 ベンヤミンが一切の妥協をせずに、最終バージョンのペルフェロイド三機を完成させた後は、三人は生活に必要なこと以外の時間全てを、模擬練習に費やすことで使い切った。


 約三週間はあっという間に過ぎ去り、ペルフェロイド・インターナショナル・チャンピオン・カップ――縮めてペチャップという名の審判の日が訪れた。


 会場は、ペルフェクシオン・ソサエティとその参加企業の本社が集結する、企業城下町内にある巨大スタジアム。観客席のほとんどは、自社の運命が上向くことを願う、重役社員とその子息が埋め尽くしていた。

 

 開会式はこの異世界の恥部を煮詰めたようなものだった。

 三十六チームの内、三十五チームはバックにつく会社の威厳を見せびらかすように、優勝者の凱旋パレードと見間違えるくらいの豪華絢爛な入場をした。

 それに対し、使役者、戦死者、脱走者らのスナック菓子チームは、出番まで楽屋代わりの階段下の倉庫で待機させられていた。

 そこから、スタッフのミスと騙られ、五分ほど遅刻した状態で、ベニヤ板製のプラカードを掲げて走ってくるという、無様を晒す羽目になった。


 それからは『我々は世界一偉い』という旨をありとあらゆる言葉をこねくりまわして繰り返しただけの、ペルフェクシオン・ソサエティの現社長のスピーチを聞かされたり、ペルフェクシオン・ソサエティの社歌を七分間歌わさせられるという、部外者にとっては地獄でしかない時を経て、いよいよ本戦が幕を開けた。


 ペチャップの試合のルールは共通して三対三のデストロイ制(敵機が機能停止するまで戦う)。

 本大会の全体の勝負方式は、トーナメントである。


 抽選の結果、スナック菓子チームはその第一回戦第一試合になった。

 客の集中力が一番残っているだろう、最初の試合で戦わせることで、より敗北させたときの屈辱を重くさせようとした、ソサエティ側の策略だと思われた。


 ペチャップは全社の今後の経営を委ねるための大事な試合。

 なので、この大会のジャッジは、贔屓や物言いなどの勝敗結果に起因するトラブルをシャットアウトすべく、どの会社にも関係性がない完全独立組織が仕切っている。

 ベンヤミン曰く、『この世界のどの裁判所よりも平等』らしい。


 この対戦カードの決め方も、全チームが連続して、箱に入った番号付きボールを引っ張って決めるという、不正が入り込む隙がないアナログな手法で行われた。

 なので、これは本当に偶然だろう。


 ということでスナック菓子チームは開会式の時点でげんなりしているところ、いきなり試合をやらされることになった。

 対戦相手となるのは『マイソロジー・テック:ファースト』というチーム。

 あの『ザ・コロッサス』のシグルドを送り出した会社の一軍であった。


 そのチームメンバーは全員、当然ながらシグルドに土をつけたことを至極恨んでいる様子で、儀礼的な試合開始前の挨拶の時点で三人を睨みつけた。

 ここまで来るといちいち言及する必要もないかもしれないが、観客席のほとんどは、スナック菓子チームに対する罵倒と、マイソロジー・テックへの激励の言葉を叫びまくっていた。

 僅かな例外は、比較的冷静な関係者と、今は優勝を見守り願うことしかできないレンチンパスタチームと、首謀者の力を借りて変装しているベンヤミンだけだった。


『それでは第一回戦第一試合! ペルフェロイ、ドーンッ!』

 そうした険悪なムードで始まったペチャップ最初の戦いだったが、あまりにも短時間で終わった。


 岩肌の目立つ、起伏の激しい荒野型のジオラマ。この戦場に六機が投下されてすぐに起こったのは銃声だった。

 それが銃声だと明確に認識した時、マイソロジー・テックのレーザーブレードを携えた貴公子の一機が、同パーツの中心に大穴を開けた状態で倒れていた。


 戦死者機の『モンスターシュタイン』はスナイパーライフルの照準を、今度は聖女風のデザインの機体へ合わせる。


「ば、馬鹿なッ!? もう一機やられるだと!?」

「く、一時撤退だ……!」

 生き残った敵方の二機は、すみやかに岩陰に隠れ、モンスターシュタインの狙撃から逃れる。

 ところが、おおよそ十秒後、聖女風の機体がベコベコの装甲を撒き散らしながら宙に打ち上がった。


 両脚、両腕、両肩に防弾ゴム製タイヤを装備した脅威の移動力を有するペルフェロイド――脱走者の新機体『トランスポーター』。

 それがうつ伏せになった状態で六輪のタイヤを駆動させ、荒野を滑るように爆走して、岩の後ろにいた敵機を捕まえる。

 トランスポーターは、腕部のタイヤを高速回転させ、打撃力を増した連続パンチをお見舞いし、敵機を文字通り空中分解させた。


「よ、よくも、この、身の程知らずがァァァ!」

 最後に残った敵……重鎧に身を包んだ古典的な勇者のような姿のペルフェロイドが、トランスポーターへ怒り任せに突進する。

 勇者風の敵機は、突進の最中にモンスターシュタインの狙撃を受けた。トランスポーターにも逆に接近され、拳のラッシュを浴びた。


 けれども敵機の防御力は非常に頑強。引っかき傷ができるくらいの軽微なダメージで済んでいる。

 なので敵機はトランスポーターのラッシュを終わらせるべく、豪華なデザインの剣を振りかざしてきた。

 だがそれは、脇から二本のレーザーを受けてふっとばされたことによって中断となった。


 背中と足裏から火を二本ずつ噴射して浮遊し、両脇で筒状の子機を二つ浮かせている、機械の魔法少女のようなデザインのペルフェロイド――使役者の新機体『アクワイア』。

 その子機には、その小ささに似合わず、ペルフェロイドを動かすのに必要な電力の四分の一に匹敵する容量のバッテリーが内蔵されている。

 その膨大なエネルギーを生かし、二つの子機はアクワイアの指令の元、敵機の背後に移動し、レーザーを当てる。


 敵機の青色の鎧装甲が一気に黒く焦げる。だが、それでも奴は問題なく稼働し続けた。

 遠くにいるモンスターシュタインよりも、こちらの速度を大きく上回る機動力のトランスポーターよりも、ただ空を飛んでいるだけのアクワイアの方がやりやすいと判断したか。最後の勇者機は背中からマントのようなウィングを展開して飛び立った。


 アクワイアの背中から放たれる火が止み、そこからもう二つの子機が現れる。

 元々浮いていた子機と、この子機、合計四機は、アクワイアが携えている杖の先を囲むように合体した。

 アクワイアは、接近する勇者に杖先をかざす。そしてそこからペルフェロイド一機分の強大なエネルギーを用い、広大なジオラマの半分を紫色に光り輝かせるほどの極太レーザーを射出。


 そのまばゆい光が収まった時、最後の敵機は、肩アーマーや剣などの一部だけを残して、消えていた。


『勝者! スナック菓子チーム!』

 そして、会場内にある審判しか入ることが許されない部屋から、回線とスピーカーを経由して、ジャッジリーダーの宣言が、選手と観客たちの耳に伝わった。


【完】


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