W4-13 じょぶ☆ミラキリー AfterStory ~I'm Amesu~
滅亡した異世界『ミラテラ・アンド・クラダラ』より。
私、使役者――本名、藤本あめす。過去の名前はアメスと申しまして、悪妖精王ダクターンの王女でございますわ。
私がいた世界は、良い妖精が住む『ミラテラ』、悪い魔物が住む『クラダラ』、そしてその間に、人間が住む『地球(これはカッコいい呼び方はございませんわ)』がある、三つで一つの異世界らしいのですわ。
ミラテラの妖精は地球にいる人間全員に、ちょっとしたラッキーを起こして、明るい未来を掴むチャンスを与えるのが使命ですわ。
でもってクラダラの魔物はその逆。人間を不幸にして、ミラテラの妖精たちを邪魔するという指令を受けていましたの。
その指令を出したのは当然、お父様……ダクターンですわ。
ダクターンは私が産まれるだいたい三千年前、ミラテラの有力な妖精だったのです。
だけど、自分たちが与えたチャンスを悪用して、周りの人を不幸にする人たちが何人も現れたのを見て激昂したのですわ。
そしてダクターンはそれを理由に人間を滅ぼそうとしたところ、妖精王に捕らえられ、あえなく二度と戻ってこれない虚無の空間に追放されましたの。
けれども、ダクターンは人間への怒りと、妖精王の恨みの力を使い、虚無の空間を自分の領地――クラダラに改造し、おまけに手下となる魔物をいっぱい創造したのですわ。
ちなみにそういう経緯なので、実はミラテラの妖精と、クラダラの魔物は、どちらも何かしらの動物・幻獣を真似たようなフォルムのぬいぐるみみたいになってて、似たりよったりしてますの。ほんわかしてるのが妖精で、刺々しいのが魔物ですわ。
ただ、例外として、ダクターンに一番忠実で優秀な兵士で、かつ、地球での活動に特化できるよう、人間に極めて寄せて創られた一体の魔物がいますの。それが私、アメスですわ。
「人間は愚かな存在だ。平気で他人を見下し、けなし、傷つけ合う。だから我々がどうしても構わないのだ」
という言葉を、私はダクターンから耳にタコが出来るくらい何度も聞かされ、心に刻み込んだ状態で、人間を滅ぼすための尖兵として、数体の魔物とともに、地球に送られてましたの。
この時既に地球時間でいうと、三千年が経っていましたわ。やったことないのですけど、世界作るのって大変なのですわね。
地球に来てまず知ったのは、魔物は人を取り込むと、我々のちからの源であるクラダラエネルギーがばいばいに増幅され、とんでもないくらいおっきくなって、つよつよになることでしたわ。なんか魔物の内の一体が偶然それをやったんですの。
私はその一体が街で大暴れするのを見て、「さっさと帰ってカフェラテが飲めますわ!」と期待を抱いたのですが、やはり世の中そうは上手くいきませんわ。
私たちの地球襲来を察知したミラテラの妖精王が、自分が選抜したエリート妖精――ヴェロニカ、リリアティ、モノマリア、アルパナ――四体を地球に送っていましたの。
そしてあの子たち――いや、唯一迷子にならず予定通り到着できた妖精、ヴェロニカは、私たちと似たような発見を致しましたわ。
認めた人間と心を通わせ合体すると、信じられないくらい強くてキラキラした魔法戦士――『ミラキリー』に変身できる。とですね。
ヴェロニカはそれを緊急で、たまたまそこにいた女子中学生、桜井ひめると行い、『ミラキリー・マナ』として私の魔物第一号をボッコボコにしてしまったのです。
なにせ彼女たちは、クラダラエネルギーを相殺できるミラキラエネルギーを無尽蔵に扱えるのですもの。
もちろん中の人は、ちゃんと助けてみせましたわ。
残りの魔物を全部出そうとも思いましたが、ヴェロニカがひめると「他にも仲間がいる」みたいな話をしているのを聞いて、そう一筋縄では行かないと察知し、一旦街のどこかに隠れることにしたのですわ。
その翌日、私はひめると同じ貴石中学校に、『藤本あめす』という名前を名乗り、転校生としてやってきたのですわ。
お父様から「そこで人間として生活しつつ、ミラキリーたちの情報を探りつつ、好きあらば魔物を放つのだ」という追加指示を受けましたのですわ。
正直な話、私はその時すっごくイヤでしたわ。
あれだけダクターンが言っていました、愚かな人間たちと同じ空気を吸うなんて、考えたくもありませんでしたわ。
実際、なかなかの頻度で嫌だなーって思う瞬間がありましたもの。
一番の調査対象だったひめるも、先生とかお母様に散々言われた宿題を放り投げて、ファンタジー小説を読んでばっかりでしたもの。でもって、私がしょっちゅうそのお手伝いをさせられましたのよ? どう思いますこと?
その後、あの話通り、残りの三体のエリート妖精が地球にやって来て、それぞれ別のパートナーを見つけましたわ。
偶然なのか狙ったのか、そのパートナーは私とひめると同じ、貴石中学校二年生の女の子でした。
リリアティのパートナーは『黄蘗ここん/ミラキリー・ホップ』。
水泳大会の常連なのですが、食欲がすごすぎて、本番前は必ず減量のために一緒に走らされましたわ。
モノマリアのパートナーは『葵河しゅん/ミラキリー・ナハト』。
私の実家並みに大きな豪邸を持つお嬢様なのですが、何度もこっそり家を抜け出して、かくまうようにせがんできて、毎度毎度ビクビクしてましたわ。
アルパナのパートナーは『杏とうか/ミラキリー・ビット』。
この子は普段根暗なのですけど、ゲームの話になるとものすごく饒舌になるという高低差で頭がキーンとなりましたわ。
とまぁ、こんな個性豊かな調査対象どもと、仮にアニメだとして換算すると二十四話くらいの月日を過ごしましたわ。
この他にもアジト的な知り合いのパン屋の頑固すぎる店長とか、魔物に出くわすたびに無理して張り切る担任の先生とか、変な人間といっぱい付き合わされましたわ。
やっぱり、うざうざで、つらつらで、しんどいなぁ。とは思っていました。けれども、こんな人間の方たちも、同じくらい優しいところとか、頼もしいところとかも、あるんだなと、だんだんと気づきましたの。
そうしていく中で、私の中にはこんな感情が芽生えてしまいましたわ。
――人間は全然愚かじゃない。悪いところもあるけれど、良いところもいっぱいある。だから、滅ぼしたくない。とですね。
しかし、アニメ換算だと二十五話辺りのある日、私の弟妹にあたる、クラダラの幹部が追加で地球に送られて来たのですわ。
そこでアイツらは、私が実はクラダラの戦士であることをバラしたのですわ。
私は、ミラキリーたちにそれが本当だと話して、本当の使命を再開するため、決別しました。
その後は強化した魔物や弟妹と一緒に、ミラキリーの敵として立ちはだかりましたわ。
元々私は、妖精王すらも倒せるように創造されたクラダラ軍のトップクラスの戦士、仮に四人がかりで襲ってこようとも、私は奴らをコテンパンにして差し上げましたわ。
けれどもミラキリーたちは、何度でも私に立ち向かってきました。
なにせ彼女たちはこの地球を守らなければいけないから……ではなく、私ともう一度友達になりたかったのですから。
彼女たちが拳を放ちつつ、私に何度もこれまでの感謝や、優しい言葉を発してきたのですわ。
その都度私は反撃をしつつも、心の中で、どうにか押し留めていた愛や友情という明るい感情が、風船のように膨らんできたんですの。
そして私は、アニメ換算だと三十六話くらいの時、弟の一人が満身創痍のミラキリーにトドメを刺そうとした瞬間に、それが抑えきれなくなりましたわ。
私は、その弟をぶち殺して、お父様の身勝手な人間抹殺を止めることを誓ったのですわ!
それからは妖精王の力も借りつつ、本拠地であるクラダラに突入し、育ちの悪い弟妹たちと、かつての父親であるダクターンを撃破し、異世界クラダラも、ミラキラの一部として受け入れられ、消えていきました。
こうして地球は邪悪な敵の脅威から開放され、ミラキリーの四人と、私、藤本あめすは、平和な世界に帰ったのです。
……というのが、ミラキリーの活躍を私視点で語った、長めのアニメのひとシリーズ分のストーリーですわ。
ここからです。ここからが、私、藤本あめすのストーリーにして、私が世界を滅ぼすに至った経緯ですわ。
ダクターンを倒した後、私たちは日本全国各地の、クラダラの魔物の被害にあった地方を回り、復興作業やチャリティーイベントに参加することにしたんですの。
もちろん私は、クラダラの魔物を引き連れた尖兵として、誠心誠意各地の方々に謝罪し、ミラキリーの四人分くらい、精一杯働きましたわ。
その活動が反響を読んだのと、前々から、戦闘の場面を収めた動画がネット上で大バズリしていたこともあり、ミラキリーたちはとうとう、テレビに話題の人として出演するようになりました。
それで四人の人気はますますうなぎ登りとなり、ゴールデンタイムにはいずれかのチャンネルにいる、というくらいまでになりましたわ。
その間、私は一人でチャリティー活動を行っていましたの。
私だけは、決してテレビなどの大型メディアには出れませんでしたわ。それは仕方ないと思ってましたわ。
私は、あれだけ世間を怖がらせたクラダラの人。なのに華やかな舞台に立つなんて、おこがましいにもほどがありますものね。
本当は五人揃って出たい気持ちはありましたが、そこはグッとこらえて贖罪に励みましたわ。
ところがある日、私は復興に赴いた先で、町の方々から……私の口から到底言えないくらい汚い言葉で、『来るな! 出ていけ!』と言われました。
他のところでも似たような仕打ちにあいましたわ。そして最後には、私のチャリティー活動の予定は全て、あちら側からキャンセルになりました。
ただしこの間も、ミラキリーの四人はテレビに出続けていましたわ。大物アーティストに描き下ろしてもらった歌を歌っていましたの。
どうして急にこんな露骨な態度を取られるようになったのでして? 最初の頃は特になんともなく受け入れられてましたのに……?
そんなことを一人で下校している最中に、私はなんとなく、検索エンジンでエゴサをしましたの。
すると、私、藤本あめすのことをあからさまに貶めるようなネット記事が、検索結果の冒頭にわんさか溢れていましたの。
それらの記事の一部を、重要なところだけかいつまんでみると、町で嫌われた原因がわかりましたわ。
――実は藤本あめすは怪物たちの真の使役者で、途中から自己保身に走るために、ダクターンという偽物の親玉を生み出して、ミラキリーを倒す自作自演を行った。
これは、誰が言い始めたことかわかりませんが、このような話が、ありとあらゆる記事で語られていましたの。
もちろんさっきの過去話の通り、これは真っ赤な嘘ですわ。けれども、あの決戦はクラダラというカメラが入る余地のない異世界で行われたので、確固たる証拠は少ないのですわ。
だから私自身で無実を証明するしかない。と、私は動画サイトやSNSで真実を包み、隠さず語りましたわ。
ですが、人間たちは、ネットニュースサイトや、よくわからないインフルエンサーが、私たちの戦いの一幕をかいつまんで、こじつけた偽の根拠のほうを信用したのです。
結果、私の公表は単に火に油を注ぐ結果となりました。動画のコメント欄と、SNSのメッセージ欄は、私に対する誹謗中傷で溢れかえりましたわ。
それに便乗して、ネットニュースでも、SNSの中でもひどいコメントを抜粋した記事が三十分毎にどこかしらから掲載されるようになったのですわ。
私は、この心無い悪意で胸が張り裂けそうになりながら、たった一つの助けを求めましたの。友達だったミラキリーの四人にも、本当のことを説明してもらおうとしたのですわ。
ところが、四人は全員、私の頼みに曖昧な返事を返して、『大丈夫。私たちはずっと友だちだよ』と、言ってくれただけでしたわ。
けれども、私はそれで十分心が晴れたような気がしましたの。
たとえ人間全員に嫌われても、あの四人がいてくれるなら、私はこの地球で生きていける。と、思っていましたから。
私が世界を滅ぼす前日の夜。
私はなんとなく、一人ぼっちの家を少しでも賑やかにしたくて、テレビをつけていました。
映っていたのはトークバラエティ番組で、相変わらず人気だったミラキリーの四人が出演していましたわ。
そこで司会者の方がヘラヘラしながら、四人にこんな質問をしましたの。
「あの五人目の人も一緒に呼んであげなよ〜! ひとりぼっちで可哀想だろ?」
するとミラキリーのリーダー格として、ひめるは素早くこう返しましたわ。
「いや無理ですよ〜! あんなの呼んだって誰も幸せになりませんから〜!」
司会者と、ひな壇に座るタレント、スタッフや観覧者の方々、そしてミラキリーの皆、全員の笑い声が、テレビに内蔵されたスピーカーから豪快に流れてきました。
私は夜遅くだということも気にせず、ひめるの家に押しかけて、そのことを問い詰めましたわ。
ひめるは至極眠たそうにしながら「あれは作家さんが用意した台本に従っただけ」とぶっきらぼうに返して、力づくでドアを閉めようとしてきました。
私はそれを食い止めながら、「だとしても拒否なさい!」と注意しました。
するとひめるはため息をついて、
「あのね、あめすちゃん。私たちにも色々と大人の事情があるの。ギャラとか契約のためなら、ちょっとくらい悪いことしなきゃいけないの。貴方はそういうのに全く触れてないから絶対意味分かんないと思うけど」
持ってきたスマホの電話アプリを起動し、『110』と押していましたの。
私は無言で、すぐにその場を去りましたわ。そして、ひめるが部屋に戻って寝たタイミングで、私は窓ガラスを蹴破りました。
さほど愛着がなかったといえど、家族や故郷を滅ぼしたのに……!
ほんの数日前に『ずっと友だち』って言ってたのに……!
お前は、お前は私のことを平気で裏切ったのですわ……!
その怒りを思い切りぶつけて、私はアイツの首をへし折りました。
そばで寝ていたヴェロニカがそれに気づいて、助けを呼ぼうとしていました。
私はその頭を掴み、クラダラエネルギーを直接注ぎ込んで、物言わぬ忠実な下僕に変えてやりましたわ。
ついでに、普段使っているカバンに入っていた、変身用のコンパクトも奪い取り、その場で私は、
「とびでるマジカル! みせるよミラクル! でもってフォールン! ミラキリー・ヴェノム、きらきらウィザードフォーム!」
と、初めての変身を決めて、手始めにひめるの家を中心に半径一キロを焼け野原に変えてやりましたの。
さらに私は、ここん、しゅん、とうか、他三人の裏切り者も急襲して、言い訳も聞かずに殺し、アイツらのパートナーの妖精も、自分の物にしましたわ。
そして私は、四つのフォームを使い分けて、その時その時の気分にあった方法で、今までの怒りを発散しましたわ。
やがて人々はクラダラエネルギーに成すすべなく汚染され、私を食い止めにきたミラキラ軍も相殺が間に合わず全滅しました。
そして終いに、地球は、クラダラエネルギーにコーティングされ尽くしましたの。めでたしめでたし……ですわ。
この後コバヤシさんにあの白い空間に連れていかれたことも含めて、私はこの行為に後悔はございませんわ。
『人間は愚かな存在だ。平気で他人を見下し、けなし、傷つけ合う。だから我々がどうしても構わないのだ』
強いていうと、この耳にタコができるくらい聞かされた、父上の言葉どおりになってしまったのがうざうざでしたわね。
4Iワールドエンフォーサーズは、単なる仕事として取り組んでいましたわ。
言葉にするだけでもものすごい苦しい罰を食らわないよりかは、対して思入れのない人々を殺してる方が、遥かにマシですもんね。
他の五人も人間――いや、簒奪者さんは確実に違ったような? ……まぁ、便宜上そういうことにしときましょうか――ですけど、思いきし私のことを馬鹿にしたりしませんから、下手すれば前の世界にいた時よりも快適でしたわね。
……けれども、まさか任務中で、またあのような悪意に満ちた攻撃を浴びるようになるとはですわね……
【完】




