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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD4 ロボットトイの臨界点的理想郷『ペルフェロイド』
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W4-8 ステップ1:組み立て

 廃サーキットでの初対面の翌日。

 ベンヤミンはスーツケースを一つ転がして、自分が持ってる中で最もフォーマルな格好(黒ネルシャツと色が濃いデニム)をして、高級ホテルに訪れた。


 ベンヤミンはここで逮捕されるのではとビクビクしていたが、ここはひたすら、お客様の特別なプライベートを何よりも大切とする場であった。

 彼はビビリ損して大きく疲れた状態で、4Iワールドエンフォーサーズの待つ部屋に行った。


 間もなく、六人は、自分なりに鬼教官となろうとするベンヤミンからの、ペルフェロイドの特訓を叩き込まれることとなる。

「まず最初に、説明書を見ながらでいいからこれを作ってみろ!」


 都合よくこの部屋にあった長机――これだけペルフェロイドが浸透した世界であるため、作業台として備え付けてあるのだろう――二つを合わせたものに三対三で座る六人に、ベンヤミンは箱を一つ一つ渡した。

 その上面には、いかにも量産型ロボットらしい雰囲気の灰一色のペルフェロイドが描かれている。


 脱走者はベンヤミンへ向かって手を挙げて尋ねる。

「どうしてこんな弱そうなのを作らなければいけないんだよ?」


 するとベンヤミンは脱走者に教鞭代わりのレーザーポインターをかざして、

「ペルフェロイドの基礎を知るにはまず一から組み立ててみるのが一番だろうが! そこでペルフェロイドの構造や、各パーツの仕様を知っておけば、操作やカスタムの理解が早くなるし、何よりも、バトル時にどこをどう攻めてやるか考えやすくなる!

 こんな良いこと尽くめの話にケチつけたいのかテメー!」


「わ、わかったわかった……」


「ならばよろしい!」


 ベンヤミンはスマホでストップウォッチを起動すると同時に合図を放ち、それに合わせて六人は箱を開けて組立作業を開始する。


 ペルフェロイドの心臓部に当たる、マイクロCPUやバッテリーや各種プロセッサーなどの精密部品を内蔵したボックス、それを収める胴体、手足、頭、そしてこれが無くてはバトルは始まらない、武装パーツの順で組み立てていくのが、ペルフェロイドの基本だ。

 一部は精密な電子部品を使っているが、説明書をよく見て合わせたパーツは、簡単にパチパチと合わさり、スムーズに組み立てが出来るようになっている。

 実態こそあれだが、ペルフェクシオン・ソサエティはおもちゃ屋としての尊厳はキチンと持ち合わせていたようだ。


 ベンヤミンはスマホで動画を見つつ、六人の作業の様子を都度確認しながら思う。

(もし僕がこれを作れば九十分で終わる。だがこのズブの初心者たちがやれば、果たしてどうなることやら……)

 この『どうなることやら』には決してポジティブな意味は含まれていない。

 彼がチラチラうかがってる時、研修生の六人の表情は、強張っているか、無であるかのどちらかだからだ。


 中でも使役者の表情は、すこぶる厳しいものだった。

(思ったとおりにはまりませんわね、どいつもこいつも……!)

 ペルフェロイドのサイズは大きくて全高二十五、小さくて十八センチまで、と、国際法で定められている。

 なので当然、それを構成するパーツは全て小さく、連結に必要な凹凸も繊細な扱いを強いられる。


 実のところ使役者は、そういった細かい作業が得意なタイプではなかった。

 集中力がないタイプではないのだが、こういった指先での繊細な力の調整となると意外と鈍いのである。

 なお、趣味の手芸についてはどういうわけか別問題であった。


 ……ということを今初めて知った使役者は、内心至極焦っていた。

(これはいけませんわね……もし私がビリになってしまえば皆様とあの陰キャ、相当いろいろ言ってきますわよ……なんとかしませんと……)


 使役者は目の前のパーツ群に集中して、少しでも早く、コツを掴んで組み立てを進めていった。


 その最中、彼女の右隣に座っていた戦死者が、両手を机に置いた。

 それを一瞥すると、手の間には完成したペルフェロイドが横に寝かされていた。


 ベンヤミンはそちらへ寄り、完成品が本当に完成しているかをさっと確かめてから、ストップウォッチのラップを一つ保存する。

「108分33秒……初めてにしてはやるじゃんか。お前さてはコソ練してた?」


 戦死者が例に漏れず、何も返事をしない。


(一位は戦死者さんでしたか……まぁ、彼は銃器のメンテナンスをしていましたので、ああいう精密作業に慣れているのでしょう。

 私は二位を目指しましょう。いや、やはり三位を……首謀者さんとか、こういうのに慣れていそうな雰囲気ありますもの)


 ところが二番目に完了したのは、とんだ番狂わせな人物だった。

「うっし! タイムはどうだ!?」


「……124分46秒。こなれた一般人くらいのタイムやね。お前が二位とは心外だ」

 と、ベンヤミンはストップウォッチで二番目のラップを保存しつつ、脱走者に言った。


「ああん!? 何だその言い方! まるでアタシがガサツで飽きっぽい奴だから、ケツになると思ってたみたいじゃんかよ!?」


「ひえぇぇぇ……白状するとそうです……すみません」


 彼女の左隣にいる使役者たち含む、作業中の四人は、このゴールインに内心仰天していた。

 皆、ベンヤミンが白状した通りの予想をしていたからだ。

 だが実際はその逆。脱走者は普段の立ち振舞に反して、手先が器用だったのである。


(ま、まさか脱走者さんに負けてしまうなんて……だったら今度は本気で三位を目指すだけですわ!)

 と、決意を新たに作業に打ち込んでからわずか七分後、

「おしまいだァーーッ!」

 前の予想通り、首謀者が三位に食い込んできた。

 こちらは使役者の予想通り、首謀者は出身の異世界にいた友達にプラモデル好きがいたらしく、その手伝いをやらされたため、少々知見があったとのこと。


 四位は帰還者だった。

 彼はベンヤミンからもなんとも思われない、平均的なタイムで完成させた。


 そして五位、ここにタイムを刻んだのは……使役者であった。

「はぁ、はぁ……どうにかやってやりましたわ!」


 それもそのはず、

「お前それ順番間違ってないか、簒奪者?」


「ご指摘どうも帰還者。だがこれは、あえて間違えているのさ……こちらのほうが無駄が削がれて完成形が美しくなると……」


「すみませーん、ルールに則ってちゃんと説明書の作り方してくださーい。あと……一体全体本当に今どこ作ってるんですか?」


 向かいにいるビリの簒奪者は、こうした機械……というより、複雑な作りの物が存在しない場を滅ぼして簒奪者になった人物。だから使役者は、勝って当然だったのだ。


「……これは誇ってはいけませんわね。どちらのためにも……」


「すまないベンヤミン! もう僕は限界だ。助力を求む!」


「当たり前だ! お前一人のためにこの後の予定を遅らせてたまるかってんだ! あと十三日しかないってのに!」


 結局、簒奪者のペルフェロイドは、ベンヤミンが自身の含蓄をうざったく披露しつつ、スパスパと完成させた。


 その後、六人は自分たちが制作したペルフェロイドを使い、操作練習をする。

 ベンヤミン曰く、コントローラーは各メーカーで様々制作されており、中にはスマホにアプリとしてインストールできるものもあるという。

 ここはとっつきやすさと操作の安定性を加味して、六人はゲーム機に使うのような三日月型の機器を受け取り、移動、攻撃、回避、防御、それと機体に備わった特殊な動作の使い方を一通り教わった。


 そしていよいよ、六人は初のペルフェロイドバトルを行った。

 ここでも使うのはあのゴテゴテの量産型ロボのようなペルフェロイド。しかし武器は付属のものは使わず、ベンヤミンがお菓子の缶に入れて持ってきた武器の山から、六人それぞれが自分に合いそうなものをチョイスし、装備している。


 戦場となるのは『ジオラマ』と呼ばれる、予め様々なオブジェクトが配置された箱の中。

 三日前に使役者たちが家電量販店の最上階で見たような、非常に凝った作りのものがあるが、ベンヤミンが用意した箱がいくつか浮かんでいるだけな風景の、シンプルかつA4ノートサイズまで折り畳んで使えるものもある。


 バトルの基本説明はこれくらいにして、閑話休題。


 六人は詳細を語る理由が見当たらない、いかにも初心者らしいグダグダの勝負を終えた。


 直後、使役者はジオラマ内で横たわっている槍を持ったペルフェロイドを回収し、

「ねぇ、ベンヤミンさん、杖はないのですか?」


「杖ならカンカンの中に入ってなかった?」


「入ってはいましたわね。ただ、あれだと私としては物足りないんですの。なんか、こう、ビームとか撃てる仕組みがあるものはないのでしょうか?」


「君、すごい欲張りだね。お前以外もそうだけど、バトル中、操作に不慣れすぎて、盆踊りみたいなことしてたっつーのに」


「……別に、希望ですわよ希望! どうせならもっと自分が思い描いた戦い方ができると特訓が捗るなぁ! って思っただけですの!」

 と、使役者は欲張り呼ばわりされたことに対して、ムキになって返した。


 それを受けたベンヤミンはフフフ……と、不敵に笑い、

「ああそう……そういう具合の言葉を、僕は待っていたんだ!」


「な、なんですのぉ!?」


「使役者ぁ、いや全員、よく聞けぇ!」


「ん、なんだ?」

「どうしたんだい?」

「急に大声だしてどうした?」

「……」

「何だ貴様ッ!?」


「ここいらで堅苦しいチュートリアルは終わりだ。今からいよいよお前たちのために、僕はペルフェロイドの最大の醍醐味、『カスタム』に着手したいと思う!

 さっき使役者がたまたま言った通り、ペルフェロイドバトルで勝つための基本原則の一つには、『自分が気に入った機体で戦う』っていうものがあると僕は信じてるのさ!

 だから僕は、お前らの望む仕様にカスタムしたペルフェロイドを、次会う日までに用意したい。俺のカスタムは悪ふざけしない限り、漏れなく強い。最低でもそこだけは安心してくれ。

 で、後はそのカスタム機を完璧に扱うことと、微調整をして、ザ・コロッサスで勝つ! それが今後の大まかなスケジュールだ!」

 と、ベンヤミンは六人へ向けて、コーチらしく情熱的に語った後、


「というわけでだ……今から皆さんにヒヤリングを行いたいと思います。皆さんで順番決めてください」

 一気に声色を事務員のような当たり障りのないものに変えて、言った。



 二日後。

 ベンヤミンは再び自分が用意できる中でフォーマルに見えるコーデをして、六人が待つ高級ホテルの一室へ行った。今度は、二つのスーツケースを引っ提げてだ。


 そして先日の約束通り、ベンヤミンは片方のスーツケースから、六機のペルフェロイドを取り出し、それぞれに渡す。


 直後、ベンヤミンはもう片方のスーツケースから、折り畳んだジオラマを出して、六人が事前に用意してくれた長机の上で展開させて、

「じゃあ早速、試してみようぜ」

 と、すこぶるニヤニヤしながら言った。


【完】

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