W4-4 情報交換会inペルフェロイド
世末異世界『ペルフェロイド』に来た初日の夜。
六人は前回同様、コバヤシが拠点として手配してくれた高級ホテルの一室に集まっていた。
今から行われるのは、当然ながら自由行動中に各々が集めた情報交換。
始めに、脱走者、戦死者、使役者の三人組から、あの家電量販店での出来事が説明された。
「……っていうわけで、戦死者が警備員から感謝状を貰ったんだ。終わり」
帰還者が尋ねる。
「それ以外は何か貰えなかったのか? ペルフェロイド関連の粗品とか、クーポン券とか?」
「ない。アタシも一応なんか欲しくて聞いてみたんだが、割とよくあることだからいちいち配ってられないんだと」
「たかが玩具での遊戯で暴力沙汰が起こることが、よくあると……これは世末らしいね」
と、簒奪者はつぶやいた。
この時、話の最中にスマホをせかせか操作していた使役者は、その画面を周りに見せる。
「そしてその加害者の三人組ですが、こんなことになりましたの」
三人の少年が歩道橋で落下した死亡事故のニュース記事が、画面に映し出されていた。
彼らは、ペルフェロイドに用いられるベアリング製造会社の経営陣の息子たちであり、その親達の悲痛なコメントが掲載されていた。
「これはあの事件が起こってから一時間ぐらい後に、あの家電量販店の近くで起こった事故ですの。
一番大きい感想は可哀想。ですが、その事前情報を踏まえると、どう考えても『会社にとって都合が悪いから責任を取らせた』感が否めませんわよね」
「――例え不祥事があっても、関係者の誰かが自殺しとけば世間は許してくれる。
っつーカンジの話を東野圭吾か伊坂幸太郎がどっかの作品で書いてたけど、マジでやったなこれ」
帰還者は三人に尋ねる。
「それで、他に収穫はあ……」
脱走者は食い気味に返した。
「もうない! なんかジジョーチョーシューってヤツを受けた後、アタシも使役者も疲れて特に何もしなかった!」
「私は疲れたというより、気持ちが乗らなくて何もする気がなかったっていう方が適切ですわよ」
「……あの」
「わかった、じゃあ次は俺が話してやるぜ」
次に情報を出したのは首謀者だった。
彼は脇に置いていたビニールから、四冊の漫画を出す。
「言っとくが、『前回と一緒ですわよ!』ってコメントは無しだぜ」
「わかりましたわ……危ないところでしたわ」
一冊はペルフェロイドでのバトルを扱った少年漫画、二冊目はワガママ王子様キャラが主役の恋愛漫画、三冊目はサッカーを題材とした青年漫画、そしてもう一冊は日本の戦国時代に当たるような歴史を扱った年齢層高め漫画だった。
「俺は漫画が好きなんでな。この世界にはどんなのがあるかって思って、表示が気になった漫画をあれこれ買って、喫茶店で読んでたんだ。
そしたらな、こんな恐ろしいことが起こってたんだ」
首謀者は二冊目の恋愛漫画をペラペラめくり、お目当てのページでビタッと止める。
と、そこにはヒロインと王子様がガッツリとペルフェロイドを買いに行っているシーンが写っていた。しかも、その下りは次のページにも続いている。
「十一ページも、十一ページもペルフェロイドが登場しているんだッ!? お前ら忘れちゃいねーよなッ!? これ『恋愛』メインの『少女漫画』だぜッ! こんなにおもちゃピックアップする必要あるか普通!?」
目をガン開きにしてその異常性を訴える首謀者に対し、使役者はツッコむ。
「そ、それは多分、話の中で有名な観光地を見て回るようなのと一緒ではないのですか?」
「そういう解釈もなくはないな。だが、次のを見れば、オメーらもぶっ飛ぶぜ」
同じように、首謀者は三冊目のサッカー漫画と、四冊目の歴史漫画もめくった。
両方とももれなく、ペルフェロイドが描かれたシーンがあった。
三冊目は、主役たちがペルフェロイドでバトルするストーリーが巻の半分を使い、なおかつ次巻に続くようになっていた。
四冊目は、ペルフェロイド自体は時代齟齬にならないように出てきていないが、度々写る仏像のようなものや、モブキャラの鎧が、発売時期が近い製品のデザインに寄せている。
そのため結果的には、一冊目のペルフェロイドを扱った漫画の次にそれが登場していたのだった。
「というわけだ。これは単に作者の趣味が一致したからなのか、メーカーサイドに何か言われていたのかは知らない。ただこれは、ペルフェロイドの『影響度』を示すのには十分な証拠となるだろう……以上ッ!」
「じゃあ今度は俺だ」
続いての情報提供者は帰還者だ。
「俺がもし自由時間を渡されたらどこに行くと思う? そう、映画館だ」
「そうなのか?」
「そうなのでして?」
「そうなのかい」
「……」
「それしかないだろうが、帰還者はよ」
「そうだ、首謀者の言うとおりだ。とりあえず今上映中の中で一番気になった『世界一キライなあなたに4』を観たんだよ。
そしたら約二時間の内、三十分くらいおもちゃ屋歩いて、ヒロインが恋愛対象に合計六個ぐらい、ペルフェロイドの製品紹介をするシーンがあったんだよ!」
「へぇ、そいつはひでーや! 『トゥルーマン・ショー』じゃああるまいしよォ~~ッ!」
「ヒロイン役が不自然なタイミングでココアの宣伝するシーンな。ホントにそれだ!
しかも映画そのものもクソつまんなかったわ! ああ、トゥルーマン・ショーじゃないぞ。あれは秀逸な設定をとことん叩いて伸ばした名作だからな。
俺が今日見て来た方の映画のことだ。ただでさえ安易な続編って叩かれやすいのに、なんで『世界一キライなあなたに』の続編を作ろうと思ったんだよ!? あれ初代で完璧に終わってるじゃねえかよ!?
おまけにな……」
帰還者は床から一度立ち上がり、簡易的なキッチンに置いてあった紙コップと紙バケツを持ってくる。
そこには映画館らしく、施設のロゴとマスコットキャラクター、それからデフォルメしたペルフェロイドの機体がプリントされていた。
「なんでここにまでペルフェロイドいるんだ!?」
「コラボとかしてたんじゃあないのか、帰還者ッ!?」
「してない! 周りの客が持ってるのも見たら、どのフードもこんな具合だった!
というわけで、俺からはペルフェロイドの浸透度合いを報告いたしました。以上です」
「はい、ありがとうございましたァ~~! ではラストの簒奪者さん、情報提供お願いします!」
「急に回ししないで貰えます、簒奪者さん」
「回しって何だぁ、使役者?」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
回しとは、お笑い用語で、MCが出演者に話を振ったり、トークを展開させたりして、収録を上手く進めていくこと。また、単に『MC』のことを指す場合もある。
ちなみに関連用語として裏回しがある。これはMCではない出演者が、回しをサポートすることを言う。
「では僕から報告させてもらおう。
けど言いたいことは大体言われちゃったね。街の広告がペルフェロイドだらけだったり、化粧品やお店の広告も、どこかしらにペルフェロイドが紛れていたりするところとか。
僕個人が特に気になったところだと、街で新しいボードゲームはないかと探し回っていたら、僕が既に持っていて気に入っているもの全てに、絵や記号をペルフェロイドに置き換えたものが売られていた」
「使役者、それは俺たちのとこにもあったよな。UNOとか」
「ええ、どういうわけか色々なアニメとコラボしてましたわね」
「それと夕方頃にちょうど気分が乗ってきたものだから、街の奥まった地区に行ってみたら、雰囲気が良いお店があってね……」
帰還者はうっすらと胸騒ぎを起こしながら、
「それってエッチなお店か」
「そうだよ。娼館だよ」
「……だろうな」
「そこでは君たちの中には耐性のない人もいるだろうから詳しくは言わないが、なかなか上品なお姉様と遊ばせて貰った。
で、帰り際、店先にあったこれを持ってきていてね……」
と、簒奪者は言いつつ、その店の求人チラシを皆に、一箇所を指さしつつ見せびらかす。
戦死者以外の四人は同時に、その部分を読み上げた。
「『今入店して頂いた方には特別謝礼として、お好きなペルフェロイドをお一つをプレゼント!』……????」
「だってね。ペルフェロイドってそれくらいの貴重品なのだろうか?」
「……いえ、私たちが家電量販店で見たものだと、二千円……いや、二千ポイントで売ってましたわよ?」
「そうそう! なんか二十四万くらいのもあったけどもな! けどそんなものおまけにつけねーだろ!」
「普通の謝礼が十万ポイントのようだからね。添えられた品のほうが高くなるはずがなかろうよ。ああ、僕からの話は終わりだよ」
「……では」
「どうやらこの一日で、大方この異世界が世末たる理由は掴めてきたようだな、君たち」
この時、コバヤシが部屋にパッと姿を現した。
使役者がうなづいて答える。
「ええ、掴めましたわ。この世界はペルフェロイドが世間を席巻しすぎていると」
「そうだ。この世界は全て、ペルフェロイドによって支配されているのだ」
【完】




