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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
45/79

W3-19 WILD ANGEL

 ジャッジメント・クラン本部にて。

 4Iワールドエンフォーサーズの六人は、この世界における最後の敵、全ての元凶の神ロトディフェイチとその子ら四天使との交戦を開始した。


 六人は各々が選んだ相手を、敵方が協力し合わないよう、本部要塞内の各所へと押し込み、個別に戦闘を行っていた。


 首謀者が戦っているのは、四天使の中で最も若く見える少年――増強の天使『エクストフォン』だ。


「【ブレイズ・ラッシュ】、プラス、【ヘイル・ラッシュ】……オラオラオラオラオラァーーッ!」

 首謀者は斜め上に佇むエクストフォンめがけ、右手のレーヴァテインと左手のミストルティンを同時に振り回し、炎と氷の斬撃波を連射する。


 対するミストルティンは両手を首謀者にかざして、

「弾幕対処用の【威烈抵抗】だ!」

 そこから首謀者が放った斬撃波と同数の、光の衝撃波を連射する。


 二つの無数の攻撃は、二人の間で相殺し合い消滅した。


 その間、首謀者は、先に【轟雷を退かすヨルムンガンド】で放った蛇状の稲妻と挟み撃ちするように浮遊。エクストフォンの右側面から接近し、

「【怪焔を喰らうフェンリル】!」

 右手の長剣を振るうと同時に、狼を象った炎を至近距離で放つ。


「ざんねん! 挟撃対処用の【威烈抵抗】だよ!」

 しかしエクストフォンが両脇に光の球を作り、それを炸裂させたことで、稲妻も炎もかき消されてしまった。


 首謀者はその余波に巻き込まれないよう、エクストフォンと同じ高度を保ったまま、後ろに退避する。


 エクストフォンはフフフと得意げに笑いつつ、首謀者の方を向いて、

「どうかな、僕の力は? ロトディフェイチ様から直々に頂いた、最強クラスの神のエレメントだよ!?」


 首謀者はここまでの戦いを振り返り、考察する。

(神のエレメント――火とか水とか、この世界で見た連中が使ってたエレメントのどれとも系統が当てはまらないということは、恐らく『比類ない特殊な効果』を持つものってところか。

 して、奴の神のエレメントの力は、相手が使った技に対処できる技を『即席』で生み出し発動するってところか……)


「あのー、お兄さん。僕の話聞いてますか?」


「おおっと、こりゃ失礼した。聞いてたとも、君の神のエレメントは最強だってことだろ、エトセトフォン君」


「エクストフォン! そっちは聞いてるのに何でこっちは覚えてないのさ! それで、もう攻撃してこないの?」


「ウーム、そうだなァ~~、俺はもう大分攻撃したから、今度は君からかかっておいでよ」


「じゃあお言葉に甘えて~! 連射攻撃の【威烈抵抗】!」


 エクストフォンは両手を前に突き出し、無数の光の衝撃波を放射する。


「使った技はセーブ&ロードもできるのか。【ヘイル・ラッシュ】と【プラズマ・ラッシュ】!」

 首謀者も対抗して氷と雷の斬撃を大量に放つ。


 ここから二人の間で、いくつもの斬撃波と衝撃波がぶつかり合い、霧散して消滅する。という光景が延々と続いた。


「これは平行線をたどりすぎだぜッ……」

 首謀者は打開策を繰り出すため、斬撃波の連射を止めてそこから動く。

 エクストフォンの隙を待つべく、彼の周りを飛び回る。


「逃がしはしないよ!」

 するとエクストフォンも衝撃波を放つのを止め、

「【威烈抵抗】!」

 両横に光の球を作り出し、首謀者の後を追って飛行する。

 空中でのスピードについてはエクストフォンの方が上、首謀者はじわじわと後方から接近され、額から汗がにじみ出るのを感じた。


(アイツめ、今度はあの球を爆発させる気だな……)


 首謀者は突然方針を変え、ジグザグの軌道で飛び始めた。


 だが、エクストフォンは途中から追随するを諦め、首謀者の位置を目だけで追い、

「ここで発射だー!」

 両脇で浮く光の球から、その大きさから想像もつかないほどの勢力を誇る極太ビームを発射する。


「自分オリジナルの技もあるだとッ!?」

 ビームは首謀者の飛行軌道を先回りするように一直線に飛び、その先で爆発を巻き起こした。


 その爆炎を指差しながら、エクストフォンは見た目相応にドッと大げさに笑った。

「アッハハー、勝った! 末っ子だけど、ロトディフェイチ様の天使の力を舐めるんじゃないぞ!」


「ほーお。それでだれがこの首謀者のかわりをつとめるんだ?」


「……え?」


 エクストフォンは声がした方向……真後へ振り向くと、

「【霊氷を統べるヘル】!」

 首謀者がおぞましい冷気を帯びた長剣を突き出してきた。


 エクストフォンは向きを変えつつ、光のバリアを展開する。

 バリアは凍りついた後、冬場の湖の表面のように割れる。


 首謀者は空いた穴からさらに剣を押し込み、エクストフォンへ突き立てようとしたが、威力が目に見えて衰えていたため、あっさりとかわされた。

 

 自分の前でレーヴァテインの陽炎のようにうねる刃が横切る。

 この間一髪の事態に慄きながらエクストフォンは首謀者に尋ねた。


「お、お前! さっきビーム食らって死んだんじゃあなかったのかよ!?」


「まさか、てめー……何だよ、きっかし言い切らせてくれよ。

 俺がビームを食らって死んだと? そんなまさか。あれは俺が放った【轟雷を退かすヨルムンガンド】だ」


 首謀者が持つスキルの一つ、【虚実を装うヨトゥン】。

 首謀者が遠隔操作した技に、自身の姿を被せて偽装し、同時に彼本人は透明になる。

 エクストフォンはまんまと偽装された技の方を追って、そちらに攻撃したわけである。


 閑話休題。首謀者は二本の剣を構え直し、エクストフォンへ言う。

「あのオリジナル技はもっと後までとっておけば、いい『不意打ち』になったかもしれないのになァ~~! 残念無念って奴だぜッ!

 さて、俺も手品を明かしちまったとこだし、ここからは小細工少なめでやろうじゃあないか……【怪焔を喰らうフェンリル】!」


 首謀者はエクストフォンめがけ、狼を象った炎を撃つ。

「手堅く防御用の【威烈抵抗】!」

 エクストフォンが手前で閃光を炸裂させ、炎をかき消した。


 直後、首謀者はエクストフォンの懐へ飛んで飛び込み、長剣を振りかざす。

 エクストフォンは瞬時に両手に光の剣を作り出し、これを受けた。


 二人は互いに双剣を振り、剣撃を繰り広げた。

 首謀者は無駄の無さと手数で上回り、エクストフォンを徐々に押していく。


「ここまでで俺はお前の『弱点』を明確に掴んでいるッ! そのうちの一つがこれ、『通常の戦闘能力に乏しい』ことだッ!

 お前の即席で技を生み出せる能力は凄まじいが、こうして技を使わせる隙を与えず細かい攻撃を与えれば、貴様はどうすることもできないッ!」


「そ、そんな重箱の隅つつくようなこと言うな!」

 エクストフォンは双剣を渾身の力で振り、首謀者の斬撃を押し返した。

 首謀者は攻撃の手を一瞬止めてしまい、エクストフォンの後退を許した。


「撃墜用の【威烈抵抗】……即発射!」

 エクストフォンは両脇に光の球を作り出し、極太ビームを放つ。


「小さいと思えるものが、実は大きいこともあるんだぜェ~~ッ!」

 然程狙いを定めずに放たれたビームであるため、首謀者はその線の側を回るように飛行し、無傷でエクストフォンに接近していく。


「ここでオメーのもう一つの弱点を教えてやろう。【戦火を灯すフレスベルグ】!」

 首謀者は双剣の刃に炎を纏わせ、エクストフォンへ急加速して突進する。

 突然上がった速度に対応しきれなかったエクストフォンに、長剣の刃を浴びせてすれ違った。

 その直後、首謀者は再びエクストフォンの前に現れ、再度突進。

 エクストフォンが光のバリアを手前に展開して防御を試みるも、簡単に破り、突進の勢いそのままに炎を帯びた斬撃を浴びせた。

 さらに間髪を入れず、首謀者はエクストフォンの前に現れ、長剣を突き出し突進する。

「剣撃防御の【威烈抵抗】!」

 今度はエクストフォンが双剣を交差させ放ったバツ字のオーラに阻まれた。


「……これがもう一つの弱点だ。お前の技づくりの技は、出すまでが遅い。元よりセーブしているものならともかく、初めてみた技については『その都度準備』しなければならず、実際に発動できるまでに時間がかかるのだ……」


「そ、そんなわけないだろうが!」


「じゃあやってみろ。【瞬電を響かすラタトスク】!」

 首謀者は二本の剣を手の上で電気を帯びさせつつ高速回転させ、同時に投げつける。

 二本の剣はあたかも8の字を描くような不可思議な軌道で飛び、そして主の手に戻った。


 この間、エクストフォンは戸惑うばかりで何も出来ず、翼を幾度と斬りつけられた。

 翼がまともに動かせず、空中に留まれなくなったエクストフォンは、無様に悲鳴を上げながら落下していく。


「このまま落下死……はやめとこう。それじゃあ奴も『立つ瀬』がねーだろうし……じゃあせっかくだからお前にあと一つの弱点を教えてやるぜッ!」


 首謀者はそれぞれに剣を持つ両腕を空へ掲げ、

「【厳霜を凌ぐニーズヘッグ】!」

 交差させた冷気を帯びる双剣を突き出しながらエクストフォンへ急降下し、豪快に斬りつける。

 刹那、振り下ろした剣で斬り上げ、二度目の斬撃を浴びせ、エクストフォンを打ち上げる。

 その先でエクストフォンに待っていたのは、首謀者が落ちる最中に空中に張っていた、竜の牙のように鋭利な、無数の氷柱だった。


「い、いやあああ!」

 そしてエクストフォンは全身を氷柱によって蜂の巣にされ、力なく地面に落下した。


「オメーの三つ目の弱点は、『戦う相手をよく選ばなかった』ことだぜ」



 一方その頃。


 使役者が相手に選んだのは、ただいま瓦礫にしゃがむように――綺麗に言うと蹲踞の姿勢――座っていることからも感じられる通り、四天使の中で最も佇まいが荒っぽい少年――充填の天使トピクロスである。


 現在の使役者のフォームは『すたすたスパイ』。

 これ特有のスピードを活かし、トピクロスの四方八方からクラダラエネルギーの弾丸を撃った。


 だがそれらの弾丸は全て、トピクロスに近づくにつれて失速していき、ついには中途半端な空間で止まった。


「今度はこちらから行ってやるぞ! 【急激の救済】!」

 トピクロスは、自分の周りを走っている使役者を睨み、一瞬、その青色の瞳を輝かせる。

 すると使役者のいる空間が球状にうっすら青く染まる。と、同時に、使役者の走るスピードが遅くなった。


(厄介ですわねこの攻撃……!)

 使役者はそこで小さくジャンプし――重力の掛かり方も変化しており、これしか跳べない――、平泳ぎの要領で空気をかき、自分を球から動かす。

 範囲外から出た途端、使役者の行動速度は元通りになり、「いっ!?」地面に落下した。


 トピクロスの神のエレメントの効果は、空間に粘性を与えること。

 自分が睨んだ先に『半径五メートルほどの結界』を一つ作る。その範囲はあたかも水の中にいるかのように、ほとんどのものの動作が急激に減速させられるのだ。


「もういっちょ! 【急激の救済】!」

 トピクロスは使役者が立ち上がってすぐの瞬間に、彼女を睨み、そこに新たな結界を展開。

 再び動きが遅くなり、平泳ぎをしようとする使役者。そこにトピクロスは、自分の長身を遥かに上回る大弓を構え、はっきりと物理的に存在する矢を掛けて弦を引き、離す。


 矢はまっすぐ使役者へ向かい、途中、例の結界に突入する。だがそれでもその速度は一切衰えない。

 粘性抵抗を受けにくい形状と、一定の質量があれば減速しない。トピクロスの結界はこうした仕様も水中と同じなのだ。


 使役者は、杖を変形させて作った傘を咄嗟に開き、既のところで矢をいなした。


「チイッ、諦めの悪い奴だな。俺とやり合ってからずっと、近づくことすらままならないのによ」


 使役者は傘を構えたまま、どうにか結界を脱出して、

「無礼ですわね貴方! こんな姑息な技で私を苦しめたくらいで勝ったつもりでして!?」


「姑息ゥ? 苦しめたァ? 勝ったァ? なーに言ってんだテメェ! 俺はそのどれでもねェよ。

 これは俺なりの優しさだ。どうせ今はどうともできんカスが、無駄にヘバらずとっと出直しやがれ。それがお互いにとっての幸せだ。っていうメッセージを込めてな」


「どうせ勝てないなら逃げ出せなんていう敵からのメッセージですか。そんなの私が喜んで受け取ると思いますか?」


「別に逃げることは悪くないだろうが。こういうのは漫画とかでもよくあるだろ、ずっとダラダラ続けるよりも、一度間隔を空けて、周りの人の期待を高めた上で、ビシッと再開して決めるってのは」


「……確かに、それは一理あるかもですわね」


「ま、俺はゼッテーそんなことしないけどな! 結局のところ、最速最善に、一瞬たりとも落ち度を見せずやり抜く奴が一番偉いんだ!

 だからこそテメェには一旦ここで引き下がることを推奨してんのさ。そうすりゃ俺の無敵伝説にますます箔が付き、テメェは世間から臆病者のレッテルを張ってもらえるんだからよ!

 さあどうするよお嬢様! このまま俺に成すすべなく死んで笑いものになるか? それともまともに敵わず逃げ出して、人類はおろか、仲間たちからも笑いものになるか! どっちか選べよ、なァッ! ギャハハハ!」

 そしてトピクロスは腰を反らすほど、盛大に笑ってみせた。


 そこに使役者は傘の先をかざし、クラダラエネルギーの弾丸を射出する。

「【急激の救済】」

 トピクロスは自分を中心に結界を生成し、クラダラエネルギーの弾丸を自分の手前で止めた。

 万が一がないよう、トピクロスは少し横にズレて、弾丸の射線から完全に外れてから、

「まだ迷走する気か、お前?」


 対して使役者は、傘の向きをトピクロスから外しつつ閉じて、

「いいえ。私はもう二度と、誰からの誹謗中傷を受けたくありませんから……そうですね、『路線変更』とさせていただきましょうか?」


「どうかなぁ、路線変更っていうのは意外とコイントス的な要素があるぜ。まぁ、やれるもんならやってみろ」

 トピクロスは、矢には手をつけず、大弓だけを持ったまま、使役者の動向を見守る。


 その間、使役者の側に浮くコンパクトに腰掛けていたユニコーンのぬいぐるみがふわりと浮いて外れ、

「ブチ負かしますわよ、アルパナ!」

 交替してドラゴン型のぬいぐるみが座り、同時に使役者は紫色の球体に包まれた。


 それが弾けると、先程のスパイらしいスリーピーススーツをベースとした姿から、ネオンのように輝くラインが入ったパーカーを羽織る、サイバーな出で立ちに衣装替えした使役者が中から現れた。


「ぶっとぶファイト! たぎれエキサイト! つづけてフォールン! 使役者、ぴこぴこゲーマーフォーム!」

 と、お約束の口上を決めてすぐ、使役者はトピクロスへめがけて疾走する。


「【急激の救済】!」

 トピクロスはこれまで同様、使役者の行く先に結界を作り出し、彼女を遅鈍化させる。

 直後、使役者はトピクロスの目の前に現れた。凄まじい力で地面を蹴り、驚異の瞬発力をもってして結界を脱したのだ。


「はえェよテメェ!? 【急激の救済】!」

 トピクロスは慌てて立ち上がると同時に、結界を自分を中心に張り直す。

 この結界の効果は発動者には作用しない。トピクロスは普段と変わらない速度で、その丸太のように太い剛腕で、使役者へパンチを出した。


 同じく使役者も、結界の遅鈍化効果をものともせず、クラダラエネルギーを帯びさせた拳を強く突き出し、トピクロスのパンチを止めた。

 腕を通じて肩にかかった衝撃と、拳骨にジリジリと染みるクラダラエネルギーの痛みにより、眉間にシワを寄せたトピクロスは思う。

(この形態、パワー特化の奴だな……俺の結界の中で普段並の動きと出力が出せるってことはそれしかありえん!)


 ここから使役者とトピクロスは、結界の中で殴る蹴るの近接格闘をした。

 使役者も中々だが、トピクロスもまた自他共に認める、物理的な力に特化した素質を持つ天使。このラウンドはトピクロスの優位で始まった。

 ところが、トピクロスがさらなる攻勢に持ち込むべく、大ぶりに放った攻撃を、待ってましたと言わんばかりに、使役者は両腕を前に出して構え、完璧なガードを決めた。

 すると次の瞬間、その腕周りに紫色の光が爆発し、トピクロスは十メートル吹っ飛んだ。


「波ァー!」

 刹那、使役者は手首を合わせた状態の両手を彼へ向け、サッカーボール大のクラダラエネルギーの塊を飛ばす。

 トピクロスの防御は間に合わず、これを直撃。

 さっき受けたいくつもの打撃と爆発分も含めて、彼の頭には八分の五くらいの紫色の円が浮かんでいた。クラダラエネルギーの致死量到達まで残り半分を通過した証だ。


「このまま一気にボコボコにしてやりますわよ!」

 ここで使役者は杖を取り出し、それを強く握る。と、その先端から紫色の刃がギュイーンと伸びた。いわゆるレーザーブレードだ。


 使役者は八相の構えをとったまま、地面を蹴って突撃する。この途中に結界も脱しているが、このフォームにおいては誤差にしかならないので、特に気にしなかった。


「く、来るなッ!」

 トピクロスは大弓を何度も引き、矢を連射して迎撃してきた。が、使役者は軽やかにローリングを行い、それら全てを避けつつ、どんどん間合いを詰める。

 するとトピクロスは上方向に退路を求めた。翼を羽ばたかせ、飛翔したのだ。


 その瞬間、使役者は思いっきり口角を上げた。彼女はレーザーブレードを持っていない左手を空に掲げた状態で勢いよくジャンプし、トピクロスのみぞおちにクラダラエネルギー付きのアッパーをクリーンヒットさせた。


 あまりの衝撃に数秒ほど、トピクロスの意識が揺らぎ、彼の翼の動きが止まり、地面に戻っていった。

 火事場の馬鹿力か、生存本能かは知らないが、トピクロスは落下の瞬間に意識を取り戻し、

「【急激の救済】ィッ!」

 自分の上に結界を置いてすぐ、地面を数回転がって、流れるように立ち上がる。

 説案、使役者が両足を叩きつけ、地面にクレーターを作ったのを見て、トピクロスは震え上がった。


 そしてトピクロスは両足をガタガタさせながら言った。

「お、おいお嬢様……このまま下がったほうが身のためだぞ」

 

「……何故ですの?」


「いいかよく聞け! 俺にはロトディフェイチ様から授かった奥の手があるんだ……それを使えば、とんでもない、防ぎようがない、想像を絶する、絶望必至の、空前絶後の危機がお前に訪れる……! それを俺に使わせていいのか……!」


 そう尋ねられた使役者は、手首を合わせた両手から、クラダラエネルギーの塊を放出し、トピクロスの顔面に命中させた。


「お、おのれ……! ほ、本当に使うぞ俺は! 脅しじゃないぞこれは!」


「だったらさっさと使ってはいかがでしょうか? もっとも、私から見ればその変な引き伸ばしは、出せるものがスッカラカンだとしか見えませんけれども、その辺りはいかがでしょうか?」


「そそそんなわけないぞッ! 俺はもったいぶるようなことが大嫌いだからな!」


「……このやりとりそのものが貴方の言うもったいぶりとしか思えないのですがね。

 でしたら、私は正直に言っておきますわ。貴方、自分の体をご覧なさい?」


「え?」

 トピクロスは言われた通りに、首を前に傾けて、見た。

 彼の頭には、クラダラエネルギーの汚染率を示す円がなかった。その代わりに、彼の胴体には、下向きの矢印型の光が激しく点滅を繰り返して浮かんでいた。


「そして、このフォーム最大の長所はこれですわよ!」

 と、使役者が宣言した途端、彼女は瞬きする間にトピクロスの手前に瞬間移動する。

 そして即、反射的に全身を棒のようにピンと張った状態の彼の脳天から、渾身の力でレーザーブレードを振り下ろした。


 ぴこぴこゲーマーフォームに変身している間、使役者は会心の一撃を与えられればクラダラエネルギーの致死量に達した敵の元へ即接近し、隙が少ない大技を繰り出して処刑できるのだ。


 この特性を身を持って体感した、トピクロスの肉体は、左右の方向に粒になって飛び散っていくのだった。


 それをバックに、使役者は剣を持つ右手でガッツポーズを取り叫ぶ。

「クリアですわ! ……これで、皆様から馬鹿にされずに済みますの」


【完】

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