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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
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W3-16 LOVE IS KILLING ME

 帰還者の話を聞き終えて、簒奪者はまず一言感想を言った。

「君も相当な艱難辛苦を味わっているのだね。だからこそ、これまでのように人を遠ざける気を纏っていたということか」


「……ああ。レイトが死んだ辺りでは、本気でキレていたが、頭の中では僅かながら考えていた。自分でも極端過ぎるって」


「ほう。ようやく頭を冷やし切ってくれたか……」


「俺も含めて4Iワールドエンフォーサーズは、何かしらの問題を抱えているんだ。

 だから比較的まともな俺が周りを見てフォローしてやらないと、味方が最悪の結果を迎えて真の意味で俺は孤立するからな」


「そうかい、ありがとう」

 仲間と協力することの大切さを思い出した。という趣旨の言葉を期待していたが、帰還者は思い通りに返してくれなかったので、簒奪者は最低限の感謝の言葉を述べた。


「どういたしまして。それと、ごめんよ。あの時、お前がレイトを斬って殺したって怒鳴り散らかしてよ」


「ああ……それは何の話かね?」


「さっきの件でわかった。レイトは元々味方から見殺しにされることが確定しているだけでなく、処刑人も送りつけられたことも。

 あの時には気づいていなかったが、さっきアトゥンを始末しようとした天使の技、お前が斬りかかってたときにも放たれていた。

 つまりお前は完全にレイト殺しの件についてはシロだったってことだ。なのに俺はお前のせいだと決めつけてよ……」


「そこか。で、だからどうしたんだい簒奪者」


 帰還者は横を向き、ペコリと頭を下げて、

「本当にごめん。簒奪者」


 すると簒奪者は帰還者へ微笑みを向けて、

「別に僕なんかに謝らなくていい。僕は君に無実の折檻を受けても、虫に刺された程度にしか感じないよ。

 生憎、僕は悪者を演じるのが得意だから。なにせ僕は皇帝だ。人々に嫌われ恨まれ蔑まれるまでが仕事のようなものだから、ね?」


「そうか。ありがとよ……一周回って懐広いなお前」


 非常に微小な粉のようなものであったが、再び雪が降り始めた。


「さて、そろそろホテルに行っても悪い時間じゃないだろう。いくか、簒奪者」


「いいとも。それで今度は、僕に道を選ばさせてくれないか?」


 その理由を問われた簒奪者は、戦死者から借りているジャケットの胸ポケットに入れてある、スマホを取り出して、

「いい加減に使い方は学んださ。だからそれを試させてくれ」


 帰還者は苦笑いして言った。

「ここでかよ。別にいいけど」


 二人は下のフードコートでゴミを片付けた後、簒奪者の先導の元、この大都会を歩いていく。

「おい、駅からどんどん離れていくぞ。本当にあっているのか?」


「心配無用。現在地はきちんと示された道に沿って動いている」


 冊到区の街を歩くこと数十分。二人はホテルに到着した。

 だが、ホテルはホテルでも、コバヤシが拠点として用意した高級ホテルではなく、街の奥まった猥雑な地区にある、やけに妖しいネオンで輝いている看板が特徴のこじんまりとしたホテルだ。


「これって……お前、まだ狙ってたのかよ。うぎっ!?」

 簒奪者は帰還者の右手首を強く握り、絶対に離れられないようにして、

「もうネットとやらで予約しておいたよ。さあ、僕が願っていた約束を果たしてもらおうか?」


 帰還者は、自分の腕を掴む簒奪者の怪力のせいで歪む顔を、彼女のそういう方角への執着心に呆れ、ますます感心する。

 だが、自分を見上げる簒奪者のやたらと綺麗な眼差しと、先ほど押し当てられた胸の感触を思い出して、


「……あんまりこういう仕事仲間でそういうことすると、大概失敗するから嫌なんだがなぁ……過剰に期待するなよ」


「よくぞ答えた。では征くぞ!」

 そして簒奪者は帰還者を引っ張り、ホテルのガラス扉を押して潜った。



 だいたい八十分後。冊到区にある広い公園にて。


 雪は再び本降りとなり、この登境の街を白く彩り始めた。

 この公園にももれなく、雪が薄っすらと積もりつつあった。


 帰還者は、ここに張り巡らされているチップロードのど真ん中で、突っ伏して横たわっていた。

 彼は度々白い息を吐くのと同時に、うめき声を漏らしていた。

 自分の背中に雪が被さっていることも自覚している。だが、それをどうにかしようとするとなると、気力の残量の観点から、非常に億劫であった。もちろん、起き上がって雪をしのげる場所に避難することも。


「見つけた」


 そんな中、彼の側に一人の男が着陸した。

 迷彩服を着こなす灰色髪の青年――彼と同じ4Iワールドエンフォーサーズの一人、戦死者である。


 彼は戦死者の右腕を掴み、

「ひいぃぃーーもう勘弁してくれぇぇーーッ!」

 帰還者の悲鳴を浴びつつ彼を立たせた。


「……ってああ、何だ、戦死者か。いや違うな。何で戦死者がここにいるんだ?」


 戦死者は短めに言う。

「帰りが遅いため、コバヤシ殿に頼まれ、貴方を探していた」


「そうか。そりゃスマンな……公園であれだけ大変な事態にあった後に、また別の公園でぶっ倒れちまうなんて……けど、俺だってこんなことしたくなかったんだよ! なぁ、聞いてくれよ戦死者!」


「……」


 帰還者は、簒奪者と一緒に違うホテルに入ってから何があったのかを、堰を切ったようにまくし立て、時折涙も流しながら語った。


 内容が内容なので、要点をかいつまみつつぼかしながら説明する。

 簒奪者の欲求が強すぎるあまり、帰還者は前人未到の回数に至るまで彼女につきあわされた。

 それでもなお簒奪者の勢いは止まることを知らず、その相手である帰還者はとうとう途中で死が見え始めた。

 このままではまずいと思った帰還者は、シャワーの隙に糸を張り巡らせて必死に簒奪者の接近を阻止しつつ、服を着てホテルから脱出。

 そこから簒奪者の追撃を逃れるべく、後先など一切考えずひたすら街を走りまくった結果、いつのまにかここで倒れていた。


「……というわけなんだよぉ! あの女、下の一番の武器を筆頭に非の打ち所のない身体してたんだけどよ、その身に余るくらい積極的過ぎるんだよぉ……!

 もう本当に死ぬかと思ったよ俺……! 全身の栄養全部持ってかれてその場でしぼむかと思ったんだよぉ……!

 やっぱ昼間にあんなに簒奪者を責めるべきじゃなかった! その反動でこんな急に距離が縮まりすぎたんだからさぁ……本当に申し訳ないことしちまったよぉ俺……!

 言うんだよ、痛みには二種類ある。『体の痛み』と『改心の痛み』。って! でもって俺は今回……どっちを選んだと思う!?

 なあ、なあ、なあ! お前はどう思うよ戦死者よぉ……」


 戦死者は何の感情も思い出せない真顔のまま、ベンチの背もたれに片腕を預けて嗚咽している帰還者に目もくれず、まっすぐ雪景色を見ていた。


 そして帰還者は一通り吐き出し終えて、

「……帰るか戦死者。本当に寒いから」

「……」

 無言を貫く戦死者とともに、最寄り駅を目指していった。



 翌日。某高級ホテルにて。


「ああ、バカみたいに澄んでてうめぇー」

 起きてすぐ、冷蔵庫に備え付けられていたミネラルウォーターをゴクゴク喉に流し込んでいた帰還者に、コバヤシは言った。


「おはよう帰還者。昨日は災難だったな」


「本当にそうだよ。お陰様でこっちのホテルに帰ってきたときも、ソファを盾にしてうずくまるように寝る羽目になっ……」


「それについては何のことだか知らない。私が言っているのは、昨日のアトゥン襲撃の件についてだ」


「ああそれね。それもあれと同じくらい大変だったな。ところであの件は今、世間じゃどういう扱いになっているんだ?」


「アトゥンと片雲ラク、両名死亡。と、ジャッジメント・クランは公表し、テレビやネット、各種メディアで大々的に報道されている。最上級の戦士が死亡したのだから、沈黙したままではいられなかったのだろう。

 ただ、君たちが関与したとはどこも報じていない。あのカフェの客然り、証人は多かったはずだがな……

 おおよそ、奴らが書いたシナリオの『新展開』が今、練られているのだろう……」


「もう聞いていたのかそれは」


「ああ。戦闘開始して間もなく、私は瞬間移動していたので、君以上に遅く帰ってきた簒奪者に一通り話して貰った。それを踏まえて私独自で調査したことがあるのだが……帰還者」


「はい?」


「私はそういう概念だからまるで関係はないのだが、朝食のビュッフェはあと一時間で終わるらしいぞ」


「何だと!? そいつは大変だ! じゃあ話の続きはまた後で頼む!」


「いいとも。というよりこの話は全員揃ってからしたいからな」


 帰還者は就寝用のガウンから私服に大急ぎで着替え、この一室から飛び出していった。

 そしてコバヤシは、備え付けのダブルベッドを一人で独占し、ご満悦の様子で眠る簒奪者へ向いて、

「経費を無駄遣いした罰は、『寝坊』でいいか……」

 一時姿を消した。


【完】

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