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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
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W3-15 ティモシー・ベル/コズミック・ロア

 滅亡した異世界『ファウンデヒーロー』より。


 俺、帰還者――本名、ティモシー・ベルは、アメリカ合衆国ネブラスカ州にある田舎町で生まれた。

 両親は言うまでもなくトウモロコシ農家だ。


 話が前後してすまない。

 恐らく上のしょうもないジョークがわからない人が多いかもしれないから、説明しておく。


 ネブラスカ州っていうのは、アメリカ本土のど真ん中にある州だ。

 土地は平坦で、食肉工場とトウモロコシ畑が中心産業として知られている。と、同時に東西海岸のどちらからも遠いその半端な位置から、『素通りされる州』としても知られている。

 その田舎ぶりは国内でもかなり有名だ。

 ぱっと思い出せる例を述べると、『イエスマン “YES”は人生のパスワード』っていう映画で、ジム・キャリー演じる主人公がヒロインと、一切何も計画しないアドリブ旅行に行って帰ってきた時、主人公がFBIにテロリストとして疑われ、その尋問中に「誰が好き好んでネブラスカ州に行くか!」と怒鳴られた。

 挙句の果てには、『ここでは何もすることがありません』というキャッチコピーを書いた大自然の写真付きの広告を、州公式サイドから出すくらいだ。物は言いようだな。


 こんな風にこき下ろした後で言うと説得力はないが、俺は子供の頃までは、この故郷が好きだったし、敬愛していた両親の仕事を継ぐ気満々でいた。


 ところがその願望は、俺が八歳の頃にプッツリ閉ざされることになった。


 それはとにかく暑い日だった。俺は最寄りのバス停でスクールバスから降りて、とにかくジュースが飲みたいと小走りで家へ向かった。


 けど、肝心な家が無くなっていたんだ。


 丹精込めて育てていたウチのトウモロコシ畑は、収穫前に時期尚早に焼かれていて、家本体は炎上するだけでなく、巨人のバットの一振りが襲いかかったみたいにへしゃげていたんだ。


 俺は約二時間に渡って泣きわめき、鎮火活動に当たっていた消防士に無謀な真似をしないように抱きしめられた。

 その後、この鎮火活動の指揮をとった消防士から、言葉が厳選された説明を受けた。


 本当に言葉を選びまくってた関係で、今思い出すとややこしいから、俺の言葉でスマートに言うと、『俺の家に隕石が落ちて、その余波で家本体と周りのトウモロコシ畑が燃えた』と。


 それから俺は、近所(※アメリカの感性で言うのなら)に住む叔父一家に預けられることになった。


 こういうパターンでありがちな、預けられた先の元の家族と揉めるということもなかったし、両親を失った悲しみもはっきり思い出すことさえ無ければ耐えられた。

 けれどもこの時、俺の中には一つの感情が芽生えた。


 ――宇宙を深く知りたい。

 あの隕石がどこからどうやって来たのか。どうして俺の家にピンポイントで当たったのか……etc、俺は宇宙について興味関心を持つようになった。

 だから俺は、将来の夢を『宇宙飛行士』に決めた。子どもが単なる憧れで語るような半端な決意ではなく、本気だった。


 それから俺は、小中高、必修科目を受けつつ、少しでも宇宙に近づけるように、参考書にかじりつく勢いで勉強に打ち込んだ。

 加えて、宇宙飛行士は絶対に体力がいると知っているから、学生バスケにも励んだ。当時は滅茶苦茶プレーが上手かったから、『リンカーンのシャック』って呼ばれたんだぜ。スゲーだろ?


 高校生になってからも、周りには『宇宙飛行士』になりたいっていう奴はいたが、少し調子に乗れば、ルーカスフィルムに入社したいだの、サミュエル・L・ジャクソンに会いたいだの抜かす奴らばっかりだった。

 俺はそういう頭の中がお花畑な連中を蹴落として、皆様ご存知、あのマサチューセッツ工科大学(通称MIT)に入学した。


 そうそう忘れちゃいけない。俺が映画にハマりだしたのはこの辺りだ。

 いずれ就職すると決めた組織では、『アルマゲドン』の科学的な間違いを見つける試験があると聞いたから、早めの対策でそれを観た。高校生の俺でも五個くらい気になる点があってあまり本筋の内容に集中できなかった。

 さらにその組織は『ガタカ』という映画を逆に現実的だと評価していることを知って、試しに観たら、こっちはちゃんと面白かった。特にジェロームの奮闘が……おっと、話が長くなるから、詳しいことは後で観て確かめてくれ!

 

 閑話休題といこうか。

 流石に国内、いや、世界最高峰の工業大学では、生半可な気持ちで臨んでいる奴はいなくなり、授業も試験もえげつない高難易度に変わり果てた。

 けれども俺は、八歳の頃に見たあの火を自分のケツに灯したような意識で、しゃにむに学業に勤しんだ。

 そして二十歳の頃、俺はMITを首席で卒業(本当は『晴れて』って書きたかったけど、最年少ではないから遠慮した)し、念願の国際宇宙研究機関に所属した。


 ……恐らくこれを読んでいる皆様は、『N』から始まる四文字の組織を想像していると思うだろうが、俺の世界ではそれじゃなかった。


 あれは国際的に唯一存在する宇宙研究機関だった。

 ここは、第二次世界大戦間もない頃、世界中の人々がもう三度と同じ過ちを犯さず、一丸となって人類の発展を目指すという思いから、世界各国が仲良くお金と頭脳を出し合って組織されている。

 だから俺の世界じゃ二個目は要らなかったんだ。


 話を戻す。

 俺は所属からおおよそ十二年間、下積みや知能と肉体の両方の訓練を行い、俺は機関からあるプロジェクトの参加を命じられた。


 数十年後、あるいは近々、地球が住みずらい環境になった際、他の星に移住したり、宇宙空間にコロニーを建造する必要がある。

 その際、この惑星にいた時と比べて不都合が生じないようにするための各種実験を行いたい。


 命令から一ヶ月後。

 俺を含む老若男女国際色豊かで、唯一の共通点は『すこぶる優秀』という研究員たちはスペースシャトルで地球から旅立ち、今回の研究のためだけに新造されたステーションに行った。

 そこでは重力の制御方法とか、健康状態の管理とか、動植物の安定した育成とか、より地球外での生活を意識した実験を連日行っていた。


 どうせなら、隕石の軌道予測とか、そういうもっと大掛かりなことをしてみたいと思っていたが、組織の一員として、同じ宇宙に夢を抱く仲間のためにもそんなワガママは言いたくなかった。

 だから俺は、研究チームの若輩として、先輩方の探究心を愚直にサポートしていた。


 けどあの瞬間、俺の運命ってものは、一族ともどもそういうものなのかと嘆いた。


 研究開始から五ヶ月が経過した時のことだった。

 俺たちの研究所の整備士がうっかりやらかして、爆発を巻き起こしたんだよ。


 言うまでもないがステーションは大破。チームメイトたちは良くて焼死、最悪なら宇宙の彼方へと放り出されて、全員死んでいった。


 俺はどうしたって? 最悪のパターンだった。呼吸確保の装備が間に合わないまま、宇宙空間に放り出されたんだ。


 こうして、俺は両親と同様に、宇宙由来の概念で死ぬという皮肉な末路を迎えたのでした。


 ……わけないぞ。じゃあこの文章は誰が書いているんだって話になるからな。

 てなわけでここからは後半だ。疲れてきたなら十五分くらい休憩しておけよ。


 爆破事故から半年が経った。

 俺は、あまりにも粗末な出来栄えの宇宙船の中にいた。


 息はキチンと出来ていた。それが目覚めて一番にぶったまげた事実だった。

 その理由はかなり時間がかかってわかった。俺は糸を伸ばして、地球から空気を取り寄せていたんだ。


 この辺の話はいい大学を出た俺でも理解に苦しむ内容だし、正直半分滅茶苦茶過ぎる理屈だ。

 俺はあの爆発事故のショックと、宇宙空間に長くいすぎたことによる適応と、ステーション内にあった重力制御装置の暴走の影響と、その他諸々の胡散臭いSF的な現象から、今の俺の代名詞である『ベクトルの糸』を生み出す能力を手に入れたんだ。


 ちなみに目覚めた時にいた宇宙船は、無意識ながら生存本能を働かせて組み上げた代物だ。

 俺はそこで数日くらいパニックに陥った後、まず状況を安定させなくてはと思い、能力の使い方を試行錯誤した。

 そしてパニックになっていたのと同じくらいの時間をかけて、俺は即席宇宙船とともに地球に”帰還”した。


 そこで俺を待っていたのは、銃を構えたエージェントたちだった。

 奴らは俺を始末しろと指令を受け、俺の落下地点に待ち構えていたんだ。


 だが今の俺にはベクトルの糸がある。荒削りながら銃の無効化とワイヤーカッター式の斬撃を繰り出し、エージェントたちを倒した。

 俺はきっちり生かしておいた一人のエージェントに、指令を出した奴を吐かせた。


 それを聞くや否や、俺は機関の本部に”帰還”した。

 そこでは本物の軍隊が集結して、俺を最新鋭の兵器で出迎えてくれた。

 俺はそいつらに『能力の練習の相手』という形で礼をして全滅させた。一通り片付けが終わった後、俺は施設内の何でもないトイレの個室で縮まっていた会長を引っ張り出して、問いかけた。


「よくもステーションの事故を隠蔽したな! 俺の仲間の死を全部無駄にしやがって!」


 すると所長は狼狽えながら答えた。


 実の話、あのプロジェクトは、地球環境の悪化に関して心配が過ぎるアメリカ政府の重鎮が、私的に会長へ裏金を回して実行したもの。

 だがその事実が大統領にバレる寸前となり、そのもみ消しのために整備士に家族への多大なる手当を約束し、いざという時のための『廃棄システム』を作動させた。とのことだ。


 それを聞き終えた後、まるで幽霊に出くわしたかのように驚きすぎて無様極まった会長の顔を、思いつくだけの暴力を振りかざして、限界を超えさせてやった。


 これからはどうしようか。まさか今度はアメリカ政府が相手になるとかじゃないよな。そんなネタ切れ寸前のアクション映画みたいな展開やめてくれよな。 

 とか考えながら、俺は施設の出口へと向かっていった。


 そして数分ぶりに外の光を浴びた時、一人の男が立っていた。

 絵に描いたような筋肉質の体型を、存分にアピールするかのような一色のタイツスーツで覆い、背中には風が吹けば吹くほど映えるマントを羽織った男だ。


 その男は俺の今までの苦労をねぎらい慰めた後、自分たちの素性を明かした。


 奴らは、超人たちだった。

 第二次世界大戦中期の辺りで、各国が今後の戦局を変えるためにと、奇しくも同じタイミングで研究を進めていた、熟練した兵士すらもゆうに超える力を持つ改造人間だったのだ。

 ところが実戦投入の寸前、WW2は終戦を迎えた。

 彼らは各国それぞれで必要がなくなり、もみ消されようとしていた。


 だが奴らははここで主に反旗を翻し、世界中から同じ境遇の者を集めて抵抗し、そして勝利した。

 奴らは主に、二つの和解の条件を突きつけた。

 一つは、今後は自分たちの名の元に、決して戦争も、国同士の対立も、憎しみ合いも、決してせず、一丸となって人類の発展を目指すこと。

 もう一つは、自分たちを最新兵器だの、怪物だのとマイナスな印象のある言葉で呼ばず、『ヒーロー』と呼ぶようにすること。


 各国の長はこれを二つ返事で受け入れた。

 そしてこの時から、俺のいた世界は、ヒーローに見守られるお陰で、平和になったというわけだ。


 奴がここに来たのは、ただ俺の境遇に同情して涙を流しにきただけでなく、自分と一緒に世界平和を守る仕事をしないかと誘うためだった。


「世界平和を守る仕事だなんて最高じゃないか! ぜひともやらせてくれ!」

 俺はノリノリで了承して、北極に隠されていた奴らの基地へ飛んでいった。


 そこで俺は専門の仕立て屋から、俺の能力とキャラクター性に似合うヒーロースーツをオーダーメイドして貰い、それでビシッと決めた状態で、約四百人もの先輩ヒーローが集まっている歓迎パーティーに堂々と顔を出した。


 そこで俺は、自分の意思で脳力を暴走させ、そこにいる連中を殺しまくった。

 そう、はっきりとした、迷いのない、完全なる自分の意思で。


 俺は本部施設で、側近に水槽に落とされそうになっていた会長のパソコンを取り上げ、中身を覗いた。

 そこで俺は、本当に全ての真実を知った。


 上記のような偉業を成し遂げた、まさしく英雄と呼ぶにふさわしい連中だが、奴らは一つ悩みを抱えていた。


 それはメンバーの不足。

 世界人口が増え、各地の国の社会も規模が増大していったため、監視の目が足りなくなってきたのだった。

 さらに奴らは、人体改造の効果で常人よりかは長命ではあるが、老化は完全に避けられなかった。今のところ死亡者はいないが、もう大分耄碌が始まってまともに仕事が出来ない奴もいたようだった。

 

 だから奴らは、新たなヒーローを生み出そうとした。

 それもただ並外れた力を持つ人間を生み出すのなら簡単だった。奴らが受けたことをそのまま再現すればいいから。

 だがそれだけじゃ足りない。高潔さと、博愛の精神を持つ、人間的にも優れた人間を生み出さなければならない。

 そのためにはどうすればいいか?

 洗脳? 違う。それじゃあ正義らしくない。

 幼少期からの詰め込み教育? 違う。例えそうしても心の底から実行が出来なければ意味がない。


 奴らが選んだのは、ヒーロー候補者に、人生のどん底を味わわせ、他人を助けることの尊さを、細胞の二重らせんの隅々にまで叩き込ませることだった。


 それを俺は、会長に送られていたメールの数々から事細かく知った。

 あの両親を奪った隕石衝突事故も、最初の悲劇として奴らが自作自演したということから、ステーションの爆破事故は俺に能力を発現させるための過程であったことも、全て、全て、全て!


 だから俺は、パーティー会場から世界中に裏から仮初の平和を作っていたヒーローたちを殺して回った。

 俺一人に対して相手が多すぎると最初は思ったが、やってみると意外と大変ではなかった。

 アイツらは自覚してた通り、全盛期より頭も身体も衰えていたし、そもそもプロトタイプか旧式の連中だったから、俺の能力には敵わなかった。


 何人かは心の底から俺に同情と謝罪をして、見逃してくれるように頼んだのもいた。

 けれども俺はそいつらの頭を容赦なく潰した。

 もう誰も信用しない。俺は、神にそうするように強く堅く誓ったからだ。


 ほとんどのヒーローを片付けた頃、今まで奴らが押さえていた各国の人々の加害欲求が一気に噴出し、三度目の世界規模の過ちが勃発した。


 だが俺はヒーローたちの完全な抹殺に集中した。

 予想は的中した。抹殺が終了すると、ヒーロー無しでは成り立たなかった醜い社会の住民どもは、勝手に自滅してくれていた。


 そして俺は、多分故郷の辺りの焦土の遥か上空で、自分以外何も存在しない星の姿を眺めて、豪快に笑い尽くした。


 コバヤシに呼ばれたのはこのすぐ後だった。

 その後、俺は皆さんご存知の通り、説明中にコバヤシの元から逃げ出したって訳よ。

 あの時のアイツなんて、特に信用できなかったからな。


 その印象は今でも完全に覆っていない。ただし、一六五度くらいは回ってはいる。

 訳わかんない奴らと一緒にいなきゃいけないっていうドデカい問題点こそあるが、ヒーローみたいに自分勝手に合わない人間をボコボコにしていれば、自分の所業相応の苦しみを受けずに済むのだから。


 それに、ひと仕事終えれば一週間くらい、ダラダラ映画を観れる時間が貰えるしな。

 しかも俺の世界じゃ公開していない、異世界の映画をな!

 

 例えば、ダークナイト・トリロジーとか。


【完】

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