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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD1 シンプル末期異世界『ディスパリティNo.0410』
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W1-4 瞬殺する"脱走者"

 世末異世界『ディスパリティNo.0410』。


 ここが世末たる所以は、シンプルに経済格差。

 百数ある政府や大企業を貴族が一家で独占しつづけ、過剰な財産と権力を有する。

 その影で、貴族の数億倍の数を誇る人員は、貴族の気まぐれと残虐な我欲にさらされ、貧困に喘ぎ続ける。

 ……という、わかりやすく腐敗した異世界である。


 余談だが、こうした単純な構図を作り上げた結果、世末異世界に登録された異世界は、数え切れないほどある。

 かの圧倒的上位存在は、そうした世末異世界を『ディスパリティNo.(登録順の番号)』と、雑に命名しているのである。


 そしてこの異世界の最大国の首都のビルの屋上に、六人の異世界の破壊者たち――4Iワールドエンフォーサーズは、指示役のコバヤシとともに、パニッシュメント号から転送されて降り立った。


「では念のため、今回の任務の概要を再説明する。

 指定破壊規模は、全世界の政府打倒およびそれに関与する人間の全滅。

 敵の主な抵抗手段は重火器、戦車や戦闘機等の機械兵器。

 そして手段だが……何でも構わない」


 ここで脱走者が食い気味に尋ねる。

「じゃあ、アタシたちが散らばって国どもを潰して回ってもいいんだな?」


「……いいとも。最終的に、任務を果たせればな」


 そのコバヤシの回答を聞くや否や、

「そうか、あんがとよ。じゃあとっとと終わらせてやる!」

 脱走者はこの場から駆け出した。


「おい、待ちやがれ!」

 しかし脱走者は、途中から足を振る方向と真逆の方へ下がり、結果皆の元に戻っていった。


 この術は約三時間前に見覚えがある。脱走者はその犯人を見上げて睨む。

「ったく、何だよ、帰還者! 今のおっさんの返事聞いていたか!?」


「聞いた上でこうしたんだ。おいコバヤシ、この異世界の全体地図の写しをくれるか?」


「……ああ、そうか、コバヤシとは私のことか」


 コバヤシは帰還者にA3サイズの世界地図を手渡した。

 帰還者はそれをしばし見つめた後、どこからともなくペンを引っ張って、それに三本の線を描いた。縦横二かける三に、世界を六等分するように。


「バッティングしたら嫌だろ? だからあらかじめざっと領分を決めておこうって話だ」


「ほう、それは効率的でよろしい」と、簒奪者。

「何なら誰が一番早く自分の『領分』をズタズタにできるを競うのも、いいんじゃあないか?」と、首謀者。


「それで、もし滅ぼし終わった人はどうすればよろしくて?」

 使役者は帰還者に尋ねた。


 帰還者が口を開いたと同時に、足踏みを続ける脱走者が回答権を横取りして、

「ここ集合でいいんじゃねーの? ここ、一番デカい国なんだろ? だったら最後は盛大に全員でぐうの音も出ないほど、大ボスをボコボコにしてゴールインって感じでいいんじゃね?」


 脱走者が割って入ったことは一切気にせず、帰還者はニヤリと笑って

「なるほど、そいつで決まりだ!」


 それから六人は六等分された地図にサッと、自分たちの別名を書き、

「うっし、アタシが最速でブチ滅ぼしてやらぁ!」

「この初陣、僕が英雄譚の序章の如く、華々しく飾らせてもらうよ」

「待ってろテメェら、誰が最強かを親切丁寧に教えてやる!」

「……」

「フフフ、誰彼構わずぶちのめして差し上げますわ!」

「さぁて、『あの時』と同じようにブッ……いや、これは行動を終えてから言わねばァ~~!」

 各人、割り当てられた領分へと向かっていった。


 それらを一通り見渡した後、コバヤシは一言。

「……まぁ、結局は世界を滅ぼせさえすればいいのだが、やはり無駄の多いチームだ」



 ある一国にて。

 摩天楼が森のようにそびえ立つ大都市の中心に、群を抜いた高さを誇る建造物があった。

 この富と権力の象徴こそが、この国の政権中枢を内包する首相官邸である。


 そして現在、ここには多くの兵士とボディーガードたちが隅々まで配置されている。


 かれこれ三時間前から、国内各所の大企業本社や公邸で、原因不明の大量惨殺事件が連発しているためである。


 官邸の最階層である百階に位置する公務室で、この国の主は二十人のSPに囲まれながら、無線機へ話しかけていた。


「外の様子はどうだ。何か異変はないか?」


『現状ございません。指示通り、迅速に官邸周囲への防備を敷いておりますので』


「迅速な対応、感謝する。例の犯人が見つかるまで、アリ一匹通さぬ覚悟で頼むぞ」


『イェッサー!』


 官邸は無線機を机に置いた後、微かにうなりごえを漏らしつつ立ち上がり、おぼつかない足取りで、コーヒーマシンへ向かっていった。


 その不安な歩きを心配して、一人のSPが声を掛ける。

「首相、コーヒーでしたら私がご用意いた……」


「いらん。貴様らは暴漢払いに集中しろ。どうせコーヒーと水の違いもわからん雑種のくせに」


「は、失礼しました」


 首相はごく普通の親切心を持って接してくれたSPを、「事が済んだら処刑してやる」と言わんばかりの目つきで睨みつけながら、コーヒーマシンをモタモタ操作する。

 そして来たときと同じような動きで机に戻ってすぐ、コーヒーカップを口につけようとする。


 無線機が仰々しい音を立てたのはその時だ。


「ックィィッ!? 今度はどうした!?」


『こちら官邸中層部防衛部隊、チーム・ブラ……』


「私は要件を話せと言っているのだ! もっと要領良く動け!」


『はっ! ただいま戦闘中です! 例の虐殺犯と思しき人物がこちらに到達した模様です!』


「か、官邸外部の守りはどうした!? 奴らはアリ一匹も通さんと私に言っていたのだぞ!?」


『それが、どうやらほぼ全滅したようです!』


「なっ……貴様! そういう重たい事情はもっとオブラートに、遠回しに、それでいて過剰に盛らずに伝えろと士官学校で習わ……」


『それが事実なのです! 今窓の外には、砲台などの兵器の残骸と、無数の護衛の死体がァァァァァァ!?』


 それから無線機は、僅かな発砲音と、数多くの兵士の悲鳴だけを伝え続けた。


 首相は、この無線機そのものが危険であるかのように、恐る恐る、机の端ギリギリに置いた後、頭を抱えた。


「わ、私の国で今、な、何が起こっておるというのだ……」


 その説明は至極簡単に出来る。

 一人の少女が国中で暴れまわっているのである。


「や、奴はどこに!」

「兵士の倒れる順序からして、まだここにい……ウギャァァァッ!?」

「そ、そこだ……ブオォッ!?」


 事態が理解しがたいものになっているのは、その暴れ方があまりにも『速すぎる』からだ。


「どいつもこいつもおせーんだよ!」


 銀髪の少女――脱走者は、幾度となく赤い光を点滅させ、官邸内で息する者を次々と撲殺していった。

(今アタシがいるのは確か、八十二階だったか? ついさっき死に損なった兵士から吐かせた情報によると、あと十……なん階くらいこれを繰り返せば、皆殺しってとこだな)

 そう思いながら、脱走者は『↑87↓86』と書かれた壁の前を横切って、次の階に姿を表す。


「来た! 皆、死んでもここを……」


 脱走者は扇状に待機していた兵士たちの中で、もっとも装備に飾りの多い者へ、赤い光を纏って突撃する。

 それと同時にここにいる百数人の兵士たちは、流れ弾を食らうことも与えることも厭わない覚悟で、部屋に弾幕を展開した。


 六秒後、この八十七階に、百数の死体が床を埋め尽くした。

 それらをお構いなしに踏みつけながら、脱走者は階段へと戻っていく。


 その道中、脱走者は自分の二の腕や腹を触る。

 今、自分の首から下全身を覆い尽くしている、赤と黒が基調のスーツの、ほどよくスベスベした感触が伝わってきた。

「うん、今んとこどこも破れてねー。すげーやこの服」


 アクセルロッド粒子。

 摩擦・慣性・空気抵抗・重力……などなど、物体の運動を阻害する要素を無効化する、強大なエネルギーを秘めた物質のこと。


 脱走者はこれを体内で生成し、体中から放出できる能力を持つ。

 生成したアクセルロッド粒子を体内に巡らせて純粋にエネルギーとして取り込み、身体能力を向上させつつ、全身をこれでコーティングすることによって、彼女は超高速で動くことが出来るのだ。


 ただし、アクセルロッド粒子を運用するに当たって、弱点があった。

 体外に放出する際の瞬間的なエネルギーや、粒子のコーティングそのものとの摩擦に耐えきれず、並の素材の衣服は破れてしまうのだ。


 そのため彼女は高速移動を行うたびに服が脱げていき、あられもない姿になってしまう。それを常に気にして戦わなければなかった。


 そこでコバヤシは、4Iワールドエンフォーサーズとして任務を行う前に、脱走者のための専用装備を手配した。

 スピードを殺さない重量、弾丸も受け流す耐久性、アクセルロッド粒子をスルスルと体外に逃がす通気性。

 あちこちの異世界から取り揃えた素材・技術を組み合わせ、それら全てを両立した特殊スーツ。


 元より備えてあった体質と、この専用装備。

 この組み合わせによって、彼女は思う存分最高速度で暴れまわり、これまでのような瞬殺劇を実現できるのだ。


「ただ、この裸の形がほぼ丸出しな見た目は嫌なんだけどな……」

 脱走者は不服そうに、はっきりと突き出した胸をそっと両手で撫でた後、

「おっとこんなことしてる場合じゃねー! さっさとここを滅ぼさねーと! でないと他の奴らに先を越されちまう!」

 急いで階段へと向かっていった。



 政務室にいる二十人のSPたちは、この国で一番守らなければいけない人物に背を向ける配置になっていることを、内心喜んでいた。

 もし今の、目を見開き、歯をガタガタとさせている、怯えに怯えきった表情を見られては、本務の前に死んでしまうからだ。


『こちら九十五階! 敵の侵入を確グワァァァ!?』

『緊急! 九十六階でかの大量虐殺犯と思しき人影……げ……』

『九十七階担当部隊で……』


 机に並べられた無線機から、聞きたくもない報告と、痛々しい悲鳴が鳴り続けていた。

 それらを前にして、この国の首相は、虚ろな目をして、自分のネクタイに、理由もわからずコーヒーを飲ませていた。


「おい、誰か……返事をしてくれ……」


 SPたちはまるで応答しない。下手に動けば何かされるのではと警戒してのことだ。


 すると首相は、今度は声を荒げて、

「貴様ら、呼ばれた返事をすることすら忘れたか!? 誰か、返事をしやがれ!」


「は、はい! ご要件を!?」


 一番近くにいたSPは仕方なく、首相の方へ振り向く。


「……何故、こうなったと思う?」


「は、何のことでしょうか……」


「私は、生まれてからすぐ良家の両親から帝王学を受け、国内一位の大学卒業後、すぐに政府の一員となり、真摯に、誠意を持って公平に、国内統治に向き合ってきた……そんな高潔な私が、何故こんなところで死なないといけない?」


「……ま、まだ死ぬとは決まっておりませ……」


「死ぬに決まっておるだろうが! この国内中枢を守れぬような軟弱な護衛たちに囲まれているような有り様ではな!

 貴様らは一体何故生まれた!?

 士官学校に通ってその他大勢の愚民より頭一つ抜けたつもりになり、威張り散らすためか!?

 我々が独り占めするはずだった税金をむしり取るためか!?

 まさか、国に殉ずる悲劇の英雄気取るためではあるまいな!?」


「そ、そんな……我々はこの国を愛して」


 首相はまるで子どもに預けた操り人形のように、腕を意味不明に振り回しながらわめく。

「ああやはりそうか! やはりカッコつけるためだったんだな! 庶民に生まれた時点でどうともならんというのになぁ!

 あーあ、下手にここに引きこもらず、とっとと他国に逃げておけばよかったわ! そのほうがこんな何もない田舎よりも、もっと上手い飯が食えただろうしなぁ!」


『こちら九十九……どうかご無事で……!』

 その息も絶え絶えの報告が、無線機の一つから流れた後、SPたちはたった一つの出入口へ向いて銃を構える。


 もはや何語かもわからない首相の叫びをどうにか脳内の情報として入れないように注意しながら、SPたちは来たるべき襲撃に備えた。

 別室に避難している政府高官たちの悲鳴が次々と響き渡る。

 その明瞭さと大きさは、一秒経つごとに大きくなっていき、そして……


「ここだな!」

 出入口の扉が両方とも吹っ飛ぶと同時に、赤くおぞましい閃光が、部屋を覆い尽くす。


「来たァァァッ!? お前ら何とかしろォ!」

 その無責任な首相の命令が、彼の九十四歳の人生の最後の一言となった。


 五人のSPもろとも一番奥に座っていたジジイをなぎ倒した後、脱走者は目に入った順序で、一人ずつ高速の打撃を与えていった。

 政務室に入って五秒後、腰を抜かし、壁にもたれかかっていた最後の一人を、脱走者は睨みつけ、

「これで一国目だァァッ!」

 即座に拳を突き出して迫る。


「……申し訳ございません。悲劇の英雄にならせてください」

 少女の拳が顔面にめり込む寸前、最後の一人は、万が一のときのために、ジャケットの内部に仕込んでいた、沢山の手榴弾のピンに繋いだ紐を引っ張った。


 そして、この国の権威の象徴の最上階で、大規模な花火が打ち上がった。


「おっとっと、ギリギリだったな今の」

 脱走者はビルの壁を駆け下り、官邸前の庭に着地した後、余韻で燃え上がる赤黒い炎を眺めた。


 その背後でもまた、いくつもの爆発が折り重なっていた。

 脱走者が起こした混乱に乗じた、国民たちの支配層への反抗によるものだが、そんなことは彼女にとってどうでもいいことだ。


「さてさて、この調子で二つ目も潰してやらぁ!」

 六人の誰よりも先に、ゴールであるこの場末異世界の最大国に戻って来る。その目標のために、彼女は赤い光を放って、次の戦場へ向かっていった。


 ……その寸前、彼女は両足を突き出して急ブレーキをかける。

 そして近くにあるガラス張りの壁を姿見代わりにして、自分の様子を確認する。


 そこには新装備のスーツを身にまとった自分の姿があった。

 それも、左胸の箇所が破れ、覆い隠していたものを露わにした状態で。


「……あー、どうなってんだよおっさん!?」


「何がどうしたのか?」


「うわっ!?」


 目の前のガラスに、コバヤシの後ろ姿が突然映り、脱走者は反射的に片胸を左腕で隠しつつ、彼の方へ向く。


「お、お前も使えるのか!? あの……ナンタラ粒子を!?」


「いや、アクセルロッド粒子を扱えるのは君だけのはずだ。私は先ほどざっと説明した通り、概念のような存在。任務中、君たちが希望すればすぐにその座標に転移し、可能な限りのサポートは出来るのだ」


「あっそ。じゃあすぐ答えろ。これはなんでだ!?」

 脱走者は左肘を上下に動かし、隠している左胸を揺らしながら聞いた。


 コバヤシは脱走者に背を向けたまま、言われた通りすぐ答える。

「いくら防弾性と、アクセルロッド粒子の耐性があるとはいえ、防ぎきれない攻撃もあるのだ。

 例えば高速移動中の時だ。バイクに乗ってスピードを出している時に小さい虫に当たった時、その虫のサイズに合わない痛みを感じるのと同じような理屈で、スーツの耐久性を突き破る場合があるのだ。

 つまるところ、過信するなということだ」


「ああ、あの自爆の時ね……はいはい。じゃあ、これ直してくれよ。あるいは代わりのヤツくれよ。このままじゃ恥ずかしくてたまんねーよ」


「悪いがそれは無理だ。たった三時間でそれを準備するのにどれだけの手間がかかったと思う?」


「じゃあどうすりゃいいんだよ!? このまま片パイ丸出しで世界滅ぼせっていうのか!? ほら、さっさと答えやがれ」


 コバヤシはさっさと返事した。

「これを戒めにして、過信するな」

 そしてすぐ、コバヤシは脱走者の前から消えていった。


「ああクッソー! こうなったらより速攻で片付けて、コバヤシにもギャフンと言わせてやらァ!」


 そして脱走者は、文字通り胸を弾ませて走り出した。


【完】

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