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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
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W3-5 とりあえず本屋行こうぜ

 昼食後、六人は決められた二人一組の状態でホテルを出て、それぞれこの異世界『リアセリアル』の情報を探りに出かけた。


 三組の中で最も不安要素の多いペアである簒奪者と帰還者は、地下鉄に乗った。

 二人は立ち位置に少々困るくらい混んでいる車内で、片手で吊り革を持ち、車体に連動して揺れつつ、目的地へ向かっていく。


 道中、簒奪者は過ぎ去る都会の風景や、社内上部の紙と電子広告など、目に入るありとあらゆる物に感動していた。

「いやぁ、この世界は未知に溢れているね。僕でもどう言葉を並べてこの衝撃を表せばいいかわからないよ。そもそもこんな長く広く、引き手の見えない車があるものかという驚きが未だに消化できないのに……」


「これは電車という乗り物だ。詳しく説明するとお前でも頭が吹っ飛ぶと思うから大分噛み砕くと、電気っていう力で車輪を動かして、線路っていう決められた道だけを走れるようになっている」


「決められた道だけを走れるか……これだけ大勢の人を運べるのに、そういう不自由な部分を抱えているのか。それは残念だ」


「大勢の人を運ぶために、始めから決められた道しか走れないようにしてあるんだよ。

 自由に走れないのは不便といえば不便なのだがな……」

 その時、帰還者の足元はソワソワしている。彼も出身地が出身地なため、電車には乗り慣れていなかった。


 電車を乗り継いで二人が向かったのは、登境の二十三区の一つ、在古区ざいこく

「ここだ。俺がまず行きたかったのは」

 そこに所在する、この都市最大級の規模を誇る書店だ。


「この世で最も賢いものは書物と、古の賢人が言っていた。それを当てにするのは当然だろうね、帰還者。

 それにしても随分と迷いなくここにたどり着けたじゃないか。君もこの世界に来てまだ一日も経っていないのに」


「コバヤシにこれ渡されたの忘れたか?」

 と、帰還者はポケットから手のひらサイズの四角い板――皆さんご存知『スマホ』を取り出して見せる。


 同じように簒奪者も、色違いのスマホを見せて、

「これだろう? 他の誰かと連絡したい時に使えというスマートフォンという道具だ。これでどうしてこの書庫への道順を見つけた」


「コバヤシはそれしか説明してなかったが、コイツにはこういう使い方も出来るんだ」

 と、帰還者はスマホの画面上に、この本屋近辺の地図を映し出して言った。


「なんと、これほどの緻密な地図がこの小さな板の中に……! 他にはどんなことが出来る?」


「音楽をかけたり、物を買ったり出来る。あと、知りたいことを調べられるかな」


「ほう、まさに八面六臂の万能品だね……けど待ってくれ、どうしてそんな英才百人を束ねたような道具があるにも関わらず、わざわざ書庫に赴いたのかね?」


「言い回しの誤差はあるかもしれんが、これは他の四人から、あるいは、今後行く異世界でも言われるだろう、古くから言い伝えられている万物の掟みたいな言葉だ。『ネットの情報は何でもかんでも信用しちゃいけない』んだぜ。

 というわけで、それよりかはうんと信頼性のある情報を取りに行くぞ」


 そう帰還者が言った後、二人はようやく書店に入った。


 そこですぐ目に飛び込んだのは、ポスターを貼り付けた平台に、山積みになって置かれた本たちだった。

 それらには様々な種類の美男子や美少女が描かれていたが、一つ大きな特徴があった。

 表、裏、それと背表紙の最上部、この三つ全てに、ジャッジメント・クランのマークが印刷されていたのである。


 帰還者はそのうちの一冊を手に取る。中身を見ようとしたが、それはビニールに包まれていた。

「ま、最近の本はこうなってるか……」


「すまない帰還者、この書はどういう順番で読めばいいのかね」


「?」


 簒奪者が差し出されていたのは、棚と紐で結ばれた薄い試し読み用の冊子だった。

 当然こっちはビニールに包まれていない。彼女はそれを開いて、中にある白黒の絵と文字が読める状態でよこしてきた。


「ああ、これは左上から……いや、右上からジグザグに読んでいけばいい」


「恩に着るよ。帰還者」


 帰還者は、簒奪者が読んでいるところを覗く形で、その『ジャッジメント・クラン ストーリーズ 第134巻(試し読み版)』を読む。

 そこには、恐らくジャッジメント・クランのエリート隊員であろう少年の戦いが、日本の漫画形式で描かれていた。


(なるほど、あのジャッジメント・クランという奴らの活躍が、こうして漫画になっているってことか……)

 帰還者は手前の本――コミックスの山をチラッと見る。

 そこにある単行本のいくつかの表紙には、数時間前に出会った、禊月レイトやアトゥンの姿もあった。


 簒奪者は試し読みの冊子をペラペラとめくって閉じる。

「一頁ごとの中身は薄かったが、これはかなり興味深いね。どうする、コバヤシからの支給はたんまりとあるだろう?」


「134巻から買っても仕方ないと思うがな」


 その後、二人は書店内をウロウロして、世界史のまとめや、『ジャッジメント・クランの軌跡』という題の本など、リアセリアルの世界観を知るのに役立ちそうな本を何冊か買って書店から出ていった。


「まだ日が暮れるまで時間があるから、適当にうろついて、この世界の細かい所を調べてみようぜ」


「いい判断だ。君がきちんとあの豪邸に帰れる自信があるのなら」


「余裕であるだろ。俺たちにはこれがあるんだから」

 と、帰還者は自分のスマホを、自分の右こめかみ辺りで掴むようにして見せた。


「そうだね。そうだ、暇なときでいいから、後でそれの使い方を教えてくれたまえ」


「ああ、暇なときな」


「約束だよ。今晩の戯れの前には間に合わせておくれ」


「……風俗で経費無駄遣いするのやめろって、コバヤシに言われなかったか?」


「僕は皇帝の器に至った者だぞ。その程度の約束など守る筋合いがあるものか」


「確かに皇帝らしいな。その強引具合」


 こうして二人はこの辺りを目的なく歩き続ける。

 その道中、

「あ、あのー、すみません、お二人さん、お昼に冊到区で戦ってた自警団の方で、すよね?」

 高校生とおぼしき女子三人組に声をかけられた。


「ああ、はい。そうです、俺が……えーっと……ボーンで、こちらはチェン、じゃなくて、リーです」


「リーらしいです。よろしく。で、僕たちに何のようかね」


 すると三人の内一人がスマホを出して、

「すみません、ちょっと動画撮らせてもらっていいですか?」


「「は、はぁ……」」


 その後二人は、女子高生三人の指示を受けて、大分動きのゆるいダンスを一分くらい撮影した。


「ありがとうございましたー!」


「こちらこそどうも。ところで御三方、この辺りで一度は行くべき場所はないかね」

「なんか大きい店とか博物館的なところとか。いっぱい人が集まりそうなところで頼む」


「だったらあっちの方にある『ヒロメイト』がいいと思います!」

「都内で一番大きいお店なんですもの!」

「ジャッジメント・クランのグッズもいっぱいありますし」


「そうかいそうかい。それはどうも」

「ありがとよ。じゃあ行ってみる」


 去っていく女子高生たちに手を振りつつ、簒奪者は言う。

「……僕は今何をさせられたのかね?」


 帰還者は答えた。

「踊りの動画を撮らされたんだよ。と、言いつつ、俺も『何だこれ』とはずーっと前から思っているがな」


「まあ、よかったじゃないか。ついでに情報収集もできたのだから」


「だな。ちょっとした有名人になってたのも助かったぜ」


 そして二人は、この街の中で、あの本屋並かそれ以上の大きさを誇る建物の出入口前に着いた。

「『ヒロメイト』、これだね」


「なんかマップの情報によると、アニメとか漫画とかの商品をメインで売ってるところなんだと……けど、これはアニメと漫画の括りに入るのか?」

 と、帰還者は壁に貼られた全てのポスターにいる、ジャッジメント・クランの写真やイラストを見て言った。

「まぁ、さっきみたいにアイツら漫画になってるようだから、いいのかもしれないけど。とにかく、無駄話してないで早く入るか。寒いし」


「寒い? そんなにデカい図体しているのにそうした耐性は無いんだね……」


「よくも言ってくれたなお前!」


「しょうがないだろ今は冬らしいんだから。お前が慣れに慣れまくって……」


「ふざけんなよテメェ!」


「なら君も慣れておくれよ。同じ仲間と……」


「おい簒奪者! 今度こそ無駄話はやめようぜ。アレ見ろアレ!」


 帰還者は、店の出入口から少し離れた壁際で、取っ組み合いの喧嘩をしている少年二人を指さしていった。


「まだレイトが足手まといって決めつけるのは良くないだろうが! こっから巻き返してきくんだろきっと!」と、茶髪の方の少年は怒鳴りながら平手打ちをかまし、

「いいや、アレは絶対にもうじきやらかすタイプのヤツだ! でもってまたアトゥン様が死ぬ羽目になるんだよ!」と、黒髪の方の少年が、全く同じ動きで茶髪にビンタを与えた。


「どうやら、黒髪の人が、あのレイトって少年の悪口を言って、喧嘩を始めたようだね……で、見たけどどうすればいいのかね?」


「止める以外ないだろ。特に今の俺たちが見てみぬ振りしたらまずい」

 あの二人が喧嘩している周りには、野次馬が集まっており、何人かはスマホのカメラを起動している。

 それに自分たちの姿がチラッと映っている状態で、ネットに拡散されれば今後の調査活動に支障が出る可能性もある。


 なので簒奪者と帰還者は、今のこの世界における評価――謎の自警団としてのプライドをもって、喧嘩する二人を軽々と引き剥がした。


「争うならもう少し意義のある場合にしたまえ。こんな街角と理由で拳を振るっては自分も傷つくだけだ」


「はいはい、落ち着け落ち着け……おいお前ら、誰でもいいから警察呼んでくれ!」

 と、帰還者が行ってから数秒後、駅があった方から警官四人が駆けてきた。


「ごめん、やっぱ呼ぶ必要なかったわ」


 二人は警官たちに少年らの身柄を明け渡す。

 それから帰還者は野次馬たちに腕を広げて、


「はい皆様方、あの無駄な喧嘩はこの自警団のボーン様がきっちり止めてやりましたよ!」

 と、サービス精神から仰々しく言ってみせた。


 だが、野次馬たちはこの時、帰還者を、簒奪者にも目を向けていなかった。

 彼らが注目していたのは、黒髪の少年が、警官たちに警棒で袋叩きにあっている様だった。


「痛い、痛い、痛い! もう止めてくれ! 俺が一体何をしたっていうんだ!」

 

 一人の警官が袋叩きを止めさせ、少年に後ろ手に手錠をかける。

「いちいち教えなくてもわかるだろうが。お前は『他者崇拝人物侮辱罪』を犯した! 間もなく、お前は留置所に送られる! その間にはお前の発言権は一切ない、なので今のうちに言いたいことを言っておけ!」


「ふ、ふざけんじゃねぇ! 殺すなら禊月レイトを殺せ! ぐはぁッ!」

 思い切り警棒で脳天を叩かれ、気を失った黒髪の少年は、待機していたパトカーの荷台に投げられ、警官たちとともにこの場から離れていった。

 

 この時、茶髪の少年は、心底嬉しそうに笑った後、何事もなかったように、解散する野次馬に紛れていった。


 そして、一連の光景を見ていた簒奪者と帰還者は、その場でしばらく棒立ちした後、

「……どうする帰還者? 予定通りに店へ入るかい?」


「いや、今日はもう気分が乗らん。早いところホテルに戻って、本でも読んでおこう」


「それもいいね。あと、スマホの使い方も教えてくれないか?」


「……ああ、いいとも。かなり時間が余るだろうから、な」


 それから二人は電車に乗り、来た道を戻っていく。

 その間、帰還者はスマホのブラウザで、『他者崇拝人物侮辱罪』と検索をかけた。


 他社崇拝人物侮辱罪とは、他者が尊敬している、あるいは好意を抱いている人物に対し、侮辱、罵倒、軽蔑、誹謗中傷などの低評価に該当する言動を行う犯罪である。

 法定刑は、言動の程度を問わず、三等親以内の親族全員の死刑である。


 という文章が、検索結果のスニペットに表示された。


【完】

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