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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
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W3-4 ボーン・ストップギャップ

 自分たちのことを尋ねてきたアトゥンに対し、帰還者は、

「俺は……」

 答えようとしてすぐ、言葉につまらせた。


「どうした。自分の名前もわからないのか?」


「いやいや、そんなわけないぞ、記憶喪失じゃあるまいし……そうだ! ボーンにしよう! 俺の名前はボーンだ!

 で、ついでにだが、そこにいるのはクーパー、リー、ウィラードだ!」

 と、帰還者は脱走者、簒奪者、戦死者の順に指さしていった。


(なんか急に名前決まったな……)

(今、咄嗟に考えたね、帰還者……)

(……)


「ほう、となると貴様らはやはり仲間ということか」


 ちが。この二文字が咄嗟に出た口を自分で押さえた後、帰還者は返す。

「……ああ、俺たちは仲間だ。インディーズで、ヒーローチームをやっているんだ」


「なるほど、つまるところ自警団だな。大概、憧ればっかり達者で足を引っ張る、余計なお世話の塊のような奴らばっかりだが、貴様らは類稀な事例だった」


 アトゥンは剣と銃を腰に戻し、軽く帰還者へ礼をする。

「まず、善良な市民たちを悪の手先から守ってくれたことに、ジャッジメント・クランを代表して、ここに感謝する」


 直後、街灯に寄りかかったままのレイトは、師匠からの視線を感じ、慌てて頭を下げる。

「ありがとうございました……」


 パチパチと兵隊や市民たちの拍手が鳴る中、帰還者も礼をする。

「お、おう、どういたしまして」


 その時、アトゥンは、先程のザガインに向けていたような冷徹な眼差しをして、帰還者に聞く。

「だが、貴様らは本当に何者だ? ここに駆けつける最中に見ていたが、貴様らの力は並の人間が努力して得られるような代物ではない。その力は一体どこから湧いてきたというのだ……」


「……何故それを聞きたい?」


「お前がどちらなのかをはっきりさせたいからだ。かつての俺や、あのフォービドゥン王国のような悪の者なのか、それともジャッジメント・クランに与する正義の者なのかをな……さぁ、たった二択だ、今度はすみやかに答えてもらおうか……!」


 だが、この問いに答えは返ってこなかった。

 こつぜんと、四人の姿が見えなくなったためだ。


「……レイト! 奴らが何かするのを見なかったか?」


「い、いえ、俺は何も見てません!」


 アトゥンは市民や自軍の方も伺うが、首をかしげたり、辺りをキョロキョロしている様子から、自分と同じ認識であることを知った。


「あの自警団、つくづく興味深いぞ……」

 そしてアトゥンは、彼らがまだ遠くまで行っていないことを願って、両足を地面から浮かし始める。

 その時、兵隊や市民をかき分けて、カメラやらマイクやら、撮影用の機材を持った集団が、アトゥンの元に近づいてくる。


「戦闘終了の直後に失礼いたします! 私は……」


 アトゥンは舌を打った後、両足を地面に付ける。

「知ってる。メディアだろう。はぁ……それで、今回もまた敵の手応えから話せばいいか?」



 世末異世界『リアセリアル』の最大都市、登境。

 そこで区切られた二十三の土地の一つ、次治区じちく


 ここは司法、立法、行政などの都市機能を管轄する機関本部が集う土地である。

 無論、この都市の平和を守るジャッジメント・クランの基地もここにそびえている。


 そんな厳格な土地にある、要人たちの会談の場として頻繁に用いられる、某高級ホテルにて。豪華絢爛に飾られたロビーに、一人の男が訪れた。


「予約しておりました、小林です」


「小林様……お待ちしておりました」


 小林……と呼ばれたスーツ姿の男は、フロントから礼儀正しく渡されたカードキーを、同等の礼節をもって受け取る。

 そして彼はすみやかに、カードキーに記された番号の部屋へ入室した。


 そして、だだっ広い部屋の中央で足を止めて、

「もう解除していいぞ、首謀者」


「仰せのままに」


 小林――もとい、4Iワールドエンフォーサーズの監視役、コバヤシの後ろで、首謀者は自分たちに被せた偽装を外す。と、彼含む六人が姿を現した。


 冊到区一番の騒ぎの匂いに誘われ、首謀者と使役者が例の大通りにやって来たのは、あのアトゥンの二択の質問を突きつけられた時だった。

 それを見ただけでなんとなくヤバいと思った首謀者は、直ちに自分たち六人全員に『偽装』を被せ、透明化させた。

 それからまとまって遠くに避難していた最中、六人の状況を把握していたコバヤシが待っていた。


 そしてこのように、コバヤシによって手配された高級ホテルの一室に案内されたのである。


「やれやれだぜ。俺がグーゼンあそこに来てなかったら、抜き差しならんくらい怪しまれてたぜオメーら」


「全くですわ。私たちのところにいたのがよわよわな雑魚だけだったのが逆にラッキーでしたね。こうしてまた集まれたのですから」


「別に俺は、もういっそのことって訳で、その場であの黒尽くめのすまし顔をやっつけてもよかったんだがな」と、帰還者。


「僕は助かったと心の底から思っているよ。あの闇の多い偉丈夫、相当張り合いがありそうだから、ああいう雑踏とした場では愉しめないだろうからね」と、簒奪者。


 そして脱走者は、

「しかしまぁ、上手いことごまかせてたよなぁ、帰還者。アタシたちのニセの名前考えたり、インディー自警なんたらって集まりにしたり」


「あああれな。俺にしては上手い嘘だったろ?」


 簒奪者は脱走者の言葉にうんうんうなづく。

「そうかもね。あれはいいハッタリだったね。大部分の虚偽に僅かに真実を織り交ぜた巧妙な話であったと僕は思うよ」


「……あれ、どこに真実があったんだ? お前らにつけた偽名も、俺が観た映画の登場人物から取っただけだぞ?」


「あったじゃないか。『チーム』とね」


 すると帰還者は腕を組んで、特に意味もなく戦死者の方を向く。

「確かにチームではあるがな。だが、いちいち言及することでもないだろうよ……」


「……」


 ここでコバヤシは口を開く。

「話がとっ散らかってきたから、そろそろ私から話してもいいか?」


「どうぞどうぞ!」

 と、帰還者は率先して言った。


「君たちにここで言いたいことは三つある。

 一つ目、このホテルの一室は、リアセリアルでの活動の拠点として私が用意した。常識の範囲内で、寝泊まりなり会議なりに使ってくれ」


 ここで脱走者は遠慮なしに尋ねる。

「そういえばだが、何でこういう時にパニッシュメント号にワープさせてくれないんだ?

 その方が寝る場所とか安上がりになるだろ?」


「本当にそういえばな質問だな。それは任務時間の短縮のためだ。ああいう落ち着ける安全地帯へ簡単に戻れるようにしておくと、君たちは気が緩んでダラダラと任務に取り組むようになるだろう。

 だからこの部分については、経費は二の次にして、任務先の少々手狭な宿などに泊まらせ、窮屈な思いをさせることで、早急な任務完了を促しているのだ」


「あっそ。悪いな、話の途中でさえぎって」


「……二つ目、君たちは先程の一件で、この世界の住人から注目を集めている。

 どちらかというと好意的な方向であるため、ジャッジメント・クランの敵にはまだならんだろうが、それでも動きにくくなったのは確かだ。

 そこでだ、君たちはこれから外で活動する時は、二人組になってもらう」


 帰還者は尋ねる。

「はぁ!? 二人組ぃ? なんでそんな半端なまとまり方をする」


「全員バラバラにいると、それぞれこの世界の報道陣に囲まれたりして身動きが取りづらくなったり、いざ誰かが何らかの事態に出くわした時、連携が取りづらくなる。

 かといって全員まとまっていれば……いちいち言うまでもないだろうが、注目の掛け算が発生して目立ちすぎる。

 だから二人組で行動しろというのだ。これなら最低限の連携が出来るし、しつこい取材を回避しやすくなるだろう」


「そ、そうか……で、誰と誰が組むんだ? 今から決めるのか? だったら俺は……」


「勝手に話を進めるな、帰還者。

 君たちの性格や能力を考慮して、もう既にペアはこちらで考えてある。

 一組目は、脱走者と戦死者。

 二組目は、使役者と首謀者。

 そして三組目は、簒奪者と帰還者だ」


 この組み合わせが発表された瞬間、帰還者は組んだ両手を前においてつぶっていた目を開き、そしてゆっくり簒奪者の方を見る。


 彼にとっては凄まじく恐ろしい、満面の笑みを浮かべていた。

「しばらくは共に励もうじゃないかぁ、帰還者」


「……う、うう……」

 この唸り声は、帰還者の心中で渦巻く、簒奪者とコバヤシを殴りたい衝動の僅かな漏れである。


「して、コバヤシよォ~~、『三つ目』の言いたいことは一体どこいっちまったんだ?

 さっさと教えてくれよ。もう間もなく『十四時』になろうとしているんだ。俺たちは『昼食』をとっていないのに。」


「三つ目は、前の二つと比べるとそこまで重要な話ではない。

 今回の任務において、君たちには情報をあまり渡せなかった。

 この高級ホテルの一室を手配したのが一番のそれだが、そのお詫びとして、これを用意しておいた」


 コバヤシはこの部屋に備え付けられた机から、三つのビニール袋を持ち、六人に見せる。

 そのビニール袋の中には、さらに紙袋が入っていて、そこから紙と、油を中心としたジャンキーな匂いが漂っていた。


「生憎君たちの趣向はわからんのでな。六セットとも、チーズバーガー、フライドポテト、コーラで揃えているが、これでいいか?」


「別にいいよ。全部うまいしな」と、脱走者。

「私はフィッシュが良かったのですけどもね……まぁ、買ってくれただけありがとうございますわ」と、使役者。

「三つとも僕にとっては未知の料理だ。これは期待が膨らむね」と、簒奪者。

「いいセンスしてるじゃあないか、コバヤシ。チーズバーガーはファストフードの『帝王』だからな。あの名優ロバート・ダウニー・ジュニアもこれでヤクを捨てられたんだよ」と、首謀者。


 そして帰還者はしばらく硬直した後、聞いた。

「おい首謀者。ロバート・ダウニー・ジュニアって……誰?」


「……は?」

 首謀者も同様に固まる。

 それを見かねて使役者は言う。


「あなた、今までちょろちょろ映画マニアぶってたのに、ロバート・ダウニー・ジュニアを知らないんですの? あまり映画を観ない私でも知っていますわよ?」


「え、マジで? 俺以外の皆知ってるの?」


「いや、アタシは知らん。映画なんて長いもの観ないし」

「そもそも映画という表現法自体を僕は最近知ったのだが」

「……」


「ああ、そりゃそうか……じゃあ首謀者、使役者、お前らそいつの代表作言ってくれ。そしたら思いつくかもしれないから」


 すると二人は同時に答えた。

「「『アイアンマン』」」と。


「あ、アイアンマン……? ボディービルダーの話かそりゃ?」

 だがそれでも、帰還者の頭の疑問符は消えなかった。


 そして帰還者は、一度引っ込んだくしゃみを出す時のように変な力の入れ方をして、

「ああ、あの人か! シャーロック・ホームズを演じてた人か!」


「そ、そうですの……?」

「そういえば、それもあったな……」


「君たちは本当に無駄話が好きだな。全く」

 と、コバヤシは六人の様子を眺めてつぶやいた。


【完】

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