W3-3 ジャッジメント・クラン出動!
道路に立つ簒奪者の目には、白色の装甲車。
ビルの間で糸の上に立ち浮遊する帰還者の目には白色の戦闘ヘリが映っていた。
それらのマシンの中から、何人もの白い戦闘服を着た兵士が出てくる。
それらのジャケットの左胸部にも、もれなく『JC』の二文字を図案化したマークが刻まれていた。
「何だアイツら……?」
「何かねアレは……?」
その兵隊たちの中から、戦闘服の内のジャケットだけを羽織り、残りは普通の若者の服装をした、高校生くらいの青髪の少年が前に出て、
「待たせたな、皆! ジャッジメント・クランの登場だ!」
と、メカニカルな剣を掲げて叫ぶ。
そこから少年たちの周りに控える兵士たちが銃器を構えて、目に入る怪人たちを攻撃する。
少年も軽やかに空間を飛び回り、怪人たちを縫うように立て続けに撃破していく。
「これはあれだろうか。コバヤシの話に出てきた正義の機関とやらかね」
「だな、簒奪者。『ジャッジメント・クラン』ってはっきり名乗ったしアイツ」
しかも器用に、部外者である二人に流れ弾がいかないようにしている。
「さて、俺たちはどうしようか? アイツらも今のうちに片付けておこうか?」
「いや、まだ生かしておくとしよう。あのジャッジメント・クランの仔細はまだ掴めていないのだから」
「同感だ」
そして二人は怪人たちとの戦闘を再開した。
少年は剣を振るいながら、近くにいる部外者二人をチラッとみて、
「あの二人は……報告にあった、フォービドゥン王国に属していない謎の能力者か。とにかく今のところは味方……っていうことにしておこう。敵増やすのめんどいもんね」
4Iワールドエンフォーサーズの二人と、ジャッジメント・クランの部隊は、こうして特に話し合いもなく共闘する。
その最中、戦場と化したこの大通りに、先程逃げていたはずの一般市民たちが続々と現れて、
「いたぞ! ジャッジメント・クランだ!」
「きゃー! レイト君だー! 今日もカッコいい!」
「流石はジャッジメント・クランの次代の主戦力だ、やっぱ強いぜ!」
黄色い声を浴びせたり、スマホカメラのシャッターを切ったりしていた。何人かは『禊月レイト』とポップ体で名前が書かれたうちわを持っていたりもした。
それに対し、帰還者は糸を操り、街路樹の落ち葉などの当たってもほぼダメージのないものを、彼らの足元に飛ばす。
「おいこら、見世物じゃないぞ俺たちは。怪我する前にさっさと逃げやがれ!」
しかし市民たちは誰一人としてその場から動かない。むしろ帰還者が自分たちにかまってくれたことで、余計に興奮しているようにも見えた。
(このタイミングで無駄に恨みを買いたくないんだが、こうなったら枝とか空き缶とか飛ばしてやろうか……直で)
と、帰還者は考えたが、ふと目に入った少年――レイトが明らかに市民たちへ向かって手を振っているのを見て、馬鹿らしくなった。
簒奪者は自分に近づいた怪人たちに、流麗な動きで打撃を食らわせながら、
「まるで劇の舞台に立たされた気分だ。あの民たち、良くも悪くも目前の光景にのめり込みすぎている」
「同感だ……ったく、なんかさっきから意見が合いやがるな、簒奪者め」
帰還者と簒奪者という二人の異次元級のファイターに加え、ジャッジメント・クランの参戦によって、この大通りに集う怪人たちの勢いは一気に衰え、徐々に終わりを迎えようとしていた。
その時、まるで狙ったかのようなタイミングで、大通りのど真ん中に、貴族風の男――九大忌族の一人、酷爵ガダインと、鎧姿の壮年の男が落ちてくる。
前者は拳や靴底の跡で衣服がボロボロで、もう片方は細かいものを何個もぶつけられたように鎧がベコベコになっていた。
直後、それに続いて脱走者と、戦死者が降り立った。ここに落としたこと含めて、犯人は彼女たちだ。
「い、イゲートゥ氏……まさか貴方までそのようなお姿に……!」
「あ、あの兵士、銃器の扱いが卓越し過ぎている……我輩の鉄壁の守りもまるで意味を成さんのだ……これでは圧爵の名折れよ……」
「貴方というお方がそんな弱音を吐いてはなりません……ほら! それもあやつの目の前で!」
イゲートゥと呼ばれた鎧の男は、ガダインが指さす方に視線を合わせる。と、そこには剣を豪快に振るうレイトの姿があった。
戦闘中だった敵を片付けた後、周りと少し遅れて、レイトも落ちてきた二人の男へ目を向ける。間もなく、彼は目を見開いて驚いた。
「お前は……イゲートゥ! まさか貴様にこんなところで出会えるとはな……!」
と、これまでの若者らしい爽やかな態度を一変させ、語気を重くして言った後、レイトは剣を携え、そちらに突撃する。
「怒りに飲まれているな、あの少年」
「恐らく、仇敵なんだろうな」
「あの日のことは忘れはしないぞ! お前たちが俺の家族を皆殺しにした日のことは!」
「当たったね、帰還者」
「だからってどうてことないんだけどな」
レイトが鬼の形相で迫る中、ガダインはイゲートゥに懇願する。
「イゲートゥ氏、この場は私にお任せください! 貴方はまだ死ぬには早すぎます!」
「それはお主もそうであろう! 我々はここでお主のような若輩者を失っては……」
「おっと、手が滑りましたァ!」
ガダインはイゲートゥの腹部に手を置き、そこに魔法陣を生成する。
すると次の瞬間、イゲートゥの全身が黒いモヤに包まれ、それが消えると、彼の身体も同じく消えていた。
それからガダインは気力を振り絞って立ち上がり、
「ここまで追い詰められたからには仕方ありません! 最期くらい、忌族の誇りを捨てさせていただきます! 要するに……『破れかぶれ』でございます!」
ガダインは虚空から得物の鎌を取り出し、それを構えて、自分もろともコマのように回転する。
「がぁっ!」
近づこうとしたレイトは大きく弾き飛ばしつつ、全方位に斬撃波を放った。
ジャッジメント・クランの兵たちが次々と傷つき、観衆たちの半分が元通りに逃げ惑い出し、残る半分が応援と撮影を続ける中、帰還者は叫ぶ。
「脱走者、簒奪者、戦死者ァ! お前ら、とりあえず一旦周りの連中を守れ! 変に死人を出して、追求だの濡れ衣だの面倒事をくらわないようにするぞ!」
「言われなくてもわかってらぁ!」
「僕もそう思ってたところだ」
「……」
四人は各々の能力を発揮し、斬撃波をかき消して周囲への被害を防いでいく。
そんな中、レイトは起き上がり、再び剣を携えガダインに突撃する。
脱走者は斬撃波に回し蹴りを放ち、その威力で相殺しつつ、
「おいそこの野郎! お前もとっとと逃げろ!」
「逃げろ……ふざけるな、俺があの時そうしたから、父さんが死んだんだ! だが今の俺は違う! こんな邪悪な奴らに俺は二度と泣きはしない!」
突進の最中、レイトは剣を下段に構え、柄の辺りから切先にかけて徐々に刃を炎上させていく。
そして回転するガダインにめがけ、
「くらえッ、【忌焔万浄】!」
一気に右下から左上に、斜めに振り上げる。
だがガダインの勢いが、その斬撃を遥かに上回っていた。
レイトはガダインに何の効果も及ぼせず、またしても吹き飛ばされた。
「正直貴様にはもう少し美しい死に様を与えてやりたかったが……生憎、余裕がないのでねぇ! これでご勘弁ください!」
そしてガダインは、奴をみじん切りにすると言わんばかりの勢いで回転速度を早め、レイトに急接近する。
「ぐ……ごめん、皆……!」
レイトは道路に倒れたまま、目をつぶり、歯を食いしばる。
その頃、脱走者はクラウチングスタートの体勢を取り、帰還者はガダインをそらす糸の準備をし、戦死者もライフルの標準をガダインの軸足に合わせて構えていた。三人とも、止める気満々である。
そして、簒奪者は上を見上げて言った。
「待ってくれたまえ、三人とも。上からただならぬ気が……」
その時、高層ビルによって狭まった空の風景の間に、一つの人影が現れる。
人影は凄まじい速さで地上に降りていき、左手の拳銃を構え、ガダインへ向けて引き金を引く。
するとコマでいうと軸の部分で、黒い炎が炸裂し、ガダインは地面に転がった。
「き、貴様は……! 悪名高きアトゥンではないか!?」
今、大通りに降り立ったその人影の正体は、肩や上腕部などにプロテクターを装備した黒尽くめの男だった。
そして、男の左肩には、『JC』のマークが刻印されていた。
「あのマークがあるってことは、あの男もジャッジメント・クランの一味か?」と、帰還者。
「だが、彼だけその衣装に白が一切無いのが不気味だね」と、簒奪者。
「ああ、言われてみれば確かに。なんかアタシとアイツの戦いに割り込んできた奴らも、全員どっか白いものつけてたからな」と、脱走者はいった。
「……」戦死者は黙ったままだ。
レイトは近くの街灯に寄りかかり、どうにかアトゥンと目を合わせて、
「し、師匠……どうして貴方がここに……」
「ユミツの奴に強引に頼まれたからだ。本心じゃない」
「……すみません。ご心配おかけして……」
「……まぁ、だがいい機会にしてやる。せっかく九大忌族とやらが出てきたんだ。それでお前に、戦うとは何かを教えてやろう……」
「何だその私を練習台にするかのような言い方はぁぁッ!」
ザガインは鎌を振り回し、牽制として斬撃を五発飛ばす。
アトゥンは左手に握った拳銃で、それらに黒い炎を浴びせ、相殺しつつ、ザガインの間近に迫る。そこでアトゥンは右手の剣を、ザガインへ振り付ける。
ザガインも鎌を振り、それに対抗する。だが、アトゥンはまるでザガインの動きが数秒前に知らされているかのような、的確な剣撃を繰り出し、一方的に相手を追い詰める。
その最中に、アトゥンは左手の銃でザガインの両足に黒い炎を浴びせ、体勢を崩させた。
剣と銃、そのどちらでもすぐさまトドメを刺せる状態で構えるアトゥン。
彼を見上げて、ザガインは叫ぶ。
「あ、アトゥン……かつては同じ悪の住人であったにも関わらず、今はすっかりと正義の味方ヅラして……」
「……何が言いたい?」
「少しは同情してくれないだろうか? 我々とて、本当はこんなことしたくはないのだ……」
「知るか」
そして大通りに銃声が響き、ガダインの身体は散り散りに消滅した。
直後、ここに集まっていた一般市民たちは叫ぶ。
「「「アトゥン様、超カッコいいーー!!!」」」
アトゥンはまずその市民たちに目を向ける。そこから特に何もしなかったが、彼らはますます盛り上がった。
次に、彼はレイトと顔を合わせ、
「次は俺が来ると思うなよ」
「は、はい……わかっています」
一言注意をした。これで市民たちの熱狂がもう一段階高まった。
そして今度は、ジャッジメント・クランの兵隊たちに尋ねる。
「大丈夫か、被害はどうだ?」
「は、はい……現状、死者は出ていません。負傷者は多数ですが、幸い命に別状はございません」
「そうか、それは良かった」
短いやり取りではあったが、このアトゥンの優しさに、市民たちはますます畏敬の念を抱いた。
最後に、アトゥンは剣と銃を、構えこそしないが強く握ったまま、顔を上げ、
「それで、貴様らは何者で、何の目的でここにいる」
見知らぬ集団の中で一番近くにいたメンバー――帰還者に問いかけた。
【完】




