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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD3 正義のヒーローの継続地『リアセリアル』
28/79

W3-2 冊到事変

 世末異世界『リアセリアル』の最大都市、登境。

 その中にある最大級の商業地域、冊到区にて。


 そこの上空に、いくつもの黒い点が埋め尽くしていた。

 それらのほとんどは、黒一式の典型的な悪魔のような姿をした怪人であった。


 その中で一際目立つ、二百年近く時代が違う貴族のような出で立ちをした青年が、身の丈台の鎌を地上にかざして、


「フフフ……哀れな人間どもよ、突然のご通達で申し訳ございませんが……この時を持って、君たちは絶望のどん底に落ちてもらいますよ!

 この九大忌族に列する私、『酷爵ガダイン』主催による、冊到事変によってね!」

 と、言った瞬間、空中に待機していた怪人の軍団が、それぞれ市民一人ひとりを狙い定め、急降下していった。


「うるせぇぇぇぇ、ゴチャゴチャ言わずにとっとと帰りやがれッ!」

「ガダァァァッ!?」


 それと同時に、脱走者が大ジャンプし、外側に来ていたストリートファッションの服が黒ずみになるくらいの勢いそのままに、豪快に繰り出したアッパーを、ガダインの顎に食い込ませた。


 ガダインが空で小さくなっていくのと同時に、脱走者が三点着地する。


 すぐさま使役者は彼女にツッコんた。

「脱走者!? 貴方早すぎますわよ!?」


「いやぁ、どういたしまして。あのいけ好かない野郎もご覧の通り半泣きしてるぜ」


「褒めていませんわ!? 今、私が早すぎると怒ったのは、私たちの力を発揮したことについてですわよ!?

 コバヤシさんが言っていた通り、この世界について知ってる情報は少ないのですから、こんなすぐに目立つようなことしたら……」


「ああ、そういうことか! けど、生憎、一番アタシらの中で目立っているのはお前だぞ、使役者?」


「はい……です……の!?」


 使役者が辺りを見渡すと、他の4Iワールドエンフォーサーズの四人は、もう側にいなかった。

 その周りでは、この街にいた大勢の市民が逃げ惑い、大混乱を引き起こしているが、それでも四人の現在位置はすぐにわかった。


「ハッハッハーッ! 旅行先に来てすぐ、こんなドンパチが出来るとはツイてるなぁ、俺!」

「一週間ぶりの実戦だ。肩慣らしに……満たされるだろうか?」

「……」

「『企画倒れ』にならんとイイなぁ~~ッ!? 冊到事変の主催者さんよぉ~~ッ!」


 帰還者、簒奪者、戦死者、首謀者の四人は、全員別々の場所へ散り、街を襲う怪人たちを蹴散らしていた。無論、各々の能力を使ってである。


「ほら、わかったらさっさと変身しろよ、使役者」


「……『バレてしまってはしょうがない』的なことですわね……わかりましたわ。

 あと別に私は変身しなくても戦えますが……言われたからにはそうしておきましょう。

 というわけでおいでなさい、リリアティ!」


 使役者はどこからともなく取り出したコンパクトに、クラーケン型のぬいぐるみを座らせる。

 すると使役者の身体が紫色の球体に包まれ、それが泡のように弾けると、

「ふくらむスイート! はじけるテイスト! それからフォールン! 使役者、もりもりコックフォーム!」

 ファンシー要素を盛り込んだコックのような衣装に切り替わると、使役者が現れた。


「えぇっ! すげぇ! かわえぇーっ!」

「なんか魔法少女みたいのがいるー!」

「頑張れー、早いとこアイツらをやっつけてー!」

 直後、一般市民たちは、彼女に歓声とスマホカメラのフラッシュを浴びせた。


 変身して間もなく、使役者は非常に小さく舌を打った。

「……脱走者さん、私の変身完了を待たずにどっか行きましたわね……」


 それから使役者は、忌にこそしていないが一般市民の応援を受けつつ、誰とも被らない敵襲場所へと向かっていった。



 ガダイン曰く、冊到事変の真っ只中、その舞台に選ばれた冊到区のビルとビルの隙間で、五台の車が飛び回っている。

 よく見ると、それら全てには、黄金の糸が縫い付けられている。そう、帰還者が張ったベクトルの糸だ。


「この雑魚ども! お前ら如きなんざ軽自動車で余裕だ!」

 その数台の車は、空中から街を俯瞰している帰還者の意のまま、壁面や空中を駆けて、次々と怪人を粉々にしていった。


 だがその途中、一台の車がフロントからメキメキと潰れていった。

 三回りも大きく、赤みがかった怪人が、ただ仁王立ちするだけで、その車を受け止めたのである。


「中ボスもしっかり用意してたようだな。だが、この俺の手にかかれば、大ボスだろうと雑魚も同然よ……」

 帰還者は残りの四台の車を、前後左右から赤い怪人にぶつける。

 赤い怪人は両腕を左右に伸ばし、まずそこから来る車をそれぞれ掴む。

 そしてそれを地面と平行に持ったままその場で回転し、前後の二台にぶつける。


 こうして赤い怪人の周りには、ガソリン由来の爆炎と、残骸が舞った。


 そこへ帰還者は高速回転をかけた自転車を円盤のように放ち、赤い怪人の腰の半分に達するほどの深い切れ込みを作った。


 赤い怪人はうめき声を上げた。その時、奴の胴体の切れ込みには赤い粒子が張り付き、じわじわと元の形を取り戻そうとしていた。


「再生能力もあるか……だが、もう遅い」


 帰還者は終点が赤い怪人になるように、人差し指で虚空に線を描く。

 すると赤い怪人が立つ大通りに、凄まじい速度を纏った都営バスが一直線に走る。


「約80km/h以上で走行する金属の塊だ。今度はお前が木っ端微塵になる番よ……」

 数秒後、大ダメージを受けて回避もままならない赤い怪人は、バスに正面衝突され、帰還者の言う通りになった。


「まったく、準備運動にもならないつまらん雑魚ばっかりだ……」


「それは貴方がそこにとどまり、顎と車だけしか使っていないからではないかな?」

 脇道から、簒奪者は怪人を蹴飛ばしつつ、大通りに姿を見せる。


「……簒奪者。出かける直前に『お互い近寄るな』って俺言わなかったか?」


「言ったね。僕はただそれに従っていないだけだ」


「普通に従えよ。で、お前ここに何しに来た?」


「せっかく大勢の有象無象がいるんだ。それを相手に、君に僕の武勇を観てもらいたいと思ってね……ほら、これまで単騎で戦うことが多かったから、僕がどういう人物か不明であろう?」


「いいっての不明のままで……」


 そう二人が地上と空中で話し合う中、新たな怪人たちの波が、両方から迫る。


「じゃあ観てておくれ。君には天の軍を任せる。どうせ君なら片手間で掃除できるだろう?」

 と、帰還者の同意も聞かず、簒奪者は近づく怪人たちに目をやり、構える。


 まず、一番先に近づいてきた怪人へ、褒美として、瞬間的に生成した氷の剣で両断してやった。

 次に挟み撃ちを仕掛けた怪人二体を、追加の剣を生成しての二刀流で細切れにする。

 しばし双剣を振り回し、まばらに近寄る怪人たちを、ちぎっては投げちぎっては投げというようになぎ倒した。


 これで怪人たちも学んだのか、奴らは綺麗な円を描くように陣形を組み、簒奪者を包囲して一斉に押しつぶしにかかった。

 対する簒奪者は、双剣の柄頭をあわせてくっつけ、双刃刀に仕立てあげ、あたかも新体操のバトンさばきのように、無駄が無く、華麗で、そして武器の重さをまるで感じさせない動きで包囲陣を壊し尽くす。


 そして、包囲陣の対処で疲弊したところを狙って追撃してきた怪人一体を、双刃刀の無駄な部分を削ぎ落として作った槍で、身体の中心を貫いた。


「どうかな、解したかな、僕の武勇を?」


 周りで車が飛び回り、怪人たちを撃破しているのを横目で見つつ、このような簒奪者の、次々と武器を切り替え、それらの特性を最大限に活かした立ち回りを目の当たりにした、帰還者は、

「全部雑魚相手だろ。それじゃあある程度束を片付けとけば、多少ごまかしが効くだろうが。騙されんぞ」


「じゃあ君のように強敵を倒せばいいのだろうか? 君か僕か、それとも両方か……ちょうど、時が味方してくれたようだしさ」


 その時、先程、バスに轢かれた個体とほぼ同じサイズと赤さを持つ怪人が、地面を揺らしつつ簒奪者の背後を狙う。


 簒奪者は怪人に突き刺したままの槍に力を込め、それを丸ごと包み込む氷塊を作り上げ、槍を大鎚に変形させる。

 すぐさま簒奪者はそれを軽々と持ち上げ、踵を返しつつ赤い怪人へ振るう。


 赤い怪人は両腕を交差させて防御姿勢を取った。防がれた反動で、簒奪者の大槌は振った軌道に逆行するように、頭が横の地面にめり込んだ。


「まるで城壁だ。じゃあここは手数で挑もうか」

 そう言った簒奪者は、大槌の頭の根元に足を置き、思い切り踏みつけへし折る。


 そして簒奪者は、頭が取れ、単なる氷の棒となったものを怪人に振り付ける。

 赤い怪人が片腕を出してこれを弾いた。刹那、簒奪者は間髪入れず逆方向に棒を振った。それも今度は足元を狙って。


 赤い怪人は脛を思い切り打たれ、思わず叫び、片膝を付く。

 そこから簒奪者は棒を短めに持って、小ぶりな動きで立ち上がろうとする赤い怪人を滅多打ちにした。

 赤い怪人は両腕を構えて何度も防御し、棒を弾いた。だが簒奪者はお構いなしに、力を込めて棒を叩きつけていく。


 やがて赤い怪人の腕は打撃痕だらけになり、ついに限界を迎えて力なく下にさげた。

 この隙に、簒奪者は棒の片側を道路に押し当てて支えとし、全体重を乗せた蹴りを、赤い怪人のみぞおち辺りに食らわせる。

 直後、簒奪者は怪人に飛びかかり、首に、横にした棒を押し付けて一気に仰向けに倒す 

 そして簒奪者は横になった棒に飛び乗り、赤い怪人の首をへし折った。


 軽やかに跳んでその場を離れ、赤い怪人が霧散したのを一瞥して確認した後、上――帰還者のいる方を見上げて、

「いかがだろうか。僕の腕前は」


 すると帰還者は腕を組み、ケッという音を歯の隙間から漏らしつつそっぽを向き

「お前もお前で道具使いまくってるじゃないか」


「けど自分の肉体を介してだ。君のように念じれば出てくれる糸とは、勝手が違う」


「……それと、これは俺にも当てはまることだが、雑魚大勢と中ボス一体倒したくらいで得意げになったらダメだな」

 帰還者がそっぽを向いた先にいた、これまでの五倍近くの数を成して進軍する怪人たちがいた。


 簒奪者はその逆方向を見て、同じ数と脅威がいることを確認してから、

「貴方もだ、帰還者殿。まだまだ力を出す必要があるよ」


「『俺にも当てはまることだが』って前置きしたの忘れたか?」


 そして二人は各々の能力を発揮しやすい構えを取り、大通りの両端と、空中から迫る敵勢を前に、気を引き締める。


 最中、突如として、大通りの脇道を駆け抜けた装甲車と、怪人の群れの隙間を縫った武装ヘリが、二人の視界に飛び込んだ。

 それらの外装は全て白を基調とし、アクセントとして、青色で『JC』の二文字を図案化したマークが刻まれていた。


【完】

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