W2-12 逢坂雄斗夜の奇妙なクラス転移
滅亡した異世界『カミナギヤサカ』より。
俺、首謀者――本名、『逢坂雄斗夜』はとある日本の田舎町で生を受けた。
母親は……まぁ、普通の母親で、父親は大手新聞社に属する記者であり、この県でおこった重要事件に半分ほど関与していたと自慢していた。
父親は息子の教育と文章校閲もかねて、俺によく原稿を読ませていた。
そのことから逢坂は、幼いころからニュースに高い関心を持つようになった。それも、毎週月曜に発売される漫画雑誌とおなじくらいに。
十八年の人生のなかで、現在もっとも印象に残っているのは、自分の住む市の新庁舎の竣工式での事件。
式典のさなか、ある『不審者』がワゴン車で突撃し、ありったけの刃物を振りまわし、政府関係者や建設会社社員や警察官を合計九人も殺したという悲惨な事件だった。
逢坂はテレビよりも先に、この事件を父親の生原稿から知った。
そこで俺は、どうして自分がニュースにここまで関心を持っているかも知った。
その『不審者』は職を失い、唯一の身寄りである妻にもにげられ、社会的な価値をすべて失った男だと、後の取り調べでわかった。もちろんこれも生原稿による。
そんな運命の最下層にたどりついたような人間が放つ、愚かにもまばゆくドス黒光りする『尊厳』の輝きに、俺は魅了された。
――そして俺は覚悟を決めた。『自分もこのように、たった一人で大勢の人間の感情を『誘爆』させたい』と。
けれども、生憎このころは『まだ』、俺は常識的な範疇にはおさまってる人間だったので、そんなことすれば『九割』という国内の検挙率の強固さを表す一部になっちまうし、ちょっとやそっとじゃあどうともならねーことは気づいてた。
だからこれは所詮、小学一年生のガキの妄想だっつーことで、自分の頭の中の階段下の収納においておいた。
それから九年後……高校生になってから一ヶ月くらいしたころ……
俺は校外学習の一環で、一年二組、先生ふくんで合計三十六人のひとりとして、山登りをしていた。
しかしここで俺たちにとんでもねぇ転機がおとずれた。
一年二組全員で、山頂で休憩していた時、いきなり空中に魔法陣が現れて、俺たちは異世界に転移した。
これは誇張していない。俺はここでは本当に『真実』を語っている。
いや、違う、ビミョーに嘘が紛れてたわ。
正確に言うと、俺たちが異世界だと思って行ってた場所は、この世界の裏側にあったファンタジー風世界で、4Iワールドエンフォーサーズが使ってる用語の『異世界』とは違うんだ。
なんかコバヤシ曰く、二つ以上の世界が、比較的気楽に行き来できるくらい『密接』に連結して、一つの異世界としてなりたっているところもあるらしい。
ex.俺のいた『カミナギヤサカ』とか、月のように付属する小さめな異世界が、VRMMOゲームの舞台として提供されている『アンド・ロジスティクス』みたいな。
これでもよくわかんねーってヤツは、バッド・カンパニーとかセックス・ピストルズみてーなモンだと思って納得してくれ。
じゃあここから軌道修正するぞ。
異世界に転移した逢坂たちは、呼び寄せた張本人である騎士団長に、『今この世界では邪神とその使徒が暴れている』、『二十くらいあった国々も今は三つしかない』、『過去に似たようなことがあったときは、異界から英雄がやってきてなんとかしてくれたから、それにならって君たちを呼び寄せた』っていう説明をされた。
けどそのとき、逢坂は約六割くらいの集中力でしか聞いていなかった。
逢坂はこの世界に来てすぐに、『力』に目覚めた。
後々遅れて他のクラスメートも覚醒していき、途中で『表世界の神の力を拝借している』という性質が判明し、そこから【神寵】という固有名詞がついた力だ。
逢坂は、残りの四割の思考で、我ながら恐ろしいことを考えていた。
――この力があれば、九年前に思い描いていた絶景を創れるッ!
一年二組はやがて、この世界ではレアとされるジョブ【勇者】であった三人を軸に、大まかに三つのグループに分かれた。
①学級委員と、その友達による王道グループ。
②俺たちの町を城下町とする地方財閥の御令嬢と、その重役の子どもたちによる優等生グループ。
③クラスの番長的存在と、そのシンパによるワルめな陽キャグループ。
その他に、それらのどれらにも属していない奴らもいるにはいるが、お察しの通りまともに本筋に絡んでこないからあんまり気にするな。
俺が属していたのは③だ、友だちも番長にベッタベタにくっついてたからな。
ちなみに俺も【勇者】ではあるが、下手に注目を集めたくはないので、『最後』までそれは隠しておいた。
こうして俺は、自分の【神寵】の能力の一つである、『偽装』を被せられるそれを用い、例の三グループが起こすイベントにちょくちょく介入した。
その当たりの話は複雑怪奇なのに加えて、人名地獄であるので一気に端折る。
最終的に、三つのグループはそれぞれ国とそれが持っていた軍を手に入れた。
優等生グループは、俺たちを呼び出した奴のいる国を、俺が令嬢に提案した人民粛清システムを用い、恐怖で支配した。
陽キャグループは、二つ目の国を率いていた王族兄妹を、俺の策謀が生んだ自然な流れに乗っかり暗殺し、番長に国を簒奪……いや、この言葉だと氷の皇帝さんを彷彿とさせちまうから……『乗っ取り』をさせた。
そういえばこの世界を脅かしてたという邪神はどこいったんだ? と、思っている方々もいるでしょう。
ご安心ください、この大戦争にそれも介入しています。
そして三つ目の国へ亡命したあの学級委員が、王に任命されるがてら、その管理権を与えられていたのだッ!
黒幕はその『三つ目の国』にいたッ! 自分たちの権力を守る隠れ蓑としてこのもう一つの世界を作り出し、いざというときの『懐刀』として邪神を創造した!
それをやった黒幕……俺の故郷の異世界『カミナギヤサカ』の真の帝王は『十三人の老人』だったのだッ!
学級委員は最初に三勢力が全てぶつかった争いの最中に、俺の手により幼馴染の女子を殺された怒りから復讐鬼と化し、歪み始めた。
唯一の取り柄であった『人を助けたいという意思』すらも、『何もかも消してしまえば実現する』という具合に変わっていった。
そんな奴の脆さに老人たちはつけ入り、『王』という名の傀儡とし、自分の庭を散らかす二人の勇者(令嬢と番長)を始末しようとしたのであるッ!
軍事力を手に入れてからすることと言えば二つに一つ。それは『戦争』!
陽キャグループ、優等生グループ、友達グループはそれぞれの思惑を抱き、同時に宣戦布告した。
この戦いは熾烈をきわめた。
三勢力はこれまで各々抱いていた他勢力に対する不平不満憎悪怨念をありったけの、コードに引っかかるくらい汚い表現を使いながら吠えまくった。
現地住民はもちろん、三勢力とも当然のようにクラスメートがバタバタと死んでいった。俺の友達も例外なく殺した。
一番手勢の少なかった王道グループは、邪神由来の力に手をそめまくった。生徒会長でさえも、自らの意思で邪神と融合し、破壊のかぎりを尽くした。
この醜い争いの果てに立っていたのは、この俺、逢坂雄斗夜ただ一人ッ!
全員が戦い疲れ、弱っていたところを漁夫の利でかすめ取ったみてーな、みみっちいことはしちゃあいないぜ。
他の勇者たちが三つ巴の総大将戦を行うってところに、俺は乱入すると同時に、『全て』を話した。
自分がこの争いを仕組んだ真の”首謀者”であることを、勇者であることを、神寵が【ロキ】であることを、そしてありったけのコソ練によってケタ違いの力を手に入れていることを。
そして俺は、二人と一柱を同時に相手取り、見事勝利したのだ。その経緯はいかにも俺らしくタルいから話はしないが。
それから逢坂は観戦していた老人たちをサクっと殺し、吐かせた帰還方法で元いた世界に帰還……ああ、これもあのゴールデンスーパーヒーローを彷彿とさせちまうから……無難に『帰った』ってしておこうか。
俺が裏から表世界に帰ったころ、老人という裏の主人を失った世界中の政府はあたふたして、国際情勢は急激に不安定になり始めていた。
それをとことん哀れに思った俺は、奴ら全員の頭に慣れた手つきで『幻影』を植え付け、第三次世界大戦を決行させた。ここでも混乱を引き起こしたいとおもったからだ。
して、その感想だが、こちらもこちらで、いい気分だったと言っておこう。
裏で大暴れした三勇者も、表に遺された権力者たちも、全員俺が陰謀を張り巡らせなかったとしても、遅かれ早かれこれまでの恨みが爆発して、ドンパチするに決まっていた。
だから、俺のやったことは親切だった。
俺のいた世界には、決して全員生存みたいな甘ったるいルートは存在しなかった。
だから、せめて俺は全員がいい具合に死ねるようなルートに固定させてやったんだよ。
ああしてお互いの醜い欲望を全て吐き出し、自分の『運命』を正直に歩める、勇気あふれる人間にしてやってな。
そうか、だから俺があの連続殺人犯に敬意を表したのか。ヤツは下方向へ落ちるだけ落ちていく『運命』を、思い切り転がっていった。
ドス黒い『尊厳』――言い換えるならば、そうした『潔さ』が気に入っていたのか。
という具合のことを、世界のどっかに用意したオレだけの避難地で『どこ誰が戦ってるっていうこと』しか報道しないテレビを観ていたときにしみじみ思った。
強いて嫌だったことを思いだすとすれば、両親がオレだけが帰ってきたと知るやいなや、『報復』を恐れて自殺しちまったことくらいか。
帰ってきてから約三年後、幻覚もすっかり仕込み終え、その甲斐あって世界中の国が全てなくなった。
その時、俺は何事もないように漫画を読んでいたところでいきなり、何もかも真っ白の空間に立っていた。
あとは皆様ご存知の通りだ……
こうして逢坂雄斗夜、改め、”首謀者”はコバヤシに会って4Iワールドエンフォーサーズになった。
この際だから言っておこう。俺は首謀者になれてよかったと思っている。
まだ見ぬ世界に山ほどいるだろう、自分の『運命』へ見苦しい抵抗を続ける、日向を堂々歩けない野良犬をしつけることが出来るのだから……
【完】




