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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD2 魔王軍VS勇者学園の舞台『ハークズカレッジ』
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W2-11 勇者学園の真実

 ルミナスとカルヴィン。二十にも満たない齢の少年二人は、魔王を倒すための装備や仲間を集めるべく、大陸で一番大きい街である、王都へ行った。

 そこで二人は、別の二人の少年と出会った。


 一人はタイロン。王都を守る騎士団長の息子であり、親譲りの高潔さと正義感を併せ持つ少年だった。

 もう一人はフォスター。王都の孤児たちをまとめ上げ、幼いながら大人顔負けの窃盗行為の常習犯である少年だった。


 王都に来て早々、ルミナスとカルヴィンは、この二人の追跡現場に出くわした。

 ルミナスは直感で決めた。この二人がいれば、きっと魔王を倒せる。と。


 そうしてルミナスは、追いかけっこをする二人をさらに追いかけて、仲間になるように説得した。

 タイロンもフォスターも、最初はルミナスを単なる夢見がちな少年だと思い、決して相手にしなかった。

 けれども彼が、あまりにも執拗に追い回すものだから、二人は渋々受け入れた。


 出生、経歴、境遇が正反対な以上、二人の仲は同じパーティーメンバーになっても険悪のままで有り続けた。

 マーシア、ネル、セオドア、アルマ……旅の中で増えていったメンバーとは、二人は大きくいがみ合うことはなかったが、その二人の仲はそう簡単には打ち解けなかった。


 けれども二人は旅が中盤に達していき、その障壁が高くなっていくごとに、互いに互いを信頼していくようになった。

 きっかけと言えるものは特にない。

 強いて言うとすれば、両者とも、旅路が長くなっていくにつれて増えていくルミナスの無茶をずっと気にかけて行動していたことが積み重なった結果なのかもしれない。


 そして、冒険の終着点で、二人はルミナスとカルヴィンの幼馴染と同等のコンビネーションを発揮し、魔王を打ち倒すことに貢献した。


 それ以降――-ルミナスが王冠を戴いた後も、タイロンは騎士団長として、フォスターは王都を影から監視する密偵の長として、立場こそ違えど協力し続けていたのだった。



 時が経ち約二十年後。王都北部、王城前にて。


 タイロンは斧を、フォスターはブーメランを、お互いの得物を、お互いの首筋に食い込ませて絶命させていた。

 首謀者のスキル【虚実を装うヨトゥン】を戦闘の最中に流され、お互いに認識を狂わされた結果であった。


 その場面のままで固まっている二人の横を通り過ぎ、勇者ルミナスとの遮蔽物がない状態にしてから、首謀者は尋ねる。

「で、どうよ。目の前で仲間同士が殺し合った場面を見た気分はよ?」


 ルミナスは、二人によって刻まれた傷の痛みも忘れて、首謀者へ言った。

「……最悪以外になんと答えればいい! 強敵と戦ってならまだしも、あれだけ、あれだけ仲間として時間を共にしたこの二人が、よりによって……!

 あの時、魔王に抱いた感情を遥かに超えてくるなんて……!」


「そ、そうだぞお前! 僕の父上でさえもそんな卑劣なことは考えぶっ!?」

 

 続けろ。と、脱走者が不機嫌な面持ちで、ついさっき魔王デモリオスの後頭部に叩きつけた手でジェスチャーしている。

 それを振り向いてチラッと見た後、首謀者は語る。


「言っておくが、俺としてもあの二人の運命は『不本意』だった……」


「あんなことしておいて、そんな戯言を……」


「話は最後まで聞けって勇者さんよ。

 俺が二人に掛けた『幻術』はな、誰にでも効くわけじゃあない。

 強い『覚悟』、それさえあれば耐えることができる。

 つまりだなァ~~、あの二人にはそれだけの気概がなかったっつーワケだッ!」


「まだ馬鹿にし足りないか!? タイロンもフォスターも、魔王討伐という苦難の道を乗り越えてきた勇気の持ち主! 貴様のような卑怯者に屈するようなことなどない!」


 首謀者は後ろに親指を突き出した右手を振りながら、

「それに屈しちまったんだぜ、この通りなァーーッ!

 まだ信じられないってなら、俺が特別にその『原因』を教えてやってもいいんだぜッ!」


「そんなもの聞いてくれる……」


 首謀者は強行する。

「コイツらには『迷い』があったんだよ。『このまま尽くし続ける』ままでいいのかってな。

 けどお前は違う。『迷い』はない……って言うより、『色々諦めた』って言ったほうが適切か」


「……俺が、何を諦めたというのだ」


「自分が一番わかっているんじゃあないか……と、言いたいが、せっかくそちらから歩み寄ってくれたお礼に、キチンと俺から答えてやる。

 学園と魔王。この二つの関係が歪み、腐っていった『世界』についてだ。

 具体例を一つ言うならば……今この王都でそこら中で死んでる、『魔王を倒す気のない勇者』もその一部だ」


 勇者は無言を貫く。それすなわち、首謀者にこの世界の真実を見抜かれたことを認めたのだ。



 約二十年前。

 勇者ルミナスは見事魔王を撃破し、王都に堂々凱旋した。

 

 そして国王は褒美として、王女をルミナスに嫁がせ、彼に玉座を譲った。


 勇者はこれを快く受け入れた。

 魔王を倒すことだけが世界を救うことじゃない、魔王に荒らされた大陸を再興するところまでが真の救世であることを知っていたからだ。


 即位間もなく、ルミナスはカルヴィンを大臣に置き、いち早い復興を目指すべく、大規模な改革と、積極的な君命を放った。

 

 ところが、それらの働きはあまり意味を成さなかった。

 実行役となる旧来の貴族たちが、それを無視、あるいは、自分たちが有利になるような改変を行ったためだ。


 これに気付いたルミナスは、すぐさま貴族たちを罰するように動いた。

 しかし、その処罰は中断せざるを得なかった。


「陛下が本性を露わにした」

 ある者は自分の悪事を棚に上げて、ルミナスの評判を落としにかかり、

「ただの村民風情が政治も知らぬくせに、これまで国に尽くしてきた我らを侮辱するのか」 ある者は自分の権力をちらつかせて抵抗し、

「魔王の次は人間を滅ぼしたいのか?」

 ある者は、復興の最中という情勢を逆手に取って罪から逃れようとした。


 タイロンは『証拠を並べ立てれば、確実に罪状を言い渡せる』フォスターは『粛清する術はいくらでもある』と、ルミナスに提言した。

 それでも、ルミナスは旧来貴族の処罰は取りやめた。


「今は国民全員で協力するべきなんだ。きっとその態度を取り続ければ、彼らも少しは見直してくれる」

 と、ルミナスは勇者として、人の代表としての使命を大切にしたのだ。


 魔王討伐から五年後。

 退位以降、まるで現世に繋ぎ止める鎖が切れたかのように急速に老い衰え、寝たきりの状態が続いていた元国王が死亡して間もない頃、大陸南西部に新たな魔王軍が出現し、再び大陸は恐怖の暗雲に覆われた。


 ルミナスは再び返り討ちにせん、と、自ら軍を起こそうとも思った。が、今は勇者に加えて国王という重荷も背負っている。

 かつての仲間たちも、国の重役に就いていたり、辺境の再興の指揮で多忙となっている。


 故にルミナスは新たに、勇者パーティーを育て上げる『学園』を設立した。

 こればかりは貴族たちに邪魔されないように、国王としての権威を強引に振るい、黙らせて実行した。

 その学園長にはパーティーメンバーとしても、人としても最も信頼できるカルヴィンを任命し、次代の勇者の到来を求めた。


 そしてそれは夢に終わった。

 

 校則では、入学は平民も貴族も区別せず、料金も気持ちを示してもらう程度のものに抑え、門戸を広くしていた。

 けれども、実態としては、貴族が学籍の大半を占めていた。単純に、彼らが平民を見下し、いじめ、そして退くようにしていたからだ。

 もちろんカルヴィンは学内の差別行為を止めるように尽力してたが、こちらもこちらで旧来貴族の力に抗いきれず、結果、学内の軋轢はまるで改善されなかった。

 だが、これは学園の影の末端に過ぎない。

 ここでの真の問題とは、学生のほとんどが勇者を目指そうとしていないことだった。


 かつて勇者として励んでいた経歴があれば、各国政府の役職に任命されやすくなる。

 かつて勇者として励んでいた経歴があれば、大手ギルドへの所属がしやすくなる。

 かつて勇者として励んでいた経歴があれば、親の跡取りとして十分な資格が手に入る。


 そうした、世界救済と比べると遥かに低い位置にある目的に注目する者ばかりが、学園の授業や実習を受け、勇者になるフリをし、そしてその通りになっていった。


 学園設立当初より、ここの本来あるべき姿はなくなった。

 この学園は勇者を育て上げ、世界を救う鍵を作るのではなく、いつ終わるかわからない世界に残った甘汁を独り占めしようとする者たちの『通過点』に変わり果ててしまったのだ。


 カルヴィンは言わずもがな、ルミナスも強引に主導して設立した身として、それを指摘することはできなかった。

 かくしてルミナスは約二十年間、虚しく玉座に座り続けた。

 貴族たちの怒りに触れないように国王の最低限の務めを果たしていた。

 その子息たちが勇者の卵という体で、課題の弱い魔物と戦い続け、雀の涙の救世を行っていることに喜ぶようにしていた。


 これが、勇者としての務めだと、自分に何度も言い聞かせながら。



 無言を貫く勇者ルミナスへ、首謀者は尋ねた。

「なあ、お前本当に勇者なのか?」


 流石にこれは言い返すべきだとルミナスは思った。

「ああ、俺は紛れもなく勇者だった」


「じゃあなんでこんな有り様になってるんだよ。お前が勇者ならこんなことにならなかっただろうが」


 ルミナスはこれまでかろうじて残っていた勇者と国王の気品を捨てるように、声を荒らげる。

「勇者であるのにこうなったのだ! 自分の希望は尽く潰された! 旧来の勢力には太刀打ちできなかった! 仲間七人を除いて、誰も俺の孤立を気づかう者はいなかった! 凱旋の直後、俺を『過去にも未来にも現れないだろう英雄』と褒めちぎっていた王妃も、いつの間にか愛想を尽くしてどこかの男と逃げていった!

 そもそもな話、私はただ、世界を救いたいだけだった……だから魔王を倒したんだ! なのに、どうしてこんな雁字搦めの運命に放り込まれなればならなかったのだ!

 貴様、こればかりは解せるか!?」


「解せるぜ。お前は、真の意味で勇者じゃなかったからだ」

 

 ここから首謀者は、大きく息を吸って語る。

「『勇者』とは、『魔法と剣が両方使える者』でも、『魔王を倒すパーティーを率いる者』でもない。『勇気ある者』というのが元々の意味だ。

 それに必要な『勇気』とはいったい何か!?

 『勇気』とは『闇』を取り除くことッ! 未だ誰も触ることも近づくことも見ることもしなかった、得体のしれない『闇』へ己の覚悟をバネにして挑み、誰でもなかったそれに己の存在を刻み付けることだッ!

 最低でも、魔王という規格外の敵に立ち向かったことは、紛れもない『勇気』があったからだと。そこは俺も認める。

 けどそれ以降、お前は勇気を見せる瞬間はあったか? 無さそうじゃあないかよォ、テメェーーッ! どうなんだよ、オメーよォ~~ッ!?」


 勇者は再び黙りこくった。

 先程の沈黙は、わざわざ自らの口で負けを認めたくないからという、決して良くはないがそういう事情があったからだ。

 だが今は、本当に何も言えない。

 自分が本当に勇者であると自信満々に言葉を発することも、まさしく首謀者の言う通りだと認めることも、いずれかの取捨選択をする『勇気』が、ルミナスにはなかった。


 この静寂に耐えかね、ずっと今まで大人しくしていた脱走者は言う。

「おい首謀者、お前もう少し簡単な質問してやれよ。あのジジイ困ってるし、アタシ待ちくたびれたんだけど」


「伝承が正しければアイツ、四十手前だとは思うんだけどな……まぁ、それは『一理』あるし、俺もさっさと終わらせたいから、了解。

 てなわけでルミナスさんよ、一気に質問変えるぞ。お前、ジョブは【勇者】なんだよな?」


「……ああ、それは紛れもなく、【勇者】だ」


「奇遇だな。俺も実は【勇者】なんだぜェ~~ッ! 【能力証明】ッ!」

 と、首謀者が叫ぶと、彼の頭の右横に、半透明の光の板が現れる。


 そこには以下の記述があった。

 名前:『今はシュボウって呼んでね』

 レベル:100

 ジョブ:【勇者】

 神寵:【ロキ】


 そして首謀者は光の板を消すと同時に、左手で逆手持ちする短剣と、右手で順手持ちする長剣を構え直し、一旦首を後ろに回して、


「おい脱走者! 魔王を抱えてちょいっと遠くにいっとくれ! 悪いが俺の本気のバトルは過激なんで、そのガキに変な死に方させちまうかもしれないからよォ~~ッ!」


「わかった。じゃあ今度という今度こそ、本気出せよな、アタシらの勇者様よ!」

 と、言って脱走者は、デモリオスを片腕で持ち上げたまま西の方へ、通常の速度で走っていった。


 それを軽く見届けた後、首謀者はルミナスに向き直し、

「てなわけでこの世界の勇者さんよォ~~、この世界を救う気持ちがまだあるってんなら、俺と戦ってくれるよなァ~~ッ!? なぁッ!?」


「……それ以前の問題だ」


「何だ、仲間のためってか?」


「いいや、それ以前の問題だ……俺は、かつて勇者だったという誇りを取り戻す! ただそれだけだ!」

 ルミナスもまた、二十年前に魔王を倒した聖剣を強く、強く握りしめ、構えを正す。


「よろしい。ならば、やれるもんならやってみやがれェーーッ!」

「望むところだ!」


 かくして首謀者とルミナス。二人の勇者の一騎打ちが――この世界の存亡を賭けた戦いの一つが、ここに始まった。


【完】

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