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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD2 魔王軍VS勇者学園の舞台『ハークズカレッジ』
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W2-9 vs伝説の勇者パーティー①

 王都北東部。

 石畳の道から煉瓦造りの壁に至るまで薄氷を帯びたこの地で、二人の闘士が相対していた。


 片方はこの世界では普遍的な武道家に扮する、氷の剣を携えた女性――4Iワールドエンフォーサーズの一人、簒奪者。

 片方は古風な赤鎧に身を包む、竜の御姿を象った剣を携えた女性――伝説のルミナスパーティーの格闘家、ネル。


 二人はまだ一瞬しか攻防を行っていない。けれども二人はその一瞬で、お互いただならぬ人物であることと、間もなく壮絶な戦いが起こることを予感していた。


「お主であるな、この王都で魔王と共に災いを起こす極悪党は」


「そうとも。かくいう君は……例の伝説のパーティーの一人かね」


「如何にも。私はネル。東の辺境の地にある国の王である」


「王? にしては身なりと佇まいが猛々しすぎるではないか。僕も言えた義理ではないが」


「生憎、我が祖国は文字通り『一番強い者』が王になる。血筋も尊敬も関係なくな。

 ルミナスには私の武者修行の根幹で大分、世話になった。故にこの時、彼に恩を返そうと思ってなぁ……」

 ネルはここで口を閉じ、簒奪者の顔色を伺う。出会って間もないころと同じ、満面の笑みのままであった。

 なので彼女は簒奪者に尋ねる。


「……お主も、これ以上の話はいらんな」


「その通り。冗長なのはごめんだ。僕たちはこれでいい」

 簒奪者は空いた左手を目前の空間に振る。八つの鋭利な氷の塊が、ネル一点へ飛んでいく。


 しかし氷の塊は全て、ネルに通じなかった。

「ハァッ!」

 裂帛の気合と同時に彼女の鎧に火が灯り、それら全てを霧散させたのだ。

 

(火を発する鎧か。なんと都合よく僕の前に現れたものか)

 簒奪者は次の攻撃を仕掛ける。薄氷を帯びた地面を滑り、ネルに急接近し、氷の剣を振りかざす。

 ネルは再び叫び、炎を滾らせた左腕の手甲をかざす。


 そして氷の剣が、手甲本体に当たり、僅かに亀裂が入った。


「ほう、この剣は溶けぬのか」


「常に僕が『力』を込めているという理由もあるが、これは少々丹精を込めて生成したものなのだから」


「ならば今より気をつけるとしよう」

 ネルは右手に持つ剣を、燃え盛る左肩当てにかざし引火させ、即座に相手に振るう。

 簒奪者は腰を反らし優雅に相手の太刀を避けつつ、右足を振り上げた。

 同じくネルも腰を反らせて蹴りを避ける。


 そして二人は体勢を真っ直ぐに戻すや否や、剣戟と殴打の応酬を繰り広げた。

 まだ相手の出方を図っているのか、この時を終わらせるのが惜しいのか、両者ともに、攻撃と防御のどちらとも捉えられるような隙の少ない行動を取り続ける――そうした時間が長く続いた。


 先に勝負を終わらせにいったのは、簒奪者だった。

 彼女は腰を落としつつ、大きく前に一歩踏み出し、ネルの心の臓をめがけて氷の剣で突きを放った。

 しかし氷の剣の先は、虚空をつくばかりだった。見事にこの一手を見きったネルが、僅かに右に位置をずらしたのである。


「しくじったな、お主よ!」

 そしてネルは前かがみになった簒奪者の背に、炎剣の切っ先を突きつける。

 だが、その切っ先もまた狙いが外れた。簒奪者ではなく、彼女の足元の地面に突き刺さったのである。


「それは貴方ではあるまいか……いや、これは流石に読めないか」

 と、簒奪者は、右手に持つ、短めの柄に直角の刃が伸びている、独特な作りの氷の武器――俗に言う『戈』を一瞥しながら言った。

 

 ネルはその戈に抉られた左脇腹を抑え、顔を歪ませながら、

「お、お主……いつの間にそのような武器を……」


 簒奪者は右手をピンと横へ伸ばし、戈の柄が真下へ向くように持つ。

 直後、その短かった柄から新たな氷が伸び、地面に付く。同時に、上部先端部分には、直角の刃の反対側に半月型の刃が、柄の延長線上には槍の刃が生えた。

「つまり、こういうことさ」


 そして簒奪者はその変形した氷の武器――今度は『戟』を、苦しむネルの首筋に容赦なく向ける。

 ネルは脇腹の苦痛を気合で忘れつつ、地面にかがむ。

 それから前転の要領で簒奪者との間合いを詰め、途中拾い直した愛刀で斬り上げを放つ。


 途中、簒奪者は戟の柄の下部に両手を置き、石突でネルの顎を捉える。

 ネルの頭がぐわんと宙へ向いた刹那、簒奪者は戟を勢いのまま一回転させ、直線の刃がネルの胴に合わさったタイミングで力を込める。


「ぐぅ……ッ!」

 口と銅から自分の鎧を勢いよく赤黒に濡らすネル。それでも目にはまだ闘志が灯っていた。

 ネルは鎧の炎を胴体に集結させると同時に、自分の身体に刺さる戟の柄に、燃え盛る両拳を叩きつける。

 灼熱と腕力、この二つが合わさり、戟の柄はへし折れた。

 

 すぐさまネルは数歩退き、呼吸を整える。彼女の鎧は、残りの命の残量を暗示するように、すっかり熱を失っていた。

 その時、簒奪者は、氷の剣――今度は、刃が大型で厚みがある――を軽々と構えていた。


「わ……私は武者修行の中で、様々な相手と戦った。無論、拳闘や刀剣を得意とするものだけでなく、長物や飛び道具を用いる者にも……だからそれに対する心得は付いていた、だが……」


「まさかそれを一人が併せ持ち、それも瞬時に切り替えられる。そんな夢物語、考えもしなかった……と申すか?」


「すまぬが、そうだ……!」


「ならば、もうよい」


 簒奪者は剣を最上段から振り下ろす。

 二つの氷の塊は、やがて粉々となって消滅した。



 王都南西部にて。


「た、助けてくれー!」

「皆逃げろ! つ、強すぎる!」

「な、何だアイツの武器は!? 先を向けただけで人が死んでいくぞ!?」


 勇者パーティー、王都の衛兵、それから魔物たちが、バタバタと死んでいった。

 その死の範囲の中心にいるのは、ジョブ【戦士】が良く装備する鎧を……脱ぎ、身軽なインナー姿をした灰色髪の男――戦死者。

 

 戦死者は右手にはサブマシンガン、左手にはアサルトライフルを携えていた。

 銃器そのものの重量はもちろんのこと、発砲と同時に発生する反動すらもないかのように、両腕を四方八方に伸ばして、目に入った順に敵を射殺していく。


 乱射と移動、これを繰り返し、戦死者はここ一帯にいる敵を片付けていく。

 理性のない魔物はともかく、衛兵も、勇者も、誰一人として、戦死者のいる方へ向かっていこうとしなかった。

 全員、銃というこの世界においては得体のしれない武器と、戦死者そのものの冷徹な戦闘能力を目の当たりにして、怖気づいてしまったのだ。


 なので戦死者は一方的に乱射を続け、街に死体を積み上げていった。


 その途中、戦死者は足と、撃鉄を引く手を止めた。

 撃たれることを覚悟していた人々が、その様子を不思議に思い、そして、この隙に反撃してやろうと慎重な足取りで近づく。


 そこで戦死者は踵を返すと同時に左腕を伸ばしてアサルトライフルを構え、引き金を引く。

 男の痛々しい悲鳴が遠くから聞こえたのを確認した後、戦死者は全方位乱射を再開した。


 その戦死者がいる地点から北へ約四百メートル先の、王都では一般的な三階建ての石造りの建物の屋根の上で、しなやかな獣の皮を羽織った男が、右目を手で抑えながら、うめき声を上げている。

 右目に置いた手指の隙間から漏れる鮮血の匂いに激しい不快感を覚えながら、男は残された左目で、先ほど狙撃しそこねた戦死者の姿を再び捉える。


「ま、まさか俺が射る前に逆にしかけてくるとはな……敵ながら天晴だ」


 その男の名前は、セオドア。

 かつてルミナスパーティーの【狩人】して、先祖代々受け継いできた狩猟技術を用い、幾度となく仲間たちへの害を排除してきた英雄であった。


 彼は仲間からの招集を受けて移動魔法で王都に来てすぐ、混乱の種の一つである戦死者の狙撃を試みた。

 何の変哲もない建物の屋根を位置取り、精神を研ぎ澄まして弦に矢をかけ、放つ。いつも通りのことをするだけだった。


 ところが、矢を放つ寸前に、戦死者はそれに気付いた。

 初めは殺気、決定打は矢尻に反射した僅かな光。それを感知した戦死者はすぐさまアサルトライフルを発砲したのだ。

 セオドアにも一流の狩人として身についたカンがある。彼は無意識に『逆に撃たれる』ことに気づき、首を傾けた。

 それで本来は眉間に当たるはずだった弾丸を、右目にかする程度で回避できたのだ。


 しかし、狙撃手にとっては命と同格に重要な片目が奪われたのはあまりにも大きい。

 セオドアは常備している包帯で最低限の処置を取り、次のプランを考える。


(奴が持つあの武器、あれは恐らく、クロスボウとかいうものの一種だろう。弓と比較すると力が要らないという、新種の武器だ。もっとも、それにあるはずの弓部分が見当たらないが。

 とにかくあれは、ああいった乱戦中でも最大限まで引き絞って放った矢以上の威力を出せる。そしてヤツはその状況下でも平気で急所を狙い撃つことが出来る。

 つまり、俺はこうして弓でいくら離れて狙撃を試みたとしても、もう成果は望めない。

 ならば……竜の宝玉が欲しくば、竜に挑むように。だ)


 セオドアへの反撃を終えた後も、戦死者は敵の掃討を続けていた。

 やはりと言うべきか、もう誰も戦死者に打ち勝ってこの王都の危機を救うという気概を持つ人間は誰もいない。逃げるか隠れるか泣き叫ぶかのいずれかしか出来ていなかった。

 

 そんな中、突如として戦死者のいる場所一帯が、白い煙に染まる。

 自然界には決して存在しないような独特の香りがするが、吸うこと自体に害はまるでない。

 なぜならこの煙は、ただ相手の視覚と嗅覚を奪いつつ、行動を制限することを目的としたしたものだから。


 それを調合した当人――セオドアは、この白煙の中を、毛皮を仕込み、足音を消すように細工した靴で全力疾走し、戦死者の真後ろから、毒液をたっぷりと塗りたくったナイフを突き出した。


 するとセオドアはナイフを握った右手を戦死者に掴まれ、力ずくで背中の方に回される。

 そこから突撃の勢いを利用され、うつ伏せに倒される。


 直後、セオドアは右肩辺りで関節の痛みを、後頭部で金属の冷たさを感じながら尋ねた。

「な、何故、俺が来るとわかった……」


 戦死者は答えない。しばらく無言の時間が続く。張った煙幕が薄れていく。


 そしてセオドアは間近に迫った地面に向かって、フッと笑った。

「……もういい。俺はそこらの獣とは決して違う。間近に迫った死に対してバタつくなんて御免だ」


 戦死者はその言葉を受けた後、固めたセオドアの腕から手を離しつつ立ち上がり、彼の元から離れていく。

 そして戦死者は、まだ煙幕が漂う方へ振り向いてピストルを一発放つ。


 刹那、白煙は銃弾に籠もる熱に反応し、たちまち爆炎へと変貌。その一帯を黒焦げにした。


 セオドアの最期の罠を見切った戦死者は、前を向き直し、次の敵を探しに行く。


【完】

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