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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD2 魔王軍VS勇者学園の舞台『ハークズカレッジ』
18/79

W2-8 勇者、戦闘開始!

 王都市街地の一角にて。

「どけどけどけー! さもなくば弾き飛ばすぞッ!」


 脱走者は高速移動を存分に発揮して縦横無尽に走り回り、目に入った敵――魔王軍の魔物や、勇者パーティーたちを次々と撃破していった。


「まるでアイツらが独りでに死んでるみてーだな……俺も負けてられんな」

 それと比較すると明らかに桁数が違うものの、首謀者も左手で逆手持ちしている短剣を器用に振るい、身近な敵を切り結んでいく。


「ぐっ、こんなに強いのならせめて真っ向勝負してもよかったんじゃないか……!?」

 首謀者の右腕でずっと抱えられている糸巻き状態の魔王デモリオスは、口惜しさにしかめっ面になっていた。


 そういった具合に大殺戮を繰り広げていった二人はやがて、図らずも王都の真北部に堂々と建つ、王城の前に着いていた。


 脱走者は衛兵一人を蹴り殺した反動を生かして、首謀者の元に戻り、

「ここだよな。この国の王様がいるって場所は」


「そりゃそうだろう。この街にここ以上にデカい建物ないからな」


「そうか。じゃあここに王様がいるってことだよな」

 と、脱走者は足踏みをしながら言ってくる。


「へぶっ、急に離すな!」


 それを見た首謀者は両手のひらを見せて静止を訴えつつ、

「オメーよー、昨日の温泉での話忘れたか? ここの王様はタダモノじゃあないってことをよ」


「ああ、そんな話してたな。えーっと、確か、元勇者なんだっけ?」


「そうだ、ルミナスだ。父上を殺した偽善者……ぐえっ」

 首謀者は地面に転がるデモリオスの顔面を踏みつけながら、

「ルミナスって名前は初めて聞いたな。どいつもこいつもどのメディアも、気を使いまくってるのか知らねーが、国王としか呼ばんからな。

 そのルミナスって奴は二十年前に現れた先代魔王を倒し、その功績から先王に姫を譲られて国王になったんだ。

 こないだのアレみたいな態度と悪意と下っ腹だけはデカい権力者とは、実力がチゲーんだ。

 だから自分たちからあんなデカい城に飛び込むなんざ、腹の調子が悪い時に大盛りの激辛ラーメンを食べるようなモンだ……」


「……どゆこと?」


 首謀者はデモリオスの顔面をより強く踏みしめて言う。

「とにかくコイツを餌にして、敵が慌てふためくのを待てってこと……」


 その時、首謀者はデモリオスを地面に擦り付けるように踵を返し、左手の短剣を振るう。

 高い金属音が鳴り響いた後、空中に三枚刃のブーメランが舞い、そして戻っていく。


「噂をすれば影とやらってかァ~~! よお、おっさんども!」


 脱走者と首謀者の前に現れたのは、壮年の男性三人と女性一人だった。


「俺の先制攻撃を防ぐとは……前の魔王以来だな」

 細身の男――フォスターは帰ってきたブーメランを軽々とキャッチしつつ言った。


「流石は魔王を生け捕りにした連中……ただのラッキー野郎じゃなさそうだな」

 鎧姿の大男――タイロンは大斧を構えながらぼやき、


「あんなのがラッキー野郎だなんてありえませんよ。あのような悪人が、神の慈愛を受けられるわけありませんもの」

 純白の法衣に身を包んだ女性――マーシアは皮肉を言い、


「つまるところ、俺たちが出て正解だったということだ」

 全身に光を湛えた装備で固めた威風堂々たる男――伝説の勇者、ルミナスは仲間に告げる。

 そして彼は一歩前に出て、


「お前たち、よくも我々が守り続けて来た人類の英華の象徴である王都を、我らが友の血で汚してくれたな」


 脱走者は返す。

「にしては出てくるのおせーじゃねーかよお前ら」


 この言葉に四人は面食らい、暫し口をつぐむ。


(あれ、何で黙ってるのアイツら……?)

(脱走者にしてはド正論だったな今の。ゼッテーねらったのじゃないと思うケド)


 しばらくして口を開いたのは、マーシアだった。

「悪いのは貴方たちですよ。魔王をああして束縛したにも関わらず、殺さないどころか、まさかこの大陸一の大都市に持ち込んでくるなんて、神でも予想できないほどの愚行をするのですから」


「だから人が死んでもしゃーないってこと?」


「そんなことはありません。たとえどんな矮小な命であろうとも、全ての命は与えられた生を全うすべき。それが神の御言葉でございますから。

 故に私は、かつてのパーティーメンバーを助けるだけでなく、不幸な民たちを救うためにもここにいるのです」


 そのマーシアの言葉の間、脱走者は、ルミナスパーティーへじっと目を向けて身構える首謀者へ向けて首を回し、ブツブツと何か言っていた。

「ん、ええ? ああ、そう……じゃあわかった、OK、はい」


「……聞いてますの? そこの哀れなお嬢様……」

 と、マーシアは脱走者に尋ねた。


 直後、脱走者は後ろに飛んで首謀者の元へ戻った。

 その時既に、マーシアは体中に打撃の痕を残した状態で、城壁に血まみれで叩きつけられていた。


「!? ま、マーシア!?」

「テメェ、よくも俺たちの仲間を!?」

「貴様、一体何をした!?」


「速攻で殴ってやっただけだが?」

「そうだ。ヒーラーは早めに潰しておくに限るんでな」


 先程、マーシアが喋っている間、首謀者は自分自身に、真正面を向いている自分の姿の幻影を被せた。

 その間彼は、こっそりと脱走者に耳打ちをし、彼女が言った通りのことをやらせたわけだ。


「もう黙っちゃいられねえッ! おいルミナス、あの極悪人どもに何が正しいかを教えてやるぞ!」

「余計なことは言わず、さっさと俺に殺らせろ……そして、マーシアの無念を……!」

 仲間を無惨にも殺された義憤に燃え、急かしてくるタイロンとフォスターへ、ルミナスは目をゆっくりと閉じて、

「そんなこと、いちいち聞くんじゃない!」

 二人よりも先に得物の剣を掲げて、王様らしからぬ荒々しい気迫を纏いながら脱走者と首謀者へ迫る。


「来な、お前も超速攻で地獄だが天国だか、とにかくどっかに送ってやる!」


 右拳を突き出して脱走者は構える。その前に、首謀者は左手を横に伸ばして立つ。


「おい脱走者、ここからは俺の『番』だぜ」


「なんだお前、急にイイトコで出て来やがって」


 首謀者は首だけ振り返り、目を見開いて、

「最後までお前らに戦わせっぱなしとは、勇者としてよくないじゃあないか。だからここだけは俺がやろうと『親切』に言っているんだ。お前はそれを素直に受け取って、お前はしばらく魔王のお守りをしやがれッ!」


 この時の首謀者が発した強い意志に、脱走者は自分ではよくわからないが気圧され、

「わ、わかった……だがお前、やれるのか?」


「やれるとも。『わかった』と言ったくせにそんな質問するな」


 そして首謀者は左手で逆手に持つ短剣を正面にかざし、ルミナスの初撃を受け止める。

 続けざまに、フォスターの投げたブーメランが弧を描いて首謀者の側面を攻めてくる。


「はい残念!」

 首謀者は、マントで隠していた長剣を、右手で素早く抜き取り、それを順手で構えてブーメランを弾く。

 ついでに振りかざされたタイロンの斧も、右手の長剣でいなし、


「いい加減ここは諦めやがれッ!」

 ルミナスを前蹴りで飛ばした。


「俺たちの連続攻撃を防いだだと……」

「まさかこの程度で怖気づくわけないよなぁ、ルミナス!?」

「これは単なる小手調べだと思えよそこのアシンメトリーのガキ。ここから先は一切の弱音は受け付けない」


 ルミナス、タイロン、フォスター。三人は各々の特技を織り交ぜ、二十年前に魔王を倒すに至った連携の妙技を、首謀者へ繰り出した。

 だが首謀者はそれら全て防いでみせた。

 まるで、系譜の違う剣士が二人同時にいるかのように、左手の短剣と右手の長剣を同時に操り、ありとあらゆる方向、力の強弱の違う攻撃に対処できていたのだ。


 タイロンは流す汗に不気味な冷たさを感じつつ、

「何だこの不気味な武術は……! ネルでもこんな流派は知らんだろう……」


 そんな彼にフォスターは冷静に言う。

「そう驚くなタイロン。このまま一挙手一投足、全て見取れば、絶対にボロが出るに決まっ

てるさこんな無茶な技」


 そしてルミナスは数メートル先に離れた首謀者を見据え、剣を構え直して、

「それに、何も俺たち三人だけで奴を倒さなければいけないと神様か何かが決めたわけじゃない……」


 ここで首謀者が割り込んで一言。

「お前は『別の場所で戦っている仲間が、きっとこちらにも駆けつけてくれる!』と言う」


「……きっと別の場所で戦っている仲間が、こちらにも駆けつけてくれる!」


「ありゃ~、『きっと』の位置がズレてやがったぜ」



 一方その頃、王都北東部にて。


 簒奪者は雑に冷気を周囲へ拡散し、敵を街もろとも凍らせていた。

 所詮は雑な範囲攻撃。火魔法を使える勇者パーティーの一員や、身体が勝手に燃え上がる魔物などはこれしきのことでは凍らず、果敢に簒奪者に襲いかかった。


「趣あるね、君たちは。きっと『猪武者』という言葉を思いついた者はこういう風景を間近にしたのではと思って、ね」

 そしてその凍結せずにすんだ敵を、簒奪者は空気中から生成した氷の剣を用い、純粋な腕前で斬り伏せていく。


 敵の波が暫し止んだ時、簒奪者は剣を下段に下ろして構え、一息つく。

「いやぁ……弱い。けだものはともかくゆうしゃは弱過ぎる。誰も彼も、演劇の演出を一回り大きく表現したような小技をさも奥義のように使い、こうして散っていく」


 そこで簒奪者は五感を研ぎ澄まし、西の方に、何やら凄まじい激突の空気がするのを微かに、されど鮮明に感じた。

「誰かがあちらで豪勢にやっている様子だ。どうしようか、僕もあちらへ行こうか。この辺りにはもう、この僕に敗北の二文字を与えるに値する強者は居ないようだか……」


「ここにいるぞ!」


 簒奪者は剣を上段に構え直すや否や、紅蓮の閃光が彼女の視界の上部で輝く。

 軽やかに六歩ほど離れた場所に、綿毛のように軽やかに着地を決めた後、

「このネルの奇襲に耐えるとは……やりよるな!」

 様式こそ古いが鮮やかな真紅に塗られた鎧を纏う女性は、口角を最大限に上げて言った。


 対する簒奪者は、

「遅いよ、全く」

 ネルと同じくらい、顔に歓喜の情を見せつけて言った。


【完】

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