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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD2 魔王軍VS勇者学園の舞台『ハークズカレッジ』
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W2-6 入浴と情報整理と魔王討伐

「けどアタシも見せるから……あいこにしてくれ……」

 と、脱走者は謝った後、岩をよじ登り、首謀者のいる湯に両足を突っ込む。

 それから約束を守ることをアピールするように、両手を腰脇に置いてピンと伸ばし、その場に立ち続けた。相変わらずの大きな胸と下を隠したい気持ちを我慢して。


 首謀者は踵を返し、脱走者の赤く染まった顔を見た後、腰を下ろして再び肩までお湯に浸す。


 そこから二人はしばらく無言の時間を過ごした後、

「立ってるのもなんだからここ、入れよ」


「……わりぃ」

 胸以外の部分まで震え始めた脱走者は、首謀者の斜向かいで腰を下ろし、ようやく温かいお湯に身を浸けた。


「で、どうしてお前は遥々十メートルかけて女湯としていたところから、わざわざここに来た」


 脱走者は両胸に手を置き、湯に沈むように力を込めて、

「……マジでわりぃな、首謀者。やはりっていうか何ていうか、アタシの裸を見てどこぞの皇帝サマが興奮してベタベタ触ってきたんだ。

 普通に嫌がったらアイツ、自分の力でお湯の温度を下げ始めてな……で、メチャクチャ寒くてお前らに素っ裸見せるの承知で逃げてきた」


「『脱走者』だけに」


「……まぁ、おお、うん? あ、ちなみに使役者はアタシと同時に逃げてた。

 ……てかあれ? 帰還者と戦死者はどこいった?」


「もうとっくに上がった。帰還者は『熱すぎる』って騒いでな」


「戦死者は?」


「カラスも泡吹くくらいの行水だった。湯掛けの方が長いくらいだった」


「なんかよくわかんねーけど助かったな……お前はあんまベタベタしてこないしよ」


「生憎俺は『家』の関係上、その類の制御が出来ず、人生ドブ色に染まった連中を山程知ってるからよ。

 あと、同じ旅のメンバーがそーゆー関係にもつれ込むと、どいつかが道端でぶっ倒れるジンクスってのもあるしな」


「そうか。なんだ、お前普段のハチャメチャに反してそういう部分は大人しいんだな」


 ここで突拍子もなく首謀者は満面の笑みを浮かべる。

「だがお前のカラダは魅力的だって思っているのは同じだ。特にそのシュッとムチィの中間で踊ってるようなグンバツの足はよ」


「そっちを言われるのは初かもしれねぇ……」


「ところで君、この世界の『違和感』には気づいているかね」


 この突然の話題変更に面食らいつつも、脱走者は答える。

「……いや、別に。強いていうと、なんか魔王っていう悪いヤツに立ち向かう勇者どもが、その割には性格悪いなって感じがするぐらいだ」


「イイ所ついてるな、お前。あとそれと『強者』が居ないってことだ」


「それはたまたま会ってないだけじゃないのか?」


「では俺たちが来るまで『七魔将』が全員健在だったのはどう説明する。全員輝石を保持していたことも加味して、代替わりしていることもなさそうだしな。

 証拠はまだある。あの氷のダンジョンに溶岩野郎が持ち場を放って遊びに行ってたり、最後の悪魔が退屈そうに他の勇者パーティーを蹴散らしてたことだ。

 アレはどいつもこいつも前半のダンジョンで止まってて、結果奴らの出番がなかったからだ」


「それはそうか。けど、アイツら、学園っていうスゲーところに通ってるんだろ? だったら、アタシたちには敵わないとは言えど、その辺の一般人からすればスゲー強いんじゃないか」


「つくづくイイ所ついてるな、お前。それは俺も気になっていたところだ。あの学園はなんなのだと……」


 出発前にコバヤシから言われた通り、首謀者は好きあらば街頭インタビューや書店での立ち読みを繰り返すなどして、自分の足でこの世界の情報を少しづつ集めていた。


 彼の独自調査によると、かの『学園』は、とある勇者によって十五年前に創設されたという。


 その勇者はこの世界における二十年前に、七人の仲間とともに当時現れた魔王――いわば先代魔王――を打ち破ったという偉業を成し遂げた。

 堂々王都に凱旋した勇者は、かねてからの約束の通り王女と婚約を結び、王冠を戴き、大陸の復興に勤しんだ。


 しかし喜びも束の間、五年後に今、大陸を恐怖に陥れている魔王が再び軍を率いて出現した。


 これに対抗するべく、勇者は、無人の古城を再利用し、勇者パーティーを育成する『学園』を設立し、魔王軍への対抗戦力を生み出したという。


「そういった学園を創ったにも関わらず、かれこれ十五年経っても誰もダンジョンを攻略できていなかった。これは一体何のつもりだというのだ……?」


「まぁ、わかんねぇけど、とりあえず魔王をブッ倒せばわかるだろう」


「そこについては魔王はわからないだろうが、今はそちらを『押さえる』のが先決だ。脱走者、明日もくれぐれも油断するんじゃあないぞ」


「わかってるわかってる! んでもって今日と同じく速攻で片付けてやるから待ってろよ。んじゃ!」


 何が『んじゃ』なのか首謀者にはさっぱりわからないが、脱走者は立ち上がり、身体のあちこちに湯気を帯びながら温泉から離れていった。

 その途中、脱走者は首謀者の方を振り向いて、


「首謀者、これお前か? なんか不自然に胸と股間にモヤモヤがついてるんだが」


「ああ、俺だ。ご親切に隠してやろうと思ったんだが……『光』にしとくか?」


「どっちでもいらねーよ。これはこれで不自然過ぎてキモいっての」



 翌日。

 首謀者パーティーは早朝から温泉宿……ではなく、元魔王軍拠点から飛び立った。

 途中、一行は少しだけ、本来は六番目に行くつもりだった火山のダンジョンの様子を見てきた。


 もうそこには魔将はいないにも関わらず、いくつもの勇者パーティーが果敢に攻め込んでいた。そして同じくらいの数の敗走者たちが出てきていた。


 大陸の南西へ南西へと進んでいき、正午前には最後の目的地にたどり着いた。


 まるで大陸に捨てられたように海を挟んで浮かぶ、黒ずんだ岩肌に覆われた島。

 その上に、突起物がやたらと多い、いかにも悪の根城というべき城がそびえ立っていた。


 六人はその城を、島ごとドーム状に包む闇のオーラを挟んで眺めていた。


「あれだな。魔王の城は」


 首謀者は今まで集めた七つの輝石を、帰還者へ渡した。

 帰還者はその魔王城を守るオーラにベクトルが向くように糸を伸ばし、そこへ輝石を全てぶつける。

 そこで一瞬、まばゆい光が炸裂した後、そこから徐々にオーラに穴が広がり始めた。


「では行くぞッ! この世界滅亡の『チェックポイント』によォーーッ!」

 

 そして六人は帰還者が伸ばした糸をジップラインのように使って、魔王城の正門に降り立った。


 そこからはあっという間だった。

 魔王軍の凶悪な精鋭たちも、計算と悪意を積み重ねて仕組んだトラップも、別世界から来た本物の悪人たちにはまるで敵わない。

 結果、六人は全くの消耗も無く、魔王が待ち構える城内最奥の部屋の扉を蹴破った。


「かれこれ俺たちが十数年かけて取り戻した栄光が、まさか三日で泡沫に消えるとはな……」


 と、その威厳を表すように、明らかに身の丈に合わない巨大な玉座に腰掛ける、角と翼を生やしたいかにも悪魔らしい、少年がいた。


「俺は【魔王デモリオス】、この世界を再び恐怖に陥れるべく……お前らごとき、塵芥にしてくれる!」


「……思ったよりも小さいですわね。私よりは年上に見えますが」と、首謀者。


「人を見かけで判断するのはよくないぞ。ああ見えて、実はウン千歳みたいなキャラはしばしばお目にかかるからな」と、帰還者。


「……さぁ、どうだろうか。僕としてはあまり覇気を感じないが……」

 と、首謀者は首をかしげて言った。


 魔王はどちらかと言うと『飛び降りる』ように、玉座から立ち上がり、虚空から剣を手に取る。

 その瞬間、六人は同時に、地獄にあるような底のない谷に落ちるかのような、ただならぬ恐怖を感じた。

 コイツはタダモノではない。六人はそれを同時に悟った。


 勇者として、一歩前に立つ首謀者は、メンバー五人の方へ振り向いて、

「お前ら、今回ばかりは全員で戦うぞ」


 いち早く脱走者は返事する。

「だな、あのガキンチョ、何をしてくるかわからない……っていうものもあるが、何よりもこんなのとっとと終わらせたいもんなァ!」


「その通りだ! これ以上余計な言葉はいらんッ! さっさとまともに動けないようにしてやるッ!」


 そして六人は同時に魔王デモリオスへ向いて構える。


「さぁ、かかってこいよ魔王さんよォーーッ!」


「人間たちよ……せめて楽に逝かせてくれるぞ!」

 この啖呵を放った瞬間、魔王デモリオスは剣を天井に掲げ、


「まずはこれを凌いで……」


 同時に先頭に立つ、首謀者は、魔王デモリオスへ両手のひらをかざす。

「【災厄を縛るグレイフニル】ッ!」

 その瞬間、魔王の周囲に三原色のエネルギーでよられた紐が現れ、一気に巻き付く。


 そして糸巻きのような姿になった魔王は、バランスを崩して倒れ、芋虫のように床でジタバタした。


「う、動けない……わ、技も魔法も使えない……!」


 情けない魔王の姿を前にし、首謀者は片腕を挙げて、雄叫びを上げようとする。

「決ち」

「ちょっと待てよ首謀者ァ!?」


 首謀者の周りを、脱走者含む五人が取り囲み、彼への質問攻めを開始した。


 まず脱走者。

「なんだこの終わり方は!? 普通に倒すんじゃなかったのかよ!?」

「答え:『倒す』とは言った覚えはない。『まともに動けないようにしてやるッ!』とは言ったつもりだが」


 次に使役者。

「あの技は一体なんですの。何やら本当に魔王が何も出来なくなっているようですが……」

「答え:【災厄を縛るグレイフニル】。敵一体を紐でぐるぐる巻きにして、身体の動きはもちろん、技とか魔法とかスキルとかコマンドとか……死ぬか、俺が『許可』を出すまで色々ろくにできなくなるスキル」


 続いて帰還者。

「俺と能力被ってるじゃないかよ! お前どうしてくれるんだ!」

「答え:このスキルは二十四時間に一回しか発動できないし、俺の技の一つに過ぎない。そもそもアレは『紐』であって『糸』じゃあないから心配しなくていい」


 そして簒奪者。

「どうしてこうするとか、この技を持ってるとか教えてくれないのだろうか? これはこの世界に来てから全てに当てはまる問かもしれないけれども」

「答え:その方が面白いじゃんよぉ~~。まぁ、結果早く終わったんだからハッピーってことにしとこうぜッ!」


 最後に戦死者は質問する。

「こうして魔王を捕縛したが、ここから先はどうするつもりだろうか、首謀者殿」

「お前も聞いてくるのかッ!? ……いや、すまん、仲間はずれにしたみたいで。

 答え:そりゃあ盛大に凱旋しようぜ!

 つーわけでお前ら、この勢いのまま王都に戻るぞ!」


 ここでさらに、後ろでバタつく魔王デモリオスは聞いてきた。

「ま、待て貴様ら! 俺は一体どうする、というよりどうなるのだ!」


 すると首謀者は魔王の元へ寄り、そこでかがんで至近距離で笑顔を見せて、

「おまえも同行しろ」


【完】


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