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4Iワールドエンフォーサーズ 〜最強アク役チーム、腐り果てた異世界を罰する〜  作者: 都P
WORLD1 シンプル末期異世界『ディスパリティNo.0410』
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W1-10 初任務終了

 世末異世界『ディスパリティNo.0410』、その最大国の首都のビルの屋上にて。

 

「お待ちしておりましたわ、脱走者さん」

「あれだけスピードを売りにしていたお前が一番到着が遅いって、どういうオチだこれ?」


 一週間前に集合していた場所に戻った4Iワールドエンフォーサーズの五人は、最後にやってきた一人である脱走者を迎え入れた。


「しゃあねーだろ帰還者! またご覧の有り様になっちまったんだからよ!」

 この時、脱走者は上半身裸であった。

 右腕で丸見えになった両胸を覆い隠しつつ、左手であたかもズボンのように残った専用スーツを万が一にずり落ちないように持っている状態である。 


「あれ、脱走者さん? 行く前に『この服、どれだけ走り回ってもゼッテー破れねえんだぜ!』と僕に自慢していたけど……さては慢心して乱暴な使い方を……」


「乱暴な使い方……は、してたかもな、簒奪者。アイツが言うには、なんか高速移動中に大ダメージ食らうと破れちまうんだと。

 で、任務の最中に爆撃食らって片乳丸出しになっちまって、そっから高速移動の度に破れ箇所が広がってって、こう上だけマッパになってるワケ」


「そうかい。それにしてもいつ見ても美しい果実を湛えて……」


「だから近づくんじゃねー!」


 卑しい笑みを浮かべて迫る簒奪者と、脱走者の間に、まるで試合放棄の合図のように、戦死者が自分のジャケットを投げる。


 脱走者はそれを素早く拾って羽織った。

「またありがとな。でもってまた鉄臭いけど」

 と、一言礼を言った時、戦死者はまた別のジャケットを着直していた。


「それはさておいてだ……お前ら、コバヤシが出てきたぜ」

 首謀者の手が指す方に合わせて、五人はこの待ち合わせにたった今出現したコバヤシに身体を向ける。


「君たちの活躍は要所をかいつまんで見させてもらった。流石は無資格異世界破壊罪の咎人たちだ。こういう類の任務はお手の物といったところか」


「ここを除いたら一応一個しか世界を壊していませんわよ、私たち」


 使役者のツッコミは気にせず、コバヤシは気にせず話を続ける。


「少し早いが礼を言う。無事任務を果たしてくれてありがとう。君たちのこの調子が続けば、今後も効率よく、末永く刑期を全うできるだろうな。

 では後は、この国を滅ぼし、完璧に任務を完了してくれ。もっとも……この有り様なら最悪、君たちが介入する必要はもう無いかもしれないがね」


 今、このビルの周りに広がっている光景は、この異世界の汚点が凝縮されているような地獄絵図だった。


 命からがら逃げてきた亡国の民たちが、自国の再興という御大層な旗印を掲げつつ、唯一の残存国への怒りを、街中での無差別攻撃という形で撒き散らす。

 これまで格差社会の重圧に押されながらも懸命に生きようとしていた貧民たちが、明日という最後の希望とともに我を失い、鎖の切れた獣のように貴族の所有地で暴れる。

 数多の国民を犠牲にして繁栄を謳歌していた貴族たちが、お互いにこの終末の責任を取らせようと罵声と暴力を浴びせ合う。

 その他、どれに分類すればいいかわからなくなった人の形をした何かは、残り僅かな時間を非文明的にも程がある方法で楽しむ。


 幾星霜の経済格差のツケが炸裂したことにより、この世界の生き残りたちは皆、悪意に染まり果ててしまったのだ。

 

 いくら残り僅かの余命とは言えど、こうして勝手に自滅していく異世界の人々を流し見しながら、六人は現在唯一結束を保っている者たちが身を寄せる最終防衛拠点――官邸への攻撃を開始した。


「て、敵襲ーーッ!」

「あの虐殺者たちがただいま官邸に侵入!」

「総員、出撃!」


 兵隊、警察、SP……ここにいる戦闘要員たちは必死に抗おうとした。

 だが、まるで敵わなかった。


 ある者はスポーツカーに撥ねられたような衝撃を顔面に受け、ある者は氷漬けで粉砕され、ある者は自分の意志に関係なく糸鋸に突っ込み両断され、ある者は捻りなく頭を撃ち抜かれ、ある者は黒い塵となって爆散し、ある者は天国に行く方法を知ったと錯覚して自分の銃器を向けて、死んでいった。


 この異世界での戦績のみを考慮しても、平均すると二十もの国を滅ぼした超越者たちが、一つの場所に六人もいるのだ。寄せ集めの兵力でどうにかなるはずがないのだ。


 一通り掃討を終えて、六人は官邸内のあちこちの部屋を調べて周り、逃げ遅れた政治家やら、使役者由来のものではない毒を飲んだSPなどがいるところなど、いくつかハズレを引いた後、


「何だよ、意外とベタなとこにいたじゃんかよ」


 官邸の最奥に位置していた、大統領執務室に、六人は堂々と足を踏み入れた。


 ジャケットの胸元に無数のバッチを付けた肥満体の男が、片手に銃を持った状態で床にへたり込んでいた。

 その脂まみれの顔の上から血飛沫が張り付き、いくつかの水滴は目に入りかけているのだが、男はまるで気にせず、床を見つめていた。


 愛国者たちの献身の賜物だろうか、この執務室は他と比べてあまり荒れ果てた様子はなく、壁際を埋め尽くす美術品は欠けも傾きもなく、そのままであった。

 また、一緒に避難していただろう家族たちもここにいた。妻はシャンデリアにロープで吊るされ、八人の子どもたちは「どうして」と言わんばかりの顔のまま、頭に穴が空いていた。


 脱走者は一番に男に近づき、戦死者からまた新たに借りたジャケットがはだけていないかを確認し、その顔を覗き込んだ。

「どうだ、どん底に落ちた気分はよ?」

 

 男は脱走者と顔を合わせるべく、ゆっくりと頭を持ち上げる。

 頭を上げきったその時、他の五人も男の側に立ち、いつでも好きなように出来るように囲んでいた。


「なぁ、さっさと答えやがれ。別に言うことがないってならもうすぐ終わらせるが」

 と、脱走者が男に催促すると、男は背骨を失ったかのように上半身を倒し、頭を絨毯に叩きつけて、

「お願いします、どうか許してください……」


 無言で拳銃を突きつけ続ける戦死者以外の五人は、この男の弱々しい一言に驚き、お互いの顔を見合わせる。

 それから代表して帰還者が、

「何でだ、言ってみろ」


 男は嗚咽混じりの声で訴える。

「……僕もわかっていたんです。このまま世界規模の腐敗をやめさせないと、きっと罰が下るんだって。

 それをわかっていたから僕は中高大全部でいっぱい勉強して、地元の皆から票を託されて政治家になって、国民の信頼を勝ち取って大統領になったんです。

 ここからこの社会を変えるんだ、そう十年前に決意したんです。

 けど、けど、できなかったんだよ……! よくわからない職位についている先輩方とか、ダラダラ非現実的なことばっかり言っている古い団体とか、明らかに汚いお金を山程送りつけてくる大企業とか……!

 みんなみんな、僕のこといじめてきたんだよ……! だから僕は、言うこときくしかなかったんだよ……

 ……だから、おねがい、もう、ゆるし」


 そして男は、赤く輝いた右足で首の骨をへし折られ、黙らされた。


 すると、数秒前までは腕組みをしたまま、男を凝視し集中していた帰還者は、脱走者に怒鳴った。

「おい! なんてことをするんだ脱走者!?」


 脱走者は即答する。

「ぶっちゃけ意味はよくわからんかったが、くだらねー奴が無駄にぐだぐだ言っててイラついたからだ!」


「それは僕も同感だ。けれどもね、どうせやるのなら、もう少し風情があるようにと思っていたんだけどね、僕は」と、呆れたように簒奪者は言った。


 その通りだ。と、帰還者は相槌を打ってから、

「今どうにかこうにか、こういう場面にうってつけの決めゼリフを言おうとしてたってのに……」


「ああ、『少しは憐れんだらどうかしら』って話じゃなかったのですわね」

 と、使役者は言った。


「ちなみにだが帰還者、これはあくまで『たられば』の話だが、お前はコイツに何を言おうとしたんだ?」

 と、首謀者に尋ねられると、帰還者は一度大きく息を吸ってから、

「エゼキエル書25章17節。

 心正しき者の歩む道は心悪しき者の利己と暴虐によって行く手を阻まれる。

 愛と善意をもって暗黒の谷で弱き者を導くその者に神の祝福を。彼こそ兄弟を守り迷い子たちを救う者なり」


 脱走者はツッコむ。

「なげーよオイ」


「私の兄弟を毒し滅ぼそうとする者に私は怒りに満ちた……何だっけ?」


 脱走者はもう一度ツッコむ。

「いや知るかボケ!?」


「……懲罰をもって大いなる復讐をなす……」


 さらに脱走者はツッコむ。

「でもって勝手に続けんな! 首謀者!」



 数分後、最後の標的を仕留めた六人は、官邸を出た。その出口の先に、コバヤシが拍手をしながら待っていた。


「本当におめでとう。これにて初任務は完了だ。何か感想などの言いたいことはあるか」


「次までにはもう少し破れにくい服を用意してくれ」と、脱走者。

「もう少し骨のある勇士と戦いたかったよ。どちらの戦においてもね」と、簒奪者。

「暴れたりなかった。いくらファースト・ミッションとはいえヌルすぎんだよ」と、帰還者。

「結局他の三体の出番を与えられませんでしたわ」と、使役者。

「俺は久々に混乱を起こしてスカーーッとしたぜ? オレはね」と、首謀者は言った。


「なるほど、六人ともだいたい役不足だったということか」


「戦死者はコメントしてねーけどな」と、首謀者がボソッとつぶやき、


「特に言うことはない」少し遅れて、戦死者はコバヤシに返した。


 言葉は少しずつ異なるが、他の五人は揃って『いや喋れるのかよ』と内心驚いた。 


 コバヤシは六人へ語る。

「そうとも。この世末異世界は単に社会全体が腐り果てただけに過ぎない。

 君たちに次から滅ぼしてもらう世末異世界は、そこに至るまでの確固たる理由と、手強い悪意と敵意がある。

 君たちが強いのは十分に再確認した。だが、どこでも楽勝に勝てるとは私は思わない。というより、思うな君たち。

 もし負けた場合は……私ですら口にするのも恐ろしい重罰が課されることも忘れるな。いいな?」


 コバヤシは、六人がうなづいたのをはっきりと目に収め、

「よろしい、ではパニッシュメント号に戻るとしよう」

 スマホのようでスマホのようでない、正体不明の機器を操作し、自分と六人が立つ地面に淡い光をもたらした――パニッシュメント号への転送の予備動作である。


(全く、しんどい一週間だった。なんかウマい飯食わせてくれるとありがたいんだけど……)

 と、思うながら脱走者はふと、荒廃したこの首都の街並みを見渡した。


「ッ!?」

 そして彼女が目を見開いたのと同じタイミングで、4Iワールドエンフォーサーズの転送は完了した。


 パニッシュメント号のメインルームに戻ってきた瞬間に、使役者は脱走者に聞いた。

「どうなさいましたの、脱走者さん。あなた今、ビクってしてませんでしたか?」


「い、いやぁ……背中がかゆくなっただけだよ。このジャケット、触り心地が悪くってさぁ……」

 脱走者はジャケットの襟から手を入れながら、作り笑いを見せた。


 あの世界からの去り際に、脱走者はチラっと目撃した。

 任務開始直後、自分の担当エリアに行こうとした道中に、ハンバーガーを盗んでくれてやった子どもたちが、偶然遠くの車の影に隠れていて、自分のことを見ていた。


 彼らとの距離は非常に遠かった。だから、それが誰であるかはわかっても、どういう表情で、自分に向けて何をしようとしていたのかはわからなかった。


 それこそが彼女をよりハッとさせた。

 単に奇跡の再会。という驚きではなかった。


「……ごめん」


「いえ、別に謝る必要はございませんよ、脱走者さん? 気になって質問しただけですもの」


「……そうだな! そうだよな! アタシは別に謝る必要はございませんよな!? ハハハ……」


 パニッシュメント号は既に、次の世末異世界へ向かって飛んでいる。


【完】

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