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異世界退職代行「モーオソイ」

作者: 江戸バイオ

ゴールデンウイーク過ぎのネタかなぁ?と思ってましたが4月に話題になりましたので投稿してみました。

お読みいただけましたら幸いです。

異世界退職代行


とある世界のとある時代。とある国では退職代行なる仕事があるとか。


なんでも会社を辞めたいが自分からは言い出せないなどの理由で、代わりに退職の意向を伝えるサービスらしいですね。


会社というのはなるほどコミュニティの一種ですか。仕事のための集団ですか。なになに……


これはなかなか面白いかもしれません。私も少し真似事をしてみましょうか。


私?私はしがない何でも屋。退職代行なんてものはない世界の一介の住人でございます。


そうそう、私の世界は剣と魔法のふぁんたじ~な世界でございまして。冒険者なるものも多く生息しております。


そして最近は脱退、追放、なんやかんや。対人トラブルとはいつの世も変わらず存在するものでございます。


退職代行の機会もきっとあるでしょう。それでは多少の準備が終わりましたら町へと向かいましょう。



case1 ありふれた追放を円満に



「どうしよう?このままいつも通りギルドに行ったら多分、僕は追い出されちゃう。かといって行くよりほかに無いし……」


おや、どなたか独り言を呟いてらっしゃる方がいらっしゃいますね。ギルドがどうとか。もう少し独り言を続けるかもしれません。観察しましょう。


「昨日聞いちゃったんだよなぁ、僕が皆の足手まといだから明日には追放だって。いっそこのまま逃げちゃおうかな?でもまだ決まったわけじゃないし、それに行く当てだって……」


そう言えば退職代行のある世界では追放も流行っているらしいですね。あまり穏やかな世界ではないのでしょうか?この世界が言えた義理でもないですが。


ともあれ目の前の冒険者さんはどうやら追放されそうで困っているみたいですねぇ。しかし酷く分かりやすい独り言です。


誰かに聞いて貰いたかったのかもしれませんね。そうに違いありません。それならばココは私が手を貸す場面でしょう。まちがいございません。


「そこを行く貴方。そう。貴方です。なにやらお困りの様子。私で良ければもしかしたら手助けできるかもしれませんよ?」


「うわぁっ!?ど、どなたですか?知り合いではない……ですよね?どこかで会いましたっけ?」


おっと驚かせてしまったようです。しかしあれだけ大きな声で自身の問題を呟いていれば誰か声を掛けたって不思議じゃないでしょうに。


どうしたにいちゃん?困ってるなら俺らが話聞いてやるぜ?みたいな悪人面が近寄ってきてもおかしくないのですよ?私は善人ですが。


「いや初めましてですよ。もしかしたらお気付きじゃないのかもしれませんが貴方、声を出していましたよ。どうしよう?みたいに。私は決して怪しいものではございません。ちりめんどんやのチャン・ドウと申します。チャンとお呼びください 」


「ちりめんどんや?チャンさん?ですか。あぁ、それより恥ずかしいな。自分でも気づかないうちに声に出してしまっていたようで。どこから聞いていたんです?」


「ですから、どうしよう?からです。追放される云々もおっしゃってましたね。察するに貴方は冒険者。そしてこのあとパーティーから追放される。さらに言えば行く当てもなく明日からどうしよう?といったところでしょうか。コレも何かの縁。お話聞かせていただけませんか?」


私これでも色々なスキルを持っておりましてね。数えるのも面倒なほど、億はあるかと存じます。今回は演技スキルや警戒されないスキルなどを使用しておりますので。


普通なら怪しまれるところなんでしょうがなんの問題もなく接触することが出来ましたね。いちいち信頼関係やシチュエーションを作るのは面倒ですし。


私はただ暇つぶしに退職代行の真似事がしたいだけですので、これで万事オーケーというやつでございます。さてお話を聞いたところですが。


どうやらこの方、私の見立て通り冒険者とのこと。そして回復や支援を行う役目だったようですね。


それで昨日、夜ご飯を食べようと酒場に向かったところ先にパーティーメンバーが来ていて自分を追放する話を聞いてしまったと。


酷いことに追放時には何も持たすつもりがないどころか現在の彼の装備まで奪ってしまう予定らしいです。なんでも役立たずとは言えパーティーだから支給していたもので、パーティーじゃなくなるなら回収は当然。私にはよく分かりませんがそうらしいのです。


しかし、回復役や支援役はこの先でこそ必要になると思いますがねぇ。やくそうの方が役に立つと話されていたようです。


ゆうしゃ、せんし、せんし、まほうつかいでいいのでしょうか?この方のパーティーはRTAでもやっているのでしょうかね?


兎に角お話をした結果、追放は避けようがなさそうということで私は提案をすることにしました。


せめて退職金をいただきましょうと。退職金?と彼は不思議がっていましたが、要は路銀を少々頂きましょうということです。


彼が会いに行けばその場で追放宣言からの装備剥ぎ取りと相成ってしまいます。それでは困りますし私が代行できません。


聞けば今までも報酬の分配は彼にとって不利なものだったようです、これは支払われなかった残業代を退職時に請求するのと同じ。彼の正当な権利ですね。そしてパーティー脱退はメンバーの権利なのです。


なんでかって?


準備をすると言ったじゃないですか。国に働き掛けて冒険基準法を作って貰ったのです。今日からは法に則って脱退できるのです。素晴らしいですね。


それでは彼に書いて貰った「脱退したいです。細かいことはこの代行の人に全部任せています」という紙をもってギルドへ参りましょう。




さてギルドにやってきたのはいいのですが。よく考えたらパーティーメンバーのことを聞いていませんでした。聞かなかった私も悪いですが言わなかった彼も悪いと思います。判断力低下の魔法が効きすぎてしまったのかもしれませんが。


仕方がないので私はシンプルに聞いてみることにしました。大きく息を吸って、


「すみませーん!このなかに、本日パーティーメンバーを追放しようとしていたパーティーの方はいませんかー?」


ギルドには沢山の冒険者たちがいましたが突然大声を出した私に驚いていたり、なんだコイツ?といった顔で見てきたり。


あっ、端っこの方にいた冒険者の人に小声で「変な人がいる、関わらないでおこ」と呟かれました。ちょっとショックです。


「おいおい大声で叫ぶなよ。追放って言うか役立たずに引導を渡そうとしてたってことなら俺たちがそうだが、あんたは誰なんだ?」


あぁ良かった。ちゃんと見つかりました。流石は数えるのも面倒くさい私のスキルのうちの一つ。

「正直に名乗り出なさい」ですね。


退職代行の真似事だからいいですがコレ、探偵の真似事してる時に使うと面白味がゼロになっちゃう危険なスキルですからね。用法容量は、ってやつです。


「貴方たちがそうでしたか。いえね、私は依頼者様からご依頼賜りましてパーティー脱退の手続きの代行をしに参りましたチャンと申します。あなた方のパーティーに所属していました回復師さんの脱退の件でお話がございます」


「はぁ?脱退?いやいや、今回は脱退とかじゃなくて俺たちがアイツを追放するの。分かる?それに脱退とか言うならまず本人がこいや。なんで見たことも聞いたこともないやつと話しなきゃなんないわけ?

なぁ、お前らもそう思うだろ?」


おぉ、これが「本人がこいや」ですか。元ネタの世界でも「本人と話をさせてくれ」は定番みたいですからね。感動です。まぁでもそれはそうですよね。


弁護士とかならまだしも聞いたこともない会社の人にいきなり言われてもいたずらかもしれませんし、疑うのは普通のことですよね。しかし私はまったく怪しくない見た目だというのに、そこはちょっと心外ですねぇ。


見ると他のパーティーメンバーの方々も「そうだそうだ」とか「本人はどこにいるんだ?」などとおっしゃってますね。


最初に離しかけてきた男が勇者で。他はみなさん戦士でしょうか?脳筋ぽいし戦士1,2,3としましょう。


彼が勇者なのは必定です。臆面もなくこの私に話しかけてきたのですから。勇気あるものすなわち勇者であると言えましょう。


「問答は面倒なので要件です。回復師様は本日限りで御パーティーを脱退。それと退職金を即日で支払う事。金額は10万ゴールド。この退職金には今まで正当に分配されていなかった依頼者様への報酬も含まれております。あ、あと今後の接触の禁止ですね」


「はぁ?なんなんだよお前、全く話が通じねぇやつだな。いいか?俺はお前と話すことは何もない。回復師のやつが脱退したいなら自分で言いに来い。それと脱退なんて認めねぇ、あくまで俺があいつを追放するんだよ、ほら早く呼んで来いよ」


「同じことを言わないでください。彼は来ません、これが委任状です。それに冒険基準法をご存じない?まぁつい最近出来たものなので知らないかもしれませんが。取り敢えず10万ゴールドいただけませんかね?早く仕事を終えたいのですが?」


「委任状とかなんとか法とか知らねぇよ。それに10万ゴールド?そんな大金そもそも持ってねぇよ!」


「話が出来ないなら強制執行になっちゃいますよ?それと現金がないなら装備でも売ればいいじゃないですか。貴方のその剣、ソコソコで売れそうです。でも足りなさそうですね……あ、戦士1さんの斧も売っちゃいましょう。そしたら足りそうです、良かった良かった」


「てめぇっ!」


話しをしていたところいきなり戦士3さんが殴りかかってきました。勇者さんは言葉こそ多少荒いものの話が出来ただけマシな方だったようです。


まったく自分が話に絡めなかったのが悔しかったのでしょうか?それならば多少気持ちは分かるかもしれません。


しかし私に殴りかかってきても当たりませんよ?ここは古典魔法を使いますか。「バナナの皮」無詠唱です。すると……


戦士3さんは私を殴ろうとしてそのまますってんころりん。転んだくらいではダメージは無いようですが恥ずかしいのか顔が真っ赤ですね。


「てめぇっ!セイジに何しやがった?セイジも起きろ。おいお前、やりあうってんなら容赦しないぜ?表に出ろや」


今度は戦士1さんが叫びます。別に表に出なくても私の「こっちを見るな」でギルド内の人たちは私たちのこと気にしないですけどね。


まぁ別に表でもいいですけど。言うことを聞いてあげましょう。私は大人ですからね。


それと戦士3さんには名前があった様子です。セイジってセージじゃないですよね?賢い者ではなさそうなのできっと違います。


「しゃらぁっ!」


考え事をしながら外へ出るといきなり殴りかかってくる戦士1さん。やはり脳筋でしたか。そして若干卑怯では?まぁいいですけど。


「跪け」


私がたった一言そう言えば勇者さんと戦士さんたちは地面とキスをしてしまうのですから。グラウンドとのキス。GLかな?


戦うのは面倒なんですよ。なにが面倒って私、スキルが多すぎるのです。なのでどのスキル使うか悩んじゃって大変なんです。


だから普段はこの「跪け」ばっか使っちゃいます。さてでは剣と斧を頂いて念のため回復師さんに近づかないよう魂に刻んで……


「おいっ、てめぇ、卑怯だぞ?なんだこれ?なにしたんだ?身体が動かねぇ。正々堂々勝負しろよてめぇっ!」


勇者さんが地面に這いながらも叫んできます。なかなか根性がありますね。見直しました。叫べて偉い。


私は勇者さんのみ拘束を解いてあげます。勇者さんはゆっくりと立ち上がり私の正面に立ちます。


「よし、変な魔法は無しだぜ?正々堂々殴り合いだ。1,2,3で行くぞ?」


何でかよくわからない展開で殴り合いになりました。格闘ものとかでしたっけ?そもそも勇者さんはなんで私と殴り合いたいのでしょう?


ただ退職代行しに来ただけなんですけど私。まぁいいでしょう、やる気満々なようですし。さぁ1,2


「おらぁっ!」


勇者さんはまさかの1,2,3,の2で殴ってきました。しかも剣の腹で。流石に剣を立てはしませんが十分に危険ですよ?


と思いつつカウンターで肩を打ち抜きます。顔は危ないですからね。ほら、肩がえぐれて吹っ飛んじゃいました。顔だったら大変なことになってましたよ。


しかし約束守らないで殴って来るなんてもう勇者じゃなくて有害なもの、有者ですね。あれ?なんか略すと悪そうじゃないです。


おっと、回復してあげないと。私は有者さんに近づき回復魔法を掛けてあげます。このままじゃ幽者になっちゃいますからね。


ほらぁ、回復魔法って便利だし必要じゃないですかぁ。ダメですよ安易に追放しちゃ。最初はやくそうで何とかなっても終盤キツイですよ?


なんとかの石があったって全回復が必要な場面は来るんですから。魔王戦とかね。


もう用はないですよね?今後回復師さんに絡まないでくださいね?と確認すると全力で首を縦に振ってくれます。4人とも。みんな偉いです。


勇者さんの剣と戦士1さんの斧を換金して回復師さんに渡しに行きますか。そしたら退職代行の初仕事も終了ですよね?




「はい、10万ゴールドです。全部で11万ゴールドで売れたんですが1万ゴールドは私の仕事代として頂きました。いいですよね?それと、隣の隣の町に移動することをお勧めします。きっと回復師を求める隠された才能を持つ美少女と会えるでしょう」


「じゅ、10万ゴールド!?ぼ、僕こんなにいただけませんよっ!普通にこれ以上なにも取られずに脱退できれば良かったんですから。それと隠された才能を持つ美少女ってなんなんです?」


「まぁ貰えるものは貰っておきましょうよ。美少女は私も良く分かりませんが所謂テンプレです。脱退も出来たし……出来てますよね?もう絡まないということはパーティーではないということで大丈夫ですよね?」


「なんで疑問形なんですか!?なんかこのままここで大金持っているのも不安になってきたんですぐに旅立ちます。どうせ当てもないので不思議な退職代行さんの言う通り隣の隣の町にでも行きます。ご縁があったらまた会いましょう。では」


ツッコミからの呆れ口調、そして終盤早口になりながら立ち去る回復師さん。どうして早口なんだろう。ツンかな?


なにはともあれ初仕事終了です。いやー良い仕事をしました。きっと良い仕事だったと思います。


あのままなら彼は身包み剝がされて物語は始まらずゲームオーバーだったでしょう。良い物語が紡がれることを期待します。


さて今回の仕事は終わりましたがきっとまだまだ退職代行を必要とする冒険者さんはいらっしゃるはずです。


楽しかったことですし暫くはこのお仕事をやってみましょうか。今日は帰ると致しますが。



case2 緊急時もお任せください



突然ですが私は今ダンジョンにいます。洞窟みたいなタイプですね。最近は色々とダンジョンも種類が増えたというのに古典的ですねぇ。


因みに私はお城タイプが好きです。古城なんだけどところどころ近未来的な感じが施されてるとよりいいですね。


それはさておき。なぜダンジョンにいるのかと言うと、トラブルの匂いがしたからです。


電波じゃないですよ?「巻き込まれ体質」のスキルを使ったらここに来たのです。なので絶対に何かが起こります。


「きゃあああ」


叫び声です。ほら、何か起こったでしょう?大丈夫、のんびりなんてしてないですよ。ちゃんと現場に急行です。




現場に到着すると大量の強そうなモンスターに囲まれた1名の冒険者さん。いやポーターさんかな。


そして4名の冒険者さん。剣士風、魔導士風、忍者風、あとメイド風?ダンジョンにメイド?時代でしょうか。メイドがいるのにポーターさんいるの違和感なんですよね。個人的にはですけど。


どうやら探索中にモンスターハウスを引き当てたようです。そしてポーターさんを囮にして4名は逃げるつもりの様ですね。


正直ねぇ。ポーターさんって冒険者さんがいる世界だと何て言うか下働きなんですよね。


それで下働きがトラブル時に切り捨てられるのはそこまで不自然ではないというか何と言うか。


でも表情がいけませんねぇ。4人の冒険者さんたち?嘘でもこういう時は「仕方がないんだ」って顔してくださいよ。


寧ろ計画通り、みたいな顔してポーターさん置いてくのは滑稽ですよ?


このまま眺めていると冒険者さんたちが逃げて、その後にポーターさんは魔物にやられるか穴が開いて落っこちるかですが……

このダンジョンに最下層の守り神も特殊なナニカは一切ないのでどっちにしろ不幸な結果になっちゃいますからね。


「フリーズ」


手は上げなくてもいいですよ?身体が固まっちゃうので上げたくても上げられないでしょうけど。


「お困りの様子だったので緊急対応と言うことで魔物も含めて皆さんの動きを止めさせて頂きました。失礼かと存じますがご無礼お許しください。だいたいの事情は察しますが、今はどういったご状況で?」


「あんた誰だ?まあいい、取り敢えず魔物は大丈夫なのか?動きだしたりしねぇだろうな」


私の質問にはお答えいただけない様子ですね。しかも質問に対して質問で返すとはしかも2つも。上級テクニックですか?


「汝、氷の彫像と化せ」


心配な様子だったので魔物を凍らせてあげましょう。コレで話してくれるかな?


「見ての通り魔物は凍らせました。それで改めてお伺いいたします。今はどういう状況です?」


「よくわからねぇが助かった。礼を言うぜ。いやな、そこのポーターがヘマをしてな。モンスターに囲まれて困ってたんだよ。どうしようか、ってところであんたが来て助けてくれたって訳だ」


「ち、違います。私はヤな予感がしたので先に進まないようにお願いしたのですが行けと言われて進んだらモンスターハウスで。それが分かったら突き出されて囮にされるところだったんです!」


それぞれの主張が異なりますねぇ。冒険者さんたち4名は意見が一致。そりゃそうですよね。利害関係が一致してるんですもの。


だから魔導士さんが言う多数決とかいう意味の分からない主張は無視します。


それに実は私の「真実を見抜く眼」で答えは分かってるんですよね。ポーターさんが正しいことを言っていると。これはお仕事に繋がるでしょうか?ポーターさんに聞いてみましょう。


「お互いの主張が違うということは分かりましたがポーターさん。貴方の言うことが正しいとして一応まだ貴方たちはダンジョン探索中です。イレギュラーはありましたが危機は脱したわけですし。恐らくですが契約上は探索終了までこちらのパーティーに同行することになると思いますが……

正直な気持ちとしてどうです?同行したいですか?あぁ、同行しない場合の安全面は抜きにして大丈夫です。私が護衛するので」

 

「えっ!?それは……ちょっと……」


ポーターさんは言い淀んでますねぇ。本人たちを前にして言いにくいですか。恐怖からか、それとも職業倫理か、はたまた善意か。


「おいあんた何勝手なこと言い出してんだ?助けてくれたことは感謝するがこれは話が別だろ?そもそもこいつがヘマしたんだぜ?同行は勿論だし下働きは続行、そんでもってヘマした分、今回の報酬はなしだ。あんたへの礼も無しだ、余計なことに首ツッコミやがって。あの程度の魔物、どっちにしろ俺たちでどうにか出来たんだしな。素材はくれてやるからそれで満足してくれ」


「なっ、そんな報酬無しなんておかしいですよ!囮にまでしといて。そりゃポーターは下働きですから最悪危険な時は助けてもらえないこともあります。でも、意図的に囮にしていい訳がないじゃないですか!?それにそこまで言われたらこの先の同行だって流石にイヤですよ!黙っていようと思ってましたけど戻ったらギルドマスターに報告します。囮にされたって。ギルドまではこちらの方に護衛して貰います」


「おいおい、そっちがヘマしといてなんて言い草だよ。俺たちだってギルドマスターに報告するぜ?ポーターがヘマして危ないとこだったってな。それで濡れ衣着せようとするなんてひどいポーターだ。二度と仕事と出来ないようにしてくれって頼んどくわ。こっちは4人だしそっちは一人。それにソコソコはギルドに貢献だってしてんだぜ俺たち。どっちを信じるかな?おっと、あんたは口出ししないでくれよ?これは俺たちの問題だ」


言い合いが加速してますねぇ。それに魔物は自分たちで何とか出来たですかそうですか。ま、先にポーターさんと話しますか。


「ポーターさん、先ほどのお言葉はこちらのパーティーとの契約を終了したいということで宜しいですね?つまり退職したいと。であれば私、退職代行やっておりまして。今からこちらの方々と円滑に契約を終了するようにお話を代行させて頂きます」


「は?退職?はよく分からないですけど、はい。契約は終了したいです。それでお話して頂けるならお願いしたいです」


「ご依頼ありがとうございます。それでは冒険者さん方。私、退職代行を依頼されましたのでそちらのお話をさせていただきますね。ポーターさんは正社員……パーティーメンバーではありませんが臨時雇いでも契約終了の自由がございます。ゆえに今この時をもってポーターさんと冒険者さんの契約は白紙となりました。ここまでの報酬、及び規定外業務、この場合は囮役ですね。その報酬を請求致します。

緊急時ですのでそうですね。お手持ち全部でいかがでしょう?あ、因みに契約終了と請求の根拠は冒険基準法でございます」


「はぁ?何言ってんだあんた?臨時雇いが勝手に辞められるわけねぇだろうが。しかも請求?そんなもん払う訳ねぇだろ?あんた詐欺師かなんかか?いいぜ、あんたのこともギルマスに報告してやるよ」


「ギルドマスターとは懇意にしておりまして。あなた方のお言葉より私の意見が通るでしょうねぇ。それにパート……臨時雇いにも辞める自由はございますよ?退職代行の勉強した時にそうなってましたので冒険基準法に盛り込んでもらいました。でもまぁ面倒なので……強めのフリーズ」


実は私、ギルドマスターと懇意だったみたいです。会ったことないですがあった瞬間に懇意になれるので問題ないでしょう。


「私たちズッ友だよね?」のスキルを使えば初めて会う人とも仲良くなれますからね。私の言うこと全肯定くらいは余裕です。


それにどうやら退職代行をお願いされるような冒険者さんは話が通じないことが多いみたいですね。面倒なので強めに固まって貰いましょう。


そして「差し押さえ」スキルで有り金頂いて、と。武器防具も頂いて売り払いたいですがもうしばらく持っていて貰いましょうか。先ほどのお言葉を証明してもらってから差し押さえましょう。


「氷像よ命を宿せ」


これで魔物たちが復活です。ポーターさんを保護しつつ冒険者さんたちのフリーズを解除して……やること多くて面倒ですね。


でもまぁポーターさんへのざまぁオプションのサービスです。私頑張っちゃいますよ?


「お、おいおい……あんたなにしてくれてんだ?ま、魔物たちが、、ひぃい!?」


「いや、あの程度の魔物たちならあなたたちで何とか出来たんでしょう?私が倒しちゃったから素材を私に渡さないといけなくて損じゃないですか。復活させたのでどうぞ倒しちゃってください。そしたら素材が儲かっちゃいますね。良かったじゃないですか?私とポーターさんは見物してます」


ポーターさんはいいのかなぁ?これ大丈夫なのかなぁ?って顔してますね。いいんですよ。最後にはちゃんと私が魔物倒しますし。


このポーターさんはきっと良い人なので冒険者さんたちが大怪我しても気に病んじゃいそうなので多少お灸を据えるだけです。


「あぁ、ポーターさん。先に彼らから頂いたポーターさんへの報酬をお渡しいたしますね。彼ら結構持ってましたね。臨時収入ですよ?それと今後の活動についてはご安心ください。彼らは街を去りますので。その辺はアフターサービスとして私の方でやっときます。

あれ?もう根を上げそうですね。そしたら武器防具差し押さえて、と。これ売り払ったらポーターさんと半々で。え?要らない?いやいや貰ってくださいよ。本当に要らない?却って困る?うーん、じゃあ何か一つ現物で貰ってくださいよ。本当は冒険者やりたいんでしょ?高価な武器を買うためにポーターやってたんでしょう?冒険者になって稼いだらごはんでも奢って下さい。それならOK?」


貰い過ぎて困る理由はよく分かりませんが武器一つは貰ってくれるみたいで安心しました。


「真実を見抜く眼」でちょっとだけ視えちゃったんです。余計なことまで覗いていませんよ?私をそんな下賤な人間と一緒にしないでくださいね?


創造主とかならちょっとだけ覗いてみたいかもですが。でもあいつら結構俗物なんですよねぇ。


冒険者さんたちの助けてコールが段々と悲鳴に近づいてきたのでそろそろお灸は終了ですかね?ダンジョンも脱出しましょう。



「ではポーターさん。いやこれからは冒険者さんですか。頑張って稼いでくださいね。でも無理はしないように。逃げ足も速いし案外耐久力も高いので堅実にやっていくと良いでしょう。そうだ。3階層あたりを中心に探索されることをお勧めします。高火力な美人エルフ魔法使いと出会えるかもしれませんよ?」


「色々とありがとうございました退職代行さん。あなたが変なことばっか言うのは短い付き合いですが理解しました。でも何となく信じてみようと思っちゃうんですよね、なんか悔しいですけど。私、頑張りますので。今度会ったらごはん奢らせてくださいね」


先ほどのポーターさんは立派な冒険者さんになりましたとさ、めでたしめでたし。いやチョット端折りすぎましたか。


と言ってもたいしたことはありませんでしたよ。あの後は魔物を再び氷像にして冒険者さんたちを救出して武器防具を差し押さえました。


それで一つポーターさんに渡して後は売り払いましたね。貰えるものは貰う主義なんです私。


その後ギルドに行ってなんかギルドマスターさんに泣きつき始めた冒険者さんたちでしたが。なんとギルドマスターさんは私のマブダチなのでした。


初対面でしたがマブダチだったのです。不思議なこともありますよね?人間社会での活動には「私たちズッ友だよね?」は便利なんですよ。


お陰でポーターさんは無事に冒険者さんになり、4人の冒険者さんたちは町を追放されてしました。


これが追放ざまぁですか。なんか違う?まぁいいじゃないですか。


これにて今回のお仕事も無事終了。私も退職代行が板についてきたんじゃないでしょうか?



次はどんな退職現場で代行しましょうかね。それとも他のお仕事でもしてみましょうか。私は何でも屋なんですよ?


異世界も色々ありますしそれぞれの異世界に色んな人がいますからね。人のいるところ物語アリ。お仕事はいくらでもあるのでございます。


私はそろそろ戻らないと側近さんに怒られてしまいますので。皆様とはしばしのお別れと相成ります。


またいつか、どこかでお会いできたら嬉しいですね。


それでは、再見でございます。

お読みいただきありがとうございます。

今後は異世界もので長編も準備中でございます。

是非ともご評価やコメント頂けますと嬉しく思いますのでよろしくお願いいたします。


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