エピローグ
その後、リンネル様の鑑定で、エメリヒに掛けられた術はとけていないことがわかった。
代わりに、不思議な魔力が依り代を守り、術を跳ね返しているという。
恐らくそれは私の祈りが原因だけど、どうしてそんな魔力が発生したのかはわからない。
光の粒子は月から降ってきたから、女神デメルングと姿が相似しているためではないかと考えられる。でも、あくまで推測。
リンネル様が、今回の騒動が落ち着いたら調べてくれることになった。
術のほうは、エメリヒに影響がないことから、リンネル様が解いてくれた。
当該魔術師が、交換条件としてヴィクターの無罪放免を望んだからだ。もちろんのこと、そんなことを許容するつもりはないもの。私も、エメリヒも、ほかのみんなも。
ヴィクターの対処について、彼の母国との交渉は国王とお父様、フォルトナー公爵が担ってくれる。ぜひともヴィクターが、心の底から絶望するような結果を出してほしい。
ちなみにアルバンのキス未遂は、エメリヒを煽るものだったみたい。彼が近くに来ているのがわかっていたための行動だったとか。
エメリヒはとても怒っている。けれど、あれがきっかけで魔術に抗う気持ちが起きたそうだ。だからアルバンには感謝しているみたい。……一応ね。
次に同じことをしたら、顔に火球をぶち当ててやると啖呵を切っていたわ。対してアルバンは、『王太子相手に、やれるものならやってみろ』と笑っていた。
とりあえず、すべてはこれで一件落着。
◇◇
フォルトナー公爵のタウンハウス。少し古めかしい、けれど最高級品で設えられた大広間は多くの人で賑わっている。
アドリアーナと六人の守りびと。学友たち。アルバンもちゃっかり混ざっている。それからエメリヒの所属先である王立騎士団と近衛騎士団のひとたち。
近しい人たちしか招待していないのだけど、かなりの人数になってしまった。
「フォルトナー公爵はご立腹ではない?」
扉の陰に隠れた私は、こそっとエメリヒに尋ねる。公爵は長年社交を断っていた方だもの。賑々しいのはお嫌いかもしれない。けれどエメリヒは、
「いや。久しぶりのホスト役に気合を入れてる」と楽しそうに答えた。「今回の内容は全部彼が考えたんだ」
「それならよかったわ」
公爵は厳しい表情をしながらも、新しい奥様と義理の娘とともに招待客の挨拶をうけている。
その隣には、私の両親の姿も。
今日はエメリヒと私の婚約を祝う会なのだ。
婚約は先日無事に成立した。両家のもとには多くの貴族のご当主から、お祝いのメッセージが届いているみたい。
この婚約に社交界で唯一、文句をつけているのはギュンター公爵とそのご長男だとか。『できそこないの男と常識知らずの女では、ろくな夫婦にならない』と言っているそうだけど、誰も相手にしていないみたい。
でもあのふたりのことなんて、どうでもいいわ。私たちにはもう、関係のない人たちだもの。
私たちは今、素晴らしいひとたちに囲まれてとても幸せ。
それもこれも、赤い糸のおかげね。
こっそり大広間を観察するのをやめて、目を左手に向ける。
「――見て、エメリヒ!」
小さく叫ぶ。
「なっ!?」
私たちをつなぐ赤い糸がキラキラと輝いている。
エメリヒが静かに右手を近づけ、糸をつまむ。けれど輝きは止まらない。
そして私たちが見守る中、赤い糸は輝きとともに消えてしまった。
エメリヒと顔を見合わせる。
「……きっと、役目を果たし終えたのだわ」
「俺もそう思う」
お互いに微笑んだ。
「では――」と大広間から張りのある声が聞こえてきた。フォルトナー公爵だ。「幸せを手に入れた二人を、ぜひ祝ってやってほしい!」
くすりと笑って、エメリヒに
「公爵は演出好きね」と囁く。
「結構可愛いじいさんなんだ」と笑うエメリヒ。
私たちは手を改めて繋ぎなおすと、万雷の拍手の中、大切なひとたちのもとへ歩き出した。
《おしまい》
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