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【SQEXノベル大賞受賞】私を殺す攻略対象と、赤い糸でつながっているのですが!?  作者: 新 星緒


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14・1 エメリヒの最低の父親

 コンラッドが起こした事件は瞬く間に知れ渡った。

 学校だけでなく、近衛騎士の間でも爆発的に噂が広がったらしい。

 事件の翌日の午後には貴族の間で知らぬ者はおらず、都中に知れ渡るのにも三日もかからなかった。


 王太子が、私怨で元婚約者を殺害しようとしたこと。軍事機密であり宝でもある改造魔獣を持ち出したこと。それらがあまりにセンセーショナルだったらしい。

 さすがの国王夫妻も、息子をかばうことはできなかった。


 コンラッドは廃嫡され、投獄された。


 だけどそれは、表向き。

 彼は王宮の一室に幽閉されている。彼が負った火傷は、重すぎたらしい。

 一命は取り留めたものの、魔術師や医師の最高峰の治療を受けても、充分な回復ができなかったとか。

 かなりひどい状態で、生活のすべてに介護が必要だという。

 せめてひとりでできるように回復してから、牢に移すとのことだ。


 エメリヒと私も、それでいいと思っている。

 コンラッドは自業自得ではある。殺されかけて、腹も立っている。

 だけど、アドリアーナのことは本当に好きだったみたいだし、彼女や友人たちの気持ちが急速に離れたことで、孤独感を深めてしまったのかもしれない。

 そう考えると、やるせない気持ちになる。


「私、思うのよ」とエメリヒに話しかける。

 王宮の廊下。ふたりで並んで歩いている。

「コンラッドは彼なりに、守りびとたちは仲間だと、本気で思っていたのだろうなって」

「そうか?」と、エメリヒが疑わし気な目を向ける。

「だって、王子命令で全員を排除することもできたでしょ? でも、しなかったのだもの」


 エメリヒはほんの少し、笑みを浮かべると

「そうだといいな」と言った。


 私たちは、以前エメリヒが園遊会用の訓練をしているのを見た場所にさしかかった。

「前にここから」と窓越しに庭を指さす。「あなたが隊列行進の練習をしているのを見たわ」

「あのころは、近衛騎士にならないとは考えもしなかったな」とエメリヒが、今度ははっきりと笑った。

「近衛には戻らないの?」


 彼が移籍した原因はコンラッドだった。彼はもう、仕えるべき人ではなくなった。


「戻らない。王立騎士団は移籍してきた俺を、仲間として受け入れてくれた。俺はあそこで頑張りたい。ただ――」


 エメリヒが笑顔を消して、口を閉じた。

 彼の視線を追って振り返ると、彼の父親と兄が苦虫を嚙み潰したような顔で、こちらへやって来るところだった。

 エメリヒから、父親の前では委縮してしまうと打ち明けられている。きっと子供のころの暴力が原因なのだと思う。

 

 その元凶たるギュンター公爵は私たちの前で足を止めると、

「まったく、この出来損ないめ。よくも余計な騒ぎをおこしてくれたな」と、吐き捨てるように言った。

 本当に性格が悪いわ!


「お前のせいで我が家は王族に逆らうような家門だと、誤解されてしまうではないか」と、彼はさらに続ける。

「つまり私、ラウラ・ロンベルは殺されればよかったとおっしゃるのですね」


 思わず、父子の間に割って入った。


「そうは言っておらん」と公爵が私をにらむ。「適切な人員を呼べばよかったのだ」

「その間に私は殺されていたでしょう。そうしたらば、あなたのご子息は、騎士見習いでありながら令嬢を襲う魔獣と王太子から逃げ出した情けない人間と、嘲笑の的になりましたわよ。そして、あなたはそれを詰ったでしょうね」

「……口を慎め、たかが令嬢。私は公爵だ」

「公爵ならば、息子にどんな理不尽を言ってもいいのですか? 状況をろくに確認もせずに?」

「いい加減、無礼だぞ! ロンベル公爵は娘にどんな教育をしているのだ!」

「そのお言葉、お返ししますわ。ご長男様はまた、女性問題を起こしたそうですね。うまくもみ消したようですが」


 公爵は驚いた顔で、となりに立つ息子を見た。

「まさかお前、また……!」

 どうやら知らなかったみたい。

「それからエメリヒは、騎士たちの間で絶賛されていますのよ? ご存じありませんの?」

「え?」と公爵が私を見る。


 いやだわ。嫌味のつもりだったのに、本当に知らないのかしら。

 公爵なのに、親しい間柄の人がいないのね。こんな幼稚な性格だから。 


「それでは、失礼しますわ」

 エメリヒを見ると絶妙なタイミングで腕を出してくれたので、手をかける。

 私たちはうるさい父子を無視して、その場を去った。


 彼らは捨て台詞らしき暴言を吐いたものの、すぐに話題は兄の女性問題に移ったみたい。公爵が長男を問い詰めているようだわ。


 彼らの興味がエメリヒからそれたことにほっとしたとき、進行方向の柱の陰からこちらを見ている人がいることに気がついた。

 男性で杖をつき、かなりの高齢だと思われるお顔をしている。けれど背筋はピンと伸びて威厳がある。


 エメリヒが

「もしかして」と私にしか聞き取れない声で呟いたのと同時に、紳士が

「君がエメリヒ・ギュンター君かね」と張りのある声で尋ねた。



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